2014年10月27日月曜日

快進撃のMicrosoft Azure、その深層に迫る!

=1Qに見るAzure快進撃(前年比128%増)=
MicrosoftのクラウドAzureが快進撃の様子だ。
これまではAmazonが独走だった。価格を下げ、それによって既存ユーザの利用を促進し、新規ユーザを呼び込む。得られた利益の大部分をインフラに投資し、この全体サイクルを回すことによってAWSは勢力を拡大してきた。しかし、昨年秋頃からこの歯車が噛み合わなくなってきた。市場ではプレイヤの統合が進み、さらにクラウドはエンタープライズ市場に向い出した。今年2月には、Googleが大幅な値下げを断行して価格競争に挑んできた。この流れの中で頭角を現してきたのがMicrosoftだ。何がMicrosoftを快進撃に導いたのか、今回はその深層に迫って見ようと思う。
Microsoftの年度決算は6月末。そして10月23日、新年度1Qの決算(7-9月)速報が出た。その発表によればSufaceProやXboxなどのコンシューマデバイスとクラウドビジネスが好調だ。クラウドビジネスは、SECファイリングの10-Qによると、Azureの直接売上げ$662M(約662億円)、前年同期比128%増。その他、関連するEnterprise ServiceやSaaSなどを合算したクラウドビジネスの総額は、推定で最大$2,407Mになった模様だ。これらは下表のCommercial Otherに含まれる。新CEOのSatya Nadella氏は決算発表のカンファレンスコールで「Microsoftの再生には、生産性向上のために "Cloud First" "Mobile First"が欠かせない」と強調。後者は立て直し途上のNokiaやSkypeだが、前者は勿論、Azureであり、IaaSやPaaSだけでなく、同社のソフトウェア資産をAzure上でサービスするOffice 365Dynamics CRMなどのSaaSが含まれている。

注)クラウド売上げはCommercial Otherに含まれる。
=低迷するAWS(前年比37%アップ)=
同日、Amazonからも決算報告がなされた。しかしこちらの方は一般紙でも記事になったように本業のインフラ投資が先行して赤字決算となり、クラウドも失速気味だ。Amazonの場合もAWS売り上げは下表のOtherに含まれるが、このOtherは殆どがクラウドだと推測できる。下表から解るように、AWSの北米売上げは前年比40%増の$1,340M(1,340億円)とまずまずのように見える。しかし、その他地域の国際(International)は前年同期$51Mから$42M(42億円)と-17%のマイナス成長となった。合算値は$1,382M(1,382億円)、成長率は前年同期比で37%だ。 
=年間見通しはどうなるか(Azure$4B~、AWS$5B~)=
年度決算はどうなるのだろう。まず、Microsoftの場合を考えてみよう。思い出すのは、CEOのSatya Nadella氏が今年7月22日のFY14 4Q発表時に、「4Qクラウド売上げは前年同期比147%と急成長した。このまま推移すれば年間$4.4B(4,400億円)に達する」と話したことだ。これは凄い数字だ。ただ、FY15 1Qが128%なので、現状では少し低い$4,0B-$4.2B(4,000-4,200億円)程度ではないだろうか。しかしAWSの昨年度(2013)売り上げが$3,934Mだったのでこれには追いついた。クラウドの雄のAmazonはこのところ芳しくない。少し遡ってみよう。AWSの2011年度売上げ$1,586M(1,586億円)、2012年度は$2,523M(2,523億円)、2013年は$3,934M(3,934億円)。ここまでは順調だった。この3年間の平均年間成長率は57.5%だ。この計算で行くと、2014年度は売上げ約$6.2B程度の筈だった。しかし1Qは$1.257B(1,257億円)、2Qはそれより約3%ダウンして$1,218Bだった。これに今回の3Qの$1,382Mを加えると$3,857Mとなり、このままで年度合計を推測すると$5.0B-$5.2B程度だ。完全に変調を来しているとしか考えられない。

=Synergy Researchのレポート=
次に2Q(4-6月期)までのデータだが、AWS変調(翻ってAzure好調)の要因をお馴染みのSynargy Research社の報告(下左図)で見てみよう。図のように、これまで4社(Salesforce、Microsoft、IBM、Google)合計はAmazonに届かなかった。しかし2Qでは前年比でMicrosoftが164%(Microsoftの速報では174%)、IBMも86%と急成長した。対するAWSは49%、Googleも同水準の47%だ。Amazonの勢いがすっかり衰え、Microsoftが急伸し、IBMも追っていることがはっきりしてきた。同社はさらに2Qの各社データから、この期の市場総売り上げは$3.7B(3,700億円)、年間売上げは$13B(1兆3千億円)、市場成長は45%以上と推定した。これにAWSの年間予想($5.0B-$5.2B)とAzureのそれ($4.0B-$4.2B)を当てはめると、Amazonは38-40%、Microsoftは30-32%程度のシェアとなる。現在の勢いはMicrosoft Azureにあり、来年度はキャッチアップする公算が大だ。
同社からはもうひとつ報告(下右図)がある。これもとても興味あるものだ。この図はクラウド関連の「ハードウェア&ソフトウェア」と「サービス」のシェアを示すものだが、前者はCisco、後者はAmazonがトップである。しかしよく見ると、MicrosoftとIBMの2社が両方の分野に強い地位を保っていることが解る。同社の推定では、2Qのクラウド基盤向けハード/ソフトの売上げは$12B(1兆2千億円)、前年比8%増。これに対してクラウドサービスはかなり小さく売上げは$4B(4千億円)、前年比50%である。これを単純に年間に引き延ばすと、ハード/ソフトの今年度総売上げは$48B(4兆8000億円)、クラウドサービスは$16B(1兆6000億円)となる。これについて、同社のFounderでChief AnalystのJohn Dinsdale氏は「稀な現象だが、この2社は企業総合力がクラウドでシナジー効果を出しているようだ」と解説。これは裏を返せばそのような環境にないAmazonが辛くなることを意味する。勿論、Microsoftはハード部門を持たないので、OSを核としたミドルソフトやパッケージソフト群とサービスが相乗効果を引き出し、IBMは一連のハードウェアと総合的なソフトウェア群がクラウドサービスの売上げに貢献しているという訳だ。つまり、両社にとって、クラウドサービスは既存製品群との協調の上に成り立っている。もっと言えば、自社製品群のシェア維持と拡大のためにクラウドは欠かせないということだ。こう見ると、HPがHelionでサービスを提供する意図が理解できる。


