2010年10月25日月曜日

連邦政府のクラウドITサービスに選ばれた11社  
                          -Apps.gov IaaS-

懸案だった連邦政府のクラウドITサービス(以下、クラウドIT)が動き始めた。
昨年9月15日、FCCI(Federal Cloud Computing Initiative)に沿った連邦政府の
クラウドポータルApps.govがスタートしたが、この中にクラウドITは含まれなかった。

◆  Apps.govの目標
Apps.govの狙いは2つ。
ひ とつは連邦政府下の省庁職員向けで、多様なアプリケーションを揃えたStoreFrontとしての顔、これにはBusiness AppsProductivity AppsSocial Appsの3分類がある。内容は外部企業が提供するWebアプリケーションやSaaSアプリケーションを集 めたもので、サイトを運営するGSA(general Service Administration)が契約条件などを統一化、利用する職員は同一の方法で支払いなどができるように工夫されている。
もうひとつは省庁 の持つデータセンターのクラウド化だ。これが今回動き始めたクラウドITでIaaSに相当する。提供するサービスは、①仮想マシン、②クラウドストレー ジ、③Webホスティングの3つ。当初計画は昨年度から本番であったが、RFQ(Request for Quotation)が上手く機能せず、今年5月、再提示となっていた。

        (現在、上図のように3つのサービスはComing Soonとなっている)

このクラウドITが動き出せば、各省庁が持つデータセンター 機能の一部が移行するはずだ。昨年3月、オバマ大統領のもとで連邦政府CIOとなったVivek kundra氏は、現在、連邦政府の総IT予算は$7.5B(1㌦100円換算で7,500億円)、うちインフラ部が$1.9B (同1,900億円)だとし、この部分の大幅な削減をクラウド化で期待すると宣言した。

◆ 選ばれた11社
今回、Apps.govのIaaS(クラウドIT)に GSA(General Service Administration-一般調達局)から選ばれたのは以下の11社だ。これら殆どは長年連邦政府系システムを手がけてきたコントラクターだ。大手 企業系では、AT&T、General Dynamicsの情報処理子会社General Dynamics Information Technology、データセンターSavvisの 連邦政府担当Savvis Federal、キャリアVerizonの連邦政府担当Verizon Federalが入っている。また独立系ではApptisAutonomic Resourcesの2社がシステムインテグレーター、CGIの連邦政府部門CGI FederalやComputer Literacy World、Eyak TekInsight Public SectorはITサービス、Computer Technologies Consultantsはコンサルテーションである。

  1. Apptis Inc. partnered with Amazon Web Services
  2. AT&T
  3. Autonomic Resources partnered with Carpathia, Enomaly, and Dell
  4. CGI Federal Inc.
  5. Computer Literacy World partnered with Electrosoft,
    XO Communications and Secure Networks
  6. Computer Technologies Consultants, Inc.,
    partnered with Softlayer, Inc. 
  7. Eyak Tech LLC
  8. General Dynamics Information Technology
    partnered with Carpathia
  9. Insight Public Sector partnered with Microsoft
  10. Savvis Federal Systems
  11. Verizon Federal Inc.    
       
こう してみると、一般には知られていない小企業が大手と伍して参加していることに驚かされる。つまり、連邦政府系の仕事にはそれだけ専門性や繋がりが重要だと いうことだ。これは大手も同様で連邦政府向け子会社を持っていることからも解る。そしてAmazonはApptisと組んでAWS (Amazon Web Service)提供を計画し、Microsoftも Insight Public Sectorを前面に立てた。

◆ 注目される2社
この中で注目はCarpathia SoftLayerの2社だ。
中堅ながら両社ともホスティングとクラウドを手がけ、Carpathia は昨年10月、Federal Cloud Initiativeを自ら立ち上げ、連邦政府のセキュリティー要件FISMA(Federal Information Security Management Act)や国防総省のDITSCAP(Defense Information Technology Security Certification & Accreditation Process)に積極的に取り組んできた。両社は今回、5年契約となるBPA(Blanket Purchase Agreement)を取得した選定企業経由でIaaSクラウドサービスを提供する。2つのパートナーを持ったCarpathiaで想定されるのは、 Autonomic Resourcesの支援を受けて現行クラウドを整備し、General Dynamics Information Technologyの携わったシステム案件をIaaSに置き換える作戦だ。Softlayerの場合も連邦政府に実績のあるComputer Technologies Consultants(CTC)経由でIaaSを提供する。CTCは小柄ながらも連邦政府での実績は十分だ。これまでの経験を活かして、出先省庁と協力 してクラウド上に業務を移行させるつもりであろう。

