2009年9月29日火曜日

連邦政府のクラウド推進計画(2)
-NISTクラウド定義とGSAの要求仕様-

前回の続きとして、今回は一般調達局GSA(General Services Administration)が採用したNISTの定義とクラウド調達のための要求仕様について纏めてみた。

Federal Cloud Computing Initiativeが採用したクラウドとは国立標準技術研究所NIST(National Institute of Standards and Technology)が定義したものだ。

Definition of Cloud Computing:

Cloud computing is a model for enabling convenient, on-demand network access to a shared pool of configurable computing resources (e.g., networks, servers, storage, applications, and services) that can be rapidly provisioned and released with minimal management effort or service provider interaction.


<要約>
クラウドコンピューティングとは、共用プールにある構成可能なコンピューティング資源(ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービスなど)をオンデマンドで利用し、最小限の管理努力やサービスプロバイダーとのやり取りで、迅速に供給できるモデルである。


さらに定義の補足として、 ①主たる特徴、②サービスモデル、③適用モデルについて説明がある。


<主たる特徴(Essential Characteristics)>
  1. On-Demand Service- オンデマンドサービスであること。
  2. Ubiquitous Network Access- どのような機器からもネットワークアクセスが出来ること。
  3. Location Independent Resource Pooling- 位置依存のない資源プールであること。 
  4. Rapidly Elasticity- 迅速で融通性があること。
  5. Measured Service- 利用料払いのサービスであること。

<サービスモデル(Service Models)>

NISTのサービスモデルとは、クラウドの利用ユーザーに提供する3つ(IaaS/PaaS/SaaS)の形態を指すが、一般調達局GSA(General Services Administration)では、これをApps.govに重ね合わせ、デリバリーモデルとして下図のように描き出した。まず、ク ラウドサービスの基本となるIaaSでは、WebサーバーベースのWebアプリケーションが動くこと、サーバーのホスティングが出来ること、その上 で仮想マシンとオンライン・ストレージの提供が出来ること、また高速コンテンツ配信のCDN(Content Delivery Network)も条件となっている。PaaSでは簡易型データベースや本格的なDBMS (Data Base Management System)が動き、開発やテストツールがあること、そしてディレクトリーサービスも必要だ。SaaSは、さらに3つに区分、①市民向け (Citizen Engagement)には政府機関の情報開示サイトやWiki/ ソシアルネットワークの提供、②職員向け生産性向上(Gov Productivity)ではクラウドベースのツール提供、そして③基幹業務(Gov Enterprise Application)では窓口業務(Business Service)やミッションクリティカル業務が実行できること。


<適用モデル(Deployment Models)>

さ て、適用されるクラウドシステムとは何か、これもNISTの補足をもとにGSAが作成した下図をみるとイメージがはっきりする。まず、①パブリッククラウド(Public Cloud)は、汎用的なものが通常だが、それ以外にクラウドサービスを使った業界内(Industry Group)で共同利用するタイプのものもある。つまり、メンバー制のパブリッククラウドと言ったら良いだろうか。②プライベートクラウド (Private Cloud)は、まさにその組織によって運営されるものだ。そして ③コミュニティークラウド(Community Cloud)というのも定義されている。これは課題を共有する特定コミュニティーで、幾つかの組織が共同で利用するものだ。最後が ④ハイブリッドクラウド(Hybrid Cloud)。これは固有目的を持った企業や組織が、2つ以上のクラウドを標準や固有技術で束ね、データやアプリケーションの移動性(Portability)を確保しながら運用するものである。

これらの整理を見ると、連邦政府のクラウドコンピューティングとは、単 なるパブリックやプライベートクラウドだけでなく、政府機関と産業業界などが連携するメンバー制の準パブリッククラウドや、目的別コミュニティーと政府機 関が共同歩調を採るコミュニティークラウドなども考えられているようだ。

GSAは、これらの作業をベースに、Apps.gov向けのクラウドサービス調達のため、Federal Cloud Computing Initiativeと連携し、下図のような要求仕様を作成した。


