2010年9月23日木曜日

Novell Cloud Manager
                 -クラウドマネージメント(3)-

9月13日、NovellからCloud Managerの出荷が始まった。
これは 今年5月、マルチハイパーバイザーのクラウド管理ツールとして、欧州中近東、アフリカ向けBrainShare EMEA 2010でデモが披露されたものだ。Novell Cloud Managerは、より正確には昨年末にプリアナウンスがあったPlateSpinの機能追加プロジェクトAtlanticとBluestarがベースと なっている。

◆ 物理/仮想マシンを連携するPlateSpin
PlateSpin は2008年Novellが買収した会社で、それまでVMwareのパートナーとして、物理環境と論理環境を相互移動させる運用管理ツールを開発してい た。この製品は、任意の物理マシン上のソフトウェアをImage Archiveとしてマシンメージファイルに落とし、それを仮想マシンに移して実行する。当然だがこのような製品は、現在の仮想化やクラウ ドには欠かせない。少しPlateSpinを復習しよう。通常のシステム移行ではPhisical Server (物理マシン)からImage Archiveへ「P2I」で実行ファイルを確保し、それを「I2V」でVirtual Machine(仮想マシン)に移して実行する。直接「P2V」での実行も可能だが、転送するバンド幅や処理時間、本番テストなどを考えると「P2I」→ 「I2V」の流れが自然だ。PlateSpinには、多様な機能があるが、PlateSpin ReconPlateSpin Migrateがコア製品だ。Reconは物理マシンから仮想マシンへの移行情報を収集し て移行シナリオを描き出し、Migrateが前述のような実際のイメージファイル処理を実行する。

 登場したCloud Manager 1.0
今回リリースされた Cloud ManagerはPlateSpinによるシステム移行を受けて、その後のクラウド実行環境を運用管理する。対応する仮想化技術はXen、VMware、 そしてHyper-Vだ。KVMについては来年上期の予定だ。つまりマルチハイパーバイザー管理コンソールである。この分野ではEnomalyがやや先行しているがまだ実績に乏 しく、新しい市場(Cloud Management Solution)と言っていい。ユーザーはこれまでどの仮想化技術を使っているかで、運用管理も異なっていた。EnomalyやNovell Cloud Managerはこれまでの主戦場だった仮想化技術を抽象化し、ユーザーは仮想化技術を意識することなく、混在状態の運用管理が可能となる。


Cloud Managerは、コストを意識した実行仮想マシンのテンプレート作成にも威力を発揮する。まずアプリケーションを実行するには“Business Service”のテンプレートを作成する。その実行環境(CPU、Memory、Disk)となる情報は、逐一作成するのではなく、あらかじめ用意され た“Workload”カタログから適当なもの利用する。この際、必要があれば修正し、後はCloud Managerが自動的にLicenseの承認やAdminの許可を受けて仮想マシン上で実行する。Cloud Managerはテンプレート作成段階で、利用リソースのコスト見積もりはもちろん、多くのソフトウェアアプライアンスを揃え、それらのLicense /Utility費用も表示してくれる。


◆ クラウドライフサイクルのWorkload IQ
Cloud ManagerはNovellのProduct Portfolio全体からみるとWorkload IQの 一部である。このWorkload IQとは、ビルド(Build‐構築)→セキュア(Secure‐安全)→マネージ(Manage‐管理)→メジャー(Measure‐評価)の4つの分 野をカバーするクラウド・ライフサイクルとして整備が進められているも のだ。ビルド段階ではハイパーバイザーベースのSUSE、仮想マシン上の軽量JeOS、アプライアンス作成のSUSE StudioやAppliance Toolkit、ソフトウェア自動更新のNovell ZENworksなど、セキュア分野ではNovell ID/Access Manager、Access Governance Suite、Privileged User Managerなどを使用する。運用管理段階では、前述したPlateSpinとCloud Managerがセットとなって仮想環境とWorkloadを管理し、評価段階ではNovell SentinelやLog Managerが効果的だ。

こ うして、クラウドは初期の仮想化技術を抜け出した。
Cloud ManagerはXenやVMware、Hyper-V、KVMなどに捕らわれずにクラウドを運用管理し、さらにクラウドの構築/安全性/運用管理/評価 などライフサイクル化するところまできた。同様の傾向はマルチハイパーバイザーではないがクラウド運用管理のVMware Directorにもみることができるし、MicrosoftのSystem Center Virtual Machine ManagerではHyper-VとVMware環境が管理でき、来年投入の次期版ではCitrix XenServerにも対応する。いよいよ、本格的なクラウド時代の到来である。