=Open Licensing Programで進撃開始=
Microsoftはさらに秘策を操り出し始めた。
まず、7月中旬に開催されたWPC 2014(Worldwide Partner Conference)でOpen Licensing Programを発表。このプログラムは、8月1日から北米で適用が開始された。これまでのAzureを利用する方法は2つ。ひとつはクレジットカードを登録してAzureを直接使う方法。もうひとつはEnterprise Agreementによるものだ。大手企業では総合的なEnterprise Agreementの一部として、Azureの利用枠を年間クレジットで事前購入して利用する。この中間がOpen Licenseである。仕組みはこうだ。ユーザに直接販売するパートナーは、金額ベースのクレジット利用枠をディストリビュータから割引を受けて購入し、その中からユーザが必要とする分を再販する。つまり、ディストリビュータやパートナーには販売の自由度があり、そこから得られた差分が彼らの取り分となる。ユーザにとっても、利用枠の大きさによって多少の割引が見込めるし、クレジットカードによる都度払いよりもずっと経理処理がし易い。Microsoftはこの方式の優位性をOffice 365で学んだ。Office 365の販売当初もクレジットカード扱いだけだった。それでも売上げはかなり伸びたが、その後、販売価格に自由度のあるパートナー扱いを開始すると売上げは急増した。Office 365だけでなく、Azureも柳の下の2匹目のドジョウを狙うというわけである。

=AzureとIBM Cloudの協業=
次に、10月22日に発表されたニュースも衝撃的だった。
MicrosoftとIBMは互いの企業向けソフトウェアをそれぞれのクラウドで提供するために作業中であるという。背景にはHybrid Cloudの採用が早まっていることがある。これまでAmazonはPublic Cloudでシェアを拡大してきたが、企業向けPrivate CloudではMicrosoftとIBMが待ち受けている。両社はこの市場をしっかりホールドし、早まりつつあるHybrid CloudでAWSからユーザを取り戻すために多くの選択肢を与える作戦に出た。これによって、お互いのPublic Cloudの有用性を引き上げ、Private Cloudとの連携を確実なものにする戦略だ。考えられているのは、① IBMのWebSphereやMQ、DB2などをAzure上で提供し、② Windows ServerやSQL ServerをIBM Cloudで提供、さらに、③ Microsoft .NET runtimeをIBMのPaaS Bluemixで稼働させることである。

=Azureをリードする新CTO!=
時代は急速に動いている。
Mark Russinovich
Satya Nadella氏がCEOに就任したのは2月14日。初代CEOのBill Gates氏、Steven Ballmer氏に次ぐ三代目である。彼はMicrosoftで22年のキャリアがあるがGates氏やBallmer氏のような創業者魂はなく、インド人に多い理性的で、かつエンジニア肌の人だ。CEO就任前の役職はクラウド&エンタープライズグループのEVP。つまり、彼はクラウドを熟知している。その彼がクラウドのCTOに指名したのがMark Russinovich氏だ。氏は仲間と始めた会社の買収に伴ってMicrosoftに2006年に入社。Russinvich氏はIT関連の著作などで学究肌のエンジニアと見られているが、それだけでなくDRMに関するRoot Kitの問題を発表したセキュリティの専門家であり、MicrosoftのTechnical Fellowでもある。その氏はAWSとの戦いについて、米メディアに答え、「クラウドビジネスの基本は企業のデータセンタ投資に係るCAPEXを如何に低減させるかに尽きる。CAPEXがはっきり下がることが解れば企業はクラウドに移行してくる。問題はセキュリティだ。自営のデータセンタとは異なり、クラウドはShared Technologyの上に成り立っている。我々は第3のコンピューティング<クラウド&モバイル時代を成功させるために、何としても高信頼のクラウドを提供する必要がある」と説明。現在、Microsoftは全世界17地域でAuzreを展開し、唯一、中国でもPublic Cloudを運用している。価格競争については、Microsoftが既に明らかにしているようにどのような状況にも対応するだろう。氏を見ているとAzureの初期を導いたRay Ozzie氏を思い出す。Ozzie氏がビジョナリーならRussinovich氏はエンジニアリングの実務だ。今まさにMicrosoft Azureにとって必要な人物である。Satya Nadalla氏の口癖、"Mobile First" "Cloud First"を実現する高信頼クラウド構築は、彼の双肩にかかっている。

2014年10月7日火曜日

Ellison氏のCEO退任とOracle OpenStackの登場!     

ついにOracle CEOを35年間続けてきたLarry Ellison氏が退任することとなった。 
Oracle OpenWorld 2014開催直前のことである。思えば、AppleのSteve Jobs氏は3年前の2011年10月、闘病生活から立ち直ることなく56歳の若さで世を去った。MicrosoftのBill Gates氏は2000年1月に45歳でCEOを降り、自らがChief Software Architectとなって製品全体の方向性に目を光らせた。その後は新しい時代の流れに沿うべく、2006年6月、Ray Ozzie氏にその職を委ねて、徐々に身を引いた。そのOzzie氏が最も力を入れたのがMicrosoftのクラウドAzureである。
他方、Elison氏は今年8月で70歳。
新たなOracleのCEOには、これまで氏と共にトロイカ体制を担ってきたMark Hurd氏とSafra Catz氏が共同であたる。Catz氏は2004年から同社社長、Hurd氏は2010年にHPのCEOからOracleに移ってきた。Ellison氏はCEOを辞めたと言っても、実際にはボード議長に収まって実権を掌握し、さらにCTOを務めて、ソフト/ハードのエンジニアリングを担当するという。2人のCEOは、Catz氏が製造/ファイナンス/法務、Hurd氏は営業/サービス/業種別グローバルビジネスを受け持つ。考えてみれば、これまでEllison氏はCEOとして全てをコントロールし、共同社長のCartz氏は本部機構、Hurd氏は買収したSun Microsystemsの立て直しが主な役割りだった。今回の体制は、Ellison氏がいづれ全面的に退任し、次世代をHurd氏へ受け継ぐ前段階ではないかという声が多い。