この仕様は良く出来ている。
最下段はクラウドサービスに共通した機能(Cloud Service Delivery Capability)であり、その上に、クラウドのコアサービス(Cloud Core Services)のIaaS/PaaS/SaaSがある。また、このコアサービス領域には、3つのサービス形態とは別に「アプリケーション統合 (Application Integration)」、「ユーザー/管理者ポータル(User/Admin Portal)」、「報告と分析(Reporting & Analytics)」など共通のツールが含まれる。最下段のデリバリー機能には、「計算センター設備(Data Center Facility)」は勿論、「セキュリティーとデータ・プライバシー (Security & Data Privacy)」、「サービス管理とプロビジョニング(Service Mgmt & Provisioning)」への配慮が条件だ。


こ うして連邦政府のCIOが旗を振るFederal Cloud Computing InitiativeとGSAが一体となって、連邦政府のクラウドが走り出した。その走りは早い。すでに幾つかのアプリケーションが動き出し、近々、外部のパブリッククラウドの使用が始まる。11月にはそのプライベート化、来年6月からはミッションクリティカルなプライベートクラウドも動き出す。民間だけでなく、政府機関が動くようになれば、この流れは本物である。

2009年9月22日火曜日

連邦政府のクラウド推進計画(1)
-Federal Cloud Computing Initiative-

連邦政府のクラウド計画が動き出した。
その内容をシリコンバレーのNASA Ames研究所で発表したのは連邦政府のCIO(兼ホワイトハウスCTO)となったVivek Kundra氏だ。氏はこの発表は連邦政府の各機関が本格的にクラウドに取り組む「Federal Cloud Computing Initiative」の第1歩だとし、実際に2010年度予算でコミットされる。最初に手掛ける大きな仕事はITインフラ-ITI (IT Infrastructure)-だ。氏によると、政府系のITシステムは組織間の業務重複が多く、さらに、例えば、国土安全保障省 (Department of Homeland Security)だけで23のデータセンターを抱え、その維持に多くの費用が費やされている。結果、年間約700億㌦($70B)の連邦政府総IT予算 のうち、約190億㌦($19B)がインフラ維持費となり、クラウド利用によって、この部分の大幅なコスト削減が可能だと訴えた。


◆ITインフラの統合と仮想化

Federal Cloud Computing Initiativeとは、Federal CIOのもとにオバマ政権のイニシアティブとして組織化されたものだ。CIOのKundra氏はe-Government(電子政府)のリーダーであり、 Office of Management & Budget(予算管理局)のこの分野の責任者でもある。氏の指揮のもと、イニシアティブにはCloud Computing Executive Steering Committee(ESC)とCloud Computing Advisory Council(AC)があり、ESCが戦略を立案し、ACが計画を設計する。描き出された戦略目標はITIの「統合(Consolidation)と仮 想化(Virtualization)」だ。米国では、現在、e-Governmentの近代化として、サービスベースの環境整備を進めているが、 これらをより迅速に展開し、かつコスト削減を可能とする手段がクラウド化である。ACの計画では、クラウドを利用したITIのビジョンを確立し、さらに23の省庁を対象に重複作業排除のための共通ソリューションの選定やコラボレーションを推進する。


初期クラウド(フェーズ1・・・後述)は連邦政府が構築するのではなく、外部のプロバイダーから調達する。5月13日、このクラウドに関するに事前情報請求RFI(Request For Information)-下図-が連邦政府との取引促進サイトFedBizOpps.govに 掲載、請求締め切りは5月26日となった。6月1日には、国立標準技術研究所NIST(National Institute of Standards and Technology)からクラウドの標準仕様が発表、連邦政府のクラウドはこの仕様を採用する。そして、7月30日、NIST仕様に準拠した IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)のうち、IaaSの提案見積もりRFQ(Request For Quotation)が出された。


