2017年7月17日月曜日

AutoTech(26) New Audi A8のLevel-3は本物か! 
        -Audi AI traffic jam pilot-

7月11日、独AudiからNew Audi A8が出た。
発表の目玉は世界初のLevel-3オートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)である。タイトルで「New Audi A8のLevel-3は本物か!」とやや懐疑的に表現したのは、Level-3にはかなりの幅があるからだ。実際のところ、New Audi A8は中央分離帯のある自動車専用道のレーン内を時速60Km(37mph)までで渋滞走行が自動でできる。このことだけを捉えれば、Tesla Model-Sは勿論、昨年夏にでた日産セレナだって、前方車両との車間距離を保つ追従運転はできる。 しかし、New Audi A8の凄いところは、運転の主体が人間から車に移ったことである。

=Level-3とは何か!=
自動車や航空宇宙関連の標準規格団体であるSAE Internationalの規格は6段階で、Level-0 :No Automation、Level-1 :Driver Assistance、Level-2 :Partial Automationとなって、ここまでは運転車の責任(Human Driver Monitors Driving Environment)が問われている。しかし、Level-3 :Conditional AutomationやLevel-4 :High Automation、さらに完全な自動運転のLevel-5 :Full Automationになると、ドライバーではなく、車自体が主体責任(Automated Driving System Monitors Driving Environment) を負うと定められている。この差は大きい。同じフリーウェイの自動追従運転でも、Level-2までは天候や時間条件が悪ければ、これまで通りドライバーが行う。しかし、Level-3となると、雨や雪、夜間などでも基本的には車が総合的に運転しなければならないからだ。

=New Audi A8の装備!=
この違いを装備面で見てみよう。
まず、Tesla Model-Sの自動運転AutoPilotでは、車前方にミリ波レーダー、カメラはバックミラーの裏側などに8つ、前後のバンパー周りには超音波センサーが各々6つ、合計12装備されている。そして、AIのエンジンボードはNVIDIA Drive PX2だ。日産セレナのProPilotでは、360°ビューを確保する8つのカメラ、そして小型レーザースキャナーが1つ、AIボードは独自仕様と思われるADAS ECUだ。ここで、大事なことは、両社に共通する基本技術はイスラエルのMobilEyeのものである。つまり、レーダーなどは使わずバックミラー裏の単眼カメラの画像から前方車両との距離を計測する。このための画像処理プログラムを高速化するエンジンがEyeQチップだ。しかしTeslaとMobilEyeは昨年5月のフロリダでの死亡事故を境に関係を断ち、以降、Teslaは独自開発となっている。

さて、New Audi A8の装備はどうなっているのだろうか。
まず前部だ。前部バンパー下にはLaser Scannerを搭載し、その両横には超音波センサー、さらに中央には遠方の車との車間を測る長距離ミリ波レーダー、そして車の前方両横には中距離コーナーレーダーまである。後部には、中距離レーダーと超音波センサーが左右にあり、カメラは360°ビュー用に車の前後と左右のフェンダーミラーに組み込まれている。もうひとつ、バックミラーの裏側にはフロントカメラがある。そしてAIエンジンとなるのは、Central Driver Assistance Controller(zFAS)だ。zFASには、360°ビューカメラ処理のNVIDIA Tegra K1、走行レーンや信号機・歩行者などを認識するMobilEye EyeQ3、対象物やマップの解析・パーキングパイロットなどのAltera Cyclone、トラフィックジャムパイロット用Infineon Aurixがマウントされている。(MobilEyeとAlteraはIntelに買収されている)
Laser Scannerについては、もう少し情報がある。
これは下図の形状から、独Continentalと組んだ仏Valeo製だと思われる。レーザーユニット上部の左側にレーザー発光器があり、右側にはその光を拡散させる回転ミラーがある。750rpmだ。これよって得られるスキャン幅は145°とかなり広い。ユニットの下部は、はね返って戻って来たレーザーの受信部だ。そして、下部の右横には車載LANのFlexRayのコネクターが見える。さらにこの車載LANには人間の神経系のように隅々まで自動運転のためのワイヤーが張り巡らされている。

=Audi AI traffic jam 、parking and garage pilot=
New Audi A8の自動運転システムは、機能ごとに名称が異なる。
前述のフリーウェイでの追従運転はAudi AI traffic jam pilotだ。parking pilotでは超音波センサーや360°カメラ、garage pilotではLaser Scannerも使って、スマホの専用アプリからの指示でバックからの駐車や車庫入れまでこなしてくれる。

