2016年6月3日金曜日

Auto Tech(3)  Google AIをリードした2人の天才!

前回は自動運転車(オートノマスビークル/Autonomous Vehicle)の市場見通しとテクノロジーについて紹介した。今回はその先頭を走るGoogle Carとはどのようなものか、そしてGoogle AIをリードする人物についてまとめた。

=Google CarとAI技術!=
この分野には2人の天才がいる。
 ひとりは現在のGoogle Self-Driving Carの原型となるオートノマスビークルを開発したSebastian Thrun氏だ。Thrun氏はスタンフォード大学のロボット開発者兼コンピュータ科学者として、砂漠のコース走るDARPA Grand Challengeに挑戦、第1回の2004年は完走車はなく、翌2005年の第2回目で氏のスタンフォード大学チームのStanleyが優勝した。次いで2007年の改造市販車市街地を走るDARPA Urban Challengeでは、カーネギーメロン大学とGMチームが開発したBOSS(Chevrolet Tahoe)が優勝し、スタンフォード大学のJunior(Volkswagen Passat)は2位となった。これらの技術を引っ提げて、Thrun氏はスタンフォード大学の準教授のままGoogle CarのためのGoogle Xを立ち上げ、GoogleのVP&Fellowとなった。その後Thrun氏はスタンフォード大学に戻ったが、Google Xは、Google Carだけでなく、月にロケットを打ち上げる(Moonshot)ような革新的な技術研究機関として活躍している。

Google Carに話を戻そう。前回、オートノマスビークルにとって、車の目となる3次元リモートセンサーLiDARの重要性は触れた。実際のところGoogle Carに採用されているVelodyne HDL-64E64個のレーザーセンサーを内蔵し、水平360°、垂直26.8°の三次元イメージングに対応している。そして、秒あたり2,200万ポイントを測定し、誤差は2cm以下、測定距離は約120mまで可能という優れものだ。この高性能LiDARから測定される3次元データとマップ、さらに各種センサーからのデータを使い、AIソフトウェアで制御する。これこそオートノマスビークルの心臓だ。Google Carも一般のロボットと同様、基本的には、①まずLiDARなどで周囲の状況を把握し、さらに誤差を調整して、②次にどう行動すべきかのプランを作り、③それを再度調整しながら実行する。その流れを制御サイクルと呼び、Google Carでは0.1秒毎に高速実行する。前回、米運輸省のオートマスビークルの定義Level of Autonomous Vehicleを紹介した。現在、Google Carが目指しているのは、この中のLevel-3だ。今後LiDARだけでなく、各種のセンサーやカメラも高性能化する。そしてAIソフトウェアも進化し、Google Carがどのような形であれ、市場に登場するのは間違いない。

=アルファ碁=
もうひりの天才はチェスの天才少年だったDemis Hassabis氏である。
昨年11月、Googleは自社で使用中のDeep LearningのAIライブラリーTnesor Flowをオープンソースとして公開した。そして先日(5/18~20)開催されたGoogle I/O 2016では、このライブラリー向け専用のAIプロセッサーTPU(Tensor Processing Unit)がとうとうベールを脱いだ。この一連の流れは2014年に買収した英DeepMind Tecnologies(現Google DeepMind)から始まっている(既報)。このDeepMindの創業者がHassabis氏だ。あのElon Musk氏も初期投資家の一人である。同社が開発した畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)は素晴らしい。この3月、世界最強の囲碁棋士の一人と対戦し、4勝1敗で撃破したアルファ碁-AlphaGo-は同社製もちろんニューラルネットワーク理論と実行ライブラリーTensor Flow、そしてエンジンのTPUが使われている。アルファ碁は囲碁のルールや定石がプログラミングされているわけではない。これまでの膨大な棋譜を読み取って学習し、そこから打つ手を考え出す。実際の対戦では我々の考えられないひどい手が結果的に功を奏して勝ちに結びついたり、相手の勝負手に動揺して突然乱れだすという失態もあった。無の状態から、Big Dataの中のルールを読み解き、学習しながら進化する。これがGoogle Deep Learningだ。現時点ではGoogle Carとの直接の結びつきはない。しかし近未来、この技術が車に適用されればLevel-4の完全自動運転車が出現するのも夢ではない。

2016年6月1日水曜日

AutoTech(2)
     9.5兆円の自動運転車市場とテクノロジー!         

