VMworld 2009(8/31~9/3)が終わった。
今にして思えば、昨年CEO就任直後のPaul Maritz氏の説明したVOS(Virtual Datacenter OS)は、vSphere 4の前ぶれだけでなく、仮想化技術そのものの競争が終わり、システム運用など周辺整備の時代に入ったことを意味していた。そして製品面のVOSだけでなく、もうひとつ、マーケティング面で重要な発表があった。データセンター攻略のvCloud Initiativeだ。同社によるとFoutune 1000社でVMwareを使用していない企業はたった30社だと主張している。つまり、エンタープライズ市場の戦いはカタがついた。今度はデータセンター市場の押さえに入るという宣言であった。
◆セルフプロビジョニングのvCloud Express
今年のカンファレンスのテーマは、その実践である。
そのための製品がデータセンター市場向けvCloud Expressだ。vSphere 4を5月に出荷し、主にデータセンター市場に送り込んだ。Maritz氏は、キーノートで大手キャリアのAT&TやVerizon、さらにはデータセンターのSAVVISを壇上に招き上げ、すっかりvSphere 4が定着していることを強調。そしてTerremark Worldwideが登壇し、同社は今回VMwareが発表したvCloud Expressのデモを披露した。この製品はクラウドプロバイダー用に用意したもので、ユーザーがセルフオペレーションで仮想マシンのプロビジョニングができるPortalである。AmzonでいうなればRightScaleのようなものだ。ブラウザー利用のTerremark vCloud Expressには「Resource」「Server」「Network」のボタンがあり、「Resource」ボタンでは、上段に「Compute」「Storage」「Bandwidth」のメータリング表示がある。「Compute」では何台の仮想マシンでどの程度のメモリー容量で幾つのサーバーが動いているか、「Storage」は何GBか、「Bandwidth」は何MB使用しているかが一目瞭然だ。その下にはPublic IP/ServerごとにTaskの開始/完了/ステータスなどの詳細が表示されている。
次に「Server」ボタンでは、Server作成、複数階層のServerグループ作成、各々のServerの各種設定、さらにはVPN接続の設定が出来る。最後の「Network」ボタンは、Internet ServiceとSecurity Serviceのもので、Internet ServiceではPublic IPとServerのマッピング、Security ServiceではFirewallルールなどの設定が可能だ。
このように、このvCloud Expressを使えばユーザーは簡単に仮想マシンのプロビジョニングが出来る。ユーザー企業は自分で必要な仮想マシンを管理し、プロバイダーのデータセンターはシステム全体を管理する。
◆低価格でAmazonを追う
今のところ、このvCloud Expressを使用してパブリッククラウドの運営を開始(β版)したのはTerremark を筆頭に、BlueLock、Hosting.com、豪melbourneIT、英Logicaの5社である。Terremark(2008年度売上げ$250.5M)は既報(VMwareがパブリッククラウド進出に意欲)のようにVMwareが投資をした企業で、どう見てもこの会社をモデルにしたいようだ。米大手データセンターのうち、最大のSAVVIS (2008年度売上げ$857M)はVMware製品を使いながらも今回はvCloud Express採用には踏み込まなかった。個性的なRackSpace(昨年度売上げ$143.1M)もMossoを買収して独自のクラウドビネスを展開する。今後、他のホスティング会社がどのようにVMwareについてくるか注目に値する。
さて、利用料金はどうなっているのだろうか。
ユーザーはvCloud ExpressのMy Accountボタンからはビリング情報が閲覧できる。
まずAmzon Web Service(以下AWS)だが、Smallインスタンスは1.0~1.2GHz相当のシングルコア機で1.7GBメモリーと160GBの論理ストレージが付いて料金はLinux系で10¢/時間だ。これに対してvCloud InitiativeのパートナーであるTerremarkでは1VP(Virtual Processor)に1.5GBメモリーで9¢/時間、0.5GBなら3.5¢/時間となり、Hosting.comの場合も1CPUにメモリーが1GBで6.8¢/時間、2GBだと12.3¢、0.5GBなら4.2¢となる。ここだけ見ると割安感があるが、AWSのインスタンスには論理ストレージが付くが、vCloudには無く、ストレージは全て有料となってAWSの外付けディスクEBS(Elastic Block Store)やS3だと思えば良い。ストレージ料金はTerremarkが25¢/GB/月、Hosting.comでは50¢/GB/月。AWSのS3では、最初の50TBまでが15¢/GB/月、それ以上は使用ストレージ容量が大きくなるにつけ割安となるが、データ転送やIO命令には別途料金がかかる。総合的に見ると、vCloudは価格的にやや低めであり、メニューもきめ細かく設定されている印象である。
◆vCloud APIをDMTFに標準化申請
もうひとつの注目はvCloud APIの提供だ。
このAPIは、VMware技術スタックで構築したプライベートクラウドと同じ技術基盤に立つパブリックプロバイダーのクラウド間で、vAppの運用を容易にするものだ。vAppは既報(データセンターを攻略するVMwareの戦略)のようにOVF(Open Virtual Format)をベースとし、ソフトウェアを仮想アプライアンスとしてパッケージ化するもので、このAPIを使えば、仮想アプライアンス群のカタログ管理やアップロード/ダウンロードなどが可能となる。カンファレンス会場での会話から、この件について、VMwareがパブリッククラウドを運用するAmazonやGoGrid、RackSpaceなどと協議している模様が伺えた。
ところで、この分野ではサンが既に仮想化で扱うリソースを制御するリソースモデル型のSun Cloud APIを発表している。サンのAPIはより広範囲にカバーするが、vCloud APIはそれに続くものだ。同社はこのAPIを標準とすべく、DMTF (Distributed Management Task Force)に申請した。今後はこの2つをDMTFがどのように扱うかに焦点が移る。
◆IaaSからPaaSへ
こうしてVMwareは単なる仮想化技術の会社からクラウド企業へ変貌しはじめた。
しかし、同社にはクラウドに関して、直接ユーザー企業をサポートする体力は無い。そこでvCloudのパートナーと組んで、サポートを確実にしながら、彼らのデータセンターを利用したIaaS(Infrastructure as a Service)に進出。次は同じ技術基盤上で、ISVや企業ユーザーが開発したアプリケーションをvAppでパッケージ化し、それをvCloud APIでコントロールする。つまり、企業ユーザーとデータセンターの仮想基盤を同一にすることによって、企業ユーザーやISVのアプリケーションをパブリッククラウドに誘致しようというわけだ。企業ユー ザーは、これまで新らしい業務の追加時には受け皿を用意し、または業務の繁忙時に合わせて大きなハードウェアを確保してきた。しかし、もう必要がない。そ れらのオーバーフロー分を同一基盤のvCloudパートナーのパブリッククラウドに任せればよい。そして新規アプリケーションはISVから提供されるvAppで簡単に使えるようになる。
さて、その次はどうなるのか。
これもはっきりしてきた。既報(VMwareが新規事業展開か-SpringSourceとCloud Foundryが傘下に-)のように同社はSpringSourceを買収、そのSpringはこれも既報(SpringによるHyperic買収の意味)のようにHypericを買収している。これらを利用し、vCloud Initiativeに参加するデータセンターとISV業界を引き連れてPaaS(Platform as a Service)に乗り出す筈だ。
この戦略が上手く行けば、企業ユーザーの仕事はデータセンターのクラウドに回ってくる。困るのはIBMなど自営システムを提供してきたベンダーだ。次なる戦いが始まる。