2016年10月9日日曜日

AutoTech(15) 混沌の時代! 
        -Googleの悩み、そして人材流出ー

前回はUberを巡るケオスとは何かを報告した。
今回はGoogle Carを苦しめているケオスについて考えてみよう。Googleの狙いは勿論、米運輸省傘下のNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)が定義したLevel-4の車を2020年に世に送り出すことにある。Level-4とは完全なる自立走行車だ。しかし、この目的の完遂のためには、まず技術的なクリアが必須だ。現在、市場に出荷されているオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)は、Level-2の段階である。技術的に見て、それらには本格的なAIは適用されていない。つまり、「この場合はこうする」「こうなったら、こうしよう」と言ったルールベースの処理方式をファームウェアやプログラムに組み込んだものだ。基本的には、これまでのコンピュータ相手のプログラミングとさして変らない。変わるのはインプットが各種のセンサーなどからで、出力はインターフェースボックスを介して、車のステアリングやアクセル、ブレーキに戻されることである。

=Google CarのAIとは!=
Google Car(下図)を見てみよう。
Google Carには屋根の上にVelodyne製のレーザーによって対象物までの距離と反射率を回転しながら64chで高速測定する高性能のLiDAR、車両前方には電波で対象物までの距離と相対速度を測定するミリ波レーダー、ホイールの回転数から走行距離を算出するDMI(Distance Measuring Instrument)、GPS、そして内部には慣性航法のための6軸加速度センサーIMU(Internal Measurement Unit)などが装備されている。Google CarのAIでは、これら各種のセンサー情報によって、車の走行状況を把握し、次なる行動を計画、そして実行する。これを制御サイクルという。しかし、センサー情報による状況把握と現実には微妙なズレがあり、これを補正するために、Google Carでは、この制御サイクルを高速で実行している。他方、行動計画の立案では、これまでの膨大な走行データからガイダンスとなるアルゴリズムを受け取り、それによって計画を策定する。日々集められる膨大な走行データから、Deep Leaningによって新しいアルゴリズムが作られると、直ちに最新のガイダンスとして利用する仕組みである。
 
=法規制は回避できても、保険は難しい!=
Googleの悩みはLevel-4が技術的にクリアー出来ても、そこで終わりではない。
まだ、法規制がある。1949年にジュネーブと1968年のウィーンで制定された道路交通に関する条約(いわゆるジュネーブ条約とウィーン条約)だ。これらには、走行車両には運転車がいることが明記されている。これに対して、Googleは米運輸省傘下のNational Highway Transportation Safety Administration(NHTSA)に昨年11月12日、Google Carのような完全なSelf-Driving Vehicle(SDV-自律走行車両)で、Self-Driving System(SDS)によって走行する場合は、どのように判断されるのか、回答を求めるレターを出していた。今年2月4日、そのNHTSAから書面で回答があった。それによると、追加情報と証拠の提出を条件に、SDSをドライバーとみなせる可能性があるとの見解を示された。これは大きな前進である。そして、今週、9月22日、最初のガイドラインFederal Automated Vehicles Policyが米運輸省からリリースされた。それによると、ドライバーが全く運転に関わらない完全な自動運転車を容認する一方、各自動車会社はLevel-4まで全てのオートノマスビークルのテストデータを政府機関と共有すること、そして15項目の安全基準を満たすことを求めている。

しかし、法規制がクリアー出来たとしても、次に、関連する自動車保険がある。
ドライバーが人ではなく、AIのSDSとなった場合は、その保険料率はどうなるのか。これまでの経験では、まったくの実績のない場合、当初は法外な料率となり、実績を経るに従って低減して、妥当なところに落ち着いてきた。しかし、オートノマスビークルの場合、開発各社によって、その出来具合、つまり性能が異なる。そして、大量導入まで、そう長い間は待つことが出来ない。こう整理すると、このことが、オートノマスビークルの最初の市場を配車サービスに向かわせている要因だと気づかされる。この市場なら、当初、保険が高くても段階的に導入が可能であるし、自動車会社にとっても、製品評価と迅速なフィードバックが行える。
 