このところの自動運転車の開発競争は凄まじい。
Googleが始めたGoogle Self-Driving Car Projectを機に各社の開発が本格化した。Self-Driving CarやDriverless Carは日本人には馴染み易い英語だが、一般的には‶オートノマスビークル″Autonomous Vehicle言う。このところ押され気味の米国勢にとって、自動運転車-オートノマスビークル-の開発は打倒日独の絶好のチャンスだ。まさにAIの勝負、ITで勝る米国が巻き返すのか、状況を追ってみた。

=9.5兆円の自動運転車市場と要素技術!=
5月20日、Lux Researchが発表したレポートによれば、自動車メーカーとテクノロジーベロッパーによって開発されるオートノマスビークル(自動運転車)の市場は、2030年までに$87B(約9.5兆円)に達し、レーダーやマップなどオートノマスビークル構成する技術要件の中で最大の勝者はソフトウェアだと分析している(下図)。

しのぎを削るオートノマスビークル開発の要素技術上図)には下からみると、①レーダー、②光リモートセンシングのLiDAR、③オプティカルカメラ、④ワイヤリング、⑤コンピュータ、⑥ワイヤレス、⑦ソフトウェア、⑧マップ、⑨コネクティビティ&アプリなどがあり、個々の市場規模(売上)では、ソフトウェアが一番大きく、コンピュータとカメラが同規模、そしてレーダーと続く。このレーダーには自動ブレーキ用のミリ波レーダー、衝突防止の各種センサー、位置情報のGPS、タイヤの回転から走行距離を測るDMI(Distance Measuring Instrument)などが含まれる。カメラもこれまでのものに比べてより高性能だ。そして、これら全てを纏めあげるのが制御ソフトウェア。もうひとつ大事な技術がある。オートノマスビークルに欠かせないLiDAR(右写真)。これはリモートセンシングで3D空間を読み取るイメージング装置だ。通常、オートノマスビークルの屋根に取り付けられてクルクル回り、車の目となる。次にオートノマスビークルの分類はどうか。下図は米運輸省のオートマスビークルを定義したLevel of Autonomous Vehicleである。Level-0は自動運転機能のまったくない車(No Automation)Level-1は横滑り防止や衝突軽減ブレーキなどを装備した車(Function-Specific Automation)、Level-2はレーン走行(Lane Centering)と定速走行/車間距離制御(Adaptive Cruse Control)などの複数機能を組み合わせた車(Combined Function Automation)、Level-3は車の走行変化を常時モニターし、ハンドルやアクセル、ブレーキなどを総合的に制御する(Limited Self-Driving Automation)、Level-4は全ての走行制御だけでなく、路面状況もモニターして、両面からより完全な自動運転(Full Self-Driving Automation)を目指す車。そして、Level-3は2020年以降Level-4は2025年以降に市場に登場予定だとしている。

Source: Ministry of Transport
Lux Researchのレポートに戻ると、同レポートでは、2030年までに、Level-2は出荷された自動運転車の92%を占めて主流となり、Level-3はたったの8%、Level-4はまだ登場しないだろうと、時期に関して、米運輸省よりやや厳しい予測している。
  • さらに同レポートでは、現在までのところ、オートノマスビークルは米国と欧州市場がリードしているが、いずれ中国市場が追い越すと予測する。2030年時点で、全世界に出荷される1億2,000万台のうち中国市場が35%を占めて金額では$24B(約2.64兆円)、対する米国は$21B(約2.31兆円)、欧州は$20B(約2.2兆円)だ。
  •  そして、オートノマスビークル開発ではソフトウェアが差別化のポイントとなる。GoogleやIBMのようなパワーハウスが提供する様々などう使うかが差別化の鍵となり、この分野の売り上げは、現時点では$0.5B(約550億円)だが、2020年には$10B(約1.1兆円)、2030年には$25B(約2.75兆円)と予測する。
  • 同レポートは最後に、真に自立性のある車は現時点でまだ捉えようがなく、2030年までには表れないとし、もっとも楽観的に見ても、2030年に出荷されるLevel-4とおぼしき25万台が段階的にブレークスルーしていくのではないか、と締めくくっている。

2016年5月22日日曜日

AutoTech(1) 
     PivotalにFordが投資、Volkswagenとも提携! 

