2013年8月25日日曜日

時代の流れ!(2) -AWSとRackspace-


前回の補足を続けようと思う。
今回はAWSRackspaceの売り上げ分析だ。
まず何故クラウドプロバイダーとして、この2社にこだわるのか、その疑問に答えよう。

 1) 何故、AWSとRackspaceを比較するのか
AmazonのクラウドサービスAWSは、一昔前の巨人、IBMと同じで外せない。
Gartnerの資料(Magic Quadrant)で見ても、AWSは実行力とビジョンを併せ持ったリーダーだ。今やAmazonはMicrosoftやOracleはもとより、GoogleやAppleを凌ぐという声さえ聞こえてくる。つまりAWSの売り上げ推移が読めれば、米クラウド市場の規模予測に自信が持てる。これに続く2番手グループは、SAVVISやTerramark、CSCなどの大手計算センターだ。ここ数年、彼らは生き残りをかけて、独自路線組と米キャリアなどとの統合組に分かれた。これらの動きは次回報告する。
この流れの中で、注目はRackspaceだ。
高価なメインフレーム時代からの受託業務という歴史を持つ大手計算センターとは異なり、Rackspaceは1996年ISPとしてスタート、1998年にCustom ApplicationベースのWeb Hostingに転進し、2006年から実験事業Mossoを始めた。これが2008年から始まったRackspace Cloudの原型だ。つまり、RackspaceはただのISPやHosting屋ではなく、優秀な技術陣とビジョンを持った経営陣からなるスタートアップである。だからこそ、徹底したオープンサービスで顧客の心を掴んできた。NASA Amesと共同開発したオープンソースクラウドプラットフォームのOpenStackは、今年4月、7度目のリリースGrizzlyを行った。プロジェクトには500名以上の開発者が参加、200以上の機能追加がなされた。このOpenStackが多くの企業に採用される時代が来れば、それらを連携したグローバルベースのクラウドネットワークが見えてくる。


2) AWSの売り上げは幾らか?
Amazonに立ち向かうのは大手計算センターではない。それはRackspaceだ。前回述べたようにクラウドビジネスの基本はオープンスタンダードである。だからこそ、大勢のユーザーがオンプレミスから自由に移り住むことが出来る。AWSはその上に独自機能を加味してきた。対するRackspaceは徹底したオープン化で対抗してきた。
そして結果は数字に表れる。 
AWSの売り上げは幾らだろうか。
Amazonから正式な数字の発表はない。しかし、年次決算報告書Amazon.com Annual Reportから類推することは出来る。報告書(下表)には地域別(North America-北米、International-国際、Consolidated-合計)と商品別(Media-メディア、Electronics and Other General Merchandise-電子機器と物販、Others-その他)のデータがある。ここで、地域別の北米はともかく、国際とはその他の国々を指し、合計は2つの合算値となる。商品別のメディアはコンテンツ販売を意味するが、AWSは電子機器や一般の物販とも異なるので、下表の(1)に記述があるように“その他”の項に含まれる。決算報告書の“その他”の項の合算値は、2012年度は$2.523B、2011年は$1.586B、2010年は$953Mとなっている。注釈によると、問題はこの“その他”にはAWSだけでなく、販促関連や他サイト売り上げ、そしてクレジットカード(Co-Branded-共同ブランド)の売り上げが含まれている。前2つは無視できるとして、クレジットカードによる収入はそれほど小さくはない。
つまりAWSの昨年度売り上げは、$2.5B(約2,500億円)を上限とするが、実際には$1.5B~$2.0Bの範囲にあるだろう。本レポートでは、諸条件を勘案し、昨年度AWS売り上げを$2.0B(約2,000億円)と推定した。

 

3) Racksspaceの売り上げは幾らか?
Rackspaceについても同様の分析を試みよう。 Rackspaceの2012年次報告書Rackspace Annual Reportには、Dedicated CloudとPublic Cloudに分かれたデータがある。前回の報告ではAWSとの比較のためにPublic Cloudのデータのみに注目した。Rackspaceのそれは$300M(約300億円)だった。しかし、通常のHosting業務も仮想化技術の適用によって、現在はDedicated Cloudと呼ぶ時代となった。これは調査会社を含めて一般的な傾向である。この報告書でも、過去を遡るとManaged Hostingとされていた分野は現在はDedicated Cloudとなり、昨年度のPublic Cloudは$304.074M、Dedicated Cloudは$1,005,165M、合計$1.3B($1,309,239M)だ。邦貨換算では約1,300億円となる。単純比較をすると、Public CloudだけのAWSが$2B、Public/Dedicated Cloudの2つをサポートするRackspaceは$1.3Bとなる。同社の課題はこの2つをどこまで伸ばすことが出来るかだ。
AWSもRackspaceも、主な顧客セグメントは企業内の部門やSMB(Small & Medium Business-中小企業)だ。両社ともクラウド環境の整備には余念はないが、それだけでは売り上げはもう伸びない。事実、AWSは過去19回、価格を下げてきた。 ここで鍵となるのはCSB(Cloud Service Broker)だ。先進的ユーザーがクラウド移行した後、需要はあってもIT要員のいないSMBをどうやってクラウドに誘導するか、その鍵を握るのが新しいクラウド向けのSIer、サービスブローカーである。