◆ 連邦政府のクラウドの仕組み-Cloud Computing StoreFront

  IaaS仕様のRFQをみると、連邦政府は外部のIaaSプロバイダー数社を選定する。IaaSとして期待する機能は3つ。①仮想マシンによるComputing、②クラウドストレージStorage、③WebホスティングなどのApplication Hostingだ。その上で、連邦政府の一般調達局GSA(General Services Administration)が利用者となる各政府系機関にStoreFrontとなるポータルを提供する。このポータルを通して、①利用機関は3つのIaaSが提供する機能購入を問い合わせる。これに対し、②ポータルは、あらかじめIaaSプロバイダーと取り決めたサービスから問い合わせに適合するものを選び出して回答する。その結果、利用機関のIaaSサービス購入が決まると、③ポータルはIaaSプロバイ ダーと利用者間の取引を成立させ、その後は、④利用者は直接プロバイダーのサービスにアクセスが可能となる。

◆ 登場したApps.gov

今回の要求書はIaaSだけだが、実施の計画は、それだけでなく、より詳細だ。
フェー ズプラン(下図)によれば、計画は3つに分れ、すべてにIaaS、PaaS、SaaSが含まれる。フェーズ1(2009/8-10)では、軽量のコラボ レーションや生産性向上ツール、そして基礎インフラを提供。この目的のために登場したサイトが、この日(9/15)発表されたGSAの運用によるApps.govだ。つまり、StoreFrontとなるサイトがApps.govである。


フェー ズ1で提供されるサービスは、①Business Apps、②Productivity Apps、③Cloud IT Services、④Social Media Appsの4つの分野だ。ここでCloud IT Servicesが外部パブリック利用にあたるものだが、現在は下図のように近々提供(Coming soon)となっている。


個 々の分野では、実証済みの商用アプリケーションサービスが価格と共に一覧出来る(下図-Business Apps)。このところ政府系機関に力を入れているCRMのSalesforceもBusiness Appsに登録されているし、Social Mediaには、オープンソースのBlogツールWordPressやドキュメント共有のScribd、さらにFacebookやMySpace、 Flickrなどもある。これらのアプリケーションは一部がSaaSサービスであり、他はWebアプリケーションだ。


フェー ズ2(2009/11-2010/2)では、パブリッククラウドだけでなく、プライベートクラウドの外部委託やSaaSアプリケーションなどの拡充、そし てフェーズ3(2010/3-6)からは一部、プライベートクラウドの導入が始まり、連邦政府のクラウドはハイブリッドとなり、以降、本格的なミッション クリティカルなクラウド化が予定されている。


ついに、連邦政府のクラウドが動き出した。
そしてその計画のスピードは、大方の予想より早い。
発表と同時に、かなりの量のアプリケーションが投入された。しかも商用サービスからオープンソースまでと多様だ。推進計画の3つのフェーズを見ても、初期 (フェーズ1)は職員の慣れと早期導入を優先してパブリッククラウドを利用、その後はプライベートの導入、そしてハイブリッドへと進み、どのフェーズでも IaaS、PaaS、SaaSが段階に合わせて提供される。民間企業でのクラウド化が進み始めた現在、この連邦政府の推進計画で、クラウドは一気に急拡大 しそうな雲行きとなってきた。

2009年9月17日木曜日

クラウドは本物となるか

クラウドコンピューティングとは何か、今や知らない人はいない。
しかし、クラウドは、今後、安定的な成長をたどるのだろうか。新しい技術が世の中に浸透するには時間がかかる。そして何よりも普及には波がある。その波を越さなければ、本物とはならない。そこで関連する話題を2つ。

◆ Crossing the Chasm(裂け目を越える!)

最初の話題は、ここシリコンバレーで有名なマーケティングの教科書「Crossing the Chasm」によるもの。著者であるJeffry Moore氏の理論では、ひとつの技術が市場で成功を収めるには、幾つかの裂け目を超えなければならない。氏は市 場を構成する顧客層を幾つかに分け、セグメント毎の対応が必要だと説く。裂け目とは、そのセグメント間の溝である。典型的な区分けは3つ。まず、新しい技 術に貪欲ですぐに使いたがる人たち、次が主力となる市場の人たち、最後は何事にも慎重な保守的な人たちだ。つまり、早いもの好きの初期市場、一般市場、保 守的な後期市場があり、その間の裂け目を超えるには、自然の流れに任せるのではなく、マーケティングの力がポイントとなる。下図は某調査会社のデータを氏 の理論に重ね合わせたものだが、クラウドは現在、初期市場から主力市場への裂け目を超えつつある。そして順調に行けば、この3年で一般市場を登りつめ、完 全な普及期となる。