自動車とITの融合がすごいスピードで加速している。
現代の車はまさにITの塊だ。今や車載マイコンの数は100個に近く、車載用LANのCAN(Car Area Network)だってある。命を預かる車、そのためのシステム開発は正確が絶対条件だ。電子制御のエレクトリックカーやハイブリッドカー、モバイル統合のテレマティクス、さらにAIを駆使した自動運転など、車はもはやコンピュータにタイヤがついて走っているようである。

=FordがPivotalに200億円投資!=
5月5日、Ford MotorsがPivotalに$182.2M(約200億円)を投資するニュースが流れた。3回目のSeries-Cである。発表によるとSeries-Cの総額は$253M。つまりFordの投資額はその72%にあたる。こうしてMarcy Klevorn女史がボードメンバー入りする予定となった。史は2013年9月にFord CIOオフィスのディレクターになり、昨年1月にはCIOに就任。女史は自身のキャリアの多くをFord IT部門と共に過ごしてきた。昨年12月、PivotalとのTeam upを指揮したことで注目を集め、提携の目的を「自動車のIT開発に正確性とスピードをつけるためのものだ」と説明した。Pivotalのウリは大きく3つある。まずPivotal CF。これはPaaSのデファクトで、同社が所有するオープンソースCloud Foundry適用のプラットフォーム。次にPibvotal Labsが提供するソフトウェア開発コンサルティングサービス。3つ目はビッグデータスィートだ。 Fordはこの提携後、Cloud Foundryの導入とPivotal Labsのサービスを受けてきた。結果は予想以上だった。特にCloud FoundryはAWSでもMicrosoft Azureでも走らせることが出来る。クラウドによるIT開発、これが、これからの自動車開発に欠かせないというのがFordの判断である。

=VolkswagenもPivotalと提携=
Fordの提携を追うように、今年3月末、VolkswagenはベルリンにDigital Labを開設して、PivotalとStrategic Partnership締結し た。このラボにはセールスからテクニカルエンジニアまでの社内専門家が集まり、ユーザをネットワーク化したモビリティ関連のソリューション開発を行う。これによって、新たなユーザエクスペリエンスを作り出そうという訳だ。開発拠点となるラボは、ベルリンとミュンヘン、そしてサンフランシスコの3ヶ所。社内にシリコンバレー流思考を定着させる目的である。


=自動車会社だけではない=
Pivotalに入れ込んでいるのは自動車メーカーだけではない。
Pivotalは2012年にEMCからスピンアウトし、翌2013年にはGEから$105M(約115億円)の投資を受け入れている。この投資目的は総合電機メーカーとしての産業用インターネット開発や大規模データ分析のためである。今日で言うIoTやBig Dataだ。実際の作業部署はシリコンバレーの対岸にあるサンレイモン市のGE Software。GEはこの投資と提携を睨んで2012年、GE Softwareの本社をグローバルなソフトウェア開発センターとしてこのベイエリアに移した。

=総額は700億円、そしてIPOへ=
今や米大手企業のクラウド利用は一般化した。IaaSをマルチプロバイダー環境で使い、その上でPaaSを統一する。こうすることでIaaSのリスク分散を行い、開発環境を統一して、AutoTechを加速させる。そこにPivotalの価値がある。Fordによる200億円の投資には後日談がある。Forbesの報道によれば、その後の米証券取引委員会へのファイリングで、総額はとんでもなく跳ね上がり、最終的に$653M(約718億円)に達した。これにはパブリッククラウド市場でAmazonを追うMicrosoftからの投資も含まれている。Dell-EMCの合併がらみで、PivotalのIPOという期待がある。とは言え、何とも凄い金額になったものである。



2016年5月18日水曜日

トランジションに入ったRackspace!
            ―軸足はサービスカンパニーへ―

過日、4月7日に“Rackspaceに買収の噂!という記事を書いた。
確かな情報筋の話と実際の株価上昇が連動したためである。しかしハプニングは起こらなかった。ただAmazonやMicrosoftが食指を動かしたのは事実らしい。その後の情報を整理すると、同社は完全なトランジション期に入ってきたようだ。戦略の再度の転換である。

=AzureとAWSとのサポート提携、そしてGoogleとは共同開発へ=
初めてクラウドが登場したのは2006年3月のこと。AmazonがS3を発表し、同8月にはEC2が始まって本格的なクラウド時代が到来した。

◆ 第1ラウンド … 1stランナーとして!
同年、Rackspaceはクラウド実験事業Mossoをスタートさせ、これがリブランドして現在のRackspace Cloudとなった。2010年7月には、RackspaceからオブジェクトファイルのSwift、NASA AmesからはコンピュートのNovaがそれぞれ寄贈されて、オープンソースのOpenStackプロジェクトがスタートした。以来、Rackspaceは常にクラウドのあるべき姿を考えながら成長してきた。しかしAmazonやMicrosoft、Googleの本気度が増すにつれ、徐々に引き離された。独立系の悲しさである。ここまでが第1ラウンドだった。

◆ 第2ラウンド … ホスティングサービスへ!
第2ラウンドでは、劣勢を挽回するために、戦いの軸足をホスティングサービスへ移した。強力なIT部門を持たないユーザー企業に対するサービスだ。Rackspaceは元々Webホスティングの会社と始まった。そのアプローチをクラウドに適用したものである。結果は良好だった。それでも、AmazonやMicrosoftの成長は早く、差は縮まるどころか離される一方となった。

