2010年7月28日水曜日

Top 10 Cloud Players-その8 
             -オープンクラウドを目指すラックスペース-

「米国クラウド十傑(Top 10 Cloud Players)」の8回目。
独立系大手ホスティング会社のRackspace(本社:テキサス州サンアントニオ市)の人気は高い。アマゾンに次いでパブリッククラウドでは2位につけているはずだ。今回はこのユニークな会社を取りあげる。

◆ 自由な雰囲気とユニークな発想
同社の前身はISP、その後Webホスティングに進出、1998年に総合的なホスティングを扱うRackspaceとなった。この流れの中で夢を追う2人のWebデベロッパーがいた。彼らは顧客の多くが自営システムからホスティングに移ってきたように、いずれは専用マシンや機器を間接的とは言え保有することを好まない時代がくると考えていた。会社は彼らの夢に賭けて2006年、実験事業のMossoを立ち上げた。これが同社のクラウドの始まりである。Amazon S3の開始は2006年3月、EC2は同8月、テキサス州サンアントニオの暑い夏の戦いである。その後、2008年にMossoブランド止め、現在のRrackspace Cloudとなったが、同社が提供する現在のCloud ServersCloud FilesCloud Sitesの3つうち、FilesとSitesは今でもMossoの技術である。ここでCloud Serversは仮想マシンのEC2に相当し、Cloud FilesはS3対応であり、Cloud SitesはWebホスティングだ。そして2008年10月、オンラインバックアップサービスのJungle Disk、続けてVirtual Machine ProviderのSlicehostを買収した。このSlicehostとは格安の仮想マシンを提供するユニークな会社である。同社のホームページには現在の仮想マシン相場料金表が掲載されており、利用するデベロッパーはその中から選んでも良いし、自分でCPUやメモリー容量を指定して申し込んでも良い。しばらくするとeメールで申し込んだ仮想マシンが準備できた旨の知らせが来る。つまり中央の大型サーバーをスライスしながら仮想マシンを作りだすが、できるだけ無駄をなくすため要望を纏めて処理したり、要らなくなった仮想マシンをすぐさま売りにだすなどの工夫がある。これによって隙間無く仮想マシンを走らせ廉価な提案ができあがる。
現在のRackspace Cloud ServersとSlicehostのプラットフォームはXenによる仮想化で同一テクノロジー基盤となり、しかもClicehostは一部親会社Rackspaceのデータセンターを利用している。Jungle Diskの方も当初はバックエンジンとなるクラウドストレージはAmazon S3だった。買収後、ここでも親会社のデータセンターを採用し現在、ユーザーはどちらか選ぶことができる。こうして親会社も子会社も出来るだけ良いものは互いに採用し合い、ファシリティも共用するユニークな経営が続いている。
同社にはもうひとつ面白い話がある。ギークのためのギークの会社、ServerBeachだ。この会社を始めたのはRackspaceを興したRichard Yoo氏。氏はMossoと同じようにこれからの時代はストリーミングに向かうとして活動していたプロジェクトをスピンアウトさせた。2002年のことである。氏の読みは当たってYouTubeのビデオホスティングに成功。YouTubeは2005年、PayPalの3人のエンジニアが考え出したアイデアで始まった。人気は瞬く間に広まり、翌2006年10月、Googleが16.5億㌦で買収したのは知っての通りである。あのわからず屋のYouTubeを相手に初めての大規模ビデオホスティングをしたのだから彼らの腕前の程は判るだろう。

◆ Amazonとはここが違う
Rackspaceを使って、Amazonとの差ですぐ気が付くのはその構造である。
Amazonの仕組みは基本となる仮想マシンのEC2にESBやS3、VPN、CloudFront、Load Balancerなどを組み合わせて使用する。AWSは必要なモジュールをビルディングブロックのように組み上げるSOAのようなものである。これに対しRackspaceはServersとFiles、それにSitesだけ、とてもシンプルな構造だ。しかしEC2に対応するServersにはAPIが公開されており、これを使えば外部から仮想マシンを制御することができる。例えばインスタンスの起動前に新たな情報を挿入して稼働環境(リサイズ、サーバーイメージの変更など)を再設定することが可能だ。同様の手法でEC2でおなじみのDrag&Dropでプロビジョニングを実行するRightScaleがRackspace Cloud用を開発、仮想アプライアンスのrPathからもソフトウェアアプライアンスで仮想マシンイメージを作成して置き換えるシステムなどが出てきた。また近々、iPhoneからこのAPI経由でRackspace Cloudのリモート監視も可能となる模様だ。
こうしてみると、Amazonは多様なモジュールを提供してデベロッパーに利便を与えているが、別な見方をすればそれらはAmazon固有のものでオープン性に欠け、ユーザーは他のクラウドには乗り換えられない。一方、Rackspaceはシンプルであるが故に自由度が高く、他のクラウドへの移行も基本的な問題は生じない。