=Oracle OpenWorld 2014=
さて今年のOracle OpenWorldはどうだったか。
一言で言えばクラウドのオンパレードである。今回のカンファレンスでは、IaaSよりPaaSやSaaSにウエイトが置かれたが、ただ、内容はこれまで発表されていたものの改良や現行製品の乗せ直しで新鮮味はなかった。つまり、Oracle Database 12cやJavaの開発環境WebLogicなどがクラウド環境で提供されるというものだ。9月28日(日)午後5時からEllison氏はCTOとしてKeynoteに登壇し、これらの話を滔々と語り、Oracleのクラウドビジネスは始まったばかりだ強調した。翌29日(月)朝8時半からのMark Hurd氏のKeynoteもクラウド関連アプライアンス製品エンジニアドシステム(Engineered Systems)の成功を語り、Ellison氏は再度、30日午後1時半からも登壇した。これらのプレゼンを通して解ったことは、Oracleにとってクラウドとは何かである。彼らが提供するIaaS/PaaS/SaaSの3つは、基本的に現行ユーザのマイグレーションパスである。これまでのERPはSaaSとなり、今回発表したデータベースや開発環境はPaaSとなる。さらにユーザが作り込んだ高度なDBアプリケーションはIaaSがなければ移行ができない。これら既存ユーザを何とか囲い込みながら、これまでのライセンスビジネスからユティリティベースのクラウドに移行させたい。これがOracleのクラウド戦略のようだ。
一方、Sun時代から多くのファンを集めたJavaOneも併設されていた。こちらの話題はもっぱら今年3月にリリースされたJava SE 8 。Java開発はSunが買収されたことによって、リリースは遅れに遅れた。それでもJava 8はラムダ式の採用により、Java 5以来の文法的変更という画期的なものとなった。

=Oracleのオープン化の足取り=
さて、ここでOracleのオープン化について触れておこう。
Ellison氏は、現在はともかく、以前はオープンソースについてもクラウドにもあまり興味を示さななかった。そのためSun買収後のOpenOffice.orgは混乱し、枝分かれとなったLibreOffice開発とコードを寄贈したApache OpenOfficeの2つを生んでしまった。程度の差こそあれ、MySQLやJavaも同様である。

◆ Oracle Linux 
そのOracleがRed Hat Enterprise LinuxをベースにしたOracle Linuxを発表したのは2007年。2010年のSun買収以前のことだ。これはUnixからLinuxへの急激な流れの中で、OS移行に伴うユーザ流出の防衛策のように見えた。

◆ Oracle Exadata/Exalogic
2009年に発表したデータベースアプライアンスOracle Exadataは、HPと共同開発したもので、OLTP(Transactional)とOLAP(Analytical)に対応し、OSにはOracle Linuxを採用した。この成功がSun買収の伏線となったのだろう。買収の翌2011年、Sunのストレージをベースとした高性能のExadata 2が登場。これにはオープンソースとなったZFSが搭載され、OSはSorarisかOracle Linux。平行してSunのハードウェアにWebLogicを乗せたOracle Exalogic も現れた。

◆ Oracle Engineered System
これらはその後、Oracle Big Data ApplianceOracle SupperClusterOracle Virtual Compute Applianceを加えて、一般にアプライアンスと呼ばれるものよりも、ソフトウェアとハードウェアをより効果的に統合したEngineered System(エンジニアドシステム)として成長した。

◆ OpenStack
Oracleが次に手を打ったのがOpenStackである。その前触れが昨年3月に買収したNimbulaだった。同社はAWS開発の初期メンバーが創設した会社である。こうしてクラウド関連技術とエンジニアを吸収し、昨年12月にはOpenStack Foundationの企業スポンサーとなって、Oracle SolarisOracle LinuxOracle VMOracle Virtual Compute ApplianceOracle ZFSなどへのOpenStack適用を表明した。そして今年5月、Atlantaで開かれたOpenStack Summitで2つOpenStack製品を発表。ひとつはSolarisにOpenStackを統合したOracle Solaris 11.2、もうひとつはx86向けのOpenStack Distributionである。

こうしてみると、Ellison氏の考え方は時間と共に変化しているのかもしれない。
しかしStackAlyticsで見るとOracleのJuno開発貢献度は86位だ。貢献度トップHPのレビュー数は24,857件、Red Hat(同2位)、Mirantis(3)、Rackspace(4)、ここまでは10万件以上、5位のIBMが9,989、Ciscoは4,614(6)、NECが3,392(7)、SUSEは2,589(10)、これらの企業は全てOpenStackのディストリビューションを製品化している。これに対してOracleはたったの19件だ(10/7現在)。これはOracleの体制がまだ始まったばかりだからなのかも知れない。ただ、今言えることは、貢献を通してビジネスを組み立てる多くのメンバー企業とは異なるということである。