◆ 第3ラウンド … AWS、Azureとの共存の道!
考え抜いた末に採った戦略は大手競合との提携だった。これが第3ラウンドのサインである。まず、昨年7月、同社とMicrosoftの提携が何とWall Street Journalの記事となった。それだけ衝撃的だったからである。内容は同社がこれまでホスティングで培ってきたサービスをMicosoft Azureにも適用するというものだ。つまり、自社の持つ高度なクラウド向け構築サービスをRackspaceクラウドではなく、Azureクラウド上で提供する。さらに昨年9月には、同社とAmazonとの提携が再度同紙に出た。RackspaceはAWSやAzureのための要員を増やし続けた。課題は2つ。この戦略は「ビジネスになるのか」、「要員のモチベーションは大丈夫か」だ。 発表後、市場の好意的な反応とは裏腹にビジネスは思うように進まなかった。しかし今年に入って好転し、5月9日の1Qカンファレンスコールで、状況が見えてきた。AWSのユーザは今年1月までに100社、その後、4月までに187社と伸び、Azureユーザも同期間で89社から178社へと拡大した。この戦略のために、RackspaceはCTP(Cloud Technology Partner)を用意した。自社エンジニアだけでなく、ユーザの要望にあったクラウドをAWSやAzure上に構築する外部パートナーによる実働部隊である。要員モラルについても問題はなさそうだ。Forbesが毎年発表している働きや易い会社ランキングAmerica’s Best Employersによると、「IT, Internet, Software & Services」部門に、同社が初めて参加した2008年度は32位、昨年度(2015年)は5位に躍進したからだ。カンファレンスコールでCEOのTaylor Rhodes氏はこの戦略に自信を持っていると語った。

◆ Googleとはサーバー共同開発 !
これとは別に、Googleとの関係も深まり出した。これまでRackspaceはGoogle Apps for Workのサポートを手掛けてきたが、4月6日、今度はIBMの主催するOpenPOWER Foundationのメンバーとして、Googleと共同Power9搭載サーバーを開発していることを公表した。Googleによると、Googleが開発したクラウド関連システムの殆どがすでにPower9に対応しており、設定を変えれば新サーバーで今にでも動き出すという。

=出口戦略!=
 RackspaceはEXITを真剣に考えている。2014年のホワイトナイト探しは大々的に報道された。それからちょうど2年、もはやRackspaceは競争の激しいパブリッククラウドには固執していない。4月7日には、プライベートクラウド向けのOpenStack everywhereを発表。これはHosted OpenStack Private Cloudである。これでRackspaceのトランジション戦略は概ね終わった。AmazonもMicrosoftもサポート要員はのどから手が出るほど欲しい。彼らのクラウドへのサポート提供を武器に買収話が出るのか、意外とGoogleとの関係から新たな芽が出るのか、それは解らない。ただ、Rackspaceの軸足は徐々にサービスカンパニーへと移動し、新しい活路を模索している。

2016年5月12日木曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(5)!
          -コンバージドインフラこそテーマだ!ー

5回続けたこの合併シリーズも今回で一度切り上げ、続編は別途報告しようと思う。そこで、最終回では新会社の進むべき方向について考えみたい。

=新社名はDell Technologies、そして2つのブランド=
先週(5/2-5)ラスベガスでEMC World 2016が開かれた。初日の注目は何と言ってもMichael Dell氏だった。氏が何を言うか。今回が最後の登壇となったEMCの現CEO Joe Tucii氏のプレゼンが終わり、Michael Dell氏が紹介された。まるで最後のJaveONEカンファレンスでSun会長だったScott McNealy氏がOracle CEOのLarry Ellison氏を紹介した時のようだ。Dell氏が語ったのは、新会社の社名やブランドを含めた方向性だ。グループの新会社名は“Dell Technologies”。EMCはここに統合され、VMwareやPivotal、RSA、Virtustream、VCE、またDellの子会社として先ごろIPOしたSecurityWorksなどが傘下となる。そしてDell Technologiesは2つの製品ブランド(Sub Brand)を持つ。企業向けにサーバーやストレージを扱う“Dell EMC”と一般向けパソコン用の“Dell”だ。HPは採算の悪いパソコン部門をHP Incとして切り離し、共倒れを防ぎながら、エンタープライズ事業を拡大する企業向けをHP Enterpriseとした。しかし、Dell Technologiesはサブブランドによって、2つの市場に対応する。これについて、Dell氏はIoTの到来で、クライアントとサーバーの両方を提供できる規模の大きい新会社の方が有利だと説明した。