参考記事: 実行環境管理のPlateSpin -クラウド運用管理2- 
       マルチハイパーバイザー管理コンソールのEnomaly

2010年9月14日火曜日

共通APIでクラウド連携を目指すDeltacloud 
                 -クラウドマネージメント(2)-

ApacheのDeltacloud Projectは、現在インキュベーションステージにある。
元はRed Hatが始めたものをApacheに寄贈したのが始まりだ。Deltacloudは2009年9月始めのRed Hat SummitでProject Hailと共に発表された。Hailはプログラミング言語やOSに依存しない可用性の高い分散コンピューティングを目指し、もうひとつの Deltacloudは現存する複数の有力クラウド間の差異を抽象化する。この2つによって、デベロッパーは真に自由になり、クラウド上でのアプリケー ション開発に専念することが出来る。

Apache Deltacloud Project
Red Hatの寄贈したDeltaCloudは今年5月に、プロジェクト準備となる“Incubation Stage”に入り、現在最終調整が進められている。DeltacloudのようにApacheには
ベンダーが開発した多くの案件が持ち込まれ る。Apacheでは、これらの中からオープンソースとしての有用性を判断し、且つ、既存Apacheプロジェクトとの関連、さらに大事なことは持ち込ん だベンダーの言い分だけでなく、競合相手などの異なる意見を聞き、その上でプロジェクトを興すかどうかを判断する。そして実行にあたっては、プロジェクト マネージメントとデベロッパーの構成が重要となる。一般にコードを持ち込んだベンダーが自社社員をそのまま提供するケースが多いが、これだけでは公平な作 業としてリスクがあるので他のデベロッパーの参加を募り、かつマネージメントは経験あるApacheメンバーから出す。こうしてプロジェクトの全景が描き 出せればスタートだ。


Deltacloudとは何か
さ てDeltacloudの仕組みを見てみよう。Deltacloudは既存クラウドを抽象化して、同一に扱えるようにする試みだ。そのためにデベロッパー には仮想マシンのスタート/ストップなどのREST APIを提供する。デベロッパーはこれらのAPIを使ってクラウドプロバイダーを意識することなく、仮想マシンの制御ができる。そして、それらのAPIは Amazonなどのクラウドプロバイダーが提供する本来のAPIに翻訳されて実行される。DeltacloudではRest APIからNative APIに変換するコンポーネントをドライバーという。

もちろんドライ バーの論理的な数は、対応するクラウドと制御動作の種類を乗じたものになるが、物理的にはどこまで束ねるかに依存する。現在のコードで対応しているクラウ ドはAmazon(Xen)、GoGrid(Xen)、OpenNebula(Xen/KVM)、Rackspace(Xen)、RHEV- M(KVM)、RimuHosting(Xen)、Terremark(VMware)、vCloud(VMware)の8種類だ。括弧内は採用している 仮想化技術であり、聞きなれないRimuHostingはオーストラリアのプロバイダーである。クラウドの制御機能はComputeとStorageに分 れ、ComputeではInstance(仮想マシン)のCreate(作成)、Start(起動)、Stop(停止)、Reboot、Destroy、 Hardware Profileなど9種類。Storageは当初のAmazon S3とRackspace CloudFilesに、Windows AzureとGoogle Storageが追加されることになった。ストレージのAPIは構造化された一般ファイルと、ストリーミングなどのの非構造化データを扱うBlobがあ る。


DeltaCloudをDMTFに標準化要請したRed Hatの思惑
さ てその後、2つの動きがあった。ひとつは今年6月末のRed Hat Summitで発表したCloud Foundationの続編だ。このCloud Foundationとは、パブリックやプライベートクラウド構築をツールからトレーニングまで総合的にサポートするプログラムで、これにはRed Hat Enterprise Virtualization(RHEV)やJBossなどが含まれていたが、さらにDeltacloudを加えるというものだ。そしてもうひとつは8月 27日、同社はDeltacloudをDMTF(Distributed Management Task Force)に標準化として申請し、Working Groupに参加すると発表した。

