2014年9月18日木曜日

続々) Rackspaceはどうなるのか! -M&A交渉終了-

9月17日、Rackspaceは当面のパートナー探しは終了したと発表した。
最終候補に挙がっていたとされるCenturyLinkの買収交渉は上手くいかず、この発表によって株価は一気に$32台へと下がった。今後はTaylor Rhodes氏の指揮のもとで “Managed Cloud” 戦略を推し進めることになる。今回の戦略的パートナー探し(M&A)は5月15日のSECファイリングで明らかになった。内容は戦略パートナーから買収までだ。そのために同社はMorgan StanleyとWilson Sonsini Goodrich & Rosatiの2社と契約し、株主や顧客、従業員の最大利益を求める複雑なレビューを実施した。発表によれば、その結果、ボードはM&A交渉を終了することを決定した。

=どうしてこうなったのか=
ほんの数日前に中間報告を書いた筆者も正直のところ、この急展開には驚いた。
ただ、冷静になればこれで良かったのではないかと思う。好業績だった2Q報告後、同社株式は8月12日の$29.50を底に反転し、9月1日のLabor Dayを挟んでも続伸、$38~39台で推移していた。理由は好業績を背景にCenturyLinkとの交渉が進んでいたからである。しかし中間報告で書いたように、個人的にはCenturyLinkが最良のパートナーだとは思い難い。この組み合わせから、Racspaceがこれまで見せてきた先進性やユーザセントリックな戦略が加速されるとは思いにくいからだ。

初回報告を思い出して欲しい。Rackspaceの生い立ち、社風、クラウドへの取り組みなどを詳しく述べた。その上で、彼らはExitにあたり、何を望んでいたのかを推測した。事実は知る由もないが、次のようなものだ。
  • この会社のDNAが引き継げるか。つまり彼らに経営の自由度が残るか。
  • OpenStackへの理解は高いか。
  • プライスタグ(買収額)はどの程度か。(Market Valueは$4-5B)
  • この取引のビジネスミックスは将来の事業拡大に貢献するか。
ここで大事なことは、米国企業には珍しく、プライスタグだけが条件ではないのではないか、ということである。彼らは、出来れば、資金力があり、インフラやグローバル展開などの力を持った大きな傘のもとで戦いたかったに違いない。あくまでも憶測だが、買収提案をした大手企業側は自社戦略にRackspaceを組み込むことしか考えなかった。これは通常のM&Aでは当たり前のことだが、彼らの要求とは折り合わなかったのだろう。こう考えると、殆どの候補企業の整理がつく。わけてもHPとの交渉も想像できる。HPからの提案は金額的には良好なものだったのだろう。しかし同社は、それだけでなく、自主性も確保したかった。この流れが伏線となって、HPによるEuclyptus買収交渉が決定されたと見るのは穿ち過ぎだろうか。

=ボードによる2つの判断と新たな船出!=
RackspaceのボードはM&A検討終了の決定と共に2つの判断も下した。
ひとつは今年2月からCEOだったGraham Weston氏に代え、同社ベテラン幹部のTaylor Rhodes氏を新CEOとし、ボードメンバーに加えたこと。これに伴いWeston氏は, 非常勤のボード議長(Non-Executive Chairman of the Board)となった。もうひとつは、株式買戻しプログラムを考慮するというものだ。これは今回の一件に乗じて投資したヘッジファンド対策ではないかとみられる。同社の苦境から始まった今回のパートナー探し。交渉は折り合わなかった。これは同社にとってマイナスイメージとなる。しかもヘッジの持ち株比率を上げてしまった。しかし、幸いなことに2Q決算が予想以上に良かった。通年の見通しも明るい。クラウドに造詣の深い人たち(Cloud Advocates)はほっとしたに違いない。Rackspaceは新CEOのもと、新たな船出となった。彼らの決断と今後の活躍にエールを送りたい。

2014年9月16日火曜日

続) Rackspaceはどうなるのか! -CenturyLink浮上か-

RackspaceのExit Story=Rackspaceはどうなるのか(8/1)=に関する続編をお伝えしたい。同社がMorgan Stanleyを雇ったのは5月中旬のこと。当時の株価は5月9日が最安値で$26.28、それが出口戦略の模索が伝わると、一気に42%ジャンプして$37.37となった。このような大幅な値動きは2008年11月以来のことである。6月10日には最高値の$37.88をつけた。このころRackspaceは強気で幾つかの提案を受けたが纏まらなかったという。その後は夏相場に突入して低迷。しかし8月12日の$29.50を底に反転し、この時期重要な休日Labor Dayを挟んでも続伸、9月8日来、現在は$38~39台で推移している。どうやら状況は再度好転し始めたようだ。