=誰が新会社のかじ取りをするのか=
新会社の大きな枠組みは解ってきた。問題は誰がどうやってこの巨大企業のかじ取りをするかである。IT産業は成熟し、今や混沌の時代にある。IBMやHP、さらにはGoogleやMicrosoftなども更なる成長に向けてもがいている。どの企業の戦略が正しいのかは、まだ解らない。

◆ Michael Dell氏は適任か? 
Michael Dell氏はマーケティングの人である。
学生時代から始めたPCビジネスを軌道に乗せ、グローバル企業となった2004年にはKevin Rollins 氏にCEOを譲って、会長となった。Rollins氏はDellとは何かを考え、PCを核としながらもR&DM&Aへの取り組みを模索した。一方、Dell氏は流通方式の改善、そしてPCだけでなく、プリンターやTVなどへの製品ラインの拡大を主張した。戦略の不一致はあきらかとなって、Rollins氏は退社し、2007年、Dell氏がCEOに返り咲いた。当時、Rollins氏はPC事業の延長としてEMC買収を考えていたが、Dell氏はそれに反対だったと伝えられている。何とも皮肉な話である。2度目のCEOとなったDell氏は、更なる事業拡大のため、ITソリューションプロバイダーへの転身を掲げ、毎年数社づつスタートアップを買い続けた。しかし、これらの企業買収を通しても、Dellが向かう道は見えてこなかった。2013年には、仕掛けられた買収をMBOで乗り切って、以降Dell非公開企業となった。この時と今回の買収パートナーは同じSilver Lake Partners。漏れ聞こえてくる情報を分析すると、筆者はこのSilver Lakeが買収の真の仕掛け人ではないかと想像している。 

◆ Joe Tucii氏は退任へ!
EMCをここまで大きくしたのは戦略家のJoe Tucii氏である。
初期のEMCはボードメーカーだ、その後ストレージ事業へと転換した。この時期のCEOはMichael Ruettgers氏で、さらなる飛躍のために後任として白羽の矢を立てたのがJoe Tucii氏である。就任後、氏は2つのことを同時並行して進めた。ひとつはストレージ製品売り上げの拡大、もうひとつはソフトウェアやサービスなどの新事業領域の模索だ。前者はハイエンド指向が功を奏して大きく収益に貢献し、それを糧に多くのM&Aを実行した。特筆すべきは2004年に買収したVMwareである。同社育成のためにはTucii氏は努力を惜しまなかった。自らスカウトし、自分の両腕となっていたPaul Maritz氏(2代目CEO)やPat Gelsinger氏(3代目CEO)を送り込み、関連企業の買収にも積極的だった。しかし、氏は今回境に引退する。

◆ 新経営陣はどうなるのか
新経営陣を占ってみよう。以下はまったくの私見であることをお断りしておく。
まず、Dell氏がDell Technologiesのトップになることは間違いない。出来得ればDell氏が会長となり、その下に実務を取り仕切るCEOがスカウトできればベストだ。しかし当分の間はDell氏の会長兼CEOも大いにあり得る話である。新会社のCEOはエンタープライズ市場向けのDellサーバーとEMCストレージの両方を見なければならない重責だ。ただ、その下には実務的に、サーバー側は現Dellのエンタープライズ担当Marius Haas氏、ストレージ側は現EMC CEOのDavid Goulden氏が就く布陣となろう。そしてVMwareはPat Gelsinger氏、PivotalはRob Mee氏、さらにVirtustreamはRandy Rogers氏と現体制が維持されると思う。ただ、気になるのはこの買収劇で嫌気がさし、前回、報告したVMwareように有能な人材の刃こぼれである。
=目指すはコンバージドインフラだ!=
さて最後の課題、それは新会社の武器だ。
新会社は何に経営資源を集中させて、成長を目指すのか。以下は私見である。新グループのポートフォリオを見ると、ハードウェアとして、多様なサーバーとストレージ群、そしてクライアント機器には、各種のPC群とWyseシンクライアントターミナル群がある。Wyseは2012年にDellが傘下に収めたシンクライアントの専業メーカーだ。ソフトウェア分野は、両社とも多くの企業を傘下にに抱えている。それにもうひとつの資産がある。VCEだ。設立は2009年、EMCとCiscoのジョイントベンチャとして始まり、それにIntelとVMwareが投資した。同社がCisco製UCSにEMCのストレージ、VMwareのvSphereをインストールしたvBlock製品を発表したのは2009年。しかしVCEビジネスは成功したとは言い難い。そのVCEをEMCがジョイントベンチャーを解消して傘下に収めたのは2014年10月だ。Converged Infrastructure(コンバージドインフラ)時代を見据えてのことである。HPは過去、ソフトウェアサービスのEDSを傘下にしたが、十分には活かしきれなかった。今度はDell Technologiesの番である。時はまさにコンバージドインフラ時代に突入した。複雑化したソフトウェア群とハードウェア群、それらの最適化にユーザは悲鳴をあげている。この状況への回答こそ、新会社の進むべき道である。Wikibonの予測によれば2017年までにコンバージドインフラ市場は$402Bになるとみられている。内訳はストレージが11%、サーバーは17%、ネットワーク機器が7%、インフラソフトが17%、そしてサービスが46%だ。新生Dell Technologiesはこれらの殆どを持ち合わせている。この資産を上手く活かして、戦略立案と実行が出来るかが勝負である。