◆ NASAのNebukaと立ち上げたオープンスタック
7月16日、Rackspaceはとうとうオープンソース化を決め、OpenStack Projectを立ち上げた。プロジェクトに寄贈したのはCloud ServersとCloud Filesのコードだ。そしてパートナーがシリコンバレーのNASA Ames Research Centerと決まった。Amesではオープンガバメント計画の一環としてNebulaが動いている。Nebulaとは“星雲”、まさにNASAにふさわしいクラウドだ。しかもこのクラウドはすべてがオープンソースで作られている。立ち上がったオープンスタックには2つのプロジェクトがある。“Compute”と“Object Storage”だ。基本検討が終わった現在、ComputeにはNebulaが採用され、Object StorageにはRacspace CloudのFilesが用いられることになった。共に初期コードのリリースは今年9月。この計画が本格化すればプブリッククラウド間の連動やアプリケーションの移動も大幅に改善される。クラウドの次世代への期待がこめられているプロジェクトの始動である。
(関連記事:連邦政府のクラウド計画(3)-Data.govからNASA Nebulaまで

2010年7月8日木曜日

Top 10 Cloud Players-その7 
                   -国防総省のRACEクラウド-

「米国クラウド十傑(Top 10 Cloud Players)」の7回目。
今回は前回の連邦政府のクラウド計画に関連し、DoD(Department of Defense)の情報処理担当部門DISA(Defense Information Systems Agency)が始めたクラウドコンピューティング-RACE(Rapid Access Computing Environment)-について取りあげる。

RACEプロジェクト
RACEはプロジェクトは国防総省DoD傘下のDISAが始めた"Cloud Computing Initiative"が始まりである。それ以前からDISAではOnDemandサービスを提供していたが、クラウドの時流に沿って改訂した。開発パートナーはHP、本番開始は2008年10月からだ。まず、デフェンス関連の
デベロッパーに新しいアプリケーションの「開発環境」を提供すること、これが第1ステップだった。彼らの仕事で他のコマーシャルと大きく異なるのは安定性とセキュリティだ。この段階で俗にいう可用性のSLAは99.999%を達成した。この値はAmazon EC2(99.95%)やGoogle App Engine(99.9%)と比べても高いし、ほぼ100%だ。しかしこのために、自由なサイズの仮想マシンは制限され、柔軟性という面では課題もあった。提供された仮想サーバーは1CPUに1GBメモリー、そして50GBのストレージ付き、提供OSはRed HatとWindows、ソフトウェアスタックは共にLAMP (OS+Apache+MySQL+ PHP)である。ハードウェアはHPブレードサーバー、仮想化はVMWareを使用。使用料金はサーバー当たり$500/月で、利用部署はクレジットカード払いができる。第1段階では作戦指令制御システム(Command and Control System)や護送制御システム(Convoy Control System)、衛星プログラム(Satellite Program)などの開発やテストが行われた。

 RACEの第2ステップ
そして1年後の昨年10月から第2ステップが始まった。
今度は「本番環境」に向けたものである。提供環境は第1ステップと同じWindowsとLinux
のLAMP環境、しかし本番で利用できる仮想サーバーはかなり自由になり、CPUは1~4CPU、メモリーも1~8GB、ストレージは10GB単位で1TBまで拡張が可能となった。利用料は基本$1200/月~からだ。そしてユーザ-各自がカスタマイズできるStoreForntも一新して、まるでiGoogleのようになった。勿論、セキュリティは完璧である。まず基本的にターミナルからのアクセスは通常DoD職員が持つCommon Access Card(CAC)とPKI証明書によって確認される。その他、契約企業の社員などはDISAが発行する他の証明があればアクセスが可能だ。RACE自身はDoDの管理するDefense Enterprise Computing Center(DECC)のゾーンBに置かれているので、CACのチェックが終わると次にDECCのセキュリティーを受け、その後、初めてゾーンBに入ることが出来る。DECCでは利用する業務やユーザーによってゾーン管理が施され、それぞれにふさわしい設定が行われている。


◆ DoDのオープンソース、Forge.mil

オープンソースの世界ではSourceForgeが有名だ。ソースコード管理は勿論、プロジェクト管理からコラボレーションまで全てができる。現在25万プロジェクトが利用しているというから世界最大のコラボ開発システムであることは間違いない。そのSourceForgeのDoD版がForgeプロジェクトのForge.milだ。2008年、RACEと歩調をあわせるようにスタートした。RACEはIaaSだけでなくPaaSを担当し、Forge.milはSaaS領域をカバーする。実際、RACEでは仮想サーバーだけでなく、仮想デスクトップやGrid Computingも一部始まっている。これらを総称してIaaSとし、仮想サーバーではその上にLAMP、
さらにソリューションスタックを乗せてPaaSに発展させる意向である。Forge.milには“Software”、“Project”の2つのプロジェクトが現在動いているが、今後は“Test”、“Certification”、“Standards”の3つが予定されている。ここで“Software Forge”はDoD関連職員によるコラボ開発を支える機能であり、これによってSaaSアプリケーションの品揃えを図る。もうひとつの“Project Forge”はプロジェクト管理に留まらずALM (Application Lifecycle Management)を担当する。使い勝手においてSourceForgeに慣れた人なら、Forge.milがまったく同じ機能だとすぐに気がつくだろう。実際のところ、
CollabNet社のTeamForgeが採用されているからだ。


こうして見ると、DISAのRACEとForge.milには考えさせられることがある。
連邦政府が始めたApps.govとの重複だ。Apps.govでは現在、IaaSが棚上げとなっており、この取り扱いがApps.govの評価、さらには運命を決めるかもしれないからだ。RPQが再提出されていることは前回述べた。しかし、こういう声もある。DISAのシステムを一般化してApps.govに採用したらどうかと。

関連記事: 連邦政府のクラウド推進計画(3)-Data.govからNASA Nebulaまで-