2010年2月27日土曜日

ハードウェアを工夫するクラウドストレージ
                        ・・・Cloud Storage(4)

前回まで述べてきたクラウドストレージ・サービスのポイントはフロントエンジンだった。
しかし、競争激化と共にフロントエンドの独自性確保は難しく なってきた。そこで今回は、ハードウェアを上手く使った差別化の例を考えて見たい。

-Backblazeが考え出した低価格ストレージ ポッド-

シリコンバレーのスタートアップBackblazeが凄いことを考え出した。
同社のビジネスは多くのスタートアップがひしめくバックアップサービスだ。これまでの競争は機能と価格。しかしながらフロントエンジンのの改良で機能差は狭まった。最後の戦いはいよいよ価格競争だ。絶対に負けな いためにはどうすればよいか。徹底的に市場調査をした。解ったことが幾つかある。ベンダー評価では、機能差もあるので一概には言えないが、ペタバイト (PB-Petabyte)換算のコストを計算すると、何と言ってもEMCが一番高く、NetApp採用ならEMCの60%、Sun(35%)やDell(30%) ならさらに安上がりとなる。Amazon S3の場合はハードウェアを保有するわけではないので3年間使用とし、S3に含まれる電気・場所・管理費を引くと、結果は、ほぼEMCと同価格となった。つま りS3はけっして廉くないのだ。
Backblazeが掲げた勝ち抜くための条件-それは月5㌦の使用料金で容量制限なしにすること-。これでなければ戦いに勝てない。しかし、この目標達成のためにはSunやDellを利用しても届かない。もう自分たちで作るし かない。そして決断した。出来上がったストレージはBackblaze Storage Pod
全てのコンポーネントを市販製品で調達し、4Uシャー シーにマウントして組み上げた。ディスクドライブはSATA仕様のSeagate製1.5TBを45個搭載し、エンジンはLinuxで稼動するPCマザー ボードにIntel Core 2 Duo(3.33GHz)+4GBメモリー、それにIOカードやパワーサプライなど。ソフトウェアはDebian 4にJFS File Systemを載せ、HTTPSでアクセスする。これで容量は67TB(terabyte)、実費費用は7,867㌦だ。SunやDell比では約1/8、EMCやS3に比べると約1/24となった。これなら勝てる。

Backblazeのバックアップは丸ごとコンピュータで構わない。たったクリック3つで完了だ。これにはOSやアプリケーションなどは含まれないが、USBやFireWrite接続のドライブ、外付けディスクなどもバックアップの対象となる。ひとつのファイルの最大サイズは4GBまでだ。もしWebからのリストア用ダウンロードが面倒なら、全てのバックアップは、DVDかUSBハードドライブをFedExで送ってくれる。同社の狙うマーケットは個人ユーザーからスモールビジネス、さらにIT部門の目の届かない企業内部門だ。何処よりも廉い費用でバックアップを提供する。そのために開発したBackblaze Storage Pod仕様も公開した。興味ある仲間とより廉価で高性能なストレージ開発に繋げたいという。


-ZettaByteのNASゲートウェイ・クラウドストレージ-
ZettaByte Storageの場合は、 NAS(Network Attached Storage)を使ったバックアップサービスを提供する。クライアントPCには特別なソフトウェアの必要はなく、その代わりに zBoxと呼ばれるLinuxベースのNASが必要となる。導入は簡単だ。ユーザは同社が提供するzBoxをネットワークのルーターやスイッチに繋ぐだ け。これで家庭内や小規模オフィスの全てのコンピュータ・バックアップが可能となる。zBoxにプリインストールされたソフトウェアが一定時間毎にネット ワークに接続されたコンピュータをスキャンし、新たに追加や変更があったファイルのバックアップを自動採取する。その後 NAS内のエージェントが差分のみをデータセンターに送り出す。実際のところデータセンターとはAmazon S3だ。つまりZettabyteのバックアップの仕組みは、NASまでのオンサイトバックアップが第1段階、そして第2段階はS3のオフサイトバック アップとなる。この仕組みにすることで、通常のバックアップならオンサイトのNASからフルスピードで実行し、災害などのDR(Disaster Recovery)にはS3から行うことが出来る。提供されるサービスは月額ベースの3種類、①Professional (NAS容量100GB/139㌦/月)、 ②Business(同400GB/349㌦/月)、③Datacenter(同1,000GB/899㌦/月)、全て1年契約でNAS本体は月額料金に含まれている。