そのためのポイントは何か。
Amazonなどのパブリッククラウドを初期と見立てると、初期市場の早いもの好 きはデベロッパーだった。彼らの評価努力とプロバイダーへのフィードバックのエコサイクルによって、クラウドは成長してきた。このような動きはテクノロ ジーを後押しするマーケティング活動としての側面がある。
さてクラウド市場の一般市場とは何か。これは間違いなく、エンタープライス市場である。 IBMのSmart Business、MicrosoftのAzure、SunのOpen Platformなどが企業ユーザーに受け入れられるかがキーとなる。これらが無事、浸透し始めればクラウドは本物となる。クラウドの第2幕は役者が変わ り、所謂、大手ITベンダーだ。彼らがAmazonやGoogleと同じエコサイクルを企業IT部門との間で作ることが出来るかがポイントである。



◆ Hype Cycle for Emerging Technologies (ハイプサイクルで先進技術を見る!)

Hype Cycleとは、テクノロジーやアプリケーションの成熟過程と市場への影響を分析するために、1995年、Gartnerが考え出した手法だ。この方法で は、技術浸透のライフサイクルを5段階-「テクノロジーの黎明期(Technology Trigger)」「過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)」「幻滅期(Trough of Disillusionment)」「啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)」「安定的な生産期(Plateau of Productivity)」-に分けて分析する。つまり、新技術は浸透するまで、その技術の良さを見つけてくれるセグメントが異なるので、黎明期から期 待過剰へ、ある物は幻滅されて消滅し、ある物は啓蒙活動を経て安定的な普及となる。別な表現をすると、新らしい技術は、デビュー後、メディアなどでその興 奮がピークに達し、しばらくして、実態が解ると幻滅の谷に突き落とされる。しかしながら、ある物は、市場の反応から学び、改良を加え、今度はより堅実な形 で再認識される。こうなれば認知度もあがり、安定的な状況となる。

さて、発表された2008年と2009年のHype Cycleだが、ここでクラウドに注目しよう。
図からわかるように昨年度(2008年)は、黎明期の最終段階だ。そして今年は、まさに過剰期待のピークにある。この後、幻滅の谷に突き落とされて消滅するのか、再度、啓蒙活動のスロープを登り始めるのか、全ては今後の動きにかかっている。




2つ分析から「クラウドが本物となるか?」は、これからの対応次第だということだ。
ここまで順調以上に進んできたクラウドは、この分析でも次の波が待っている。これまで技術の出し手はパブリッククラウドを推進してきたAmazonや Googleなどのニューカマーだった。これらはITベンダーの手に委ねられる。エンタープライズ市場でプライベートクラウドが花開くかにかかっている。

2009年9月5日土曜日

VMwareの野望が見えた -vCloud Express-

VMworld 2009(8/31~9/3)が終わった。
今にして思えば、昨年CEO就任直後のPaul Maritz氏の説明したVOS(Virtual Datacenter OS)は、vSphere 4の前ぶれだけでなく、仮想化技術そのものの競争が終わり、システム運用など周辺整備の時代に入ったことを意味していた。そして製品面のVOSだけでなく、もうひとつ、マーケティング面で重要な発表があった。データセンター攻略のvCloud Initiativeだ。同社によるとFoutune 1000社でVMwareを使用していない企業はたった30社だと主張している。つまり、エンタープライズ市場の戦いはカタがついた。今度はデータセンター市場の押さえに入るという宣言であった。