今回選定された11社は、今後、FISMAなどの2次審査を受け、その後、実際のサー ビス形態が明らかになる予定である。

2010年10月22日金曜日

運用管理領域の改善は進むか!
                -クラウドの今後はどうなる(2)-

さて前回のハイパーバイザーと仮想OSに続き、運用管理領域について考えてみよう。
この分野でもOSと仮想化ベンダーが統合すれば、動きがあるか もしれない。

◆ 二分化された現在の状況
運 用管理システムは現在、新旧、2つの勢力がある。ひとつは、IBM Tivoliを筆頭にHPやCA、BMCなど、メインフレーム時代からの流れを引き継ぐ勢力だ。この勢力の特徴は物理的な管理にウエイトがあり、そして中 央のデータセンター機器からネットワーク機器へと範囲を広げてきた。対象となる機器はメインフレームからLinux、PCなどだ。もうひとつは、仮想化ベ ンダーが開発提供してきた製品群で、論理的な仮想マシンの作成・実行などの運用に焦点が当てられている。

問題はこの2つ の流れが今後、統合に向かうかどうかである。
メインフレームから続くプロプライエタリーな流れは、多くの経験に裏打ちされた機能を持っているが、 仮想化領域は不得手で、かつ価格が高いという弱点がある。他方、仮想ベンダーの提供するVMware vCenterやCitrix XenCenter、Red HatのEnterprise Virtualization Manager for Serversは仮想化処理は強いが、システム全体には、必ずしも頭が回っていない。これらの現実を直視すると、できることなら、ユーザーの希望は両者の 統合である。


た だ、この2つの流れは、企業買収や勢力バランスの不均衡などが起きない限り、対 峙することはあっても協調することは難しい。となると、一番期待されるのは、OSと仮想化ベンダーの一体化による新興勢力のガンバリがあるかだ。

◆  オープンソース製品の世界
そこで注目されるのが、オープン ソース製品である。この分野にはNagiosopenNMSZenossGroundWork Open Sourceなどがある。


中 でもNagiosはプロジェクトの歴史も長く、多くのユーザーに単体や他製品に組み込まれて利用されている。これらの製品はSMTPやSNMP、 NNTP、POP3、HTTP、FTPなどを用いて、サーバー負荷やディスク利用状況、そしてネットワーク監視などが出来る。問題は、これらの製品と仮想 化ベンダーの提供する運用管理システムの関係だ。これらオープンソース製品は物理的な監視が主目的であり、仮想化ベンダー製品は仮想環境の整備・運用に対 応している。つまり、補完関係にある。この両者が結びつけば、強力な製品となる。現在、ZenossからはCloud Monitoringが出ているし、GroundWorkはEucalyptusとパートナリングして、クラウド上のApplication Monitoringを提供、老舗のNagiosはAmazonクラウド(AWS)が提供するモニタリングのCloudWatchのプラグインを開発、こ れを使えばNagios上でAWS のモニタリングが可能となる。このようにオープンソースコミュニティは、ユーザーの使い勝手向上に向け、クラウド対応を進めてきた。次は一体化が進む仮想 化ベンダーがどう対応するかだ。


◆  VMware/SUSE連合が動けばどうなるか
そ こでVMwareとSUSEの場合を考えてみよう。
現時点でVMwareの戦略を予測するには未知数が多すぎる。しかし、動けば多くのことが考え られる。まずNovell側にはPlateSpinがあり、さらにZENworks、そしてCloud Managerがある。PlateSpinは2008年にNovellに買収されるまではVMwareのパートナーとして、主に移行ツール分野で活躍して いた会社だ。Novell ZENworksはネットワークに繋がるサーバーやPC、モバイルなどのソフトウェアライフサイクル管理であり、Novell Cloud Managerはマルチハイパーバイザーの管理が可能だ。さらにVMwareが昨年夏に買収したSpringSourceの傘下(2009年4月に買収) にはオープンソースの監視システムHypericがある。これを使えば、ハードウェアだけでなく、AIXやHP/UX、Linux、Solaris、 Windows、Mac、FreeBSDなど多様なOSから、Web Server、Application Server、Databaseなど殆どのミドルウェアがモニタリングの対象となる。vCenterにはWorkflowエンジンが組み込まれ、ジョブス ケジュールのOrchestration機能、そしてData Recoveryも始まった。

以 上、全体的にクラウド運用管理領域をみてきた。
今後、どのように進むのかはまだ不透明だが、環境は整ってきた。仮想化とOSベンダーの一体化が弾 みとなって、次なる段階に進むことを望む。特にVMwareの周りには色々な材料が揃っている。他方、プロプライエタリーな運用管理ベンダーは、今後の死 活問題として、状況打開を期待したい。