こうしてNew Audi A8はLevel-2からLevel-3の間に横たわっていた谷を越えた。
自動運転のための主要なコンポーネントは 、一部が故障しても継続できる冗長度のある構成だ。Level-3の車は出来た。しかし、別な問題がある。
運転の主体が車に代わったことによる法的な問題だ。交通法規や保険など、これらは導入する国によって異なる。開発国のドイツでも現在車体機能の最終審査中だ。この認可を受けて初めて、Audi AI traffic jam pilotを使うことが出来る。まだ道のりは遠いが、New Audi A8が新たな世界を切り開こうとしていることだけは確かである。

2017年7月3日月曜日

AutoTech(25) 夢をかなえたGoogle Carは次世代へ! 
             -ホタル(Firefly)はもう飛ばない-

Google Carのプロトモデルの時代が終わろうとしている。
2009年から始まったGoogle Self-Driving Car Projectでは、当初、プリウスなど市販車にLiDARを乗せて実験をしていた。しかし、もっと夢を感じさせる車が欲しい。そして誕生したのが現在のプロトモデルだ。デザインしたのはYooJung Ahn女史。女史は2012年、Google入社。それまではコンシューマ製品を手掛けるインダストリアルデザイナーだった。デザインチームが動き出したのは2013年。彼女はFortuneのインタビューで、仲間とのブレーンストーミングがら「ソファーに座っているだけで、行きたいところに行ける車、それがGoogle Carなのだ」と気づいたという。そして、それはポストイット(Post It)で作ったオリガミ(下図)となった。

Source:Waymo Blog
木枠を作り、実際に座ってみたり、車は少しずつ形を整え、オリガミは現実となった。 子供の好きなゼリーのガムドロップのようなデザイン、こんなシンプルな可愛い車に幾つものセンサーを使ったAIが搭載されて、何処へでも連れて行ってくれる。彼女の豊かな才能がついに夢を現実のものにした。チームは愛情を込めて、この車のニックネームをホタル(Firefly)と決めた。

実際にホタルを組み上げたのはデトロイト郊外のRoush Enterpriseという会社だ。部品の多くはドイツのBoschやZF Group、Continentalなどから、EV用バッテリーはLG製だと聞く。ゼロからオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)を作ることによって得られたことは多かった。例えば、ホタルの屋根に取り付けられるLiDARは、たったひとつで360°をカバーできる。周囲の視界に対して、完璧な位置を提供できるデザインだからだ。勿論、ホタルにはハンドルもアクセルやブレーキペダルもない。目指すはLevel-4。あるのは、2人乗りシートの間にあるスタートボタン(白)と緊急停止ボタン(赤)だけである。
2014年からの公道テストで、ホタルはすぐにシリコンバレーの人気者になった。
さらに、翌年にはテキサス州オースティンでも公道実験を開始。特にニュースで注目されたのは、前サンタクララ盲人センター長Steve Mahan氏を単独ドライブに招待したことだ。何回かのトライアル後、2015年12月には、誰も介添えを伴うことなく、氏はオースティンの町のドライブを満喫した。


2016年、ホタルは国際的なプロダクトデザイン賞Red Dot Awardを受賞した。 
彼女とホタルが一番輝いた日である。同じ年の12月、Googleの親会社AlphabetはGoogle Carの事業会社としてWaymoを設立した。新会社のプレス向け説明の中で、Googleは自身ではもう車を作らないことを示唆した。その代わりとなったのが、同年5月に契約したFCA(Fiat Chrysler Automobile)のPacifica Minivan Hybridである。この車のオートノマスビークル化でも彼女のデザインは際立った。大きなミニバンは3列の7人乗り(2/2/3)。とてもひとつのLiDARだけではカバーできない。Googleはこの車のためにカスタムビルドのLiDARを2種開発し、それらを搭載したミニバン、100台が完成した。今年初めからのテストは良好で、現在、アリゾナ州フェニックスで一般市民向けのEarly Rider Programが実施されている。そして、さらなる飛躍に向けて、Waymoは4月に500台をFACに追加発注し、5月には全米第2位のライドシェアリングLiftと提携、これはトライアル運用の拡大を目指したものと思われる。6月になると、今度は、レンタカー会社Avis Budget GroupとPacificaなどの車の保守管理契約を交わした。(詳細: Waymoは新境地を見出せるか!-シェアードビジネスへの進出- 

 


こうして、ホタルは役目を終えた。
シリコンバレーのコンピュータミュージアムではホタルの展示が始まった。この夏にはフェニックスのArizona Science Center、秋にはSteve Mahan氏の運転2周年を祝ってオースティンのThe Thinkery、さらに、ロンドンのDesign Museumでも展示が計画されている。これがホタルの最後の旅である。