◆セルフプロビジョニングのvCloud Express

今年のカンファレンスのテーマは、その実践である。
そのための製品がデータセンター市場向けvCloud Expressだ。vSphere 4を5月に出荷し、主にデータセンター市場に送り込んだ。Maritz氏は、キーノートで大手キャリアのAT&TやVerizon、さらにはデータセンターのSAVVISを壇上に招き上げ、すっかりvSphere 4が定着していることを強調。そしてTerremark Worldwideが登壇し、同社は今回VMwareが発表したvCloud Expressのデモを披露した。この製品はクラウドプロバイダー用に用意したもので、ユーザーがセルフオペレーションで仮想マシンのプロビジョニングができるPortalである。AmzonでいうなればRightScaleのようなものだ。ブラウザー利用のTerremark vCloud Expressには「Resource」「Server」「Network」のボタンがあり、「Resource」ボタンでは、上段に「Compute」「Storage」「Bandwidth」のメータリング表示がある。「Compute」では何台の仮想マシンでどの程度のメモリー容量で幾つのサーバーが動いているか、「Storage」は何GBか、「Bandwidth」は何MB使用しているかが一目瞭然だ。その下にはPublic IP/ServerごとにTaskの開始/完了/ステータスなどの詳細が表示されている。


次に「Server」ボタンでは、Server作成、複数階層のServerグループ作成、各々のServerの各種設定、さらにはVPN接続の設定が出来る。最後の「Network」ボタンは、Internet ServiceとSecurity Serviceのもので、Internet ServiceではPublic IPとServerのマッピング、Security ServiceではFirewallルールなどの設定が可能だ。


このように、このvCloud Expressを使えばユーザーは簡単に仮想マシンのプロビジョニングが出来る。ユーザー企業は自分で必要な仮想マシンを管理し、プロバイダーのデータセンターはシステム全体を管理する。

◆低価格でAmazonを追う

今のところ、このvCloud Expressを使用してパブリッククラウドの運営を開始(β版)したのはTerremark を筆頭に、BlueLockHosting.com、豪melbourneIT、英Logicaの5社である。Terremark(2008年度売上げ$250.5M)は既報(VMwareがパブリッククラウド進出に意欲)のようにVMwareが投資をした企業で、どう見てもこの会社をモデルにしたいようだ。米大手データセンターのうち、最大のSAVVIS (2008年度売上げ$857M)はVMware製品を使いながらも今回はvCloud Express採用には踏み込まなかった。個性的なRackSpace(昨年度売上げ$143.1M)もMossoを買収して独自のクラウドビネスを展開する。今後、他のホスティング会社がどのようにVMwareについてくるか注目に値する。

さて、利用料金はどうなっているのだろうか。
ユーザーはvCloud ExpressのMy Accountボタンからはビリング情報が閲覧できる。


まずAmzon Web Service(以下AWS)だが、Smallインスタンスは1.0~1.2GHz相当のシングルコア機で1.7GBメモリーと160GBの論理ストレージが付いて料金はLinux系で10¢/時間だ。これに対してvCloud InitiativeのパートナーであるTerremarkでは1VP(Virtual Processor)に1.5GBメモリーで9¢/時間、0.5GBなら3.5¢/時間となり、Hosting.comの場合も1CPUにメモリーが1GBで6.8¢/時間、2GBだと12.3¢、0.5GBなら4.2¢となる。ここだけ見ると割安感があるが、AWSのインスタンスには論理ストレージが付くが、vCloudには無く、ストレージは全て有料となってAWSの外付けディスクEBS(Elastic Block Store)やS3だと思えば良い。ストレージ料金はTerremarkが25¢/GB/月、Hosting.comでは50¢/GB/月。AWSのS3では、最初の50TBまでが15¢/GB/月、それ以上は使用ストレージ容量が大きくなるにつけ割安となるが、データ転送やIO命令には別途料金がかかる。総合的に見ると、vCloudは価格的にやや低めであり、メニューもきめ細かく設定されている印象である。




◆vCloud APIをDMTFに標準化申請

もうひとつの注目はvCloud APIの提供だ。
このAPIは、VMware技術スタックで構築したプライベートクラウドと同じ技術基盤に立つパブリックプロバイダーのクラウド間で、vAppの運用を容易にするものだ。vAppは既報(データセンターを攻略するVMwareの戦略)のようにOVF(Open Virtual Format)をベースとし、ソフトウェアを仮想アプライアンスとしてパッケージ化するもので、このAPIを使えば、仮想アプライアンス群のカタログ管理やアップロード/ダウンロードなどが可能となる。カンファレンス会場での会話から、この件について、VMwareがパブリッククラウドを運用するAmazonやGoGrid、RackSpaceなどと協議している模様が伺えた。

