2009年9月22日火曜日

連邦政府のクラウド推進計画(1)
-Federal Cloud Computing Initiative-

連邦政府のクラウド計画が動き出した。
その内容をシリコンバレーのNASA Ames研究所で発表したのは連邦政府のCIO(兼ホワイトハウスCTO)となったVivek Kundra氏だ。氏はこの発表は連邦政府の各機関が本格的にクラウドに取り組む「Federal Cloud Computing Initiative」の第1歩だとし、実際に2010年度予算でコミットされる。最初に手掛ける大きな仕事はITインフラ-ITI (IT Infrastructure)-だ。氏によると、政府系のITシステムは組織間の業務重複が多く、さらに、例えば、国土安全保障省 (Department of Homeland Security)だけで23のデータセンターを抱え、その維持に多くの費用が費やされている。結果、年間約700億㌦($70B)の連邦政府総IT予算 のうち、約190億㌦($19B)がインフラ維持費となり、クラウド利用によって、この部分の大幅なコスト削減が可能だと訴えた。


◆ITインフラの統合と仮想化

Federal Cloud Computing Initiativeとは、Federal CIOのもとにオバマ政権のイニシアティブとして組織化されたものだ。CIOのKundra氏はe-Government(電子政府)のリーダーであり、 Office of Management & Budget(予算管理局)のこの分野の責任者でもある。氏の指揮のもと、イニシアティブにはCloud Computing Executive Steering Committee(ESC)とCloud Computing Advisory Council(AC)があり、ESCが戦略を立案し、ACが計画を設計する。描き出された戦略目標はITIの「統合(Consolidation)と仮 想化(Virtualization)」だ。米国では、現在、e-Governmentの近代化として、サービスベースの環境整備を進めているが、 これらをより迅速に展開し、かつコスト削減を可能とする手段がクラウド化である。ACの計画では、クラウドを利用したITIのビジョンを確立し、さらに23の省庁を対象に重複作業排除のための共通ソリューションの選定やコラボレーションを推進する。


初期クラウド(フェーズ1・・・後述)は連邦政府が構築するのではなく、外部のプロバイダーから調達する。5月13日、このクラウドに関するに事前情報請求RFI(Request For Information)-下図-が連邦政府との取引促進サイトFedBizOpps.govに 掲載、請求締め切りは5月26日となった。6月1日には、国立標準技術研究所NIST(National Institute of Standards and Technology)からクラウドの標準仕様が発表、連邦政府のクラウドはこの仕様を採用する。そして、7月30日、NIST仕様に準拠した IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)のうち、IaaSの提案見積もりRFQ(Request For Quotation)が出された。


◆ 連邦政府のクラウドの仕組み-Cloud Computing StoreFront

  IaaS仕様のRFQをみると、連邦政府は外部のIaaSプロバイダー数社を選定する。IaaSとして期待する機能は3つ。①仮想マシンによるComputing、②クラウドストレージStorage、③WebホスティングなどのApplication Hostingだ。その上で、連邦政府の一般調達局GSA(General Services Administration)が利用者となる各政府系機関にStoreFrontとなるポータルを提供する。このポータルを通して、①利用機関は3つのIaaSが提供する機能購入を問い合わせる。これに対し、②ポータルは、あらかじめIaaSプロバイダーと取り決めたサービスから問い合わせに適合するものを選び出して回答する。その結果、利用機関のIaaSサービス購入が決まると、③ポータルはIaaSプロバイ ダーと利用者間の取引を成立させ、その後は、④利用者は直接プロバイダーのサービスにアクセスが可能となる。

◆ 登場したApps.gov

今回の要求書はIaaSだけだが、実施の計画は、それだけでなく、より詳細だ。
フェー ズプラン(下図)によれば、計画は3つに分れ、すべてにIaaS、PaaS、SaaSが含まれる。フェーズ1(2009/8-10)では、軽量のコラボ レーションや生産性向上ツール、そして基礎インフラを提供。この目的のために登場したサイトが、この日(9/15)発表されたGSAの運用によるApps.govだ。つまり、StoreFrontとなるサイトがApps.govである。


フェー ズ1で提供されるサービスは、①Business Apps、②Productivity Apps、③Cloud IT Services、④Social Media Appsの4つの分野だ。ここでCloud IT Servicesが外部パブリック利用にあたるものだが、現在は下図のように近々提供(Coming soon)となっている。


個 々の分野では、実証済みの商用アプリケーションサービスが価格と共に一覧出来る(下図-Business Apps)。このところ政府系機関に力を入れているCRMのSalesforceもBusiness Appsに登録されているし、Social Mediaには、オープンソースのBlogツールWordPressやドキュメント共有のScribd、さらにFacebookやMySpace、 Flickrなどもある。これらのアプリケーションは一部がSaaSサービスであり、他はWebアプリケーションだ。


フェー ズ2(2009/11-2010/2)では、パブリッククラウドだけでなく、プライベートクラウドの外部委託やSaaSアプリケーションなどの拡充、そし てフェーズ3(2010/3-6)からは一部、プライベートクラウドの導入が始まり、連邦政府のクラウドはハイブリッドとなり、以降、本格的なミッション クリティカルなクラウド化が予定されている。


ついに、連邦政府のクラウドが動き出した。
そしてその計画のスピードは、大方の予想より早い。
発表と同時に、かなりの量のアプリケーションが投入された。しかも商用サービスからオープンソースまでと多様だ。推進計画の3つのフェーズを見ても、初期 (フェーズ1)は職員の慣れと早期導入を優先してパブリッククラウドを利用、その後はプライベートの導入、そしてハイブリッドへと進み、どのフェーズでも IaaS、PaaS、SaaSが段階に合わせて提供される。民間企業でのクラウド化が進み始めた現在、この連邦政府の推進計画で、クラウドは一気に急拡大 しそうな雲行きとなってきた。