2016年5月4日水曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(4)!
            -光と影が交錯するVMware!ー

Dell-EMCの合併作業に、VMwareが鍵であることは既報の通りである。
このところ、VMwareの大幅な人員削減発表や1Q決算も終わって、復調の兆しが見え始めてきた。ただ、大物幹部の退社も明らかになり、光と影が交錯している。

=1Q決算は上出来だ!=
2016年度1Qのカンファレンスコールが4月19日に行われた。1Q決算は総売り上げ約$1.6B(約1,748億円-1㌦110円換算)、前年同期比5%増となった。1Qのライセンス売り上げは$572M(約630億円)となって、昨年同期の$576Mに比べてやや落ちた。しかしサービス売り上げは昨年同期の$935Mから$1,017M(約1,120億円)へと増加し、営業利益(Non-GAAP Operating Margin)は28%アップである。この業績報告後、株価は$51.46(4/19)から $58.53(4/20)へと上昇、結果は大方のアナリストの予想に打ち勝つものとなった。株価は今年2月期の$43-$45を底に回復基調にある。

    ◆ サービス売り上げ拡大へ
今回の業績報告で見えてきた戦略は2つ。ひとつはライセンスビジネスからサービス売り上げへの転換だ。カンファレンスで新CFOとなったZane Rowe氏は、スタンドローンのvSphereライセンス売り上げが全体の35%弱になったと説明した。つまりvSphereの市場浸透が進み、核となるライセンスビジネスの伸び悩みが想像される。それを補完するのがサービスビジネスであろう。このサービス売り上げは、対前年同期比で8.8%となり、総売り上げ比の5%を上回っている。

  ◆ SDN/SDSライセンスビジネス開発
もうひとつはSDNのVMware NSXやSDSのVMware Virtual SANビジネスの掘り起こしだ。vSphareの伸び悩みは新規市場の飽和を意味する。その補完がサービスビジネスだが、それだけでは十分ではない。IT市場は今やパブリッククラウドとオンプレミスに2分化され、さらに、それらを連携させるハイブリッド化へ向かっている。同社が目指すのは、オンプレ分野のSDDC(Software Defined Data Center)化だ。そのための橋頭保がSDNやSDSである。カンファレンスの冒頭、CEOのPat Gelsinger氏はSDDC推進に向け、①VMware NSXによるDistributed Network Encryptionがプレビューになったこと、②多様なハイブリッドクラウド環境を管理するVMware vRealize Suite 7と、③重複排除と圧縮機能を追加したSDSのVMware Virtual SAN 6.2をリリースしたことを報告。これらのプロダクトによって、既存顧客の追加ライセンスだけでなく、新規ユーザー開拓も期待できる。実際のところNSXはユーザ数が1,400を超え、本番も350システム、その伸びは1Q前年比で100%となった。Virtual SANは前年同期比200%とこちらも好調である。これらの流れがしっかりしたものになれば、SDDCビジネスの本流が見えてくる。
◆ $1.2Bの株式買戻し
1Q決算にはもうひとつおまけがあった。$1.2B(約1,300億円強)の株式バイバックだ。一般に自社株が割安の場合、株主還元として、自社株買いが行われる。これによって、市場の株式総数が減少し、結果、1株当たりの資産価値や自己資本利益率ROE(Return on Equity)が向上する。決算内容と相まって、市場は好感して前述のように株価は上昇した。

◆ Q2へ向けて!
今回のカンファレンスコールでは2Q目標の見通しと年度目標が再確認された。
1Qでは、総売り上げ(Total Revenue)に占めるライセンスの売り上げ(License Revenue)比率は約36%(572÷1589)だったが、2Q目標は下表の通り総売り上げが$1,660~$1,710となり、ライセンス比率は37.5%~29.8%へと上昇する。前年同期比の伸びは4~7%、営業利益率は29.8%が目標だ。また、2016年度目標は総売り上げ$6,785(約7,460億円)~$6,935M(約7,630億円)、ライセンス売り上げは$2,660M(約2,930億円)~$2,760M(約3,040億円)を見込み、結果ライセンス比率は39.2%~39.8%へ上昇する。こう見ると、同社の2016年度戦略は、サービス売り上げだけに頼らずSDDCに向けた積極的な市場開拓である。


