2014年8月18日月曜日

オープンクラウドならCloudscalingだ!
                                -Cloud OS-1-

Randy Bias氏に会いたいと思っていた。
しかし、忙しい氏とスケジュールが合わず、止む無くメールでのインタビューとなった。氏はCloudscalingの共同設立者であり、現在CEOだ。その一方で、多くの人がBias氏をOpenStackのEvengelistだと考えている。それは彼の永年のオープンソースへの貢献、そして到来したクラウド時代の主唱者としての活動が素晴らしかったからだ。勿論、氏はOpenStack Foundationのボードメンバーでもあるし、プロジェクト発足時からの関わりは深い。氏は以前、同社と同じサンフランシスコが本拠のクラウドプロバイダGoGridの技術戦略担当VPをしていたことがある。この時代の彼の仕事を覚えている人は多い。彼はGoGridをよりオープンなクラウドにするため、全APIをOpen Licenseとして公開した。その後、RackspaceやVMware、Sunなどが同じ流れに続いたのは有名な話である。そして2006年、Cloudscalingが動き出した。

=Cloudscalingの生い立ち=
同社の初期について、氏はこう語った。会社設立後、しばらくは模索し、そして大企業やクラウドプロバイダ向けのプロフェッショナルサービスを手掛けた。その中にはクラウドプロバイダのEngine Yardや仮想化技術のVMwareも含まれていた。特に記憶に残っているのは、2010年末から始まった韓国初のパブリッククラウドKT uCloudだという。このシステムはCloudStackベースとして日本では知られているが、実際には2010年から始まったOpenStackのSwiftも持ち込まれている。コンピュートはCloudStackだが、ストレージはOpenStackという構造だ。これは時間的な流れから生じたものである。さらに翌2011年初めには、米国内でRackspace以外で初めてOpenStack Swiftを採用したInternapのストレージクラウドを手掛け、同9月にはコンピュートNovaも適用した。そして同じ2011年にはAT&Tのクラウドも動き出した。まさにOpenStackのプロフェッショナル軍団である。 

=エラスティックなOpenStackクラウドが必要だ!=
こうしてCloudscalingの初期ビジネスは成功した。2012年からは、それまでの経験を活かしたOpenStackのプロダクトビジネスへと進展。氏はクラウドには2つのタイプがあるという。“Enterprise Virtulization Cloud”と“Elastic Cloud”だ。簡単に言えばから解るようにEnterprise Virtulization Cloudはこれまでの企業アプリを単に仮想化されたクラウドに乗せるだけのもの。一方、Elastic Cloudは水平にスケールアウトするクラウド向けに開発されたアプリ用のものである。具体的な対応クラウドは、前者はVMware vCloud Hybrid Serviceであり、後者はAmazon Web ServiceGoogle Compute Platform(GCP)、Microsoft Azureなどだ。この新クラウドアプリにとって、「障害対策とスケールアウト」は命である。レンタルビデオからオンライン配信に転身した米最大手のNetflixは、このクラウドネイティブアプリの代表だ。彼らはアップタイム99.95%のAmazonを利用しているが、エラスティック型アプリの作り込みによって、99.99にも99.999%にもすることが出来る。エラスティックなアプリは障害に即座に反応し、生きているプラットフォームで業務を継続する。つまり、スケールアウトの拡張性と障害対策は表裏一体の関係にある。これこそOpenStackベースの彼らの製品目標だ。

=オープンクラウドシステム(OCS)とは!=
Bias氏のOpenStackに賭ける情熱は凄い。
氏はターゲット顧客をFortuneリスト企業に定めた。これらの顧客は既にAmazonやGoogleなどのパブリッククラウドを利用している。このためOpenStackを売り込むにはハイブリッド化が必要だ。クラウドアプリのためのスケールアウトとフェールオーバー、さらにハイブリッド化を成し遂げなければならない。沢山の作業が必要となった。氏の開発部隊が手掛けたのは、Bin Packing Scheduler、CinderベースのAmazon EBSS3/Swift対応、EC2のClassic Networking ModelをエミュレートしたNova Layer 3プラグイン、Amazon VPC(Virtual Private Cloud)をエミュレートしたNeutronのVPCやSDNプラグイン、さらにAWSやGCPの設定などだ。

この基本となる新しいアーキテクチャはOCS(Open Cloud System)という。
OCSは勿論100% OpenStack API準拠だ。そして、RightscaleSCALRDell Cloud Managerを利用してAWSやGCE(Google Compute Engine)とハイブリッド化を可能とする。氏はハイブリッドクラウドの実現にはAPIだけでなく、他の要素の整合性も重要だとし、このようなプロバイダ交渉もOCSを使うことで有利に進めること出来ると説明する。氏はまた、プライベートハイブリッドOCSの導入費用は、初期を除いた2年目以降のTCOで、パブリッククラウドの約半分程度だと推測する。これらOpenStackを用いたOCSへのアプローチ、OCSの技術、その効果などについては以下のビデオを参照されたい。

Cloudscalingのこれまでのクラウドユーザは、10社。内2社はFortune15以内の大企業である。実システムとして見ると、それらは600台以上のサーバ(8,000コア+)で9PBのストレージという大型のものだ。そして、現在さらに、同社が手掛けているのは2社、これもFortune 15の顧客だ。それら新OCS適用システムが動き出すのも遠くない。
 

2014年8月1日金曜日

Rackspaceはどうなるのか!