クラウドストレージの競争は激しい。
大手企業ユーザーの動きは まだまだ鈍いが、一般ユーザー市場には大きなニーズがある。人々は多様なデバイスに囲まれ、それらの同期化やファイル保管に困っているからだ。そして、同 じ現象が小規模ビジネスにも出始めている。クラウドストレージを上手く使いこなし、かつ、コスト削減が出来れば大きなメリットとなる。そのためにはプロバ イダイーによるフロントエンジンの工夫だけでなく、今回、紹介したのようなハードウェアを取り込んだアプローチは見逃せない。考えてみれば、他のIT機器 がこれだけ下がっているのにストレージの価格は異常に高い。構成上の非互換性、ライセンス費用など一昔前のコンピュータのようである。クラウドコンピュー ティングでは、これまでメインストリームにいなかったAmazonなどのプレイヤーが主役になった。同様に、ストレージクラウドでもプロプライエタリーベ ンダーを凌駕するプロバイダーが出て来たことは嬉しい限りだ。

2010年2月22日月曜日

使い道、様々なクラウドストレージ
                        ・・・Cloud Storage(3)

前回はビジネスマンに人気のDropboxと若者向けZumoDriveを紹介した。
そのZumoDriveはHPと提携、その技術をHPに提供することになった。こうして現れたのが今年1月から始まったHP製Netbook搭載のHP CloudDriveである。Dellの場合はずっと早く2008年秋からBox.net(後述)と提携してBox.net Dellを提供している。ともあれ、人々は色々なインターネット接続デバイスを持ち歩く時代となった。それは便利ではあるが、一方で不便さもある。クラウドはそれらを統合して、様々な使い方を提供してくれる。今回はさらに特徴あるクラウドストレージを紹介しよう。


-大きなファイルをeメールで簡単に送れる2Large2Email-

ラージファイルの送信に困ったことがあるなら2Large2Emailが便利だ。自分のeメールアドレスとパスワードでログイン、後はeメールを書く要領で、相手先eメールアドレス、サブジェクト、本文、そして自分のPC内にあるファイルを指定すればOKだ。相手先にはダウンロードするURLが届く。サインアップすれば最大200MBまで無償、しかも7日間はクラウドに保管され、100回のダウンロードが可能だ。100MB以内、送信先が1人、7回のダウンロードまでならノーサインアップでも出来る。有償なら最大は20GBまで、クラウドストレージは50GBまでだ。同様のサービスにはMailBigFileyousenditなどがある。


-親しみやすいインターフェースのBox.net-

2005年の設立以来、多くのユーザーを掴んでいるのはBox.netだ。
Box.netの最大の特徴は解り易いユーザーインターフェースと親しみ易さ。ホルダーやファイル管理、ファイルの操作はドラッグ&ドロップ、お馴染みのものばかりだ。しかし、慣れてくると、複数ファイルを同時にアップしたり、ファイルのタグ付け、iGoogleのガジェットがあったり、Zohoと連動が出来たり、なかなか気が利いている。グループ内のファイルシェアも簡単、そのままリンクをeメールできる。それに公開APIを使えば、Box.netストレージをバックエンドにしたSalesforce.comのアプリケーションもできる。Box.netの設計コンセプトはCCM-Cloud Content Management 。ビジネスファイルやホビーファイルの自由なアップ&ダウン、編集/コメント付け、コンテンツと他ビジネスサイトの連携、仲間だけでなく、社内ネットワークやパートナーのPCやモバイルからのアクセスもできる。Box.netは親しみ易いが奥が深い。どこまでやるかはユーザー次第だ。JungleDiskADriveも同じようなサービスを提供している。