=後継者は誰か=
Oracleは新トロイカ体制となったが、Ellison氏はこれまで通りなのだろうか。
それとも、総務畑のCatz氏はともかく、Hurd氏をいずれ後釜にするのだろうか。
残された時間はそう長くはない。周知のようにHurd氏はNCRの営業から身を興し、同社の1部門だったTeradata成功させてCEOに登り詰めた人である。その手腕を買われてCarly Fiorina女史後のHP CEOとなり、そしてOracleにスカウトされた。その彼の最初の仕事がTradataの成功体験を生かしたExadataだった。その意味で、氏がSunの再生、とりわけ、Engineered Systemをビジネス軌道に乗せたことは大いに評価される。しかしOracleは基本的にはソフトウェアの会社である。勿論、Linuxもクラウドもソフトウェアだ。彼はどちらかというとマーケティングやハードビジネスが得意である。本当に彼が後継者となるのだろうか。不安もある。過去、後継者と思われる人物が現れる度にEllison氏との仲が問題となった。1992年に入社し、1996年にCOOとなったRaymond Lane氏は、当時の競合SybaseInformixに打ち勝って大きく業績を伸ばして後継者と言われたが、2000年、突然退社した。その後、2003年、社長にスカウトされたCharles Phillips氏も、PeopleSoftBEAHyperion,、Siebelなどの買収に貢献し、大きく売り上げを伸ばした。その彼も2010年、Oracleを去った。今度こそHurd氏が後継者として選ばれるのか。
新トロイカ体制はその試金石である。

2014年10月1日水曜日

HPとEucalyptusは上手く行くか!
         -OpenStack Silicon Valley 2014ー

OpenStack Silicon Valley 2014Computer History Museumで開かれた。
Mountain Viewにあるこの建物は、以前、Silicon Graphicsの本社だったものだ。
このイベントはOpenStack Community EventとしてSIerのMirantisがオルガナイズした。当日(9月16日)の参加者は590名。この数は少ないと思うかもしれないが、会場の制限によるものだ。チケットは完売。勿論、参加者の殆どがクラウド関係者やデベロッパーだ。集まったメディアはGartnerやIDC、そしてクラウドではお馴染みの451 Research、SiliconANGLE、The New Stack、TechTarget、eWeek、GigaOm、Web Host Industry Reviewなど。以下は主に、このイベントで最大の話題となったHP戦略について纏めたものである。

=HPはなぜOpenStackへ舵を切ったのか=
この日のトップを切ったのはHPのプレゼン。 前半はEVPでCTOのMartin Fink氏、後半はEucalyptusのCEOMarten Mickos氏だ。まず登壇したFink氏はこれまでのHPクラウドの活動を総括。氏によると1年弱前(昨年の暮れあたり)、クラウド開発の方向を完全にOpenStackに修正したとのこと。つまり、このままではただ体力を消耗するだけ、一方でOpenStackの開発が進んだことから、全てのリソースをこれに賭けようと決断した。我々がHelionの発表を耳にしたのは今年5月なので約半年前のことである。それより以前、HPはPublic Cloudを2011年に発表し、2012年5月からβ版でサービスイン。これに先駆け、同年4月、HPクラウドはハイブリッド化を目指したConverged Cloudとなった。このクラウドではObject Storageなど部分的にOpenStackを採用していたがHelionからは全面採用へと舵を切った。その意味でHelionはConverged Cloudのリブランドと言って良い。
=Eucalyptus CEOの心変わり=
Fink氏と握手を交わし、後半、壇上に立ったのは、今や時の人、Marten Mickos氏だ。氏の経歴は言うまでもないが、LAMPスタックで一世を風靡したオープンソースデータベースの雄、旧MySQLのCEO(2001~2008)だ。そのMySQLを旧Sun Microsystemsに売却し、Sunに1年とどまって、2010年にEucalyptus SystemsのCEOに就任した。その氏が再度、EucalyptusをHPに売却し、自分もHPのEVPでクラウドビジネスのGMとして指揮を執ることになった。2度目の変身である。周知のようにEucalyptusはUC Santa Barbaraで始まったクラウドプラットフォームのオープンソースプロジェクトで、その後の改良の結果、インストールの簡便性とAWS互換を売り物にしている。この日、氏はまず、まだHPとの最終契約が終わっていないことに言及し、だから正式な肩書はまだEucalyptusのCEOだと説明した。氏は過去10年間、オープンソースビジネスに従事して完全に成功してきたことを強調、そして2日前の日曜日(9月14日)にOpenStack Foundationの個人メンバーになり、これからはまじめに貢献すると語った。その際、参加者から起こったパラパラという複雑な拍手が印象的だった。というのは、これまでEucalyptusのCEOとしてOpenStackに挑戦的な発言を続けてきたからだ。その後、氏はオープンソースがクラウドでどれだけ重要かを説明し、とりわけハイブリッドOpenStackにとってEucalyptasのAWSデザインパターンが有用であることを強調した。さらに「Eucalyptusのチーム自体、OpenStackプロジェクトに比べようもないくらいに小さく、使い易さ(Easy of Use)やインストールの容易性(Easy of Installation)を狙ったもので、(暗に競合するのではなく)共存できる」とした。特に「AWSとのハブリッドを考えるとき、Public CloudのAWS APIはプライベートだが、Private Cloudで使うAWS APIはパブリックなものだ。何故ならオープンソースとして利用可能だから」。つまり、EucalyptusのAWSを上手く使えという示唆である。氏はさらに、自らの代弁としてクラウドオピニオンのひとつが、何故HPがEucalyptusを買収したかに触れ、それは、①AWSとのインターオペラビリティ、②シンプルスタート、③プロダクトフォーカスの3つだと説明した。そしてOpenStackは既に優秀なCephRiak CSMidoNet(ミドクラ)などのアドオン/付帯プロジェクトを持っており、Eucalyptusもそうありたいと述べた。