RackspaceのExitに関するニュースがBloombergから流れたのは5月16日。
以来、2ヵ月半が過ぎた。そこで今回はRackspaceの今後を占ってみようと思う。 Rackspaceと言えばAWSを追ってすぐにクラウド事業を開始し、その後NASA Amesと共にOpenStackを始めた会社である。その老舗Morgan Slanleyと契約し、今後の出口戦略オプションを検討する事態となった。こうなった直接の要因はAmazonとGoogleの値下げ競争だが、もうひとつはこのままでは事業の拡大が難しいという事情がある。このあたりはAnnual Reportを見ればすぐに解る。  右図のように同社売り上げ(Net Revenue)は比較的順調だ。しかしよく見ると昨年度の伸び率は17%とやや鈍化、ただServer台数は伸びている。収益(Net Income)は昨年度18%下がり、これにともなって投資効果(Return on Capital)も落ちた。つまり市場の価格競争が原因でユーザは増えても収益は上がらず、設備投資が厳しい状況が見て取れる。

=Rackspaceという会社=
Windsor Park Shopping Mall
Rackspaceについて改めて説明しよう。同社の本業はホスティング業であった。前身は1996年にISPとしてテキサス州サンアントニオで起業。その後、Webホスティングに進展し、1998年、現社名Rackspace Hosting Inc.となった。この流れの中で夢を持つ2人のデベロッパがいた。彼らは顧客の多くが機器保有を嫌って自営からホスティングに移ってきたように、いずれホスティングにも満足しなくなるだろうと信じていた。会社は彼らの夢に賭け、2006年初めクラウド実験事業のMossoをスタート。時はまさに同じ、AmazonがS3を始めたのは2006年3月、EC2は同8月である。その翌年2007年には将来の事業拡大を見越し、サンアントニオ郊外で閉鎖となったWindsor Park Shopping Mallを買い上げた。 この巨大なモールの広さがあればサーバなら何万台だった置けるし、建屋の堅牢さも申し分ない。奇想天外な話である。同社のクラウドは、2008年、現サービス名Rackspace Cloudとなった。サービス内容は、仮想マシンのCloud Servers、ファイルストレージのCloud Files、WebホスティングのCloud Sitesの3つ。Rackspaceには他にも面白い話がある。同社を興した共同創設者の一人Richard Yoo氏は、これからの時代はWebだけでなくビデオなどのストリーミングに向かうとして、社内で活動していたプロジェクトをスピンアウトさせた。2002年のServerBeachという会社だ。氏の勘は見事に当たって、この会社が何とあのYouTubeを顧客にすることが出来た。YouTubeの設立は2005年、3人の元PayPalのエンジニアが考え出したアイデアだ。人気は瞬く間に広がり、翌2006年10月、設立2年に満たないスタートアップをGppgleが$1,65B (1,650億円)という高額で買収。つまり、この時期、Rackspaceはクラウドとストリーミングの2つの新しいホスティングビジネスを同時に追っていた。そして2010年7月19日、Rackspaceはオープンソース化に踏み込んだ。OpenStackプロジェクトの設立だ。相手はシリコンバレーのNASA Ames研究所。当時、同研究所ではオープンガバメント政策の一環としてNebulaクラウドが進行中だった。NASA AmesからはこのNebulaのコンピュートエンジンNova、RackspaceからはCloud Filesのコードが寄贈されてプロジェクトが動き出した。Rackspaceという会社はエンジニアを中心に、常に時代を読み、そして挑戦し続けてきた。それがこの会社のDNAである。

