2009年8月28日金曜日

Amazonからバーチャルプライベートクラウド(VPC)登場

◆Amazonからバーチュアルプライベートクラウド(VPC)発表

いよいよAmazonからVirtual Private Network(VPN)を利用したクラウドAmazon Virtual Private Cloud(VPC) が発表(8/26)された。勿論、これを利用すれば通常のVPNのように企業内のITインフラとAmazonのクラウドをセキュアーでシームレスに接続することが出来る。実際には企業内に実在するITインフラと幾つかのAmazon内の仮想マシンをSubnetとして対応させ、提供されるVPNで接続する。こうすることで既存のセキュリティーやファイヤーウォール、侵入検出のIDS(Intrusion Detection System)などがそのまま適用される。今回のVPN接続の対象はAmazon Web Service(AWS)のうちEC2のみ、他のものは暫時対応の予定だ。


このAmazon VPCの提供で、エンタープライズユースが加速されるのは確実だ。
新しいアプリケーションの投入にはある程度のものならハードウェアの手当てをせず、AWSを利用すれば簡単に出来る。これでまったく社内は勿論、社外利用も従来と同じ安全な環境が出来上がる。VPNはほぼ標準のIPsec仕様。大部分の企業IT部門ならお手の物だ。企業内設置のVPNルータからEC2のインスタンスであるVPC Gatewayに接続し、社内ルータにVPCアドレスを設定すれば出来上がり。ひとつのVPCアドレスはブロックとして扱われ、幾つかの仮想マシンからな るSubnetを仮想ルータのように見立ててマッピングが出来る。こうして出来上がったAWS上のリソースは完全に分離独立の状態となる。
この仕組みで解ることは、Amazonの狙いがエンタープライズだということ。
しかしながら、企業IT部門は長年に亘ってOn-Premiseに多大な投資をしてきた。
すぐには完全なクラウド化は難しい。そこでVPCを利用し、新規アプリケーションや業務のオーバーフロー分などから段階的にクラウドに移行させる戦略のようだ。

◆Eclipse Toolkitのリリース

今回のVPCを含め、AWSの諸機能評価が多くのデベロッパーによってなされている。結果はフィードバックサイクルに乗り、一部改善されたり、新たな機能が追加される。
今年3月のオープンソース開発環境AWS toolkit for Eclipseや4月のGoogleの検索データ処理をJavaで実装したオープンプラットフォームAmazon Elastic MapReduceなどはデベロッパーからの要求によるものだった。こうしたプロバイダーとデベロッパーの新しい関係が、これまでの大手ITベンダー主導によるコンピュータ文化との大きな違いである。


◆VPC利用料金

さ て利用料金(下表)だが、VPN接続は$0.05/時間、データ転送はInが$0.10/GB、Outは最初の10TBが$0.17、これを超える次の 40TBまでが$0.13、100TBまでが$0.11、150TBまでが$0.10と、他のサービスのデータ転送同様に低減方式となっている。

2009年8月25日火曜日

VMwareが新事業展開か
-SpringSourceとCloud Foundryが傘下に-

VMwareの新事業展開から目が離せない。
8月11日、VMwareはこれまでと異なる分野のSpringSourceを 買収した。同社は、初期のワークステーション上での仮想化技術の確立(VMware Workstation)が終わるとサーバー(VMware GSX/ESX)へと進み、その後、ビジネス用をESX(無償)に絞込んだ。そしてESXのデーターセンター適用、さらにその応用として有償のVDI (Virtual Desktop Infrastructure)、システム運用補強のvCenterやVMware Infrastructure 3 → vSphere 4などへと進化させながら整備してきた。 ここまでは、あくまでもコアである仮想化周りの拡充である。