これら一連の動きを見ていると慌しい感じがする。
Red HatのKVM実装が正式に登場したのはちょうど1年前のRed Hat Summitだ。
このバージョンはRHEL 5.4だった。そして半年後の今年3月末にRHEL 5.5、さらに4月26日にはRHEL 6βをリリースした。事前の予告とおりこの6βにはKVMのみでXenは含まれていなかった。問題は何時RHEL 6が正式にリリースされるかである。というよりは、周りの環境整備がいつまでに揃い、先行するVMwareやCitrixと戦う体制になるかだ。そうでな ければ6だけ出してもユーザーはついて来ない。単純に製品だけみれば、要となるのは運用管理のRHEV-M(Red Hat Enterprise Virtualization Manager)だ。
しかし、これだけでは後発として何とも歯がゆい。VMware Infrastructure 3の数年前と同じだからだ。その後、VMwareは改良型のvSphare 4を出し、クラウド構築vCloudの整備、Spring FrameworkによるSalesforce(VMforce)やGoogle(Google App Engine Business Edition)との提携をものにしている。Citrixにしても、基軸のXenがXen 4になり、XenServer(サーバー仮想化)とXenCenter(運用管理)はXenServer 5.5から統合されて無償化となった。さらにXen Clientを発表し、XCP(Xen Could Platform)の開発も進んでいる。追う立場のRed HatにとってDeltacloudはだからこそ大事なのである。気がかりは、ApacheとDMTFへの対応だ。同社としては既にApacheプロジェ クト立ち上げの見通しが立ったとの判断から、DMTFへの標準化を申請したのであろうが、もう少し丁寧な取り組みが必要なようにも思う。いずれにしても RHEL 5のXenは2014年まで5年間サポートが続けられるので、それまでが勝負である。

2010年9月8日水曜日

IaaSプラットフォームCloud.comの選択

Cloud.com(旧VMOps)はSunでJVM(Java Virtual Machine)のリードデベロッパーだったSheng Liang氏が2008年に立ち上げたスタートアップだ。設立以来の社名はVMOps。Liang氏の経歴と社名、プリアナウンスなどからクラウド企業で あることはわかっていたが、詳細は解らずStealth Modeが続いていた。

◆ クラウド第1ステップへ(CloudStackの発表)
今年5月4日、Series Bの$11Mの資金(Series Aは$6.6M、これまでの合計$17.6M)を受け、社名もCloud.comに変更。そしてStealth Modeを抜けて、第1ステップへと踏み出した。CloudStackの発 表である。CloudStackはPrivateはもちろんPublicのIaaS構築のツールとして、Enterprise EditionとService Provider Edition、さらにCommunity Editionの3つがある。もっとも当面は、Open SourceのCommunity Editionを基本とし、次にEnterprise、そしてService Providverの順に開発を行う。Community版はUbuntuやFedora上で稼働し、仮想化技術はXenとKVMをサポートする。計画に よるとEnterpriseやService Provider版の仕組みはかなり大掛かりなもので、ゾーンと呼ばれる複数のサーバー群をIaaSプラットフォームとして含めることができる。このゾー ンはデータセンターと考えても良い。つまり、複数データセンターをひとつのクラウドとして管理することが出来る。さらにこれらのサーバー群を管理する Management Serverは主たるPrimaryとバックアップ用のSecondaryの設定が可能だ。

◆ クラウド第2ステップへ(OpenStackへの参加)
7月21日、Cloud.comは OpenStack initiativeへ参加すると発表した。 OpenStackの発表は7月19日、2日後のことである。CloudStackの目指すオープンソースのIaaSプラットフォームと、 Rackspaceが主導してNASA Ames Reseach Centerと組んだOpenStackは、ある意味では完全な競合関係にある。このプロジェクトではRackspaceのObjectベースのクラウド ストレージCloud FilesとAmes Research Centerが進めているMebulaのクラウドコンピュートNovaの採用が決まっており、9月から10月にかけて初期版がリリースされる。 RackspaceはAmazonに次いでクラウドでは第2位の実績があるし、NASAのNebulaは大掛かりなプロジェクトだ。問題は、 Cloud.comがOpenStackにどのように取り組むかである。同社によると、短期的にはRackspaceのObject StorageをCloudStackに採用し、併せてOpenStack APIも適用する。

◆ クラウド第3ステップへ(サクセスストーリーになれるか)
その後の中長期計画では、Cloud.comの影響力を拡大し、同社のユーザー に代わってOpenStackにコードの貢献をする。つまり、OpenStackにCloudStackのコードを提供して、Rackspaceと NASA Amesだけでなく、Cloud.comもコアメンバーになって、オープンソースIaaSプラットフォームの普及に尽力するというわけである。このストー リーを裏打ちするように、これまでのXen/KVM対応から、8月25日、VMwareのvSphere4のサポートも公表し、さらにAmazon Web ServicesやCitrix Cloud Center(C3)、VMware vCloudの各APIもサポートすると発表した。