=考えられるシナリオ!=
さてRackspaceはどうなるのだろうか。米メディアではこのところ様々な報道が続いている。ここではそれらも参考にしながら、彼らはExitにあたり、何を望んでおり、その相手となる企業はどこなのか、推測してみようと思う。まず彼らの考えている要求とはどのようなものか。
  • この会社のDNAが引き継げるか。つまり彼らに経営の自由度が残るか。
  • OpenStackへの理解は高いか。
  • プライスタグ(買収額)はどの程度か。(Market Valueは$4-5B)
  • この取引のビジネスミックスは将来の事業拡大に貢献するか。
◆ ハードウェアベンダ
考察にあたり、分野を幾つかに分けてみた。HWベンダの中でRackspaceに興味のあるところはどこか。Dell、HP、(そしてIBM)あたりだ。まずDellが一番有望だと言う人がいる。2社は共に本社がSan Antonioで気心も知れているし、Dellはもともとエンタープライズビジネスの柱にクラウドを置いていた。しかもOpenStackには未だかなり興味がある。同社は現在、ビジネスパートナを多面的に結んでクラウドをカバーしている。しかし出来れば自分で手掛けたいとの思いも強い。ただ良いことだけでなく、Dellがどの程度ビジネスを引っ張ってこれるのか。これは未知数だ。そして何よりもCEOのMichael Dell氏がプロバイダへの進出をどう判断するかである。次にHPだが、HPはかねてからOpenStackベースのクラウドを手掛け、今年5月にはHelionとリブランドして発表したばかりだ。その意味ではタイミングは良くわない。果たしてそうだろうか。或る情報ではCEOのMeg Witman女史はかなり興味を示して、$4-6Bで考えていると伝えられているし、もしHelionとRackspaceが統合するようなことになればHPのクラウドは一挙に最前列に躍り出る。言い換えればHelion単体では成功が危ぶまれるのだ。ビジネス面からみると、HPの企業ユーザへの売り込みのチャンスは多く、2008年に買収したEDSのエンジニアリングパワーを使って、Rackspaceが出来なかった世界展開も見えてくる。もう1社、可能性は殆どないがIBMもいる。IBMは昨年のSoftLayer買収時に噂ではRackspaceも評価したが高額で諦め、結果、SoftLayerを$2Bで手に入れたらしい。ただ、IBMがRackspaceを買っていればベストミックスだったように思うのだが、歴史に"if"はない。

◆ ネットワークベンダ
NWベンダではCisco、Brocade、NetApp、Juniperなどがあげられる。ただBrocadeはVyatta、JuniperもContrailを買収してSDNに注力しているし、NASの得意なNetAppも企業体力的に考えにくい。残るはCiscoだけだ。これはかなり可能性が高い。Ciscoのクラウド戦略はまずOpenStackがベースである。そしてプライベート向けで、UCS(Unified Computing Systems)販売の支援策といったところだ。つまりRackspaceのPublic Cloudとはコンフリクトしない。この組み合わせがあるとすれば、キーマンは同社クラウドCTO兼OpenStack FoundationのボードVice ChairのLew Tucker氏だ。彼がOpenStackプロジェクトで昵懇のRackspaceとCEOのJohn Chanbers氏を引き合わせて説得し、Chambers氏が新規事業に飛び込むかどうかだ。ビジネス的には、Ciscoの持つ企業ユーザ群はRackspaceにとって魅力である。以前からネットワークの巨人Cisco、そしてストレージのEMCと言われて久しいが、EMCの方はVMwareなどを買収して未知の世界を切り拓いてきた。今度はCiscoの出番かもしれない。

◆ ストレージベンダ
ここで可能性のある企業はEMCとSeagate、そしてWestern Digitalだ。この業界はHDDからSSDへの転換期にあり、何かが起こる予感はある。例えばSeagateは長年オープンスタンダードに情熱を注ぎ、昨年Open StorageプラットフォームKineticを発表した。ただRackspaceから見たらメリットは少ない。Western Digitalも大型買収でHGSTを手に入れたばかりで余裕はない。可能性のあるのはEMCだけだ。本業の伸び悩み、そしてVMwareの手詰まり感が強くなった今、もう一度、大型買収はあるのか。

◆ ソフトウェアベンダ
SWベンダで可能性を取沙汰されているのは表向きOracleやRed Hatなどだ。これまでクラウドに見向きもしなかったOracle CEOのLarry Elison氏も変わってきた。昨年11月、OpenStack FoundationのCorporate Sponsorになったのだ。同社にとって、本業のデータベースはBigData時代を迎えて新たな技術提案を要求されている。この状況をブレークスルーする可能性は否定できない。しかしわがままな氏と自由奔放なRackspaceの取り合わせは容易ではない。Red Hatの場合がどうか。可能性はかなりある。該社は昨年OpenStackのディストリビューションRed Hat Enterprise Linux OpenStack Platformを出荷。これはプライベート構築用だが費用やサポートなどが普及の足かせとなっている。同社がLinux同様、OpenStackでも勝ち残る可能性はある。ただ、現在のMarket Capは$10B程度で資金体力に不安もある。もう1社、気になるのはMicrosoftだ。同社がRackspaceを買う理由がないと思う人が多い。しかし考えてみれば、クラウド3強であるAmazon、Google、MicrosoftはいづれもOpenStackをサポートしていない。Amazonは検討外だし、Googleも我が道を行くだろう。そこで新CEOとなったSatya Nadella氏が奇想天外な手を打つ可能性はある。もしAzureとOpenStackが共存統合できたとしたら、Microsoftの企業ユーザにとっても、同社自身にとって大きなブレークスルーとなるのは確かだ。