-リアルタイムなファイルシェアリングでコラボが出来るDrop.io-

Drop.ioはコラボレーション用ファイルシェアリングサービスだ。だからリアルタイムである。無償版の利用にはユーザー登録は無く、drop.ioにアクセスしてユーザーに与えられるURLからユニークなものを作る。これがコラボ用の
クラウドストレージの場所だ。仲間にこのURLを知らせ、相手もdrop.ioに同一のURLでアクセスすればコラボの始まりだ。1人がテーマ写真をアップするとリアルタイムで相手の画面にも現れ、コメントも書けるしチャットも出来る。勿論WordやPower Point、PDFなどの各種文書や音楽、ビデオでも構わない。文書の場合はiPaper(後述のScribd提供)のFlashビューワー、音楽やビデオはFlashプレーヤーが対応する。またPCだけでなく、iPhoneやAndroidからでもOKだ。コラボの条件となるファイルの自動同期化ならNomadeskSyncplicityだって出来る。


-何でもメモって整理するEvernote-

オンラインでメモを取る世界にはGoogle NotebookMicrosoft OneNoteがある。しかしシリコンバレーのEveroneは素晴らしい。FirefoxやIEのアドオンを入れればWebのクリップは簡単だ。EveroneならWebクリップ、Word /Excel、PDF、ホビーの音楽や画像なんでもアップロードしてメモることができる。メモの管理はノートとタグ。新しいノートにタイトルを付けて、その中に関連情報を何でも入れれば良い。タグ付けも整理には便利だ。検索だってできる。ノートの中のアップ情報はサムネイルも見れるので画像ならアルバム代わりにもなるし、WindowsやMac OSは勿論、iPhone、Android、BlackBerryなどの日本語版(一部プレビュー)も出始めた。情報過多のビジネスマン、PCに向かって勉強する学生、モバイル好きの若者、もうEveroneなしでは生きられない。


-ドキュメントのYouTube版Scribd-

安心できるドキュメント共用サイトならScribdだ。Flashビューワーで扱えるファイルは.doc、.pdf、.txt、.ppt、.xls、.ps、.litなど。勿論、検索やMy Docs管理、投票、ダウンロード、Webの埋め込みなどYouTubeにそっくりだ。この種のサイトには著作権問題が付き纏う。投稿者は法準拠が原則だが、同サービスでは問題となる内容を登録したデータベースCMS(Copyright Management System)を導入し、アップの都度チェックする。完全ではないけれどまずは安心だ。このため一般投稿者だけでなく、研究者や企業、出版社の投稿も大幅に進み、それらの販売のScribd Storeも開設した。まるでAmazonのデジタル書籍販売と張り合うようだ。要の技術はFlashベースのiPaperだ。このビューワーはリッチフォーマットの文書形式をデジタル表示するものだが、タイトル表示から好みのページに飛んだり、ページめくり、フルスクリーン表示、投稿促進にAdSensの埋め込みなど、多芸である。競合サイトにはDocstocIssuuなど。


以上見てきたように、クラウドストレージには様々なフロントエンジンがある。
まだまだあるが、これだけサービスがあるということは市場の将来性があるということだ。しかし、一方で生存競争も激しい。Box.netやZumoDriveは大手ベンダーと提携、JungleDiskやMozyは買収されて大手の傘下となった。彼等の場合は幸いというべきかもしれない。これからはしっかりした特長と優位性が試される。

2010年2月14日日曜日

シームレスなZumoDriveとシンクロナイズのDropBox
                        ・・・Cloud Storage(2)

前回はオーソドックスなバックアップクラウドについて説明した。
勿論、WindowsユーザーにはOS自身がファイルのバックアップ/リストア機能を持ち、異なるデバイスに採ることもできる。しかしながら、一般ユーザーでは内臓のHDDしかなく、クラシュしてしまえば、全てがダメになる。クラウドストレージを使った利点のひとつは、ここにある。もうひとつの利点は、クラウドによって、複数のPCやモバイルなどのデバイス、さらにグループの仲間とシェアが出来ることだ。今回はこの領域で人気のZumoDriveとDropBoxを紹介しよう。


