2010年7月8日木曜日

Top 10 Cloud Players-その7 
                   -国防総省のRACEクラウド-

「米国クラウド十傑(Top 10 Cloud Players)」の7回目。
今回は前回の連邦政府のクラウド計画に関連し、DoD(Department of Defense)の情報処理担当部門DISA(Defense Information Systems Agency)が始めたクラウドコンピューティング-RACE(Rapid Access Computing Environment)-について取りあげる。

RACEプロジェクト
RACEはプロジェクトは国防総省DoD傘下のDISAが始めた"Cloud Computing Initiative"が始まりである。それ以前からDISAではOnDemandサービスを提供していたが、クラウドの時流に沿って改訂した。開発パートナーはHP、本番開始は2008年10月からだ。まず、デフェンス関連の
デベロッパーに新しいアプリケーションの「開発環境」を提供すること、これが第1ステップだった。彼らの仕事で他のコマーシャルと大きく異なるのは安定性とセキュリティだ。この段階で俗にいう可用性のSLAは99.999%を達成した。この値はAmazon EC2(99.95%)やGoogle App Engine(99.9%)と比べても高いし、ほぼ100%だ。しかしこのために、自由なサイズの仮想マシンは制限され、柔軟性という面では課題もあった。提供された仮想サーバーは1CPUに1GBメモリー、そして50GBのストレージ付き、提供OSはRed HatとWindows、ソフトウェアスタックは共にLAMP (OS+Apache+MySQL+ PHP)である。ハードウェアはHPブレードサーバー、仮想化はVMWareを使用。使用料金はサーバー当たり$500/月で、利用部署はクレジットカード払いができる。第1段階では作戦指令制御システム(Command and Control System)や護送制御システム(Convoy Control System)、衛星プログラム(Satellite Program)などの開発やテストが行われた。

 RACEの第2ステップ
そして1年後の昨年10月から第2ステップが始まった。
今度は「本番環境」に向けたものである。提供環境は第1ステップと同じWindowsとLinux
のLAMP環境、しかし本番で利用できる仮想サーバーはかなり自由になり、CPUは1~4CPU、メモリーも1~8GB、ストレージは10GB単位で1TBまで拡張が可能となった。利用料は基本$1200/月~からだ。そしてユーザ-各自がカスタマイズできるStoreForntも一新して、まるでiGoogleのようになった。勿論、セキュリティは完璧である。まず基本的にターミナルからのアクセスは通常DoD職員が持つCommon Access Card(CAC)とPKI証明書によって確認される。その他、契約企業の社員などはDISAが発行する他の証明があればアクセスが可能だ。RACE自身はDoDの管理するDefense Enterprise Computing Center(DECC)のゾーンBに置かれているので、CACのチェックが終わると次にDECCのセキュリティーを受け、その後、初めてゾーンBに入ることが出来る。DECCでは利用する業務やユーザーによってゾーン管理が施され、それぞれにふさわしい設定が行われている。


◆ DoDのオープンソース、Forge.mil

オープンソースの世界ではSourceForgeが有名だ。ソースコード管理は勿論、プロジェクト管理からコラボレーションまで全てができる。現在25万プロジェクトが利用しているというから世界最大のコラボ開発システムであることは間違いない。そのSourceForgeのDoD版がForgeプロジェクトのForge.milだ。2008年、RACEと歩調をあわせるようにスタートした。RACEはIaaSだけでなくPaaSを担当し、Forge.milはSaaS領域をカバーする。実際、RACEでは仮想サーバーだけでなく、仮想デスクトップやGrid Computingも一部始まっている。これらを総称してIaaSとし、仮想サーバーではその上にLAMP、
さらにソリューションスタックを乗せてPaaSに発展させる意向である。Forge.milには“Software”、“Project”の2つのプロジェクトが現在動いているが、今後は“Test”、“Certification”、“Standards”の3つが予定されている。ここで“Software Forge”はDoD関連職員によるコラボ開発を支える機能であり、これによってSaaSアプリケーションの品揃えを図る。もうひとつの“Project Forge”はプロジェクト管理に留まらずALM (Application Lifecycle Management)を担当する。使い勝手においてSourceForgeに慣れた人なら、Forge.milがまったく同じ機能だとすぐに気がつくだろう。実際のところ、
CollabNet社のTeamForgeが採用されているからだ。


こうして見ると、DISAのRACEとForge.milには考えさせられることがある。
連邦政府が始めたApps.govとの重複だ。Apps.govでは現在、IaaSが棚上げとなっており、この取り扱いがApps.govの評価、さらには運命を決めるかもしれないからだ。RPQが再提出されていることは前回述べた。しかし、こういう声もある。DISAのシステムを一般化してApps.govに採用したらどうかと。

関連記事: 連邦政府のクラウド推進計画(3)-Data.govからNASA Nebulaまで-