しかしながらSpringSourceの買収は、それらとの関連性がない。
Springは、Rod Johnson氏がその著書「Expert One on One J2EE Design and Development」の実践としてリリースされたもので、Javaベースの Frameworkとして知られ、幾つかのJava製品(tc Server-Apache Tomcat, dm server-OSGiなど)を持ち、開発にはLean Software Developmentの考え方がベースとなっている。こう見ると、この買収で、VMwareがこれまでの仮想化事業から進展し、さらに上位のクラウドに 向かっていることが解る。周知のとおり、SpringSourceは今年5月、Network & System MonitoringのHypericを買収、両社の製品からBuild(作成)→Run(実行)→Manage(管理)までがシームレスとなった。

そして驚くことに、8月19日、今度はCloud FoundryがSpringSourceの傘下になることが決まった。現在のCloud FoundryはAamzon EC2上で動くJava ApplicationのProvisioning & Management System だ。発表されたのはSpringSource Cloud Foundry。この新FoundryではSptingSourceが持つtc server (Tomcat)などとApache http serverやMySQLなどが連携、さらにモニタリングと管理のHypericが統合される。こうなると、クラウド上のアプリケーション開発の方法論か ら必要なミドルウェア、そして実行管理までがカバーできる。勿論、Amazon EC2だけでなく、他のクラウドで新しいFoundryが動くことは想像に難くない。そうなれば大きな可能性が開ける。

これらの分析とVMwareの最近の動きを重ね合わせ、今後を予測しよう。
ま ず、同社が仮想化から離れて、クラウドビジネスに進出する可能性が高くなったことは間違いない。これには直接VMwareが市場に参入することも否定でき ないが、それよりは、このところvCloud Initiativeで整備の進むデータセンター業界に提供する可能性が高いと思う。ひとつのシナリオは、6月に$20Mを株式投資したデータセンターの Terremark International(Nasdaq上場)をモデルとする方法だ。両社は昨年来、緊密に技術連携し、Terremarkの提供する 「Enterprise Cloud」上で米総務庁GSA(General Service Administration)や世界75ヶ国で650以上の独立系ホテルやリゾートを運営するPreffeed Hotels Group、米自動車ローン大手Santander Consumer USAなどを獲得。この結果、今年4月末、vCloud Initiative初の「Service Provider of the Year 2008」に輝いた。このような背景からVMwareがTerremarkにSpringSource Foundryを提供し、新たな顧客開拓を試みる。勿論、この場合、Terremarkはモデルであり、いずれvCloudに参加する他データセンターに も提供され、その先にはエンタープライズ提供も待っているという筋道だ。

今回の買収劇でもうひとつ大事なポイントはオープンソースである。
VMware は、一部APIなどを開放しているものの、製品価格やパートナー戦略など、どちらかと言えばガチガチのプロプライエタリーベンダーだ。だからこそ、Xen やKVMなどが同社技術に対峙してきた。周知のように、クラウドはオープンソースと親和性が高い。裏返せば、Microsoftと同様、オープンソースは VMwareのアキレス腱でもある。SpringSourceとCloud Foundryの2つのオープンソース企業を手に入れたことで、VMwareへの風当たりが弱まり、デベロッパーコミュニティーとの関係が改善できれば、 VMwareにとって磐石な世界が見えてくる。

2009年8月20日木曜日

Sun Open Cloud Platformアップデート

SunのOpen Cloud Platformが気になりだした。
というのは、今年3月18日、New Yorkで開催されたCommunityOne Eastでの発表後、Early Access(α版)としてデベロッパーに開放され、夏には、つまり8月にはβ版となってコマーシャル化される予定だったからだ。しかし、どこから もβ情報は聞こえてこない。問題はプロダクト整備よりも、Oracleによる買収と関係があるようだ。まず、Sunの買収がこの夏に法的に完了し、伴って 新経営陣が決まり、平行して行われている製品統合計画との調整、そして新たなバジェットが決まる。Oracle自身は特別のクラウド戦略を持っていないの に等しいので、新計画がこれまでのままか、変更があるのか気になるところだ。その上で新経営陣からのGOサインが出る。こう考えると、β版の発表は多分、 Oracle OpenWorld 2009が10月(10/11-15)にあるので、その会場か、それ以降となるように思う。