-仮想ドライブでシームレスにするZumoDrive-

このところ低価格のNetbookの普及が進んでいる。
Netbookとクラウドストレージは実際のところ相性が良い。と言うのは初期のNetbookには価格面から十分なストレージがなく、クラウドと組み合わせて使うのが便利だったからだ。このため大手ベンダーでは、こぞってクラウドストレージを組み合わせた販売策を推進した。

さて始めに紹介するのはZumoDriveだ。
同社が提供するのはフロントエンドのエンジンだけ。バックエンドとなるクラウドストレージはAmazon S3を使う。このS3はPC上では右のように仮想ドライブのZumoDrive(Z:)となって現れ、通常のDrive C:と同期する。実際にデバイスに4GBしかなくても、クラウドに100GBあれば大丈夫だ。ZumoDriveはそれらをシームレスに同期させ、 NetbookのHDDはただのキャッシュのように見える。ZumoDriveを開発したのはシリコンバレーのスタートアップZecterだ。2007年設立、当初に開発していたα版はDrive C:上のファイルをZumoDrive(Drive Z:)にドラッグ&ドロップしてアップロードする。ここまでは幾らでもあるクラウドストレージだが、Drive Z:のクラウドファイルは全てがローカルにあるように見える。しかし、これは見せ掛けだ。実際には当該ファイルをクリックして開くとクラウドからストリーミングでローカルに落ちてくる。クラウドの仮想ストレージとローカルHDDをシームレスに見せるコンセプトだ。その後、昨年1月のβ版登場でZumoDriveはよりクールになった。

まず、グループでクラウドのストレージがシェアできるようになった。そのためにはファイルを右クリックして“Share”を選択、これによって当該ファイルにアクセスする
ランダムな文字列のURLが生成される。 このURLは、念のため修正も効くからセキュリティー面からも安全だ。また、自分の複数のPCやモバイルから、同じアカウントにログインすれば、クラウドストレージは共用となって同じファイルが見える。どのデバイスからでも仮想ドライブがシームレスになるわけだ。音楽好きのiPhoneユーザーにはiTunesが、写真などの画像にはPicasaやiPhotoなどがZumoDriveにはビルドインされているので、どこからでも音楽を編集・再生したり、アルバム写真を閲覧出来る。これらの作業はダウンロードすることなく、ZumoDriveならクラウド上でそのままできる。現在、iPhoneに次いでAndroidやWindows Mobileも開発中だ。

もう一度確認しよう。
ZumoDriveでは、クラウド上のファイルはファイル・マネージャーを開けば全てが見えるがローカルにあるわけではない。好きな曲を開くとクラウドからストリーミングされてくる。こうなればもうiPhoneの実際のストレージサイズに左右されることはない。一度ダウンロードされたファイルがローカルに残ってればキャッシュ扱いとなるのでオフラインでも使用できるし、意識的にダウンロードファイルをキャッシュにするかを決めても良い。ローカルストレージをどの位キャッシュに使うかも定義できる。ファイルのアップ&ダウンロードのスピードはレバーをスライドさせながら大よその速度を決めるオートマティックと、上り下りを詳細な伝送速度で定義できるマニュアル設定があるのも心憎い。

-ファイルのシンクロナイズでPC共有が出来るDropBox-

さて、ZumoDriveよりほんの少し早くβ版をリリースしたのはDropboxだ。
開発したのはサンフランシスコのEvenflow。それに2007年の設立も、バックアップVCもZumoDriveと同じY Combinatorだというから面白い。