=幹部3人の退社!=
VMwareの1Q決算は今後を占う上で光の部分である。
しかし影もある。3人の幹部の相次ぐ退社だ。

◆ フェロー&SVPのMartin Casado氏
Martin Casado氏の退社がFortuneで報じられたのは2月24日のこと。氏はSDNのNeciraの共同設立者兼CTOだったが2012年のVMwareによる買収で移籍、その後Network & Security部門のGMとして活動してきた。今回のカンファレンスコールでPat Gelsinger氏はVMware NSXが$600Mビジネスに成長したことを報告した。退社はちょうど良いタイミングだったのかもしれない。同記事によれば、氏はMarc Andreessen氏とBen Horowitz氏が設立したAndreessen HorowitzのGeneral Partnerとして今後活動する。実際のところ、彼とAndreessen氏の関係は深い。Andreessen氏は個人的に彼が共同設立者だったNiciraに当初から投資し、その後、同VCからも資金が入っている。
◆ COOのCarl Eschenbach氏
次いで#2のポジションにいたPresident兼COOのCarl Eschenbach氏が3月1日退社することがFortuneの記事になった。氏は2007年のEMC買収以前の2002年にVP Salesとして入社した最古参の幹部である。まだどうなるかも解らなかった同社を現在のような$6B(約6,600億円)の大会社に育ててきた中心人物の一人である。氏がなぜVMwareを去ったのか、発表された「新しい領域への挑戦」だけだとは思い難い。そして彼は4月以降、著名なVCのSequoia Capitalのパートナーになった。

◆ クラウドトップのBill Fathers氏
4月27日、Fortune3人目となるBill Fathers氏の退社記事が出た。氏は大手計算センターだったSAVVIS(現CentulyLink)のクラウドを率いていた人物だ。その実績を買われ、VMwareのクラウド始動に伴って2013年に入社、vCloud Airプロジェクトの責任者となった。しかしパブリッククラウド市場の競争は厳しい。先行する大手は、世界市場を相手に大規模データセンターを展開し、コスト引き下げと機能追加競争を繰り返している。これが同社のクラウドが苦戦している理由である。この状況を打開するために、EMCは昨年5月、Virtustreamを買収し、グループの全てのクラウドオペレーションを統合する戦略を立てた。しかしDell側の意向でこの案は流れた。今回のカンファレンスコールでCEOのPat Gelsinger氏はvCloud Airの方向は狭くなった(vCloud Air’s focus was being narrowed)と言及。これについて、Fortuneの記事では、同社広報の話として、今後はディズアスターリカバリーやデータセンター拡張(The VMware spokesman said vCloud Air will now target specific disaster recovery and data center extension jobs)など限定的な対応を考えているという。既報のように今年2月、vCloud AirはIBMと戦略パートナーとなった。より競争の激しい領域はSoftLayerに委ね、これからは既存ユーザーを守る限定的な守備範囲が任務となりそうである。

2016年4月14日木曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(3)! 
            -ポートフォリオはどうなるか-

第1回ではDell-EMC合併の仕組みと資金調達について状況を整理した。第2回目はその鍵となるVMwareの対応について触れた。3回目となる今回は、両社の製品ポートフォリオを分析してみようと思う。

