2011年5月9日月曜日

次世代クラウドコンピューティング(1)  
                 -ハード機能連携型仮想マシン-

クラウドは単なる仮想マシンでは終わらない。
この仮想マシンを機能強化することが出来れば、その先に未来のコンピューティングがある。今回からシリーズで、それを予感させる幾つかの動きを追ってみよう。
第1回は「GPUサービス」について検証しよう。

◆ インターネット+クラウド+新たな利用=フューチャーシステム
このブログでは、クラウドは第2のインターネットだと度々述べてきた。
インターネットが公共性という視点で成功してきたようにクラウドもその延長線上にある。このことが理解されれば、成長に疑いはない。そして、その先に将来の姿が見えてくる。代表的なクラウド用語にIaaS/PaaS/SaaSの領域区分がある。これを便宜上、将来のコンピューティングにあてはめると、現在のインターネットはコミュニケーションのインフラ(IaaS)、クラウドはコンピューティングのためのプラットフォーム(PaaS)となり、そしてSaaSにあたる部分こそが重要で、ここが次世代クラウドを占う鍵となる。


◆ GPUサービスとは何か(NVIDIA Tesla)
北米では既にGPU(Graphic processing Unit)サービスが始まった。
これが将来のSaaS部分の構成要素を予兆させる動きのひとつだ。高性能GPUベンダーには2社(NVIDA、AMD/ATI)があるが、これらを用いたプロバイダーの提供アプローチは異なる。まずNVIDIAのGPUを使ったサービスでは、通常の仮想マシンでは処理出来ない高性能グラフィック処理をクラウドに任せようとする傾向にある
このサービスを最初に手がけたのは、サーバーやストレージのクラスターリングに強みを持つPenguin Computerで、そのサービスはPoD(Penguin on Demand)という。PoDはHPCをリモートからオンデマンドでユーザーに提供するもので、その目玉サービスがGPUサービスだ。PoDでは、ユー ザーはHPCにスケジューラーを介してジョブを投入する。GPUサービスは、このHPCに付帯する専用サーバーであり、実際のところ、4 Core Xeonを2つとNVIDIA Tesla C1060を搭載したLinux機である。ユーザープログラムからはOpenCLCUDAなどでアクセスし、このグラフィク処理専用システムを時間借りする。このような提供タイプを“Hosted Reality Server”と言い、ユーザーはGPUを物理サーバーとして認識することが出来る。PoD同様、HPCとGPUサーバーを組み合わせて提供するカナダのPeer 1で は、このクラウドサービスをHPCC(High Performance Cloud Computing)として、金融機関や自動車設計、科学計算などに提供している。また、テキサス州ヒューストンのNimbixからもGPUサービスを全面に押し出したNACC (Nimbix Accelerated Cloud Computing)が始まった。

HPC on Amazon EC2
Amazonからも昨年7月、 EC2上でのHPCサービスHPC on EC2がスタートした。
この新方式では、他のインスタンスより多くのCPUで構成されるHPC向けインスタンス“Cluster Compute Instances for Amazon EC2”が定義された。正確には、1つのインスタンスでEC2 Compute Unitが33.5台、RAMは23GB、Instance Storageは1690GB、そして10GBのI/Oを持ち、最大8つまで拡張が可能だ。これを使えば、小型から中規模程度のHPCとして利用すること が出来る。このCluster Instanceのひとつに“Cluster GPU Instance”がある。これがGPUサービスだ。このインスタンスは通常のCluster Instanceに2つのNVIDIA Tesla M2050が搭載されたものだと思えばいい。このような専用サーバーではなく、あくまでもインスタンスとして提供するGPUサービスのタイプを“Hosted GPU”という。

◆ AMDとOTOYの目指すGaaS(Game as a Service)
次にAMDの対応を見る前に、 GPU市場を一瞥しよう。
AMDは2006年7月、カナダのATIを買収してこの市場に参入した。数字だけをみれば、これまでIntelがGPU マーケットの約半分、残りをNVIDAが優勢のうちにAMDとシェアしてきた。Intel製はローエンドのPC用、NVIDIAはPCのハイエンド、 AMDはさらに上の上位PCからワークステーションをカバーするという構図だ。しかし、昨年夏あたりから状況が変わり始めた。AMDが数字的にNVIDIAに対してややリードし始め、今年に入ってもその状況が続いている。ポイントは3Dゲームなどの普及で、より高性能なGPUが優位になったことだ。中でも、今年3月始めに出たデュアルGPUのAMD Radeon HD 6990がけん引役となっている。

さて、話を戻そう。
OTOYという会社が2008年、AMDからスピンアウトした。
OTOYを率いるのはJules Urbach氏だ。氏はAMD時代にサーバーサイド・グラフィックスの開発を担当していた。この技術を使えば、PCに高価なGPUを搭載することなく、サーバー側で高速レンダリング処理を行い、それをクライアントに転送して、ブラウザだけで表示することができる。つまり、HTMLだけで、精密なレンダリングが出来、しかも動画として見せることも可能となる。これが出来ればHPCがクラウドにあって、超精密レンダリングを担当し、一般のPCだけでなく、モ バイルなどでも3Dゲームが楽しめる時代がくる。まさにGaaS(Game as a Service)の到来だ。

   
もちろん、このサーバー側にはAMD/ATIの高性能GPUが使われており、AMDはこれを“AMD Fusion Render Cloud”としてCES 2009で発表した。現在、OTOYのホームページには、幾つかのサンプルがあるが、これが実用化されるのが待ち遠しい。
ま た、同社では同様の技術範疇のLightStage技術も完成させている。これはモーションキャプチャーとして、人の微細な表情までも再現できるフェイシャルレンダリングで、映画「アバター」や「スパーダーマン」、日本では「ガイキング」などに使われた技術だ。

◆ 無限に広がる可能性-ハード機能連携型の仮想マシン
今回は将来のクラウドを占うひとつの好例として、GPUクラウドを取り上げた。
これまで価格面から、一般のサーバーには高性能GPUは搭載されず、グラフィックス系
アプリケーションの処理は出来なかった。しかし、クラウドによるGPUサービスの登場で徐々に解禁されつつある。ここでポイントとなるのは、クラウドによって物理マシンから開放され、仮想マシンに処理が移り、さらにそれが別な高性能GPUを搭載した仮想マシンとマッピングされることである。この連携型の仮想マシンを使えば、HPCやGPUを必須とする車や列車、飛行機などの訓練シミュレーションが廉価なシステムとして可能となる。類似の事例には、CAD大手Autodeskが始めたプラスティック製品のモルディング加工シミュレーションがある。これは同社のMoldflowをクラウドで稼動させるプロジェクトだ。AutoCADからもiPhoneやiPadでCAD図面にアクセスするAutoCAD WSが始まった。もう、こうなれば、手元のスマートフォンから、クラウド上で連携する最強のマシンを操ることも可能となるであろう。