Dropboxのコンセプトは、複数のPC間でファイルを共用すること。そして、使い方は、まさに共用したいファイルを箱の中に落とすだけ。作成したアカウントにログインするとマイドキュメント内に「My Dropbox」が現れる。ここに必要なファイルを落とせば全てが完了だ。後は自動的にこのホルダー内の全ファイルをDropBoxがクラウドにアップロードしてくれる。そして自分の持つ複数のPCから同じアカウントでログインすれば、全てのPCのMy Dropboxホルダーはシンクロナイズ(同期化)されて、同じ状態に維持される。ユーザーはホルダーを開けばどんなファイルがあるのか、シンクロナイズされているのか一目瞭然だ。Dropboxではオフラインでもホルダー内のファイルは利用出来、オンラインになると自動的にシンクロされる。つまりZumoDriveは仮想ドライブからファイルがストリーミングでシームレス化されるのでオンライン利用に限られていたが、DropboxではMy Dropbox内のファイルは全てローカルにある。そしてオンライン時のシンクロは、より伝送効率をあげるための差分更新だ。DropBoxの場合もバックエンドのクラウドストレージはAmazon S3を利用、伝送はSSLなので安全だ。また、アップロードされたファイルは更新の都度リビジョン管理がされているので、万一、削除した古いものが必要になっても大丈夫。
My Dropbox内のファイルをハイライトし、Dropbox→Show Deleted Files選択で、今までの削除ファイル一覧を表示、どの版にも戻ることが出来る。
またMy Dropboxには幾つか専用のホルダーがある。まずグループと共用のためのPublicだ。このホルダー内に共用したいファイルを置き、そのファイルの右クリックからCopy Public Linkを選ぶとパブリックURLが生成される。これを相手に知らせればファイルの共用が可能だ。次にPhotos。この場合もホルダー内に写真ファイルを置き、ファイルをハイライト、右クリックからCopy Public Gallery Link選択でパブリックURLが生成される。このURLを送れば一度に多くの写真をグループと共有できる。

再度、確認すると、Dropboxでは、決められたMy Dropbox内のファイルはクラウドにあげられ、他の同じアカウントからログインした(自分の)PCとシンクロナイズされる。つまり、クラウドストレージとどのPC内のMy Dropboxも同じ内容だ。ここがDropboxのポイントである。サポートプラットフォームはWindows、Linux、Mac OS-X、iPhone。

以上のように、同じAmazon S3を使っていても2つの目指すところは違う。
結果、2つのターゲットとなる使い方もおのずと異ってくる。ZumoDriveは、当初、小容量HDD搭載のNetbookを狙ったが、HDDの価格低下から、現在はモバイル全般をターゲットにしている。一般のホームユーザーは、核になるPCがあって、さらに各種のモバイルやデバイスを持ち歩く。それぞれのデバイスに非同期で必要な情報やファイルを載せ、自分で管理するのは限界がある。ZumoDriveは仮想ドライブとなるクラウドストレージを介して、全体をシームレスにしようという試みだ。
一方のDropboxは、基本的にPC間のファイル共用をどれだけ使い易くするかということに主眼を置き、そのための工夫が共用ホルダーのMy Dropboxだ。Dropboxがビジネスマンにも便利なサービスなら、ZumoDriveは若者にも受けるサービスである。
2つは競合ではなく、共存する。だからこそ、同じVCが支援しているのだろう。

2010年2月8日月曜日

オーソドックスだが人気のバックアップMozyとCarbonite
                       ・・・Cloud Storage(1)

数回に分けて一般ユーザー向けのクラウドストレージについて考察してみたい。
と言うのは、このところクラウドストレージの開発競争は激しく、それらが及ぼす影響は、エンタープライズ向けよりも一般ユーザーの方が大きいと思うからだ。この分野のクラウドサービスは基本機能に忠実なものから最近のコンシューマーエレクトロニクス製品への対応型など様々だ。第1回目は、オーソドックスなサービスだが、提供機能の評判から人気のMozyとCarboniteを紹介しよう。

