前回はオーソドックスなバックアップクラウドについて説明した。
勿論、WindowsユーザーにはOS自身がファイルのバックアップ/リストア機能を持ち、異なるデバイスに採ることもできる。しかしながら、一般ユーザーでは内臓のHDDしかなく、クラシュしてしまえば、全てがダメになる。クラウドストレージを使った利点のひとつは、ここにある。もうひとつの利点は、クラウドによって、複数のPCやモバイルなどのデバイス、さらにグループの仲間とシェアが出来ることだ。今回はこの領域で人気のZumoDriveとDropBoxを紹介しよう。
-仮想ドライブでシームレスにするZumoDrive-
このところ低価格のNetbookの普及が進んでいる。
Netbookとクラウドストレージは実際のところ相性が良い。と言うのは初期のNetbookには価格面から十分なストレージがなく、クラウドと組み合わせて使うのが便利だったからだ。このため大手ベンダーでは、こぞってクラウドストレージを組み合わせた販売策を推進した。
さて始めに紹介するのはZumoDriveだ。
同社が提供するのはフロントエンドのエンジンだけ。バックエンドとなるクラウドストレージはAmazon S3を使う。このS3はPC上では右のように仮想ドライブのZumoDrive(Z:)となって現れ、通常のDrive C:と同期する。実際にデバイスに4GBしかなくても、クラウドに100GBあれば大丈夫だ。ZumoDriveはそれらをシームレスに同期させ、 NetbookのHDDはただのキャッシュのように見える。ZumoDriveを開発したのはシリコンバレーのスタートアップZecterだ。2007年設立、当初に開発していたα版はDrive C:上のファイルをZumoDrive(Drive Z:)にドラッグ&ドロップしてアップロードする。ここまでは幾らでもあるクラウドストレージだが、Drive Z:のクラウドファイルは全てがローカルにあるように見える。しかし、これは見せ掛けだ。実際には当該ファイルをクリックして開くとクラウドからストリーミングでローカルに落ちてくる。クラウドの仮想ストレージとローカルHDDをシームレスに見せるコンセプトだ。その後、昨年1月のβ版登場でZumoDriveはよりクールになった。
まず、グループでクラウドのストレージがシェアできるようになった。そのためにはファイルを右クリックして“Share”を選択、これによって当該ファイルにアクセスする
ランダムな文字列のURLが生成される。 このURLは、念のため修正も効くからセキュリティー面からも安全だ。また、自分の複数のPCやモバイルから、同じアカウントにログインすれば、クラウドストレージは共用となって同じファイルが見える。どのデバイスからでも仮想ドライブがシームレスになるわけだ。音楽好きのiPhoneユーザーにはiTunesが、写真などの画像にはPicasaやiPhotoなどがZumoDriveにはビルドインされているので、どこからでも音楽を編集・再生したり、アルバム写真を閲覧出来る。これらの作業はダウンロードすることなく、ZumoDriveならクラウド上でそのままできる。現在、iPhoneに次いでAndroidやWindows Mobileも開発中だ。
もう一度確認しよう。
ZumoDriveでは、クラウド上のファイルはファイル・マネージャーを開けば全てが見えるがローカルにあるわけではない。好きな曲を開くとクラウドからストリーミングされてくる。こうなればもうiPhoneの実際のストレージサイズに左右されることはない。一度ダウンロードされたファイルがローカルに残ってればキャッシュ扱いとなるのでオフラインでも使用できるし、意識的にダウンロードファイルをキャッシュにするかを決めても良い。ローカルストレージをどの位キャッシュに使うかも定義できる。ファイルのアップ&ダウンロードのスピードはレバーをスライドさせながら大よその速度を決めるオートマティックと、上り下りを詳細な伝送速度で定義できるマニュアル設定があるのも心憎い。
-ファイルのシンクロナイズでPC共有が出来るDropBox-
さて、ZumoDriveよりほんの少し早くβ版をリリースしたのはDropboxだ。
開発したのはサンフランシスコのEvenflow。それに2007年の設立も、バックアップVCもZumoDriveと同じY Combinatorだというから面白い。
Dropboxのコンセプトは、複数のPC間でファイルを共用すること。そして、使い方は、まさに共用したいファイルを箱の中に落とすだけ。作成したアカウントにログインするとマイドキュメント内に「My Dropbox」が現れる。ここに必要なファイルを落とせば全てが完了だ。後は自動的にこのホルダー内の全ファイルをDropBoxがクラウドにアップロードしてくれる。そして自分の持つ複数のPCから同じアカウントでログインすれば、全てのPCのMy Dropboxホルダーはシンクロナイズ(同期化)されて、同じ状態に維持される。ユーザーはホルダーを開けばどんなファイルがあるのか、シンクロナイズされているのか一目瞭然だ。Dropboxではオフラインでもホルダー内のファイルは利用出来、オンラインになると自動的にシンクロされる。つまりZumoDriveは仮想ドライブからファイルがストリーミングでシームレス化されるのでオンライン利用に限られていたが、DropboxではMy Dropbox内のファイルは全てローカルにある。そしてオンライン時のシンクロは、より伝送効率をあげるための差分更新だ。DropBoxの場合もバックエンドのクラウドストレージはAmazon S3を利用、伝送はSSLなので安全だ。また、アップロードされたファイルは更新の都度リビジョン管理がされているので、万一、削除した古いものが必要になっても大丈夫。
My Dropbox内のファイルをハイライトし、Dropbox→Show Deleted Files選択で、今までの削除ファイル一覧を表示、どの版にも戻ることが出来る。
またMy Dropboxには幾つか専用のホルダーがある。まずグループと共用のためのPublicだ。このホルダー内に共用したいファイルを置き、そのファイルの右クリックからCopy Public Linkを選ぶとパブリックURLが生成される。これを相手に知らせればファイルの共用が可能だ。次にPhotos。この場合もホルダー内に写真ファイルを置き、ファイルをハイライト、右クリックからCopy Public Gallery Link選択でパブリックURLが生成される。このURLを送れば一度に多くの写真をグループと共有できる。
再度、確認すると、Dropboxでは、決められたMy Dropbox内のファイルはクラウドにあげられ、他の同じアカウントからログインした(自分の)PCとシンクロナイズされる。つまり、クラウドストレージとどのPC内のMy Dropboxも同じ内容だ。ここがDropboxのポイントである。サポートプラットフォームはWindows、Linux、Mac OS-X、iPhone。
以上のように、同じAmazon S3を使っていても2つの目指すところは違う。
結果、2つのターゲットとなる使い方もおのずと異ってくる。ZumoDriveは、当初、小容量HDD搭載のNetbookを狙ったが、HDDの価格低下から、現在はモバイル全般をターゲットにしている。一般のホームユーザーは、核になるPCがあって、さらに各種のモバイルやデバイスを持ち歩く。それぞれのデバイスに非同期で必要な情報やファイルを載せ、自分で管理するのは限界がある。ZumoDriveは仮想ドライブとなるクラウドストレージを介して、全体をシームレスにしようという試みだ。
一方のDropboxは、基本的にPC間のファイル共用をどれだけ使い易くするかということに主眼を置き、そのための工夫が共用ホルダーのMy Dropboxだ。Dropboxがビジネスマンにも便利なサービスなら、ZumoDriveは若者にも受けるサービスである。
2つは競合ではなく、共存する。だからこそ、同じVCが支援しているのだろう。