2010年10月18日月曜日

仮想化ベンダーの守備範囲はどこまでか!
                -クラウドの今後はどうなる(1)-

シリーズでマルチハイパーバイザー管理のクラウドマネージメントについて述べてきた。
そこでホットになりつつあるクラウドマネージメントソリューション市場を起点に、今後、クラウドがどのような方向に向かうのか、そのポイントについて纏めてみようと思う。クラウドマネージメント市場の形成には幾つかの背景がある。まず、①ユーザー企業の環境を見ると、仮想化でVMwareが絶対優位とは言っても、Xen、Hyper-V、そしてKVMの登場で、複数のハイパーバイザーを利用する時代になってきた。そして、必然的な結果として、②ユーザー企業は仮想化ベンダー固有の技術に縛られることを好まず、仮想化技術を抽象化したいと考えは始めた。これが“Cloud Management Solution”開発が活発になってきた理由である。


◆ 仮想化ベ ンダーはハイパーバイザーに留まるべきだ
つまり、仮想化はハイパーバイザーとしてOSに含まれる機能だが、上位のミドルウェアやアプリケーション領域とは関係がない。これがユーザー企業の声になりつつある。MicrosoftのWindowsにHyper-V、Red HatのKVM、そしてまだ噂の域を出ないが、VMwareによるNovellのSUSE部門買収が現実になれば、SUSEにVMwareとなる。
実際のところ、今年6月中、VMwareはNovellと提携し、7月中旬からリリースの始まったvSphere4.1からSUSE Linux Enterprise Server(SLES)が同梱されている。そして、8月30日からのVMWorld 2010では“Novell SUSE Linux Enterprise Server for VMware”の提供を開始すると宣言した。これはVMware用にチューニングしたSUSE Linuxを出荷し、合わせてSUSEのサポートもユーザーに提供するというものだ。ここまでくると、買収が不首尾に終わっても実質的には同じだ。このように仮想化とOSのタイトな関係が深まれば、次の問題として、それらを抽象化するクラウドマネージメントの必要論が出てきておかしくない。
今、我われはこの時点にいる。

◆  仮想マシンOSとアプライアンス
またハイパーバイザーと関連して、仮想マシンOSとアプライアンスの関係も重要だ。
現在、アプライアンス用の軽量化されたOS-JeOS(Just enough OS)には、rPath、Ubuntu JeOS、Red Hat Appliance OS、SUSE JeOS、LimeJeos、Oracle Enterprise Linux JeOSなどがある。初期のJeOSはソフトウェア・アプライアンスの作成が主目的だったが、現在では仮想マシン上で容易にソフトウェアを扱う方法と して成長してきた。これに伴いISVが適用するソフトウェアも、これまでのライセンス付きインストールものから、マシンイメージものが増えてきた。 Microsoftは今のところ沈黙だが、改良版Windows Starterがこの範疇として登場するか、一時噂だったMidoriなどが登場する可能性も否定できない。
アプライアンスの作成ツールでは、こ れまでrPathのrBulderが市場をリードしてきた。
そしてNovellやVMwareも熱心だ。VMwareはVM Studioを提供してvAppsライブラリーの整備を進め、NovellもSUSE StudioでSUSE Appliance Programを推進してきた。
しかし事情が変わり、VMwareではvAppに最適なものとしてSUSE JeOSを採用することが既定路線となったらしい。

◆ OSと仮想 化ベンダーの一体化
こう見ると、期待されていることは、OSと仮想化ベンダーのより一層の一体化である。
特にVMwareとNovellの関係が要注意だ。この買収が成功すれば、エンタープライズ領域のOSベンダーの一体化が完了する。その結果、データセンター側ではハイパーバイザー、仮想マシン上ではJeOSとアプライアンス
の整備が進む。さらにハイパーバイザーと仮想マシンOS間の機能連携強化の可能性も出てくる。現在の仮想マシンOSは、スタンドアローンOSの転用で本格的なクラウド時代にはややそぐわない。同様にJeOSもアプライアンスの転用である。大事なことは、開発自体はほぼオンプレミスで行い、実行の多くが仮想環境となる点だ。勿論、実行環境では、オンプレミスと仮想マシンの完全な互換性は必須である。このような視点から、仮想マシンOSの整備が進めばユーザーは、大きなメリットを享受できる。