=優秀な人材は10億円/人、そして人材流出!=
Googleの目標は2020年にLevel-4を出すことである。
法規制はクリアーされる見通しとなったが、これをNHTSAのカウンターとして主導してきたGoogle Self-Driving Car ProjectのCTO Chris Urmson氏が8月初め去っることになった。突然の出来事である。彼はプロジェクトをリードしてきたキーマンだ。同時にプロジェクトメンバーのJiajun Zhu氏とDave Ferguson氏も去った。Zhu氏はプロジェクトのオリジナルメンバー兼プリンシパルエンジニアでもある。Fargason氏はAIエキスパートだ。2人は退社すると直ちにSelf-Driving CarのステルスモードNuro.aiを立ち上げた。Urmson氏の去就は報告されていない。彼らが去ったのは何故だろう。想像できる理由のひとつは、昨秋、GoogleがスカウトしてGoogle Carビジネス部門長となった元Hyundai Motor America CEOのJohn Krafcik氏に対する不満だ。氏はGoogle CarのCEOとなったが、未だにビジネスパートナーを見つけられず、最大の任務であるビジネスモデルの構築が出来ていない。Googleはこれまで幾つもの自動車会社と接触してきた。しかし、保守的な彼らはGoogleのパートナーとはならず、自力開発の道を選んだ。現在、可能性があるのは、Krafcik氏の元の親会社、韓国のHyundaiとの交渉だ。氏としては何としても纏めたい状況である。もうひとつの理由は、今がエンジニアの売り時だからである。2007年から初代リーダーとして、Google Carプロジェクトを率いていたSebastian Thrun氏は言う。この10年で、多くのSelf-Driving Carスタートアップが登場したように、自動車業界は能力のある人材に飢えている。Uberはたった半年しかたっていない社員数70名のOttoを約$700Mで買収し、GMもCruise Automationを$1Bで買収した。これらは人材買収Talent Acquisitionであって、1人当たり約$10Mとなる。だから、彼らにとっては、今が売り時なのだ。現にOttoの創業者4人も元Googleの社員だ。2020年までGoogleに留まってGoogle Carの完成を見届けるべきか。しかし、現在、確固たるビジネスパートナーもビジネスモデルもない。それなら、今、飛び出して新たな人生設計を夢見るかである。社員のこころは揺れている。

2016年10月4日火曜日

AutoTech(14)混沌の時代! 
    -Uberの巨額ロス、配車サービスは夢物語かー

オートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車-)の開発競争はケオス(混沌)の中にある。鳴物入りでシェアエコノミーを唱えて、配車サービスの世界を切り開いてきたUber。同社がこれまでに集めた資金総額は、14.11B(約1.5兆億円)に達した。その評価額は$68B(約7.5兆円)となり、今やGMやFordのマーケットキャップを抜き去った。そして8月中旬、独自オートノマスビークル開発に向け、評価額のたった1%にあたる$680M(約680億円)でOttoを買収した。まさに夢物語のようだ。しかし、どの企業にも光と影がある。Uberの影、それは巨額のロスを垂れ流していることである。 

=Uberの世界戦略は成功するか!=
 Uberはパブリックな企業ではないが、下図のような投資家の多さと期待度から、各期毎に投資家向けカンファレンスコールを行っている。8月25日のカンファレンスでCFOのGautam Gupta氏は、2Q決算が税引き及び減価償却前で$750M(約750億円)超のロスであることを公表した。前期1Qが$520M(約520億円)のマイナスであったので上期合計は$1.27B(約1,270億円)となった。途方もない金額だ。氏はその理由として、大部分のロスは世界中のドライバーを対象とした助成金だと説明。しかし今年初め、Uberは投資家に今年こそは黒字転換すると約束した。事実、Booking(売上)は1Qが$3.5B(約3,500億円)、そして2Qは$5B(約5,000億円)と伸び、Net Revenue(純益)も1Qは$960M(約960億円)から2Qでは18%伸びて$1.1B(約1,100億円)となった。売り上げを伸ばし業績をあげながら何故、巨額の赤字を垂れ流すのか。問題は世界規模の拡張政策にある。米国内、さらに都市部に集中すれば確実に黒字になる。しかし、これだけの巨費を集めた以上、それだけでは許されない。世界市場の寡占化が求められている。そのためにはドライバーの囲い込み資金が要る。この助成金の無理が、毎期、赤字を膨らませているのだ。