◆ キャリア
この分野はAT&TとVerizon、そしてCenturyLinkだ。東のVerizonは既にVMwareと関係の深いTerremark Internationalを傘下に収めているので動かないだろう。一番元気なのはCenturyLinkだ。この会社は3位だったQwestを当時5位の同社が買収して大きくなり、その後、クラウドでは2つ大きな買い物をした。データセンタのSAVVISとIaaSプロバイダのTier3だ。そのため、買収には資金的かつ技術的な問題がないかの見極めが要る。残りは西の雄、AT&Tである。AT&TはかつてASPのUSiを買収してこの世界に飛び込んだが地味な活動が続いた。そして2012年初め、心機一転、OpenStackを新たなサービスとして採用。今や同社の世界中のセンタでDeveloper CentricなOpenStackクラウドが動き出している。データセンタと通信網を世界中に展開し、企業ユーザを抱えるAT&Tは、Rackspaceにとっても魅力的だ。また一部米メディアでは北米市場の開発に熱心なNTTも可能性を秘めていると報じている。

◆ その他
以上の分野とは別に、2つ要注意企業がある。ひとつはFacebook、もうひとつはデータセンタファシリティサービスのEquinixだ。Facebookがどう動くのかは未知数だが、同社がクラウド市場に進出する噂は以前からあった。この分野に後発として飛び込むからにはRackspaceの買収は手っ取り早い。実際のところ、Rackspace上でFacebookアプリを開発する環境は整備されている。しかし、Rackspace側から見たビジネスミックスは難しく、相乗効果は期待し難い。となると、Facebookの提示額がどれ位になるかにかかってくる。もうひとつのEquinixは言わずと知れた世界展開の貸データセンタ屋だ。この世界では殆どのプロバイダが世話になっている。つまり買収は、仕事が高じてユーザ企業のビジネスに手を出すという話だ。この話がまとまればRackspaceはデータセンタをほぼ無償で展開出来ることになるが、彼らのユーザには競合相手も多く、この点で難がある。

そして、どうなるか!
Rackspaceは体は小さくとも注目に値する企業だ。
同社はこれまでNASA AmesのNovaを実際に開発していたAnso Labsやクラウド関連のCloud Kick、 JungleDisk、Slicehostなどを買収してきた。しかしこのところはプライスタグが高くなかなか手が出ていない。手持ち資金の問題からだ。何とか自社のアセットを最大限に活かして次なるパートナを見つけたい。この争奪戦というか、パートナ探しは結局どうなるのだろう。以下はまったくの外野席から見た私見である。当たるも八卦、当たらぬも八卦なので予めご了解頂きたい。  
  • 第1グループ  ・・・  もっとも可能性が高いのはHPかCiscoだと思う。理由は、HPについてみれば、この取引がHelionを成功させる秘薬であること。eBayの成功を引っ提げてHPのCEOに就いたMeg Witman女史にとって、何とかHPで重要な実績を残したい。加えてこのディールは相互補完も大きいし、両社共にOpenStackに賭けている。Ciscoについては、NW事業からの脱却として始めたUCS販売、その延長線上にクラウドがある。OpenStackとの結びつきも大きく、ビジネスミックスも効果的だ。課題があるとすれば、HPに比べてシステムエンジニアリング力が乏しいところである。
  • 第2グループ  …  次に挙げられるのはAT&TとDell。AT&Tなら資金力もあり、グローバルオペレーションなどRackspaceができなかった展開が出来る。キャリアの業務の中でインターネットはまさに土管化して収益性が低い。モバイルが行き渡った現在、次なる戦略展開が望まれている。DellはCEOの判断次第だが、環境は良く、動く可能性は高い。
  • 第3グループ  …  こうしたディールにはいつも「まさか」が付きまとう。今回のまさかを挙げるとすれば、FacebookMicrosoftだろう。理由は前述の通りだ。
以上、私見を述べてきた。これ以外に気になる記事もある。ある投資家の意見は「Amazonと完全に競合する買い物は誰も手を上げないのではないか」と言うのだ。そうかもしれない。さらに値段が折り合わない可能性もある。その場合、どこかのファンドなどが一旦引き受けて数年資金を繋ぎ、その後、転売する。この線も大いにあり得ると思うのだが、貴方の読みはどうだろう!