=新たなクラウド模様!=
このイベントの当日は、既報のようにRackspaceのホワイトナイト探しが終了した日でもある。今回の騒動が要因となってクラウド模様も変わった。Rackspaceは独自路線を歩む。最有力の買収候補と見られていたHPは、RackspaceからEucalyptusに乗り換えた。AWS互換機能は確かに魅力だが、本当にこれで良かったのだろうか。Mickos氏の要求は、その売り込みだけでなく、自分も売り込み、さらにEucalyptusをHPのポートフォリオに残すことのようだ。会場での参加者の話題はもっぱらこのことだった。同様に買収候補とされていたCiscoはMetaCloudを手に入れ、インタークラウド市場を目指しながら、UCS販売を強化する。もうひとつ、この騒動の陰で、9月11日、Red HatのCTO Brian Stevens氏がGoogleにスカウトされた。ポジションはGoogle PlatformのVP。Googleクラウドの責任者だ。これより先、RackspaceのSVPで製品開発の責任者だったMark Interrante氏も7月初めHPに入社している。SVPとなった彼も同様、HPクラウド開発の責任者となった。今回、傍観していたMicrosoftはAzure、IBMはSoftLayerを推進する。そして、体制を整えた後発組のHPとCisco。挑戦を受けるのはAmazon。こうして、ジグソーパズルの当面のクラウド模様は決まった。戦闘再開である。

2014年9月18日木曜日

続々) Rackspaceはどうなるのか! -M&A交渉終了-

9月17日、Rackspaceは当面のパートナー探しは終了したと発表した。
最終候補に挙がっていたとされるCenturyLinkの買収交渉は上手くいかず、この発表によって株価は一気に$32台へと下がった。今後はTaylor Rhodes氏の指揮のもとで “Managed Cloud” 戦略を推し進めることになる。今回の戦略的パートナー探し(M&A)は5月15日のSECファイリングで明らかになった。内容は戦略パートナーから買収までだ。そのために同社はMorgan StanleyとWilson Sonsini Goodrich & Rosatiの2社と契約し、株主や顧客、従業員の最大利益を求める複雑なレビューを実施した。発表によれば、その結果、ボードはM&A交渉を終了することを決定した。

=どうしてこうなったのか=
ほんの数日前に中間報告を書いた筆者も正直のところ、この急展開には驚いた。
ただ、冷静になればこれで良かったのではないかと思う。好業績だった2Q報告後、同社株式は8月12日の$29.50を底に反転し、9月1日のLabor Dayを挟んでも続伸、$38~39台で推移していた。理由は好業績を背景にCenturyLinkとの交渉が進んでいたからである。しかし中間報告で書いたように、個人的にはCenturyLinkが最良のパートナーだとは思い難い。この組み合わせから、Racspaceがこれまで見せてきた先進性やユーザセントリックな戦略が加速されるとは思いにくいからだ。

初回報告を思い出して欲しい。Rackspaceの生い立ち、社風、クラウドへの取り組みなどを詳しく述べた。その上で、彼らはExitにあたり、何を望んでいたのかを推測した。事実は知る由もないが、次のようなものだ。
  • この会社のDNAが引き継げるか。つまり彼らに経営の自由度が残るか。
  • OpenStackへの理解は高いか。
  • プライスタグ(買収額)はどの程度か。(Market Valueは$4-5B)
  • この取引のビジネスミックスは将来の事業拡大に貢献するか。
ここで大事なことは、米国企業には珍しく、プライスタグだけが条件ではないのではないか、ということである。彼らは、出来れば、資金力があり、インフラやグローバル展開などの力を持った大きな傘のもとで戦いたかったに違いない。あくまでも憶測だが、買収提案をした大手企業側は自社戦略にRackspaceを組み込むことしか考えなかった。これは通常のM&Aでは当たり前のことだが、彼らの要求とは折り合わなかったのだろう。こう考えると、殆どの候補企業の整理がつく。わけてもHPとの交渉も想像できる。HPからの提案は金額的には良好なものだったのだろう。しかし同社は、それだけでなく、自主性も確保したかった。この流れが伏線となって、HPによるEuclyptus買収交渉が決定されたと見るのは穿ち過ぎだろうか。

=ボードによる2つの判断と新たな船出!=
RackspaceのボードはM&A検討終了の決定と共に2つの判断も下した。
ひとつは今年2月からCEOだったGraham Weston氏に代え、同社ベテラン幹部のTaylor Rhodes氏を新CEOとし、ボードメンバーに加えたこと。これに伴いWeston氏は, 非常勤のボード議長(Non-Executive Chairman of the Board)となった。もうひとつは、株式買戻しプログラムを考慮するというものだ。これは今回の一件に乗じて投資したヘッジファンド対策ではないかとみられる。同社の苦境から始まった今回のパートナー探し。交渉は折り合わなかった。これは同社にとってマイナスイメージとなる。しかもヘッジの持ち株比率を上げてしまった。しかし、幸いなことに2Q決算が予想以上に良かった。通年の見通しも明るい。クラウドに造詣の深い人たち(Cloud Advocates)はほっとしたに違いない。Rackspaceは新CEOのもと、新たな船出となった。彼らの決断と今後の活躍にエールを送りたい。

2014年9月16日火曜日

続) Rackspaceはどうなるのか! -CenturyLink浮上か-

RackspaceのExit Story=Rackspaceはどうなるのか(8/1)=に関する続編をお伝えしたい。同社がMorgan Stanleyを雇ったのは5月中旬のこと。当時の株価は5月9日が最安値で$26.28、それが出口戦略の模索が伝わると、一気に42%ジャンプして$37.37となった。このような大幅な値動きは2008年11月以来のことである。6月10日には最高値の$37.88をつけた。このころRackspaceは強気で幾つかの提案を受けたが纏まらなかったという。その後は夏相場に突入して低迷。しかし8月12日の$29.50を底に反転し、この時期重要な休日Labor Dayを挟んでも続伸、9月8日来、現在は$38~39台で推移している。どうやら状況は再度好転し始めたようだ。

=好調だった2Q報告=
この反転の理由ははっきりしている。 同社の2Q業績が改善したからだ。8月11日、SECにファイリングされたForm 8-Kによれば、2Q売り上げは前期比4.8%アップして$441となった。これは前年同期比では17%アップ、同社は今年の3Qも3~4.5%アップの$454~$461が見込まれるという。売り上げの伸びに伴い、サーバ数も1Q末の106,229台から2Qでは107,657台に伸び、6月末現在の従業員数は全世界で5,798人、1Q時の5,743人から僅かながら増加している。