-暗号化とCDPで安全性を重視したMozy-

Mozyは今日のクラウド騒ぎの前からあるストレージバックアップの老舗だ。創業者のJosh Coatesは、UC Berkeleyで大型並列コンピューティングを学び、その後、幾つかの会社を経て、並列ストレージシステムのScale8を起業。そして、Berkeley Data Systemsを2005年に興してMozyサービスを開始した。 メニュは2つ。ホームユーザー向けバックアップのMozyHomeと小規模ビジネス向けのMozyProだ。共にバックアップの対象となるコンピュータにエージェント・ソフトウェアをダウンロードして利用する。MozyHomeは2GBまで無償、それに徹底した暗号化付だ。まず、ローカルでは448-bit Blowfishないしは256-bit AESという殆どミリタリーグレードの暗号化を施し、その上で128bitのSSLでバックアップデータをセンターに送り出す。扱うデータはドキュメントから画像、ビデオなんでも構わない。

Mozyのバックアップは安全性以外に、2つの工夫がある。
ひとつはクラウドにあげるインターネット帯域の利用幅を指定出来ること。これは、必ずしも十分な環境にないホームユーザーには有難い。使用しているPCの邪魔をしない工夫だ。またPCのアイドル中のバックアップやスケジュール・バックアップも可能だ。PCが完全にダメになった場合のフルバックアップにはDVDの注文も出来る。もうひとつの大事な機能は簡易CDP(Continuous Data Backup)。CDPはエンタープライズのシステム運用ではかなり普及しているバックアップ技術で、本番のファイル更新を続けながら、並行的にバックアップを採取して行く。これによって、どのような状況でダウンが起きても、限りなく最新状態に近づくことが出来る。
このような使い易く安全な機能からMozyの人気は上がり、2008年1月、クラウド市場への積極関与を狙うEMCによって買収、現在はEMCの新たな子会社Dechoの核ビジネスとなっている。昨年10月には、セキュリティー大手のMcAfeeと提携し、年額60㌦でクラウドストレージ容量が無制限というMozy運営のMcAfee Online Backupが加わった。
サポートプラットフォームはWindowsとMac OS-X。

-使いやすさを追求したCarbonite-

CarboniteもMozyと同じ2005年創業、翌年からサービスを開始した。こちらもオーソドックスなバックアップを提供しているが、これだけの人気には秘密がある。Carboniteもエージェントソフトウェアをダウンロードすることから始まる。このエージェントがPC上での仕事を邪魔せずに新たなファイルの更新や追加を見つけてバックアップを採る。心憎いのはPCがアイドルになると動き出し、使い始めるとスリープ状態になる。まるでPCと一体化したかのような謙虚な動き方だ。ADSL利用の場合1日当り5~8GBのアップロードが目安となる。セキュリティーについてはローカルとクラウドの2段階。対象となるファイルは何でも構わず、設定さえすればプログラムなどの実行ファイルやDLLもバックアップ出来る。またサイズ制限はないので、自分のPCに積んでいるHDDサイズとクラウドストレージが同じだと思えばよい。バックアップがどのような状態かもすぐに解る。グリーンの丸印ならバックアップ済、イエロー丸なら仕掛かり中、何もなければこれからだ。トラブル時のリストアは、全てを対象にすることも、特定のファイルを対象にすることも出来るし、ファイルの世代管理は10世代までOKだ。もしPC内のファイルを削除しても30日以内ならクラウドにあるので大丈夫。CarboniteはWindowsだけでなく、OS-X版もあるのでMacファンには嬉しい限りだ。

以上のようにMozyとCarboniteはよく似たサービスである。
強いて言うなら、Mozyは安全性重視、Carboniteは使い易さの追求だろうか。
コスト面ではMozyHomeが1PCあたり月額4.95㌦(年額換算59.4㌦)、無償は2GBまでだ。Carboniteも1ユーザーで月額払いはなく年額54.95㌦、無償は15日間のトライアルでファイル容量の制限はない。実際のところ、クラウドストレージでは、MicrosoftのSkyDriveなど無償で容量も大きいもののあるが、ユーザーが実用的に使うには十分ではない。基本的にはオーソドックだが、きめ細かな機能を持ち、料金を払う価値のあるサービスがMozyとCarboniteということだろう。