=好調だった2Q報告=
この反転の理由ははっきりしている。 同社の2Q業績が改善したからだ。8月11日、SECにファイリングされたForm 8-Kによれば、2Q売り上げは前期比4.8%アップして$441となった。これは前年同期比では17%アップ、同社は今年の3Qも3~4.5%アップの$454~$461が見込まれるという。売り上げの伸びに伴い、サーバ数も1Q末の106,229台から2Qでは107,657台に伸び、6月末現在の従業員数は全世界で5,798人、1Q時の5,743人から僅かながら増加している。

=新戦略OnMetalへ=
今年3月、GoogleのAmazonに対する挑戦で始まった価格破壊を覚えている人は多い。この動きはクラウド市場を困惑させたが、Rackspaceは独自路線を進むことで、その難題から逃れてきた。元来、同社はHostingの会社だ。その経験で身につけたサービスの良さには定評がある。巨大なパブリックIaaS市場を相手にした薄利多売のAmazonやGoogleには出来ない芸当だ。これこそ、Managed Cloud Companyと自負する同社の財産であり、その結果が2Qの業績につながった。そして、この流れを加速させるOnMetalサービスが7月から始まった。このサービスは、誰にも邪魔されることのないBare MetalにOpenStackを乗せ、Single Tenantとして提供される。RackspaceはHPやDellから購入してきたサーバ群を現在、Open Compute Project仕様に切り替え中であり、このBare Metalも同仕様のものだ。つまり、ハード(Open Compute)もソフト(OpenStack)も徹底したオープン路線を採っている。勿論、OnMetalにはマネージドサービスも可能だ。同社は言う。クラウドを使いこなしてきたユーザは、他VMの振舞いによるしわ寄せやインスタンスの増加に起因するオーバーヘッドなど、マルチテナントであるが故のWork-loadの不安定さを嫌う。安定したレスポンスと責任ある運用、これこそクラウドの方向だ。AazonやGoogleと一線を画したこの戦略は、クラウドを知り尽くした同社の知恵である。  

=予想外のCenturyLinkが一歩リードか=
2Qの業績と新戦略を受けて、パートナ探しの状況が変わった。8月11日以降、株価は反転し、市場筋によると、CenturyLinkとRackspaceの話し合いが熱気を帯び、買収価格決定のための価格調整に入った。CenturyLinkの株価は、事実、9月5日の$41.47から9月9日には$39.99と下げ、一方のRackspaceは30%以上底上げして同9日には$39.62とほぼ同水準となった。しかし株価は横並びとなったが、CenturyLinkのMarket Capは$23.4B、Rackspaceは$5.33である。企業規模ではCenturyLinkが数倍大きい。この状況にどう折り合いをつけるのか。前回レポートを思い出して欲しい。Rackspaceの新しいパートナーを業界別に探ると、キャリアではAT&Tが最も有望で、元気なのはCenturyLinkだと述べた。買収候補として浮上したCenturyLinkは、業界3位だったQwestを当時5位の同社が買収して大きくなった。同社はその後クラウドで2つの大きな買い物をした。データセンタのSAVVIS (2011/4)とIaaSプロバイダのTier3 (2013/11)だ。そのため、今回の買収には資金的かつ技術的な問題がつきまとう。つまり、CenturyLinkからの具体的な買収提案は、もしかしたらRackspaceにはメリットが少ないのかもしれない。これを裏付けるように、これで決着という雰囲気ではないと言う市場関係者もいる。