ともあれ、Sun Open Cloud Platformについて、現状をアップデートしておこう。

Sunのクラウドは、JaveOne 2009とSun Open Cloud Platform(6/3)で述べたように、
①Infrastructure aaS(as a Service)、
②Stack aaS、
③Platform aaS、
④Software aaSの4層からなり、Amazon Web ServiceのEC2やS3はIaaS、Google App EngineなどはPaaSとして、全体を包括的にカバーしている。

試 みに、構造の簡単なAmazon S3とSun Cloud Storageを対比してみると、Sunのそれは、上図のようにZFSの上に構造化された本格的なシステムであることがわかる。実際のサービス利用は2 つ。Fileベース (WebDAV Protocol / Administration API)とObjectベース(AWS S3 Compatibility)のアクセスが可能だ。
クラウドストレージの管理用にはコンソール(Web UI)が用意され、ユーザー固有の機能はJava/Ruby/PythonなどからAdministration API経由で追加が出来る。通常のファイルはWebDAVでVolume/Folder/Fileとして扱うことが出来、既存のWebDAVアプリケー ションの継続利用やJava Clientによるアクセス、VolmeのMount、Snapshotの作成なども可能だ。Amazon S3はRESTで処理されるObject Storageとして扱われる。IaaSのもうひとつの柱のCompute Serviceは、今年1月に買収したQ-Layerのビジュアルツールを用い、Virtual Datacenter(VDC)として構築ができる。

このあたりまではOpen Cloud Platform発表後に始まったEarly Access版を通して理解できたことである。その後、Sunのクラウドには幾つか重要なものが追加された。
まず、VDC構築の鍵を握るミドルウェア層のStack as a Serviceには、当初のデータベースMySQLやアプリケーションサーバーGlassfishに、Java CAPS(Composite Application Platform Suite)が追加された。これは2005年6月にSeeBeyond買収で手に入れたEAI(Enterprise Application Integration)ツールである。Glassfish(無償)はESB(Enterprise Service Bus)としてOpen ESBを内包し、有償のJava CAPSはJava ESBがベースとなって、一段と高機能となった。

6月にリリースされたOpenSolaris 2009.06ではネットワーク仮想化技術Crossbowが 採用。Crossbowはネットワークスタックを仮想化して包括的に管理する機能である。またこの版ではZFSも強化され、クラウド上のエンタープライズ 適用に向け環境整備が整いつつある。開発環境でも幾つか動きがあった。6月末にリリースされたNetBeans 6.7でPOM(Project Oriented Model)準拠のJavaプロジェクト管理ツールApache Mavenがサポート対象となった。Mavenを使えばコードのコンパイル、テスト、ビルドまでが実行できる。Apacheファンには嬉しいニュースだ。

さらにブラウザベースでFacebookやGoogle Mapsなど様々なAPIを用いたソシアルアプリケーション、つまりWidgetの開発環境も登場。SunのProjectから始まったzemblyだ。

さらにSunがスポンサーのプロジェクト・ホスティングProject Kenaiとも連携できる。
Keinai ではコード管理(Subversion、Mercuria)、バグ追跡(Bugzilla、JIRA)、MavenやNetBeans連携、Wiki、 Forum、Twitterなどを用意し、オープンソース・プロジェクトを立ち上げる際に必要なもの全てを無償でホスティングしてくれる。いわば Google CodeのSun版である。

こうしてSunのOpen Cloud Platformの全容が段々はっきりしてきた。
レ イヤーの下から2つ、Infrastructure as a ServiceとStack as a Serviceが姿を現し、各種の開発環境も整備が進んだ。Amazon Web Service(EC2/S3)から遅れること3年。現時点で最強のCloud Platformのように見える。そして、これからはMicrosoftやIBMとのEnterprise Cloud Computingの戦いだ。Oracleの買収によって、今後、Sun Open Cloud Platformがどのように変化するのか目が離せない。