=新戦略OnMetalへ=
今年3月、GoogleのAmazonに対する挑戦で始まった価格破壊を覚えている人は多い。この動きはクラウド市場を困惑させたが、Rackspaceは独自路線を進むことで、その難題から逃れてきた。元来、同社はHostingの会社だ。その経験で身につけたサービスの良さには定評がある。巨大なパブリックIaaS市場を相手にした薄利多売のAmazonやGoogleには出来ない芸当だ。これこそ、Managed Cloud Companyと自負する同社の財産であり、その結果が2Qの業績につながった。そして、この流れを加速させるOnMetalサービスが7月から始まった。このサービスは、誰にも邪魔されることのないBare MetalにOpenStackを乗せ、Single Tenantとして提供される。RackspaceはHPやDellから購入してきたサーバ群を現在、Open Compute Project仕様に切り替え中であり、このBare Metalも同仕様のものだ。つまり、ハード(Open Compute)もソフト(OpenStack)も徹底したオープン路線を採っている。勿論、OnMetalにはマネージドサービスも可能だ。同社は言う。クラウドを使いこなしてきたユーザは、他VMの振舞いによるしわ寄せやインスタンスの増加に起因するオーバーヘッドなど、マルチテナントであるが故のWork-loadの不安定さを嫌う。安定したレスポンスと責任ある運用、これこそクラウドの方向だ。AazonやGoogleと一線を画したこの戦略は、クラウドを知り尽くした同社の知恵である。  

=予想外のCenturyLinkが一歩リードか=
2Qの業績と新戦略を受けて、パートナ探しの状況が変わった。8月11日以降、株価は反転し、市場筋によると、CenturyLinkとRackspaceの話し合いが熱気を帯び、買収価格決定のための価格調整に入った。CenturyLinkの株価は、事実、9月5日の$41.47から9月9日には$39.99と下げ、一方のRackspaceは30%以上底上げして同9日には$39.62とほぼ同水準となった。しかし株価は横並びとなったが、CenturyLinkのMarket Capは$23.4B、Rackspaceは$5.33である。企業規模ではCenturyLinkが数倍大きい。この状況にどう折り合いをつけるのか。前回レポートを思い出して欲しい。Rackspaceの新しいパートナーを業界別に探ると、キャリアではAT&Tが最も有望で、元気なのはCenturyLinkだと述べた。買収候補として浮上したCenturyLinkは、業界3位だったQwestを当時5位の同社が買収して大きくなった。同社はその後クラウドで2つの大きな買い物をした。データセンタのSAVVIS (2011/4)とIaaSプロバイダのTier3 (2013/11)だ。そのため、今回の買収には資金的かつ技術的な問題がつきまとう。つまり、CenturyLinkからの具体的な買収提案は、もしかしたらRackspaceにはメリットが少ないのかもしれない。これを裏付けるように、これで決着という雰囲気ではないと言う市場関係者もいる。

=3つのヘッジファンド(Third Point, Blue Harbour & Point72)=
厄介なことも起こっている。2QのSECファイリングでヘッジファンド3社の新規投資が明らかになった。機関投資家リスト4位のThird Pointと、7位となったBlue Harbour Group、11位のPoint72 Asset Mangementだ。彼らは物言う投資家(activist investor)である。Blue Harbourは比較的穏健だが、億万長者のDaniel Loeb氏が率いるThird Pointは、かなり悪名高い。6月末までに同ファンドは全体の約5%にあたる725万株を取得、まだ少ないが暴れだすと手が付けられない。Blue Harbourは期中2回投資し352万株を保持したとのことだ。Point72も同水準の324万株を手に入れた。既存の機関投資家は今回のパートナー探しにどう反応したのだろうか。総じて言えば、買い増し傾向にある。気になるのは、大手資産運用投資のCapital Worldと全米3位の銀行Wells Forgoの2社は売りに回ったことである。 
=本命たちはどうしているのか=
さて前回レポートで挙げた本命企業はどうしといるのだろうか。
まずHPだが、かなり早い時期から交渉していたと伝えられている。真偽のほどは定かではないが最終的に1株$43、大よそ$6B(約6,000億円)の提案をしたとの噂だ。しかしRackspace側が強気で受け入れられなかったらしい。そして7月初め、RackspaceのSenior VPでProduct & Engineeringの責任者だったMark Interrante氏がHPに入社することが伝わった。彼のHPでのポジションは同じSenior VP、担当はクラウドビジネス部門のエンジニアリングである。まさにクラウド開発の責任者だ。同氏はExecutive VPでCTOのMartin Fink氏に直接レポートする。さらにびっくりすることに先週末(9/12)、HPはEucalyptusを買収すると発表した。この買収でCEOのMarten Mickos氏はInterrante氏と同じクラウドビジネス部門となり、Senior VP兼GMとしてビジネス全般を担当、HP CEOのMeg Whitman女史にレポートする。なぜ、この時期、HPにとってEucalyptusが必要なのかは解らない。ただ、同氏はMySQLのCEOを務めた実力者だ。人材面では大きな補強となる。この2つの出来事で、Rackspace買収の芽は無くなったかに思えたが、そうでもなさそうだ。同社の2Q業績回復報道後、再度、水面下で交渉が始まったとの情報もある。もしかすると、Interrante氏は買収先に派遣された斥侯なのかもしれない。
さてCiscoはどうなったか。該社についての情報は多くない。5月末の同社カンファレンスCisco Live 2014でJohn Chambers氏は何人かのレポータと会話した。流れてきたのは、氏は「現在クラウド市場はAmazonとGoogle、そしてMicrosoftの3社が激しい競争を繰り広げている。Ciscoの判断はその市場で40%以上のシェアが取れる見込みがあれば動くが、現状ではとても条件が整っていない」というものだった。つまり、これを額面通りに受取れば、興味がないということだが、ポーカーフェースだという人も多い。Ciscoは現在$50B(約5兆円)のキャッシュを持っていること、最近の決算内容はIntelやMicrosoft同様思わしくないことなどが理由だ。意外に水面下で交渉が進んでいるのかもしれない。

