2010年6月28日月曜日

Top 10 Cloud Players-その6 
               -連邦政府のクラウド計画アップデート-

「米国クラウド十傑(Top 10 Cloud Players)」の6回目。
そして予告通りに民間ビジネスばかりでなく、今回は連邦政府のクラウド計画-Federal Cloud Computing Initiative-を取りあげた。理由は、この計画が民間のクラウド化を先取りするもので、成功すれば波及効果が大だからだ。加えて、連邦IT予算のコスト削減にも大いに寄与する。しかしながら、道のりは平坦ではなく、かなり問題も抱えている。そこでアップデートとして、その後の動きや課題などについて整理を試みた。


◆ 計画立案から実行へ(ステップ1)
連邦政府のクラウド計画が動き出したのは昨年の3月だった。
オバマ大統領就任後、連邦政府のCIO(兼ホワイトハウスCTO)となったVivek Kundra氏が精力的に動き、4月にはCIO Cloud Computing Management Officeを開設。これが連邦政府のクラウド推進部隊の原点である。その後、5月にはNISTによるクラウドの定義が終わり、これを受けて実行部隊である一般調達局GSA(General Service Administration)から各社に情報要求RFI(Request for Information)をオープン、
7月には提案依頼RFP(Request for Proposal)が出された。こうして連邦政府のクラウドApps.govが昨年9月にスタートした。短期間の離れ業である。

このシステムの受注に意欲的だったのは特に2社、Terremark WorldwideとSavvisだ。特に最大手のデータセンタービジネスSavvisを追うTerremarkは必死だった。何としてもこれを 受注し、連邦政府内での実績に弾みをつけたいところだ。そして昨年6月、TerremarkはVMwareから$20Mの投資を受けた。この資金の直接の目的は、受注のためのデータセンター投資に向けたもののようだったが、VMware側にもはっきりした理由があった。同社の戦略が企業向け仮想化ビジネスの飽和に伴い、次なる目標をデータセンターのクラウド化に定めていたからだ。所謂、vCloud Initiativeである。つまり、Terremarkにこのクラウドを受注させ、VMaware基盤を使ったモデルに仕立てることであった。これに先行し、Terremark自身は昨年5月、GSAの運営する連邦政府の総合情報ポータルサイトUSA.govと連邦政府の情報公開サイトData.govも稼動させていた。これだけの実績を持ち、かつVMwareからの投資も受け、万全の体制で臨んだが、結果はダメだった。Savvisが競り勝ってApps.govの受注に成功した。


◆ 抱える課題(ステップ2)
こうしてApps.govは鳴り物入りで始まり、9ヶ月が過ぎた。
動き出したシステムは期間的な問題もあって、幾つかの課題を抱えている。現在、ストアフロントから提供されているサービスは既存SaaSアプリケーションやWebアプリケーションの寄せ集めだと言ってもよい。ただ解っていることは、まだ過渡期にあり、評価はまだ先だということである。最大の課題はApps.govにおけるIaaS機能の提供だ。これは昨年7月末に費用見積もりRFQ(Request for Quotation)が出されたが、条件提示が上手く機能せず、今年2月にキャンセルになった。現在のサイトを見ると“Coming Soon”となっているままだ。


そして今年6月中旬、新たなRFQが示された。これと呼応するかのように、これまでのFederal Cloud Computing Initiativeは、最近名前を変えた内務省(Department of Interior)の市民サービスと革新技術事務所-Office of Citizen Services and Innovative Technologies-の一部となり、内務省CIOのSanjeev “Sonny” Bhagowalia 氏がリードすることになった。この組織とリーダーの変更がこれまでこの計画を推進してきたKundra氏の失点となるのかは定かではない。氏は首都ワシントンのあるコロンビア特別区のコンピュータ更新を監督し、連邦政府のCIOに就いたばかり、まだ若干36歳である。

◆ これからの展開(ステップ3)
Apps.govの本番が始まる際、Kundra氏は、クラウドでこれからのIT 環境が変わるだけでなく、大きな節税にもなると説明した。GSAの担当者はアプリケーションはダウンロードタイプも入れれば170になるという。しかし、実際問題として、多くの省庁の出先はまだセキュリティー不安や適用に対する懸念などから様子見の段階を抜け出ていない。ちょうどこの時期、組織のウェブサイトを改定中だった連邦通信委員会FCC(Federal Communications Commission)ですら積極的にApps.govを検討したが、最終的にはベンダーとの直接交渉へと進んでしまった。今回、推進担当となった内務省ではApps.govのWebメールの検討が始まっている。これまで同省では14の異なるメールシステムが動いていたが、これをApps.govで統一しようというものだ。このような地味な努力の積み重ねがない限り、ただ新しい仕組みだけを提示してもなかなか実行が伴わない。Kundra氏は、今年2月、Apps.govとは離れて、各省庁に廉価で具体的に現場が使えるクラウドコンピューティングの調査と1,100ヶ所ほどあるデータセンターの統合案の作成を指示する別な手を打ち出した。

目下の問題は再提示されたIaaSのRFQである。
新しいRFQは3月22日に公示され、5月に入って一部修正、回答の締め切りは未定となっている。今のところAccenture、BMC、Harris、SGI、SunGardなど20社が興味を示し、これからが本格的な検討となるが、上手く処理して実現させなければならない。
並行してこんな話もある。Apps.govのIaaS機能に関連し、NASAやDoDが進めているクラウドとの関係がどうなるかという心配だ。NASAのNebula、DoDのRACE(Rapid Access Computing Environment)は既に稼動ベースであり、Apps.govがIaaSを提供すればユーザーを取り合うことになりかねない。もし、これらと調整をつけるということになれば、Apps.govとNeburaなどが連動する可能性も残されている。

<関連記事>
連邦政府のクラウド推進計画1-Federal Cloud Computing Initiative
連邦政府のクラウド推進計画2-NISTクラウド定義とGSAの要求仕様
連邦政府のクラウド推進計画3-Data.govからNASA Nebulaまで