=製品の補完関係=
Dell-EMC両社の製品ポートフォリオを分析すると、そのカバー範囲の広さと相互補完の可能性が理解できる。勿論、両社の本業であるサーバーやストレージが互いに補完するのは当たり前だ。ただ、ストレージはDellも手掛けているし、サーバーではEMCのVCEなどがある。これらのハードウェア分野が新生Dell-EMCでも主力ビジネスとなるだろう。しかしそのビジネスを支えるのはソフトウェア群だ。これ無くしては新生Dell-EMCビジネスは回らない。両社がカバーするソフトウェア分野は大雑把に以下のようになる。これらのポートフォリオは両社がこれまでにM&Aによって手に入れたもので、各項目の後の()内は買収企業名、下線付きはDellの買収した企業を示す。また、傘下企業の一部は既に売却などの報道もあり、それらも参考にした。
  • Backup & Archiving (Legato, Data Domain, AppAssure, Quest)
  • Big Data and Analytics (Pivotal, StatSoft)
  • Cloud Platforms for the Enterprise (Virtustream, vCloud Air)
  • Enterprise Content Management (Documentum)
  • Security, Governance and Compliance (RSA/Archer, Silicium, Silver Tail, SecureWorks, SonicWall
  • Virtualization (VMware)
 Backup & Archiving
まずBackup & Archiving分野はどうなっているか。ここには、EMCが2003年に買収したNetWorkerを持つ老舗バックアップのLegato Systems($1.3B)、そして2009年に$2.4Bで買収したアーカイブや重複排除のData Domainがある。Dell側も同様に2012年にWindowsベースのバックアップをするAppAssureを買収し、同じ年にクロスプラットフォームのNetVaultを持つQuest Software($2.4B)も買収している。これまで両社は、これら製品を使用する既存ユーザーに自社ストレージを売り込んできた。つまり、これら企業の戦略的価値は、ソフト製品の機能だけでなく、自社ストレージ製品の潜在的な販売マーケットでもあった。今回の合併でストレージ製品が段階的に整理統合されるとすれば、当然、これらの企業の整理も必要となろう。昨年暮れのReuters記事によると、Dellは合併に伴う資金調達のため、上記のAppAssureとQuest Softwareの2社にe-MailセキュリティーのSonicWallを加え、さらにPerot Systemsを含めて合計$10Bで売却する予定だという。このシリーズの1回目で報告したように 、この中で最も価値の高いPerot Systemsは、Dellのデータサービス部門(他2社を含む)として、3月中、NTT Dataに$3.05B(約3,660億円)で売却されており、記事にあった残り3社(AppAssure、Quest、SonicWall)についても売却先を探している可能性は高い。

◆ Big Data and Analytics
次にビッグデータ分野はどうか。
EMC側には周知のように、PaaSとして一定程度浸透しているPivotalがある。同社はそのプラットフォームCloud Foundry上にPivotal Big Data Suiteを整備してきた。一方、Dell側には2014年に買収したStatSoftがあり、これまで同社のStatisticaを提案してきた。もしこのStatisticaが有用であれば、Pivotalの浸透度から見て、Pivotal上の既存スィートに統合展開されると思われる。
 
◆ Cloud Platforms for the Enterprise
さてクラウドはどうか。勿論、クラウドプラットフォームはVMwareが手掛けてきたものが継承される。問題はクラウドサービスだ。これは2回目で取り上げたようにEMC案が昨年末ペンディングとなっている。纏めておくと、この案はEMCとVMwareが出資してクラウド運営会社をVirtustreamに統合し、現在EMCが提供しているストレージなどのクラウドサービスやVirtustream自身のマネージドクラウドサービス、そしてVMwareの提供するvCloud Airを統合運用させて成長軌道に乗せようというものだ。この案がいつ動き出すかがポイントである。

◆ Enterprise Content Management
コンテンツマネージメントの分野はどうであろうか。Dell側にはこれといったものがないが、EMCには2003年に$1.7Bで買収したDocumentumがある。同社はかつては市場をけん引するリーダであった。しかしSharePointなどコラボタイプやDropBoxなど多様なクラウド製品の登場で、現在は苦しい立場だ。これをリフレッシュするかが気になるが、報じられているところでは、EMC自身も同社を売却の意向のようである。

◆ Security, Risk, Governance and Compliance
Security関連分野では2つのポイントがある。ひとつはEMC傘下で2006年に$2,1Bで買収したRSA Securityだ。同社はEMC傘下のArcher TechnologiesやSilicium Security、Silver Tail Systemsなどを統合して大きな力となっている。もうひとつはDellが2011年に買収したマネージドセキュリティーサービスのSecureWorksだ。この会社は資金調達の一環として近々IPOの予定である。

◆ Virtulization
の分野は言うまでもなくVMwareだ。参考のために同社がこれまで買収した主なものをあげると、SDNのNicira、SDSのVirsto、VDIのDesktone、そしてPivotal DevOpsの核となっているSpringSourceと傘下のRabbitMQ、Redi、GemStoneなどがある。 

=2つのグループか!= 
以上見てきたように、両社のソフトウェアポートフォリオは幅広い。
重複しているものは今回の合併で整理が進むだろう。また部分的にはIPOが可能だ。そして、残った企業は2つに分かれる。ひとつはこれまでのように新生Dell-EMCのハードウェアを売るために有効な企業(左)であり、もうひとつは存在感のある子会社として独立採算のビジネス領域を持つグループだ(右)。これにはPivotalやVMware、Virtustream、RSA該当し、相互連携しながら拡大を目指すことになろう。いずれにしても、新生Dell-EMCにとって、これらの企業、とりわけ2つ目のグループ(右)がどのような戦略のもので、どのように育って行くか楽しみである。