=Didiへの売却は中国市場での合併か撤退か!= 
Uberの頭痛のタネは中国市場である。中国市場にP2Pのライドシェアリングを持ち込んだのは同社だ。これまで中国市場で争ってきたDidi Chuxingとは、Uberの後に台頭してきたDidi KuaidiとDidi Dacheが合併した企業である。彼らのバックには巨大インターネット企業のAlibabaとTencentがいる。こうして熾烈な戦いとなった中国市場は、ドライバーの囲い込みに巨額の資金がつぎ込まれる金食い虫となった。結果は、既にWSJなどで報じられているようにUberの撤退だ。これについてGupta氏は、これは撤退ではなく、Uber ChinaとDidi Chuxingの合併であると説明した。つまりUber ChinaはオペレーションをDidi Chuxingに譲渡する。そして中国政府が11月1日から配車サービスを合法化するのに合わせて、合弁会社となる。両社の市場評価額はUber Chinaが$7B、Didi Chuxingは$28Bとみられ、総額は$35B(3兆5000億円)。この通りだとすれば、Uberは全体の20%を占める株主となる。しかし中国市場が痛み分けで済んだとしても、上図のように世界市場には、米国内に2番手のLyft、インドにはOla Cab、シンガポールをベースとした東南アジアにはGrab Taxiがいる。Lyftの裏には$500M(約500億円)を投資したGMがいるし、今回Uber Chinaを買収したDidi Chuxingは、巨大資金をバックにOlaやGrab、そしてLyftにも投資をしている。さらに昨年末には、Uber対抗のため、Didi、Grab、Lyft、Olaの4社はAllianceを組んだ。まさにケオスの世界である。 

=ITバブル期の苦い記憶!=
 2000年に弾けたITバブルには苦い思い出がある。オンライン食品スーパーのWebvanだ。同社はバブルの絶頂期の1996年末に設立。大手VCから$396M(約396億円)という当時としては巨額投資を受け、物流倉庫や配送車、ITシステムなどのインフラを整備、サービスが始まったのは1999年6月だった。ベイエリアから始まった同社サービスのウリは注文から30分以内の配送だ。同年9月にはCEOにAndersen Consulting(現Accenture)からGeorge Shaheen氏を迎え入れ、サービスインから半年にも満たない11月には、NASDAQに株式を公開して$375M(約375億円)を集め、その評価額は $4.8B(約4,800億円)となった。まさに時代の寵児である。しかし同社の裏側で起きていた事実は、IPO時までの売り上げ累計が$395K(約4,000万円)、損失累計は驚くことに何と$50M(約50億円)であった。その2年後、2001年に倒産。全ては苦い思い出となった。失敗の原因は色々取り沙汰されているが、アリームーバーを追うあまりの過剰な設備投資が主要因であったことは間違いない。ことほど左様に、インターネットビジネスは難しい。実態の見えない世界だからこそ、誰よりも早く、大きなパイを取らなければいけない。そうしなければユーザーは直ぐに他へ流れてしまう。しかし言うは易く、行うは難しだ。もうひとつ、Amazon.comの事例をみよう。Amazon.comのβサイトが始まったのは1995年、Amazom.comは、自他ともに認めるこの世界の先駆者だが、未だ株主配当も出来ずにいる。同社の売り上げは設立以来、概ね堅調だ。ここ数年では、2011年は$48B、2012年は$61Bとなり、2013年は74.5B、2014年が$89B、そして2015年は$107B。しかしNet Income(純利益)となると悲惨である。2011年は$631M、2012年は▲$39Mの赤字、翌2013年は$274M、2014年はまた赤字の▲$241M、そして昨年は$596Mとなって、殆ど儲かっていない。

以上、失敗したWebvanの事例とAmazon.comを見てきた。
しかしAmazon.comがビジネスの成功組だとは言い難い。Uberはどちらと重なって見えるのか。はたまた新たな境地を切り開くのか。 確かなことは、Uberの昨年度のロスは$2B(約2,000億円)、今年はこれを超える公算が大きい。さらに、UberにはDidi Chuxingだけでなく、世界市場で既に幾つかの大手競合がいる。ドライバーも利用者も、良い条件が提示されればすぐに流れてしまう。こう考えると、Uberがこのケオスから抜け出すのは容易なことではない。


2016年10月1日土曜日

新ブランドGoogle Cloudに統一 
-マシンラーニングがエンタープライズビジネスの切り札だ!-

Googleがエンタープライズビジネスに本気になってきた。
9月29日、歴史建造物のサンフランシスコ造幣局The San Francisco Mintホールを借りてGoogle Horizonが開催された。会場は招待客のみ、内容はエンタープライズビジネスを促進するもので、カンファレンスのホストはDiane Greene女史である。VMwareを成功に導いた初代CEOだと言えば思い出す人も多いだろう。女史は2012年からGoogleのボード入りし、2015年11月にはGoogleにSVP兼クラウド部門長として迎えられ、再度、スポットライトを浴びることになった。
(詳細: あのダイアングリーン女史が戻って来た!) 