2013年8月5日月曜日

時代の流れ!(1) -あれから2年-

しばらくクラウドの実務から離れていたが、米国で起きている状況は注視していた。
この間の変化を精査すると、時代の流れが読める。

1) 快調に飛ばすAWSとRackSpace!
米クラウドではAmazon Web Service(AWS)とRackspaceが相変わらず好調だ。
これについては別途詳しく述べるが、Amazonのクラウド度売り上げは昨年度$2B超(約2,000億円)と見込まれる。AWSが始まった2006年度が$250M(約250億円)と推定されるので約8倍の成長だ。
対するRackSpaceのパブリッククラウド売り上げ(ここではAWSとの比較上、パブリッククラウドのみ)は昨年度$300M(約300億円)だ。今やクラウドの巨人となったAmazonに比べ、小企業のRackSpaceはHostingビジネスから転進した。クラウドを新しいビジネスチャンスと見た同社はAWSと同じ2006年に実験事業を始めたが、本格開始は2008年である。その年の売上げは$25M、5年で12倍に急成長した。AWSに比べれば数字は小さいが大健闘である。周知のようにクラウドビジネスは基本的にオープンスタンダードに準拠しなければ上手くいかない。Amazonの戦略はその上で独自機能を加味したものだ。一方のRackspaceは徹底したオープン化で対抗してきた。結果は大善戦だ。

2) オープンソースの躍進!
クラウドビジネスの第2幕は、これからである。
市場の動きを良く見ると、AWSやMicrosoft Azure、更にはGoogle App Engine等の大手は自らの影響力を最大限に活かしながら、得意とする技術で顧客を引き寄せようとする。VMwareCitrixの戦いも然りだ。しかしクラウドがもて囃されるのは、ソフトウェア技術(OSやミドルウェア、アプリケーション)やハードウェア(サーバー、ストレージ、ネットワーク機器)などを抽象化するからだ。それによって、ユーザーはハードとソフトの縛りから解き放たれる。つまりクラウドビジネスは、抽象化技術によって、ユーザーに自由な空間を、どれだけ安価に、どれだけ容易に提供できるかがポイントである。
しかし大手ベンダーたちは、クラウド・クラウドと声高に叫びながらも、実はユーザーを自社の得意分野に誘い込む。昔ながらの戦略だ。クラウドがビジネスである限り、先に大きなパイを取った方が勝であることは昔も今も変わらない。このような大企業戦略と併走しながら、真にユーザー利益を追い求める次世代オープンソースクラウドが動き出している。トップバッターはRackspaceがNASAと始めたOpenStack、そしてSunのJavaエンジニアが興したCloud.comベースのアパッチCloudStack、最近ではVMwareからスピンアウトしたCloud Foundryなどだ。
彼らがクラウド第2幕の演者たちとなる日も近い。

3) 消えた会社!
この数年の間にクラウドでは多くの会社が統合され、市場から消えていった。
これら多くの買収劇は市場が草創期から成長期に移る際に見られるいつもの現象だ。初期には沢山のスタートアップが登場し、次にそれらの統合が起こり、市場が新たな段階に進む。買収する側はどうやって自社を本流にするかを模索し、される側はまさに投資対効果のエキジットストーリーとなる。しかし、その多くは流れを作り出すことは難しい。下記は主な買収であり、別途、分析を試みる。
  • CAによるグリッドOS 3Tera買収(2010/2)
  • ストレージのNetAppが分散型ストレージGRIDのBycastを買収(2010/4) 
  • 全米5位の通信事業者CenturyLinkが3位のQwestを買収(2010/4)
  • EAIツールCast IronをIBMがインテグレーションツールとして買収(2010/5)
  • クラウドストレージParascaleはHitachi Data Systemsに吸収(2010/8)
  • HPが仮想ストレージベンダー3Par買収(2010/9)
  • DellがインテグレーションクラウドのBoomiを買収(2010/11)
  • ストレージクラウドのZumoDriveをMotorola Mobilityが買収(2010/12)
  • SalesforceがRubyクラウドのHerokuを買収(2010/12) 
  • VerizonがクラウドプロバイダーTerramarkを買収(2011/1)  
  • HPがビッグデータ分析のVertica買収(2011/2) 
  • CenturyLinkSAVVIS買収(2011/4)
  • NovellSuSEAttachmateに売却(2011/4)
  • Dimension DataがクラウドプロバイダーOpSource買収(2011/6)
  • バックアップCarboniteがフォト/ビデオ共有のPhanfare買収(2011/6)
  • CitrixがCloudStackのCloud.comを買収(2011/7)
  • バックアップCarboniteがフォト/ビデオ共有のPhanfare買収(2011/11)
  • HPがウェブプリントの独Hiflexを買収(2011/12)
  • GoogleがクラウドオフィスツールQuickoffice買収(2011/6)
  • RightScaleがクラウドコスト分析のPlanForClaoudを買収(2012/7)
  • VMwareがネットワーク仮想化のNicira買収(2012/7)
  • VMwareがクラウド自動化ソリューションのDymanicOpsを買収(2012/7)
  • MicrosoftがクラウドストレーレジベンダーStorSimpleを買収(2012/10)
  • Citrixがモバイルデバイス管理Zenpriseを買収(2012/12)
  • バックアップCarboniteがオープンソース同Zamanda買収(2012/12) 
  • VMwareはストレージ仮想化のVirstoを買収(2013/2) 
  • GoogleTalaria買収(2013/3) 
  • Microsoftがクラウドパフォーマンス管理MetricsHub買収(2013/3)
  • Delllがエンタープライズクラウド管理ツールのEnstratius買収(2013/5)
  • IBMがクラウドプロバイダーSoftLayer買収(2013/6)