ところで、この分野ではサンが既に仮想化で扱うリソースを制御するリソースモデル型のSun Cloud APIを発表している。サンのAPIはより広範囲にカバーするが、vCloud APIはそれに続くものだ。同社はこのAPIを標準とすべく、DMTF (Distributed Management Task Force)に申請した。今後はこの2つをDMTFがどのように扱うかに焦点が移る。


◆IaaSからPaaSへ

こうしてVMwareは単なる仮想化技術の会社からクラウド企業へ変貌しはじめた。
しかし、同社にはクラウドに関して、直接ユーザー企業をサポートする体力は無い。そこでvCloudのパートナーと組んで、サポートを確実にしながら、彼らのデータセンターを利用したIaaS(Infrastructure as a Service)に進出。次は同じ技術基盤上で、ISVや企業ユーザーが開発したアプリケーションをvAppでパッケージ化し、それをvCloud APIでコントロールする。つまり、企業ユーザーとデータセンターの仮想基盤を同一にすることによって、企業ユーザーやISVのアプリケーションをパブリッククラウドに誘致しようというわけだ。企業ユー ザーは、これまで新らしい業務の追加時には受け皿を用意し、または業務の繁忙時に合わせて大きなハードウェアを確保してきた。しかし、もう必要がない。そ れらのオーバーフロー分を同一基盤のvCloudパートナーのパブリッククラウドに任せればよい。そして新規アプリケーションはISVから提供されるvAppで簡単に使えるようになる。

さて、その次はどうなるのか。
これもはっきりしてきた。既報(VMwareが新規事業展開か-SpringSourceとCloud Foundryが傘下に-)のように同社はSpringSourceを買収、そのSpringはこれも既報(SpringによるHyperic買収の意味)のようにHypericを買収している。これらを利用し、vCloud Initiativeに参加するデータセンターとISV業界を引き連れてPaaS(Platform as a Service)に乗り出す筈だ。

この戦略が上手く行けば、企業ユーザーの仕事はデータセンターのクラウドに回ってくる。困るのはIBMなど自営システムを提供してきたベンダーだ。次なる戦いが始まる。

2009年9月3日木曜日

Citrix XenServerアップデート

仮想化技術競争が激化する中で、その鍵を握るCitrixが奮闘している気配だ。
そこで近況についてアップデートしよう。Citrixが XenSourceを2007年8月に買収し、たった半年後の翌2008年2月にXenServerとXenDesktopが登場した。その後の一進一退 から抜け出すために、同社は今年2月XenServerの無償化を発表、VMwareへ挑戦状を突きつけた。

7月末に発表された Citrixの2Q決算を見ると売上げは$393M(前年同期$392M)、純利益は米会計基準GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)で$43M(前年同期$35M)となって、この大不況下ではまずまずだった。内容的にはXenServerの無償化などでライセン ス売上げが下がり、逆にサービス売上げは増加、結果は均衡した格好だ。一方VMwareはどうかというと、2Q売上げは$456Mと前年同期比並みだが、 純利益はGAAPで前年同期比38%減の$38Mとなった。これらが通年に及ぶかは定かではないがCitrixの健闘が伺える。

◆無償のXenServerとVMware ESXiを比較する

さて無償となったXenServerとはどんな製品で、どのような戦略に沿ったものだろうか。この謎を解くには、これも無償のVMware ESXiとの比較が有効だ。
(MicrosoftからもHyper-V Server 2008が無償出荷されているがここでは対象としない)
下 図はCitrix提供のものだが、基本機能ではXenServerが64bit、ESXiは32bit、仮想CPU数はXenServerが8つ、 ESXiは4つ。物理マシンから仮想マシンへの移行に使うP2V (Physical to Virtual)や仮想マシン間移動のV2Vコンバータは両者同じ、SANやNASなどのストレージアクセスも同様だ。問題はそれ以降の項目だが、これら はシステム運用に係わるもので、VMwareでいうならばvCenterの機能の一部に該当する。つまり、同じ無償でもESXiは導入実験用であり、これ だけでは本番運用は出来ない。運用に関するvCenterやvSphere 4は有償というわけだ。そこでVMwareの独占市場に割って入るには、仮想化だけでなく、システム運用の一部もXenServerとして無償提供し、大 掛かりではないが本番利用に使って貰おうというのがCitrixの戦略だ。