このカンファレンスで使われた女史の新たな肩書はCloud Chief。その他のプレゼンターは女史より前のクラウド責任者でGoogle FellowのUrs Hölzle氏やGoogle Appsの責任者Prabhakar Raghavan氏、Mapsの責任者Jen Fitzpatrick女史、エンタープライズセールスの責任者Tariq Shaukat氏、グローバルテクノロジーパートナーの責任者 Nan Boden女史、元Red Hat CTOでGoogleに移籍したCloud Platform責任者のBrian Stevens氏、さらにエンタープライズビジネスを支えるサポートやマーケティングなど蒼々たるメンバーである。

=マシンラーニングこそ切り札だ!=
カンファレンスのトップはGreene女史のオープニングキーノート、次いでHölzle氏からGoogleの長期的なインフラ計画、その中で1時間をかけたのはGoogle Cloud Machine Learningだ。これまで非公開α版として特定ユーザーに提供されてきたが、この日から誰でも利用できるPre-View(β版)となった。これこそがGoogleの切り札である。企業がどのようにクラウドを使ってマシンラーニングを利用するか。その答えがGoogleにはある。マシンラーニングは、IoTなどで収集したデーターベースを解析し、その中から規則性や判断基準などを抽出してアルゴリズムに発展させる。Google Cloud Machine Learningでは、幾つかの用意されたモデルを使って改良しながら利用したり、新たなモデルを作成することもできる。しかし、この作業には専門性が要求される。このために用意されているプログラムは2つ。ひとつはMachine Learning Advanced Solution Labだ。企業ユーザーの複雑な課題解決サポート窓口だと思えば良い。もうひとつはThe Cloud Start Programでマシンラーニングを含めたGCPのトレーニングシステムだ。これには最終段階で認証試験システムがある。こうして、一般企業にクラウドAIを普及させていこうという作戦だ。一方、エンタープライズビジネスにおける先行組には、Amazon Machine LearningやAzure Machine Learningがあるし、IBMにはWatosonもある。しかし、AIならGoogleだ。Google Cloud Machine Learning Platformは一種のポータルだが、同時に、Google Cloud Storage や Google BigQuery、Google Cloud Dataflow、Google Cloud Datalab などを使えるフルマネージドプラットフォームでもある。そして、画像認識のVision APIや音声認識用Speech API、自然語分析のNatural Language API、翻訳分析Translate APIなどが用意されているし、さらに強力な武器がある。Deep Leaning向けのオープンソースライブラリーTensorFlowだ。これはあの世界的囲碁棋士を撃破したAlphaGoでも使われたもので、これをクラウドで高速利用するTensor Processing Unitも開発済みだ。
=新ブランドGoogle Cloudへ!=
そして再度、登壇したGreene女史からは、これまで個別感があったプロダクトをひとつに纏めて提供するとし、新ブランドGoogle Cloud発表された。新ブランドが目指すは-Going All-in with Google Cloud-だ。Google Cloudのもとには、GCPを核としたGoogle Cloud Platform、そしてMapsやMachine LearningなどのAPIs、これまでのGoogle Apps for WorkはAI機能を加えてG Suiteと改称、さらにChromeやAndroidからのアクセスも含まれている。

=リージョン拡大へ!=
今回の発表でさらに大事なのは新設データセンターによるリージョンの拡大である。今年3月、初めて開催されたGoogle Cloud Platform Next 2016でリージョンの拡大について、Greene女史はその重要性に言及していた。その時点でGoogleが開設していたリージョンは4つ。米東部のSouth Carolina、米中部のIowa、欧州のBelgium、アジアではTaipeiである。このたった4つではAWSやAzure、SoftLayerには立ち向かえない。そして、米西部のOregonと東アジアのTokyoを本年末までに追加し、さらに2017年にかけて、全部で10以上のリージョンをオープンする予定だとしていた。実際にはTokyoとOregonは今年の3月末にオープンを宣言、今回、新たに Mumbai、Singapore、Sydney、Northern Virginia、São Paulo、London、Finland、そしてFrankfurtの8つの追加を発表した。予定より1年早いことになる。これら全てがオープンされれば14リージョンとなり、競合との見劣りがなくなる。完全にGoogleはエンタープライズビジネスに本気になり出したようである。
(詳細: Googleクラウドの新戦略が見えてきた!)