◆ Amazon .vs. Rackspace
デベロッパーの一部は AmazonとRackspaceが対立関係にあることに気付いている。Amazonのサービスは機能的で優れているけれど、基本構造はモジュール型で、 これらは標準仕様ではなく、Proprietaryな感じを受ける。そして利用料金も決して廉くない。翻って、Rackspaceは低価格で仮想マシンを 提供し、その上では何もしない。つまり何の制約もなく、デベロッパーもISVも自由に仮想空間を利用できる。一方でIaaSの基盤となる Rackspace Cloud ServersとFilesのAPIを整備して公開してきた。これによって、iPhoneから仮想マシンを走らせたり、興味あるISVは Rackspace周りの製品整備を始めた。その上でServersとFilesのオープンソース化を実行し、より一層の普及のため、NASA Amesに協力を求めてOpenStackを組織化したという流れである。米国クラウド市場で1番のAmazonと2番のRackspaceの戦いは激し くなってきた。追うRackspaceの錦の御旗はOpenStackだ。現在プロジェクトに参加している30数社の動機はバラバラだが、 Cloud.comのように生き残りを賭けているところもあり、NASAの影響力も大きい。Nebulaプロジェクト独自開発のNovaが上手く動き出せ ば、Eucalyptusも危うくなる。それらを味方につけることが出来れば、状況は動きだす。

関連記事:連邦政府のクラウド推進計画(3)-Data.govからNASA Nebulaまで-

2010年9月1日水曜日

Private CloudのAmazonを狙うNimbula
                 -クラウドマネージメント(1)-

設立以来、ステルスモードだったNimbulaが動き出した。
この会社がどのような製品を出すのかずっと見守ってきた。というのは、この会社の創業者で現CEOのChris Pinkham氏と仲間のWillen van Biljon氏(現VPプロダクト担当)に注目していたからである。

◆ Amazonクラウドを考え出した男たちのStart-up!
今日のクラウドは、2006年、Amazonが発表したS3(2006/3)とEC2(2008/8)で始まった。そのクラウドを考え出したのはPinkham氏だ。氏は当時、AmazonのVPでGlobal IT Infrastructureの責任者だった。自分の担当する世界中のデータセンターのインフラを利用して新しいビジネスを提案したのがAWSである。Pinkham氏がEC2のグランドデザインをし、もうひとりのCristopher Brown氏が補佐、Willen van Biljon氏がプロダクト開発の責任者だった。しかし、Pinkhan氏とBiljon氏はAmazonを退社して、シリコンバレーにやってきた。そして2009年始め、2人がFounderとなってNimbulaを立ち上げた。最初の資金$5.75MはSequoia CapitalとVMwareから出た。その後、Accel Partnerも参加、現在のBoard Memberはこの2人とVC2社、そして何と元VMware CEOだったDiane Green女史である。設立以来、NimbulaはまったくのStealth Modeが続いた。突然の発表は6月23日、出てきた製品はProvate Cloudインフラを制御するNimbula Director(以下、Nimbula)”だ。

◆ Cloud OSとなるか、Nimbula Director
大手企業では、クラウドが費用削減などで効果があることは解っているが、運用管理の難しさが壁となってなかなか進まない。Nimbulaは、このような状況を解決し、Amazonのようなクラウドをプライベートとして容易に管理することを目指している。そのため、Nimbulaでは、固有の仮想化技術や物理的な構造(Physical View)を抽象化(Abstract View)し、その上で、それらを管理する手段として、APIやWeb Interface、Command Line Interfaceを提供している。これによって、AdminやUserはWeb Interface/Command Lineのどちらでも利用ができるし、さらにSoftwareへの組込みも可能となっている。現在のβ版では仮想化のXenとKVM対応し(VMwareは未定)、Nimbulaがこれらの総合的にリソースを管理する。将来的にはNimbulaの用意するFederation経由で外部EC2などもリソース管理の対象となる模様だ。仮想マシンの扱いは、PolicyベースのWorkload Managementが担当し、マシンイメージは基本的にOVFとなる。


このようにNimbula Directorを調べてみると、そのポジションが気にかかる。
この分野には、以前、このブログで紹介した「管理コンソール」のEnomalyのようなものから、vSphere4やWindows Azure Platform などの「Cloud OS」がある。個人的な見解だが、2つの違いは、後者が自社製品のみ(VMwareやMicrosoft)を適用対象とするのに対して、前者はそうでなく並列に扱い、かつ、彼らが提供するシステム運用部分を補完している。その意味では、NimbulaもEnomalyの管理コンソールに近い製品だ。ただ、Cloud OSの定義も定かではないし、同社がNimbula DirectorをCloud OSを目指すと主張していることから、ともあれ、今後の動きに要注意だ。現在、全世界で6社がβ版のテスト中、正式出荷は今年下期が予定である。

参考記事:マルチハイパーバイザー管理コンソールのEnomaly