=3つのヘッジファンド(Third Point, Blue Harbour & Point72)=
厄介なことも起こっている。2QのSECファイリングでヘッジファンド3社の新規投資が明らかになった。機関投資家リスト4位のThird Pointと、7位となったBlue Harbour Group、11位のPoint72 Asset Mangementだ。彼らは物言う投資家(activist investor)である。Blue Harbourは比較的穏健だが、億万長者のDaniel Loeb氏が率いるThird Pointは、かなり悪名高い。6月末までに同ファンドは全体の約5%にあたる725万株を取得、まだ少ないが暴れだすと手が付けられない。Blue Harbourは期中2回投資し352万株を保持したとのことだ。Point72も同水準の324万株を手に入れた。既存の機関投資家は今回のパートナー探しにどう反応したのだろうか。総じて言えば、買い増し傾向にある。気になるのは、大手資産運用投資のCapital Worldと全米3位の銀行Wells Forgoの2社は売りに回ったことである。 
=本命たちはどうしているのか=
さて前回レポートで挙げた本命企業はどうしといるのだろうか。
まずHPだが、かなり早い時期から交渉していたと伝えられている。真偽のほどは定かではないが最終的に1株$43、大よそ$6B(約6,000億円)の提案をしたとの噂だ。しかしRackspace側が強気で受け入れられなかったらしい。そして7月初め、RackspaceのSenior VPでProduct & Engineeringの責任者だったMark Interrante氏がHPに入社することが伝わった。彼のHPでのポジションは同じSenior VP、担当はクラウドビジネス部門のエンジニアリングである。まさにクラウド開発の責任者だ。同氏はExecutive VPでCTOのMartin Fink氏に直接レポートする。さらにびっくりすることに先週末(9/12)、HPはEucalyptusを買収すると発表した。この買収でCEOのMarten Mickos氏はInterrante氏と同じクラウドビジネス部門となり、Senior VP兼GMとしてビジネス全般を担当、HP CEOのMeg Whitman女史にレポートする。なぜ、この時期、HPにとってEucalyptusが必要なのかは解らない。ただ、同氏はMySQLのCEOを務めた実力者だ。人材面では大きな補強となる。この2つの出来事で、Rackspace買収の芽は無くなったかに思えたが、そうでもなさそうだ。同社の2Q業績回復報道後、再度、水面下で交渉が始まったとの情報もある。もしかすると、Interrante氏は買収先に派遣された斥侯なのかもしれない。
さてCiscoはどうなったか。該社についての情報は多くない。5月末の同社カンファレンスCisco Live 2014でJohn Chambers氏は何人かのレポータと会話した。流れてきたのは、氏は「現在クラウド市場はAmazonとGoogle、そしてMicrosoftの3社が激しい競争を繰り広げている。Ciscoの判断はその市場で40%以上のシェアが取れる見込みがあれば動くが、現状ではとても条件が整っていない」というものだった。つまり、これを額面通りに受取れば、興味がないということだが、ポーカーフェースだという人も多い。Ciscoは現在$50B(約5兆円)のキャッシュを持っていること、最近の決算内容はIntelやMicrosoft同様思わしくないことなどが理由だ。意外に水面下で交渉が進んでいるのかもしれない。

=この買収の意味するところ=
今後、このパートナー探しはどう決着するのだろう。現在、一歩リードしていると見られるCenturyLinkがパートナーとなるのか。はたまた、HPが巻き返すのか。Ciscoの裏ワザか。これ以外にも前回述べた幾つかの企業の秘密交渉もないわけではない。いずれにしても、前半戦は終わった。今はベストな条件を引き出す後半戦の真っただ中だ。この買収の決着によってはクラウド市場の今後の動きが変わる。筆者の個人的な意見だが、CenturyLinkが最良のパートナーだとは思い難い。この組み合わせから、Racspaceがこれまで見せてきた先進性やユーザセントリックな戦略が加速されるだろうか。できれば、資金力があり、インフラやグローバル展開などの力を持った大きな傘のもとで自由に戦わせてみたい。ただ、これはヘッジファンドも絡んだマネーゲームでもある。

2014年9月10日水曜日

OpenStack最強SI軍団のMirantis! -Cloud OS-2-

=Mirantisという会社= 
Mirantis、日本では馴染みがないがOpenStackの最強SI軍団である。
久しぶりに車を走らせMountain Viewに向かう。該社の道の向かいはHonda Research Instituteだ。Mirantisは社員数約520名、ほとんどがエンジニア。ここシリコンバレーには顧客対応のフロントエンジニアが多く、エンジニアリングのバックオフィスはロシアとウクライナにある。彼らのOpenStackに賭ける意気込みは大したものだ。

OpenStackの次期版Junoにおける企業別貢献度は、トップがHP(21%)、2番はRed Hat(16%)、そして3番手Mirantis(12%)、4番はRackspace(10%)だ。大手に伍して大健闘である。これだけではない。同社の共同設立者で現在会長のAlex Freedland氏と、同じく共同設立者でありCMO (Chief Marketing Officer)のBoris Renski氏の2人はOpenStack Foundationのボードメンバだ。こうした努力で力をつけ、SIビジネスの信用を得てきた。