2016年9月13日火曜日

AutoTech(13) 混沌の時代!
         -Apple Project Titanの憂鬱-

Appleの夢の車、Project Titanの行く方へに霧がかかっている。
プロジェクトに関して、我々はこれまで多くの記事を見てきた。ただ、現在も正確な情報提供はAppleから何もなく、全ては観測や憶測である。この流儀に従えば、今、プロジェクトで何か大きな変化が起きていることは間違いない。プロジェクトが始まったのは2014年。そして、2015年3月の Apple株主総会では株主からTesla買収の提案が投げかけられた。この時期、AppleによるTesla買収の記事が多く見られたことを諸氏は覚えているだろう。しかし、何も起こらなかった。Appleは人材をかき集め、巨額資金をつぎ込んでオートノマスビークル(自動運転車-Autonomous Vehicle)の自力開発に突き進んだ。理由は、9月7日、発表されたiPhone7の評価はともかく、iPhoneの売り上げが堅調な日本を除くと、中国とおひざ元の米国で顕著に落ち込んでいるからだ。 

=混迷する人事!=
元FordのエンジニアでApple社歴16年のSteve Zadesky氏がAppleを去ったのは今年1月のこと。彼こそドリームカー、つまりiCar(コードネーム:Titan)のリード役だった。理由は私的なことだという。しかしこれは辞める際の常套句だ。それから半年、後任人事は7月になってやっと発表された。SGIからAppleに移り、長年、ハードウェア部門のトップとして活躍してきたBob Mansfield氏だ。氏は2013年から日々の仕事からは実質リタイアし、経営陣から退いていた。その彼を呼び戻してTitanの監督をさせようという判断だ。この空白の期間、1,000名を超えると伝えられるプロジェクトは動揺した。そして7月末、カーナビなどに使われるリアルタイムOS QNXの共同開発者兼元CEOだったDan Dodge氏がApple入りし、Mansfield氏のもとで働くことになった。
Apple Cupertino HQ
=何が起きたのか!= 
Apple Kanata Office
Dan Dodge氏のApple入社には重大な意味がある。QNXは、2010年4月、Reserach in Motion(現BlackBerry)に買収され、氏はグループ子会社QNX SoftwareのCEOとなった。しかし昨年末には、リタイア。そしてBob Mansfield氏同様、再度の登板だ。これより先、今年1月、AppleはQNXのあるオンタリオ州Kanataに22,000ft²(2,043m²)のオフィスを借りた(Financial Post)。これはQNXと関連したR&Dセンターとみられる。何故なら、QNXは今年1月、ラスベガスのCES 2016会場でNew Platform; Automated Driving Systemを発表したからだ。これはQNX上でADAS(Advanced Driver Assistance Systems-運転者支援)を実現するQNX Platform for ADASがベースとなっている。これで全体の流れが読めてきた。Appleは今までのオートノマスビークル開発を多分あきらめた。そして、新たな戦略として、これを利用するためにDan Dodge氏を採用し、QNXの隣接地にR&Dセンターを開設した。だからSteve Zandesky氏は辞めたのだ。これを裏付けるように、「AppleはProject Titanの戦略を大きく変えた」と報じた記事が9月9日付のNew York Timesに出た。 この記事によると、Appleはこれまでのオートノマスビークルの設計開発を止め、基本技術の構築へとシフトする。この戦略変更に伴って、部分的なプロジェクトのシャットダウンとかなりのレイオフが出た模様である。競合各社が実車のテスト走行を実施する中、Appleの夢の車はとうとう姿を見せなかった。Appleは早晩、これらの経緯を説明しなければならないだろう。