◆ 現実はどうか?
ベンダー競争の現実は厳しい。理想的な機能よりも、売上げが先だ。
特に仮想化市場を牽引するVMwareは、これまでの実績をベースに、より上位領域に手を広げてきた。クラウドインフラとなるvCloudやSaaS領域のSpringなどだ。この動きはCitrixやRed Hatも同様である。しかし、ここに来て、ハイパーバイザーを抽象化するクラウドマネージメント製品やクラウドインフラなどが複数のベンダーから登場し、 軌道修正が必要な時期に来ている。クラウド市場は、第2ラウンドに入り始めた。彼らがどう動くのか注目である。

2010年10月6日水曜日

スペインからやってきたAbiquo
                 -クラウドマネージメント(4)-

Abiquoのデモを始めて見たのは3年も前だ。
当時のデモは画面上で機器構成を描き出すツールのようだった。同社はもともとスペインが本社。スペインと言えば、クラウド構築ツールOpenNebulaのようにクラウドが盛んなところである。当時はスペインから米国にカンファレンスのたびに出向いていた。その時のプロトタイプと現在の製品は殆ど別物だが、技術は継承されて部分的に組み込まれているようだ。その後、クラウドの波に乗り、2009年にクラウド管理ツールのα版、2010年2月、オープンソースのCommunity Editionをリリース、そして3月、Redwood Cityに米国本社を開いてシリコンバレーにやってきた。

◆ Abiquoとは
Abiquoの製品には前述のオープンソース版(Community Edition)とEnterprise Editionの2つがあり、共に以下のマルチハイパーバイザーを管理する。この分野にはこれまで報告してきたように色々な製品が登場してきたが、Abiquoの特徴は、実存する殆どの仮想化技術をサポートしていることである。実際には、以下のような製品が提供するAPIを利用し、異なる仮想化技術が搭載されたサーバーのプロビジョニングを実行する。
  • VMware ESX and ESXi
  • Microsoft Hyper-V
  • Citrix XenServer
  • Virtual Box
  • Xen
  • KVM
◆ Abiquoの構造
Abiquoのコンポーネントは下図のように大きく分けて3つ。
①マルチハイパーバイザー管理の“Abiquo Server”、②マシンイメージを変換する“OVF Repository Space”、そして③運用管理用の“Abiquo Portal”だ。


要となるAbiquo Serverは、異なる仮想化技術が適用され、実際にはバラバラに設置されている物理サーバーを論理的に管理する。ユーザーはこのAbiquo Serverを介して仮想マシンのCPUやメモリー、ストレージなどの容量を決める。

次にOVF Repository Spaceでは、DMTFが定めたOVF(Open Virtual Format)を用いて、各社固有のマシンイメージをDrag & Dropで変換することができる。実際の処理は、OVFはラッパーなので、変換にはこのラッパーを解いて、各社が用意している変換ツールが内部的に実行されている。


システム管理のAbiquo Portalを見ると、同社が初期に開発していたビジュアル機器構成管理ツールが進化したことがわかる。これが同社のウリのひとつである。機能的には、①物理構成を管理する“Infrastructure”、②複数台の仮想マシンをデータセンターに見立てる“Virtual Datacenter”
③アプライアンスなどのアプリケーション管理“App Library”、その他“Users”や“Events”などの管理ツールが用意されている。

◆ ユーザー調査に見るIT部門とユーザーの意識差
次にAbiquoの特徴を伺い知るために、同社がDownloadユーザー2万社に行ったユーザー調査(8月末)を見てみよう。それによると、今日のクラウド利用には以下のような5つの課題がある。まず、1)のSecurityやComplianceについては、他の調査でもほとんど同様の指摘があるので割愛するが、5)は、仮想化やクラウド技術による囲い込みが進み、ユーザーにとっては大きな懸念材料となっている。

1) Security and Compliance
2) IT Organization Overload
3) Lack of Visibility into Virtual Environments
4) Unrealized Utilization Improvements
5) Vendor Lock-in

さらに2)~4)は、仮想化されたクラウド環境を提供するIT部門と利用ユーザー間にかなりの意識差があることがわかる。2)は、現在の不況下のコスト削減から、仮想化によるサーバー統合やクラウド利用は進むが、IT部門には大きな負担となり、負担軽減の効果的なツールが求められている。さらに3)では、仮想環境の透明性が低く、4)利用率向上が進んでいない。その結果、一度使った仮想マシンやストレージがそのまま放置されており、ここでも有益なツールが必要となっている。

つまりこれらの課題を解決するのがAbiquoだということで、我田引水の感は否めない。しかし、それはそれとして、クラウドが動き出した後のこのような問題指摘は謙虚に受け止めるべきだろう。このブログで、数回にわたって紹介しているクラウドマネージメント製品が活況なのは、このような理由だからだ。