=この買収の意味するところ=
今後、このパートナー探しはどう決着するのだろう。現在、一歩リードしていると見られるCenturyLinkがパートナーとなるのか。はたまた、HPが巻き返すのか。Ciscoの裏ワザか。これ以外にも前回述べた幾つかの企業の秘密交渉もないわけではない。いずれにしても、前半戦は終わった。今はベストな条件を引き出す後半戦の真っただ中だ。この買収の決着によってはクラウド市場の今後の動きが変わる。筆者の個人的な意見だが、CenturyLinkが最良のパートナーだとは思い難い。この組み合わせから、Racspaceがこれまで見せてきた先進性やユーザセントリックな戦略が加速されるだろうか。できれば、資金力があり、インフラやグローバル展開などの力を持った大きな傘のもとで自由に戦わせてみたい。ただ、これはヘッジファンドも絡んだマネーゲームでもある。

2014年9月10日水曜日

OpenStack最強SI軍団のMirantis! -Cloud OS-2-

=Mirantisという会社= 
Mirantis、日本では馴染みがないがOpenStackの最強SI軍団である。
久しぶりに車を走らせMountain Viewに向かう。該社の道の向かいはHonda Research Instituteだ。Mirantisは社員数約520名、ほとんどがエンジニア。ここシリコンバレーには顧客対応のフロントエンジニアが多く、エンジニアリングのバックオフィスはロシアとウクライナにある。彼らのOpenStackに賭ける意気込みは大したものだ。

OpenStackの次期版Junoにおける企業別貢献度は、トップがHP(21%)、2番はRed Hat(16%)、そして3番手Mirantis(12%)、4番はRackspace(10%)だ。大手に伍して大健闘である。これだけではない。同社の共同設立者で現在会長のAlex Freedland氏と、同じく共同設立者でありCMO (Chief Marketing Officer)のBoris Renski氏の2人はOpenStack Foundationのボードメンバだ。こうした努力で力をつけ、SIビジネスの信用を得てきた。

=Mirantis OpenStackの強み!=
ともかく、同社は徹底したOpenStack企業だ。その力はOpenStackのコンサルから教育・構築支援までをフルカバーする。企業がOpenStackを導入しようとする際、躊躇する点は2つ。ひとつはこれまでのエンタープライズシステム同様の開発運用が出来るかという不安。もうひとつはバージョンアップだ。OpenStackは成長途上にあり、さらにコンポーネントが多岐にわたるため、一般企業のIT部門には負担が大きい。ここにSuSEやUbuntu、Red Hat、HPがディストリビューションを手掛ける理由がある。しかしそれだけでは十分ではない。実はデプロイメントが厄介なのだ。同社はOpenStackをコアに独自開発のFuelを用意し、さらに3rdパーティなどのドライバやプラグインを加えたディストリビューションMirantis OpenStack(最新版5.0)を整備。これを顧客にコンサルティングと共に提供している。OpenStackには運用管理のダッシュボードHorizonがあるが、FuelはOpenStackの各種設定などのデプロイメントを自動化する。これを利用すれば初期設定はあっという間に終わり、しかも内部的に自動チェックが行われて正確に出来てしまう。またFuelにはOpenStackデプロイ後や運用時にも使うことのできるHealth Check機能も備えている。

=Ciscoの考え方とWebEx Cloudの事例=
Renski氏は同社がこれまで手掛けてきたOpenStack関連作業は100社に近いと言う。中でも特筆はCiscoとの協調関係だ。Cisco傘下のWebExの切り替えは勿論彼らの仕事。Webカンファレンスシステムは今でこそ多様化されたが、WebExこそ市場を切り開いてきた元祖である。このムーブメントを仕切ったのはCiscoクラウド部門CTOのLew Tucker氏だ。氏はクラウドの世界では有名な人物だ。Sunから当時まだASPと呼ばれていたSalesforceに移り、衰退気味の同社CRMにアプリケーションのマーケットプレイスAppExchangeを考え出して見事に復活させた。その後、Sunに戻りSun OpenCloudを指揮。SunのOracle買収後、しばらくしてCiscoのクラウド責任者として迎えられた。また現在、Tucker氏はOpenStack FoundationのボードVice Chairとしても活動し、Mirantisの2人とは昵懇の仲である。この活動を通して、CiscoがMirantisとの関係を築いてきたことは想像に難くない。個人的なことだが、以前からTucker氏のことは好きだった。カンファレンスで何度も彼の話を聞く度に、彼が見ている技術の先、そして広さに関心した。特にSunのOpenCloud時代の彼のビジョンと今のOpenStackが重なって見えるから不思議だ。以下のビデオではCisco ONEの考え方、そのベースとなるOpenStack、さらにWebExの適用事例を見ることが出来る。

                                                     
=PayPal、そしてeBayの場合=
OpenStackに乗り換えた企業の中でPayPalの場合も参考になる。PayPalは知っての通り、TeslaとSpaceXを興したElon Musk氏が仲間と興した会社だ。その後、2002年、eBayに買収されて子会社となった。eBayの狙いはオークション取引の決済をPayPalで行うもので、この目論見は見事に成功。このため、2つはシステムとしても密接な関係にある。実際のところ、OpenStackプロジェクトがスタートしたのはPayPalが先だった。その後、両社のPlatform Operationが統合されて、共にOpenStack化に向かった。PayPalによるOpenStackプロジェクトの試行は2012年秋。限定されたアプリで6週間テストが行われ、その後パイロットシステムが動き出した。昨年4月からは複数センターへの展開、さらに開発やQA、管理用などのサブシステムをOpenStackに移行。現在、PayPalの全ワークロードの20%近くが新たなOpenStackプラットフォームで稼働しており、当面、80%まで引き上げる予定だ。