2016年9月10日土曜日

AutoTech(12) ステルスから抜け出たDrive.ai! 
       -外部コミュニケーションの新しい道を探る-

先週、オートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)のスタートアップDrive.ai(マウンテンビュー)がステルスモードから抜け出て姿を現し始めた。通常のオートノマスビークル開発が完全な自律運転を目指しているにに対してDrive.aiは少し違う。自律運転技術にはまだ課題がある。そこで外部とのコミュニケーションを重視することて安全性を高めようという作戦だ。Drive.aiのオートノマスビークルにはカメラベースのセンサーやLiDARが使用されている。それらが接続処理される搭載コンピュータには、これとは別に外部とのコミュニケーション用のディーブラーニングが組み込まれている。実際のコミュニケーションには、屋根の上のLEDパネルやライトの点滅、車の微速前後進などが用いられ、これらによって、車が今何を考えて、何をしようとしているのかを外部の人や車に意思伝達する。より正確な意思伝達には「この場合はこうする」といったルールベースのアプローチは向かない。その場の状況は無限の組み合わせだからだ。Drive.aiはここにディーブラーニングを適用した。つまり、相手となるオブジェクトの状態を車がどうとらえているか、そして、それを相手に知らせることにより、より安全な運転ができる。エンドツーエンドのアプローチだ。通常、ドライバーは歩行者の行動を見ながら、歩行者は車に注意を払いながら行動する。同社のアプローチは、まさに通常の車と人と同じような関係となる。Drive.aiの共同創業者はRoboticsの世界で15年の経験を持つCEOのCarol Reiley女史を入れて8人。うち6人がスタンフォード大学AIラボの卒業者かPhDだ。彼ら全てがディーブラーニングの専門だ。仲間の何人かはGoogle CarやGM、Nissanからやって来た。今回の発表と同時にボードに参加したSteve  Girsky氏は、GM破産後7年間シニアエクゼクティブとしてボードで活躍した人である。自動車の実務家とAIエキスパート、これがDrive.aiの強みだ。今後は開発した機能を市販車の改造キットとして売り出す予定だという。狙いはデリバリーカーを保有する配送会社やライドシェアリング会社などが想定されている。


2016年9月3日土曜日

AutoTech(11) Uberの野望!
    -自動運転トラックのOtto買収とVolvo提携-

全米最大手の配車サービスUberが俄然動き出してメディアを賑わしている。
8月18日、米フリーウェイを走る大型トラックをオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)に仕立てるスタートアップOttoを買収したと発表。この技術で自社用のオートノマスビークルを作り、さらに将来、これらを全面展開してドライバーレスを目指すという。

=Uberの大いなる野望!=
Morgan Stanleyによると、世界的な自動車生産の総量はもはや伸びず、一方Shaered Carは2030年には全体の15%超える。まさに「車は所有するものから利用する時代」に移り始めたようだ。GoogleがUberに258M(約283億円)を投資したのはちょうど3年前の2013年8月だ。Series-Cだった。そしてGoogle SVP David Drummond氏がUberのボードに就任。当時のForbesによると、GoogleはGoogle CarとUberを組み合わせたキラーアプリを目指していた。しかし状況は変わった。Uberが独自路線を歩み出したからだ。昨年2月、ピッツバーグのカーネギーメロン大学(CMU-Carnegie Mellon University)と組んでAdvanced Technologies Centerを発表した。この組織を核に同社向けのオートノマスビークルを開発するという。Uber CEO Travis Kalanick氏の大いなる野望だ。CMUのRobotics研究は超一流である。初期のGoogle Self-Driving Projectを率いたSebastian Thrun氏も、この8月始めまでGoogle Self-Driving ProjectのCTOだったChris Urmson氏も在籍していた。とはいえ、Uberの自力開発はそう簡単ではない。実際のところ5月中旬、同社はFordと提携してFord Fusion Hybridによる公道テストをピッツバーグ市内で開始すると発表した。 しかしUberの野望はそれでは終わらなかった。今年6月2日、Uberはサウジアラビア政府系公共投資ファンドから$3.5B(約3,800億円)という巨額投資を受け入れて我々を驚かせた。これで集めた資金総額は14.11B(約1.5兆億円)。その評価額は$68B(約7.5兆円)となった。この巨費をどのように使うのか。それは全世界の市場開発だけではない。もちろん独自のオートノマスビークル開発が含まれている筈だ。そしてUberはひそかにOttoとの本格的な買収交渉に入った。買収の合意はかなり前だと言われ、その金額はUberの市場評価額のたった1%にあたる$680M(約680億円)である。 