2009年8月17日月曜日

ハイブリッドとなって登場予定のOffice 2010


次期Microsoft Office 2010が ハイブリッドとなって登場する。ハイブリッドとは、スタンドローンの従来型とブラウザで利用するWebサービスの組み合わせのこと。Worldwide Partner Conference 2009(7/13~16)で行われたプレゼンで同社は、このことを『Software Plus Service』と説明した。予定されるOffice 2010は、現Office 2007のビジュアル化を主体とした機能向上、そしてオンライン版はOffice Web Appsとして提供される。

Office 2010が実際どのように進化するのかWordを事例に見てみよう。
まず①SmartArt機能によるビジュアル化。これによってよりビジュアルなチャートや
ダ イアグラムの挿入出来る。これまでも飾り文字などを表示するWordArtがあったが、SmartArtでは、Paint Brush、Photocopy、Color Effectなどのグラフィックス化が可能だ。さらに新登場の②Picture Edit Toolを使えば特別なPhoto Edit Software無しに写真の加工ができる。③Office Communications Server 2007を用いたOffice Communicatorでは共同作成者や作業チームとのコラボ利用もできる。④作成ドキュメントをWeb上(Word Web App)やモバイル(Word Mobile 2010)からアクセス/共有するAccess & Share Documents Virtually Anywhereも登場。⑤ドキュメント検索やナビゲーションの向上ではSerch & Navigation Pane。⑥テキストのビジュアル化として登場したVisual Effectでは、通常文字の影つけ、輝き、ぼかし、反射、傾斜などの加工が可能となる。

さらに、⑦Spellチェックの強化、⑧オンライン辞書Online Bilingual Dictionary、
⑨ 手書き文字挿入のHandwriting、⑩多様なEnhanced User Experienceなど。Microsoft Office 2010に含まれる他のExcelやPowerPoint、Outlook、OneNoteも同様にビジュアル化が進んでいる。



さて、肝心のOffice Web Appsだが、まだあまり多くは明らかにされていない。
提供されるのは、Word、Excel、PowerPoint、OneNoteだ。利用にあたってはWindows LiveのAccount(無償)を持つこと。同社はこれまでLive経由で幾つかのWebサービスを提供してきたが、今回のLiveへの誘導は、新検索エンジンBingの普及作戦だとするむきも多い。またMicrosoftとブラウザといえば、Silverlightが 気にかかるが、将来版はともかく、初期版では使われない。製品機能はスタンドローンの良く使うものを切り出したものだという。これで通常使用には、十分な のかも知れない。利用できるブラウザはIE、Firefox、Safariで可能だ。また、PCだけでなく、iPhoneなどのモバイルでも使うことが出 来るが、残念ながらChromeとOperaには対応していない。


最 後に、Office Web Appsを出した理由だが、最大の狙いはGoogle Apps対抗ではないかと思う。このところChrome OSなどで積極的なGoogleにとって、確かにOffice Web Appsの登場は厄介だ。Microsoft Officeの絶対的な優位性が一時、Google、IBM、Novell、Red Hat、Sunなどが参加するODF AllianceOpenDocument Fileで崩れかけたが、Office Open XMLで持ち堪えた。今度はMicrosoftが攻める番が始まりそうだ。

2009年8月11日火曜日

KVMの功罪 -仮想化市場が変わる-

KVMの登場で仮想化市場の構図が変わり始めた。
市場の流れは、仮想化技術そのものの競争から、その周りの環境整備へと進んできたというのに、 KVMの登場は、時代を2年戻してしまったようだ。2007年、それはこの市場の流れを大きく変えた年だった。XenとLinuxの融合を望んだ多くのデベロッパーやコミュニティーの期待とは裏腹に、Lnius Torvalds氏はQumranetのKVMの採用を決めた。その年の8月にXenSourceはCitrix Systemsに買収され、KVM搭載のLinux Kernel 2.6.20が11月に登場した。