=Mirantis OpenStackの強み!=
ともかく、同社は徹底したOpenStack企業だ。その力はOpenStackのコンサルから教育・構築支援までをフルカバーする。企業がOpenStackを導入しようとする際、躊躇する点は2つ。ひとつはこれまでのエンタープライズシステム同様の開発運用が出来るかという不安。もうひとつはバージョンアップだ。OpenStackは成長途上にあり、さらにコンポーネントが多岐にわたるため、一般企業のIT部門には負担が大きい。ここにSuSEやUbuntu、Red Hat、HPがディストリビューションを手掛ける理由がある。しかしそれだけでは十分ではない。実はデプロイメントが厄介なのだ。同社はOpenStackをコアに独自開発のFuelを用意し、さらに3rdパーティなどのドライバやプラグインを加えたディストリビューションMirantis OpenStack(最新版5.0)を整備。これを顧客にコンサルティングと共に提供している。OpenStackには運用管理のダッシュボードHorizonがあるが、FuelはOpenStackの各種設定などのデプロイメントを自動化する。これを利用すれば初期設定はあっという間に終わり、しかも内部的に自動チェックが行われて正確に出来てしまう。またFuelにはOpenStackデプロイ後や運用時にも使うことのできるHealth Check機能も備えている。

=Ciscoの考え方とWebEx Cloudの事例=
Renski氏は同社がこれまで手掛けてきたOpenStack関連作業は100社に近いと言う。中でも特筆はCiscoとの協調関係だ。Cisco傘下のWebExの切り替えは勿論彼らの仕事。Webカンファレンスシステムは今でこそ多様化されたが、WebExこそ市場を切り開いてきた元祖である。このムーブメントを仕切ったのはCiscoクラウド部門CTOのLew Tucker氏だ。氏はクラウドの世界では有名な人物だ。Sunから当時まだASPと呼ばれていたSalesforceに移り、衰退気味の同社CRMにアプリケーションのマーケットプレイスAppExchangeを考え出して見事に復活させた。その後、Sunに戻りSun OpenCloudを指揮。SunのOracle買収後、しばらくしてCiscoのクラウド責任者として迎えられた。また現在、Tucker氏はOpenStack FoundationのボードVice Chairとしても活動し、Mirantisの2人とは昵懇の仲である。この活動を通して、CiscoがMirantisとの関係を築いてきたことは想像に難くない。個人的なことだが、以前からTucker氏のことは好きだった。カンファレンスで何度も彼の話を聞く度に、彼が見ている技術の先、そして広さに関心した。特にSunのOpenCloud時代の彼のビジョンと今のOpenStackが重なって見えるから不思議だ。以下のビデオではCisco ONEの考え方、そのベースとなるOpenStack、さらにWebExの適用事例を見ることが出来る。

                                                     
=PayPal、そしてeBayの場合=
OpenStackに乗り換えた企業の中でPayPalの場合も参考になる。PayPalは知っての通り、TeslaとSpaceXを興したElon Musk氏が仲間と興した会社だ。その後、2002年、eBayに買収されて子会社となった。eBayの狙いはオークション取引の決済をPayPalで行うもので、この目論見は見事に成功。このため、2つはシステムとしても密接な関係にある。実際のところ、OpenStackプロジェクトがスタートしたのはPayPalが先だった。その後、両社のPlatform Operationが統合されて、共にOpenStack化に向かった。PayPalによるOpenStackプロジェクトの試行は2012年秋。限定されたアプリで6週間テストが行われ、その後パイロットシステムが動き出した。昨年4月からは複数センターへの展開、さらに開発やQA、管理用などのサブシステムをOpenStackに移行。現在、PayPalの全ワークロードの20%近くが新たなOpenStackプラットフォームで稼働しており、当面、80%まで引き上げる予定だ。


          
=成功の秘訣!=
OpenStackコミュニティは急拡大し、現在、約16,200人、世界138ヶ国から382社が参加している。これはLinux Foundationの 185社と比べ2倍に近い規模だ。Renski氏によると、ここベイエリアにはMirantis主導でOpenStackのトレーニングなどを行う約 2,000名のユーザグループもある。OpenStackビジネスの成功は人材だ。そのための人材育成には努力を惜しまない。そして自社エンジニアによるOpenStackプロジェクトへのコントリ ビューション。これらが上手く回りだせばユーザもついてくる。その経験から生み出されたFuelやコンサルティングサービス。これらはまさに理想的なeCo Systemとなった。これこそOpenStackビジネス成功の秘訣である。日本市場の開発も動き出した。