Otto team and Uber's CEO Travis Kalanics

=Ottoという会社=
Ottoの創業者は4人。4人とも元Googleの社員だ。Anthony Levandowski氏はGoogle Self-Driving Car Projectのオリジナルメンバー、Lior Ron氏はオートノマスビークルには欠かせないGoogle Mapsのヘッド、Don Burnette氏はGoogle Carのオンボードソフトウェアのエンジニア、そしてClaire Delaunay女史はGoogle XのRoboticsをリードしてきた。Ottoの創業は今年1月、社員は現在約90名。それにしても、いくらスタートアップとは言え、たった8ヶ月のエキジットは最短というほかない。彼らがGoogleを離れた動機は、オートノマスビークルのインプリに関する意見の相違だと言う。Otto組はいち早く実用化しなければ負けてしまうと主張。Googleのプロジェクトは市販車への適用ではなく、本格的な開発にこだわった。独立したOttoが目を付けたのはコンボイと呼ばれる大型輸送用のトラックだ。フリーウェイを走るトラックドライバーの仕事は過酷だ。長時間をたった1人きりで走り、各種のペーパーワークもある。加えてこの業界は排ガス汚染や死亡事故などの社会問題も抱えている。段々とドライバーのなり手がいなくなる。これらが背景となって、Ottoはバンパーや運転席の屋根にLiDARや各種センサーを装備した改造キットをVolvoと提携して開発することを決めた。


 
=Uberの目指すもの!=
Uberが目指すものは何か。彼らがTeslaのように自動車産業に直接参入することはない。目指すは配車サービスに使う初の商用オートノマスビークルだ。そのために選んだのはOttoの提携先のVolvo XC90。これをオートノマスビークルに改造し、当面100台程度を用意する。各車両には即座に運転を代わることが出来るドライバーと記録係のナビゲーターの2名が乗車。このうちの一部車両は近々ピッツバーグ市内に登場する。これまで通り、顧客がUberアプリで配車を要求すると、ランダムにオートノマスビークルがアサインされる。当面は試行ということもあり無料らしい。Uber CEOのTravis Kalanick氏は、「他社との大きな違いは同社アプリによるデータ収集だ」と明言する。氏はどんなオートノマスビークルだって、人間無しでは完全なソフトウェアシステムとはならない、問題はデータだという。現在、約100万人とも言われる全世界のUberドライバーと利用客によって、1日で集められるデータは約1億マイル(1.6億Km)。このとてつもないデータがUberの武器だ。これによって正確な交通情報を得て、やがてはドライバーレスのオートノマスビークルが安全運転できる日がやってくる。

 
 

2016年9月1日木曜日

Rackspace、新たな道へ! 
       -Apollo Globalによる買収決定-

Rackspaceのボードは、8月26日、既報のように、かねてから交渉中であったPrivate EquityのApollo Global Managementに売却することを決めた。1株当たり$32の現金による取引で総額$4.3B(100円/1㌦換算、約4,300億円)となる。この日、同社の株価は4%上昇し、今回の取引完了後はこれまでの上場企業から非上場となる。同社CEOのTaylor Rhodesは「企業が業務をデータセンターか らマルチクラウド環境へ移行する現在、Apollo Globalが同社の戦略とユニークなカルチャーを評価してくれ、これから一緒に働けることを楽しみにしている」と述べた。しかし、各種のメディア情報か ら見る限り、Rackspaceの独立性の保証や今後の具体的なコミットメントは見当たらない。つまり、Rackspaceにとっては、転売か合併がこの先待ち受けている。ともあれ、2014年5月からのホワイトナイト探し、その後も買収交渉が何度となくあった。そして今度の決着、その先はまた新たな展開が続く。周知のことだが、クラウドでRackspaceの果たした功績は大きい。NASA Amesと共に始めたOpenStackプロジェクトはプライベート市場で花開き、パブリッククラウドにもくさびを打ち込んだ。クラウド市場はプロプライエタリービジネスの囲い込みではいけないと いう信念からだ。しかし資本市場の現実は厳しい。今回の買収を乗り越え、これから先もRackspaceの健闘を祈らずにはいられない。