◆Linuxが下か、Winodowsが下か

Linus Torvalds氏の考えも解らないことはない。
仮想化技術の進展に伴い、仮想化機能はOSの一部のようになってきた。MicrosoftがVMwareを恐れた理由もここにある。VMwareが機能拡大すればWindowsが脅かされる。一般のOSとは視点が異なるが、現にVMwareはCloud OSとしてvSphere 4を出荷し始めた。MicrosoftもHyper-Vだけにとどまらずず、Windows Azureをクラウド時代の.NET Cloud OSとして開発した。この状況はLinuxには厳しい。企業向けではUnixにとって替わったLinuxがWindowsよりも上だという自負もある。こ れからも企業用サーバーOS の座を守るには、Windowsとの差別化が必要となる。仮想化技術を構造的に見ると、XenとHyper-Vは、Microsoftが望んでXenSourceと提携したことから近似している。Xen側から言わせれば、この時点で、Xenの敵は、たまたまMicrosoftと同じくVMwareだっただけのことだが、結果そのことがWindowsとの差別化を考える上で大きな障害となった。Linuxが企業向けサーバーで確固たる地位を保ち続けるためには、Kernelの中にKVMを取り込んで、処理能力の面で優位に立ち、LinuxがベースOSとなり、WindowsはGuest OSとしてその上に乗ることが望ましい。万一、Windowsがベースとなり、そのHyper-Vの上にLinuxがGuest OSとなるようなことがあれば、ますます上り調子のWindows Serverを勢いつかせてしまう。

◆仮想化技術からシステム運用、そしてクラウドへ

し かし、クラウドコンピューティング構築を目指すユーザー企業にとって、仮想化技術の優劣はもはや検討項目の一部でしかない。はっきり言って、VMware が2007年、IPOをした時点で流れが変わってきたことに心ある人たちは気づいていた。仮想化技術を核にその周りの環境整備には資金がいる。このIPOはそのための資金であった。その後、VMwareは開発部門を拡充し、複数台の仮想化された物理システムを運用管理するvCenter、稼動中の仮想マシン間を移行させるvMotionなどを開発した。
そしてESX ServerとこれらをセットにしたVMware Infrastructure 3の提供、続くバージョン4はvSphere 4(7/29)となって、ESXを使った仮想マシン部をvComputeとし、ストレージ部を仮想化するvStorage、ネットワークもvNetworkと守備範囲を広げた。新CEO、Paul Maritz氏の目指すCloud OSの誕生である。大雑把には、これらが2年前から今日まで、VMwareが開発してきた内容だ。

◆仮想化市場が変わる

そして6月中旬、既報のようにKVMを採用したRed Hat 5.4β(8/10)が登場した。
Xen は次期メジャーバージョン、つまりRed Hat 6からはサポートしないと宣言。一方のXenについて、KVMにファミリアな人たちは技術者もXenからQumuranetに移ったし、内容的にもXen は古いと論評する。しかし、Xenは、今やクラウドの中心となったAmazon Web Service、Oracleに買収されたSunのxVM Server、xVM Ops Center、VirtualBox、Oracle自身のVM Server、そして同社が買収したVirtual Ironにも採用されている。


こうして仮想化市場の構図が変わり始めた。
Xen はCitrixに買収されたけれども、同社はServer市場より、Thin Client市場に強く、ServerではOracleとSun陣営が擁護している。また、そのCitrixはMicrosoftと昔からの仲良しだ。 KVMを採用したRed Hatにはやることが沢山ある。これらは同社だけでなく、ISVなどに負うことになる。中でも注目はIBMだ。今やzOS以外に自前OSを持たないIBM は、ユーザーから特別に要求がなければRed Hatを適用する。しかし、仮想化では何といってもVMwareだ。現にプライベートクラウド構築用に発表したアプライアンスのCloudBurst(6/21)でもESXが内臓されている。もしもIBMが本気でKVM採用のRed Hatを支援することになれば状況が変わる。しかし、SIが本業のIBMにとって、それは現実的な選択ではないだろう。

LinuxのKVM採用、これによってオープンソース陣営の仮想化は2分した。
Xen が衰退し、KVMに移っていくことになるのかは解らない。いずれにしても時間がかかる。これらの動きを見るにつけ、オープンソースの本質的な問題を考えさせられる。多くのデベロッパーはエンジニアだ。彼らは政治向きには疎く、目的別のプロジェクトに多くは属し、全体の統制は取れていない。比較して大手の ITベンダーは、製品のグランドデザインを持ち、市場戦略を策定し、目的に向かって着実に実行に移してゆく。だからこそ、コミュニティーの重鎮たちや Linux Foundationなどの関連団体、オープンソース企業の役割が重要なのだ。彼らの知恵を結集し、短期的なビジネスだけでなく、また、技術偏重でなくものごとを見極めることが望まれている。