◆XenServer 5.5が登場

そ の後、6月中旬、Citrixはこの無償提供版の運用管理をさらに強化しXenServer 5.5としてリリース。XenServer 5.5では、①Consolidated Backup、②Enhanced Conversion Tools、③Active Directory Integration、④Guest OS Expansionなどの機能が追加された。まずIntegrated Backupでは、既存バックアップ製品を用いたバックアップやスナップショットとの連動が可能となり、vCenter Site Recovery Mgrに近づいた。次にEnhanced Conversion Toolsでは、VMwareの仮想マシンで使用されるVMDK(Virtual Machine Disk Format)フォーマットをXenServerやHyper-VのVHD(Virtual Hard Disk)に変換、これによってVMwareからXenServerへの移行負荷を軽減、さらにこのConversion Toolを用いて標準化利用が進むOVF(Open Virtualization Format)などにも自由に変換が出来る。またActive Derectoryとの統合ではアクセス管理やログ管理などが統一、さらにGuest OSとしてSuSE Linux Enterprise Server 11、Debian 5、Red Hat/Cent OS/Oracle 5.3が追加された。

◆Citrix Essentialsが収益源

それでは、Citrixのビジネスモデルとは何か。
ま ずCitrixの戦略は、VMwareを検討する企業ユーザーの土俵に登ること。そのためには、単なる実験導入のツールではなく、実運用に耐える機能を備 えたXenServerを無償で提供する。市場を支配するVMwareはESXiを評価用に提供すれば良いが、Citrixはそれでは済まない。まずは、 無償でもいいからまず実運用に使ってもらうことである。このようなことが経済的に許されるのも、Citrixには全世界的なMetaFrame(現 XenApp)ユーザーがあるからだ。その上でCitrixがビジネスの収入源として期待しているのが有償のCitrix Essentials

Essentials は、仮想化技術としてのXenServerだけでなく、MicrosoftのHyper-Vもカバー(予定)、その上でより多くのシステム運用機能を持つ XenCenter、Hyper-VではSystem Centerと連携する。これによって、高可用性システムHA(High Availability)の実現、複数のストレージシステムを一元管理するStorageLink(下図)、システムイメージを集中管理し物理マシンで も仮想マシンでも自由に展開が出来るDynamic Provisioning Services、テストから本番環境までをライフサイクルとして整備する仮想ラボ自動化マネージメントAutomated Lab Management(VMLogicからのOEM)などが可能となるが、これらはまずXenServerに適用され、次にHyper-Vに拡大する予定だ。


◆CitrixとMicrosoftの深い関係

さて、以上からも窺い知れるように、CitrixとMicrosoftの関係は深い。
遡 ると、CitirxはMetaFrame時代から Microsoftとクロスライセンスで提携、2004年にもこの契約を5年の継続更新とし、これによってCitrixはWindowsのソースコードに もアクセスできる。またMicrosoftはHyper-Vの開発にあたって旧XenSourceと提携、その一部にはXenのコードが利用されており、 構造的にもHyper-VはXenにそっくりである。少しうがった見方をすれば、今後の戦いの様子によっては「VMware対 Microsoft+Citrix」という連携構図が鮮明になることも浮かぶ。現に2007年8月にCitrixがXenSourceを買収した直後、今 度はMicrosoftがCitirxを再買収するのではないかという噂が流れていた。

◆AmazonはXenServerに乗り換えるか

最後に、Amazonについて触れてみたい。
Amazon は基本OSがRed Hat、そして仮想化はXenである。しかしながら既報のようにRed HatはXenからKVMに乗り換え、現在のRed Hat 5.4βを近々正式版にする予定だ。そして次期版6からはXenをサポートしないという。この状況の中で今年5月、AmazonとCitrixは提携し、 Amazon Web Serviceの上に実験システムとしてCitrix C3 Labを立ち上げると発表した。これが本命となってAmzonがXenをXenServerに切り替えるのかは明言されていない。しかしながら残された時間は長くない。上手く行けばCitrixが脚光を浴びることになる。