          
=成功の秘訣!=
OpenStackコミュニティは急拡大し、現在、約16,200人、世界138ヶ国から382社が参加している。これはLinux Foundationの 185社と比べ2倍に近い規模だ。Renski氏によると、ここベイエリアにはMirantis主導でOpenStackのトレーニングなどを行う約 2,000名のユーザグループもある。OpenStackビジネスの成功は人材だ。そのための人材育成には努力を惜しまない。そして自社エンジニアによるOpenStackプロジェクトへのコントリ ビューション。これらが上手く回りだせばユーザもついてくる。その経験から生み出されたFuelやコンサルティングサービス。これらはまさに理想的なeCo Systemとなった。これこそOpenStackビジネス成功の秘訣である。日本市場の開発も動き出した。

2014年8月18日月曜日

オープンクラウドならCloudscalingだ!
                                -Cloud OS-1-

Randy Bias氏に会いたいと思っていた。
しかし、忙しい氏とスケジュールが合わず、止む無くメールでのインタビューとなった。氏はCloudscalingの共同設立者であり、現在CEOだ。その一方で、多くの人がBias氏をOpenStackのEvengelistだと考えている。それは彼の永年のオープンソースへの貢献、そして到来したクラウド時代の主唱者としての活動が素晴らしかったからだ。勿論、氏はOpenStack Foundationのボードメンバーでもあるし、プロジェクト発足時からの関わりは深い。氏は以前、同社と同じサンフランシスコが本拠のクラウドプロバイダGoGridの技術戦略担当VPをしていたことがある。この時代の彼の仕事を覚えている人は多い。彼はGoGridをよりオープンなクラウドにするため、全APIをOpen Licenseとして公開した。その後、RackspaceやVMware、Sunなどが同じ流れに続いたのは有名な話である。そして2006年、Cloudscalingが動き出した。

=Cloudscalingの生い立ち=
同社の初期について、氏はこう語った。会社設立後、しばらくは模索し、そして大企業やクラウドプロバイダ向けのプロフェッショナルサービスを手掛けた。その中にはクラウドプロバイダのEngine Yardや仮想化技術のVMwareも含まれていた。特に記憶に残っているのは、2010年末から始まった韓国初のパブリッククラウドKT uCloudだという。このシステムはCloudStackベースとして日本では知られているが、実際には2010年から始まったOpenStackのSwiftも持ち込まれている。コンピュートはCloudStackだが、ストレージはOpenStackという構造だ。これは時間的な流れから生じたものである。さらに翌2011年初めには、米国内でRackspace以外で初めてOpenStack Swiftを採用したInternapのストレージクラウドを手掛け、同9月にはコンピュートNovaも適用した。そして同じ2011年にはAT&Tのクラウドも動き出した。まさにOpenStackのプロフェッショナル軍団である。 

=エラスティックなOpenStackクラウドが必要だ!=
こうしてCloudscalingの初期ビジネスは成功した。2012年からは、それまでの経験を活かしたOpenStackのプロダクトビジネスへと進展。氏はクラウドには2つのタイプがあるという。“Enterprise Virtulization Cloud”と“Elastic Cloud”だ。簡単に言えばから解るようにEnterprise Virtulization Cloudはこれまでの企業アプリを単に仮想化されたクラウドに乗せるだけのもの。一方、Elastic Cloudは水平にスケールアウトするクラウド向けに開発されたアプリ用のものである。具体的な対応クラウドは、前者はVMware vCloud Hybrid Serviceであり、後者はAmazon Web ServiceGoogle Compute Platform(GCP)、Microsoft Azureなどだ。この新クラウドアプリにとって、「障害対策とスケールアウト」は命である。レンタルビデオからオンライン配信に転身した米最大手のNetflixは、このクラウドネイティブアプリの代表だ。彼らはアップタイム99.95%のAmazonを利用しているが、エラスティック型アプリの作り込みによって、99.99にも99.999%にもすることが出来る。エラスティックなアプリは障害に即座に反応し、生きているプラットフォームで業務を継続する。つまり、スケールアウトの拡張性と障害対策は表裏一体の関係にある。これこそOpenStackベースの彼らの製品目標だ。

=オープンクラウドシステム(OCS)とは!=
Bias氏のOpenStackに賭ける情熱は凄い。
氏はターゲット顧客をFortuneリスト企業に定めた。これらの顧客は既にAmazonやGoogleなどのパブリッククラウドを利用している。このためOpenStackを売り込むにはハイブリッド化が必要だ。クラウドアプリのためのスケールアウトとフェールオーバー、さらにハイブリッド化を成し遂げなければならない。沢山の作業が必要となった。氏の開発部隊が手掛けたのは、Bin Packing Scheduler、CinderベースのAmazon EBSS3/Swift対応、EC2のClassic Networking ModelをエミュレートしたNova Layer 3プラグイン、Amazon VPC(Virtual Private Cloud)をエミュレートしたNeutronのVPCやSDNプラグイン、さらにAWSやGCPの設定などだ。

この基本となる新しいアーキテクチャはOCS(Open Cloud System)という。
OCSは勿論100% OpenStack API準拠だ。そして、RightscaleSCALRDell Cloud Managerを利用してAWSやGCE(Google Compute Engine)とハイブリッド化を可能とする。氏はハイブリッドクラウドの実現にはAPIだけでなく、他の要素の整合性も重要だとし、このようなプロバイダ交渉もOCSを使うことで有利に進めること出来ると説明する。氏はまた、プライベートハイブリッドOCSの導入費用は、初期を除いた2年目以降のTCOで、パブリッククラウドの約半分程度だと推測する。これらOpenStackを用いたOCSへのアプローチ、OCSの技術、その効果などについては以下のビデオを参照されたい。

Cloudscalingのこれまでのクラウドユーザは、10社。内2社はFortune15以内の大企業である。実システムとして見ると、それらは600台以上のサーバ(8,000コア+)で9PBのストレージという大型のものだ。そして、現在さらに、同社が手掛けているのは2社、これもFortune 15の顧客だ。それら新OCS適用システムが動き出すのも遠くない。