いずれにしても仮想化市場は、2年前までは2つ(VMwareとXen)、昨年には3つ (VMwareとXen、そしてHyper-V)、今は4つ(VMware、Xen、Hyper-V、KVM)、しかもXenは2007年のCitrix による買収と今年のOracleによるSunの買収で2つの陣営が存在する。このような細分化の動きで、一番喜んでいるのはVMwareであり、次は Microsoftかもしれない。

2009年8月10日月曜日

KVMを搭載したRed Hat Enterprise Linux 5.4β

Red HatがKVM(Kernel-based Virtual Machine)を搭載すると発表したのは、今年2月のこと。そして6月、とうとうKVMがRHEL(Red Hat Enterprise Linux)5.4βとして姿を現し、今年9月、シカゴで開催されるRed Hat Summit 2009で正式版となる予定だ。そのKVMを開発したのはイスラエルのQumuranet。2007年11月、Linux Kernel 2.6.20に搭載され、その後、同社は、昨年9月にRed Hatに買収された。
この買収でRed HatがKVMにのめり込むことが確実となった。


振り返ってみれば、Red Hatの仮想化対応は煮え切らないものだった。Red HatがXen搭載をRHEL4で発表したのは2004年のこと。しかし、実際にXenが搭載されたのは2007年のRHEL5.0 である。この間、殆ど何も進まなかった。そして同じRHEL5でも、5.0~5.3まではXen、5.4からはKVM、さらにRHEL6からはXenのサポートを停止するという。今度はもう後には戻れない。



KVMについて、少し纏めておこう。
KVM は、Para Virtualization(準仮想化)も可能だが基本的にFull Virtualization(完全仮想化)をサポートするのでGuest OSに変更の必要はなく、コードも約1万ライン程度とコンパクトなものでKernelに内臓される。これによって、他の仮想化技術とは異なり、Kernelがそのまま Hypervisorに生まれ変わった。このKernelとのタイトな関係によってパフォーマンス面では優位に立つ。つまり、Hypervisorでは SchedulerやMemory Management、I/O StackなどOS同様の機能が必要だが、KernelにKVMを持つことで、これらの重複を省くことができる。こうして出来上がった OSは仮想化技術内臓の次世代型となった。Guest OSとしてはRHEL3&4シリーズ、Windows XP、Windows Server 2003/2008がサポートされる。LinuxのKVMではハードウェアの仮想化支援機構であるIntel-VTかAMD-Vが前提となり、仮想コン フィギュレーションにはQEMU、仮想マシン用のAPIはLibvirtを採用、これらはXenも同様である。

さて今回のインプリメンテー ションの特徴だが、①High Performance I/Oだけでなく、②NICやCPUなどのHot Plug、③SMP用Guest OS、④大型サーバーNUMA (Non Uniform Memory Access)アーキテクチャー、⑤Power Management、⑥IBM社のPowerPCとS390対応などがあげられる。中でもRHELの大口SIerであるIBMのメインフレーム (S390)適用は特筆される。今や最新の自前OSを持たないIBMにとって、RHELは重要なOSであり、同社の製品の特性や顧客ユーザーに合わせて サーバーにはRHEL、メインフレームにはz/OSとRHELの両方が適用されている。また、KVMのPower ManagementもLinux自身が長年大きな努力を払ってきた分野であるが、KVMを内臓することによって、最良の制御が可能となった。

KVMのExecution Modeは3つ(User/Kernel/Guest)。
仮 想マシン(VM)上のCPU ControlはLinuxのThreadに対応し、Linux SchedulerがVMのScheduleも担当する。結果として、VMのコードはネイティブに近い速度で実行、I/OはQEMU対応となって、実際に はLinuxのDriverがI/O処理を担当する。

Red Hat KVMのポートフォリオ(関連製品)は次の通り。
-Red Hat Enterprise Linux 5.4。
-Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor・・・軽量埋め込み用。
-Enterprise Virtualization Manager for Servers・・・プロビジョニングや監視。
-Enterprise Virtulization Manager for Desktops・・・QumuranetのSolidICE。



今回のβ発表でRed Hat社の新仮想化戦略が見えてきたが、まだまだ、努力を要する分野が多い。現時点のRoadmapには、I/Oパスと密接な関係にあるQEMUの改良、 ScalabilityやPerformance、Network関連作業などが読み取れるが、仮想化技術周りの環境整備計画は見えず、IBMを含むISVなどがどのように協力するのかが今後の鍵となろう。

2009年8月5日水曜日

SUSEからも仮想ソフトウェアアプライアンス


SuSE Linuxを提供するNovellからもSUSEアプライアンス・プログラムが発表(7/31)された。このプログラムはISVソフトウェアを仮想アプライアンスとして扱い、クラウド上の仮想マシンだけでなく、物理マシン上でも簡単に稼動させることが出来る。このプログラムでは、幾つか重要な製品が登場した。ISV各社はこれらを利用してアプリケーションをソフトウェア・アプライアンス化させて出荷させることが出来、ユーザはこれまでのようにソフトウェアを購入してインストールし、利用するという煩わしさから開放され、クラウド上にアプライアンスを載せれば実行が出来る。

今回の発表で、まず登場したのは、Webベースでソフトウェア・アプライアンスを作成するツールのSUSE Studio。前回の記事で述べたVMware Studioはスタンドローンだが、SUSEの製品はWebベースだ。ISVはこれを使ってアプライアンス化し、さらにVMwareのMarketplaceと同様にSUSE Studioに登録(現在6,000~登録済み)する。ユーザからみると、StudioはRightScaleのようなソフトウェア・スタックのコンフィグレータとして機能する。ユーザは、登録ソフトウェアを検索して、仮想マシンのソフトウェア・スタックを決め、それらをビルドし、TESTランもStudio上で可能だ。



次に、仮想アプライアンスのために利用されるOSが登場した。SUSE JeOS、正式にはSUSE Enterprise Linux JeOS(Just Enough Operating System)という。フル装備のSUSEから実行だけに必要な部分だけを切り取った軽量のOSである。このJeOSと仮想化されたミドルウェアやアプリケーションなどをスタック化し、纏めてビルド、そしてTESTラン、全てがブラウザで出来る。このシステムで扱えるフォーマットは、現在のところ、Live CD、VMware、Xenなどだが、近々OVF、Hyper-V、Amazon EC2もサポートの予定となっている。

◆OVFによるソフトウェア・アプライアンスの標準化

クラウドコンピューティングは、進化しつづけている。
これまでのソフトウェア利用の方法が変わり、アプライアンスが一般化しつつある。
これまでのISVのライセンスモデルも、ITベンダーのビジネスモデルも変わり始め、ユーザにとって次第に便利な状況に進むだろう。この流れを作ったのは、紛れも無く、DMTF(Distributed Management Task Force)のOVFである。DMTFは、標準化を謳いながらベンダーの囲い込みに協力してきたW3CやOASISとは異なる実務的なタスクフォースだ。いわば、ベンダー間のオープンソース・コミュニティーとも言える。当初の異なる仮想マシン間を移動させるフォーマットは、物理から仮想への移行、さらにソフトウェア・アプライアンスとして開花してきた。VMwareを筆頭に、これまで固有のフォーマットで市場を分けてきた仮想化技術のベンダーは、徐々にOVFによる統一に向かって動く。そのための開発環境がVMware Studioであり、Novell SUSE Studioである。SunのVirtualBoxも既にOVFを採用しているし、Citrixも既報のようにProject Kensho(5/7記事)をスタートさせている。きっとMicrosoftもVisual Studioにその機能を取り込むことになろう。また、クラウドの運用管理を担うIBM TivoliやHP Open Viewなど、さらには幾つか見られるスタートアップ製品にもOVFが採用されることは間違いない。


このような健全な方法で標準化がなされれば、クラウドコンピューティングが真にユティリティ化して、どの企業からも、仮想技術の違いを乗り越えて、仮想マシン間やクラウドとOn-Premise間の自由な行き来が出来るであろう。

2009年8月2日日曜日

データセンターを攻略するVMwareの戦略

VMwareの勢いが止まらない。
仮想化市場がKVM(β)の登場でさらに細分化され、結果、VMwareには有利な状況が続いている。中でもデータセンター業界の勢力拡大に向けて始めたvCloud InitiativeVirtual Applianceは効果的な試みだ。

昨年9月に発表したvCloudは、データセンターと提携してVMwareを利用したクラウドの構築を狙ったものだが、発表時点で、既にBTやRackspace、SAVVIS、SunGard、T-Systems、Verizon Businessなどが参加、現在は100社以上の世界中のデータセンターがパートナーとなっている。この「雲になったコンピュータ」連載のVMwareがパブリッククラウド進出に意欲(6/17)で述べたように同社はTerremark(Nasdaq上場)に投資したり、Verizonがクラウドに参入(6/19)ではRed HatとVMwareを基本インフラとして採用。また、ホスティングのRackspaceがプライベートクラウド提供(7/20)でもVMwareが基本インフラとなっているし、今年2月にはSAVVIS Cloud ComputeもVMware上でサービスを開始している。このように一般企業市場がVMwareの一人勝ちで一段落した後、今度はデータセンター業界との連携で、第2の市場制覇を目指し始めた。勿論、この連携では、特別割引のライセンスが提供されている。これによって業界各社は、自営クラウドよりも安価で実績のあるホスティング環境と組み合わせたプライベートクラウドの提供が可能となった。

実際のvCloudは提携するデータセンターによって、サービスが階層化されている。
基本となるサービスの「VMware Ready」は、VMwareのインフラを提供してホスティングやプライベートクラウドを構築して貰うもの。「VMware Ready Optimized」では、さらにユーザーにVMware APIやSDKを提供して、より高度なクラウド構築を支援する。最上位のサービスとなる「VMware Ready Integrated」では、ユーザーのOn-Premise(自営システム)とクラウドの統合まで踏み込んだサービスを提供する。これらのサービスは各社の方針や事情によって、採用の程度が決定される。

そして、このvCloudを後押しするのがVirtual Appliance(vApps)だ。
vAppsはISVのソフトウェアをプリインストール化して簡単にVMware上で稼動させる仕組みである。これまでようにハードウェアにOSが搭載され、その上にアプリケーションがある状態から、間にHypervisorが入ることによって、OSとセットとなったアプリケーションを塊として扱うことが出来るようになった。この状態をソフトウェア・アプラインスに見立てて、プリインストールと同様に扱おうという作戦である。このための開発(変換)環境を提供するのがVMware Studioであり、現在2.0βが出荷されている。使われているのはDMTFで標準仕様となっているOVF(Open Virtualization Format)形式(DMTFによるクラウド運用の標準化-5/7-記事参照)だ。Studioを利用してISVプログラムを変換すれば、ESXやWorkstation、FusionなどのVMware Readyプログラムで 扱えるソフトウェアをOVFで作り出すことが出来る。このようにして出来上がったソフトウェア・アプライアンスはMarketplace上に登録され、ユーザーは直接ダウンロードして利用が可能となった。



ただ、7月の終わりに発表されたVMwareの2Q業績は芳しくなかった。
売上げは前年同期並みの$456Mだが、利益は前年同期比の$53Mから$33Mへ減少した。一般企業市場での仮想化技術が飽和し、また、世界的な経済環境の悪化で仕方が無いことかもしれない。対して、XenSourceを買収したCitrixの2Q売上げは$393M、前年同期比よりやや増え、利益も$35Mから$45Mと増加している。VMwareの次なる狙いは、データセンター市場の制覇だ。