2016年3月26日土曜日

Googleクラウドの新戦略が見えてきた!

既報のようにGoogleのSVPとなったDiane Greene女史が本格的に動き出した。
女史はVMwareの草創期をCEOとして成功させ、昨年、Google Cloud Platformの責任者になった人だ。そして初の公式行事が始まった。3月23日-24日の2日間、サンフランシスコで初めて開いたGoogle Cloud Platform Next 2016である。このカンファレンスではAWSなどとのハイブリッド化に対応したマルチクラウドモニタリングStackDriverのβ版やCloud Machine Learningのα版、データ分析ツールData Studio 360のβ版などが発表されたのは報道の通りである。

=全世界展開のデータセンター強化!=
キーノートの後の記者会見で、エンタープライズクラウド部門を率いるGreene女史は「私たちはこのビジネスについて、とても真剣で “We are dead serious about this business”」、データーセンターについて「出来る限り多くの仕事のために強化するつもりだ “we’re going to put them to work as much as we can.”」と言及した。これを裏付けるようにカンファレンスでもCEOのSundar Pichai氏や現会長で元CEOだったEric Schmidt氏などからも女史を支援する発言が続いた。クラウドビジネスはAmazonとMicrosoftがリードし、Googleは追う立場にいる。上記のような新サービスの強化だけでは立ち向かえない。これに対する答えのひとつが女史が記者会見で言及したデータセンター強化である。周知のように、ここ数年、データーセンター強化によるコスト引き下げで、価格競争が続いてきた。これに対応できなければ勝ち目は無い。しかし、現在、データセンターを設置するGCPのリージョンは4つしかない。米東部のSouth Carolina、米中部のIowa、欧州のBelgium、アジアではTaipeiだ。カンファレンス期間中、これに米西部のOregonと東アジアのTokyoを本年末までに追加すると発表。さらに2017年にかけて、全部で10以上のリージョンをオープン予定としている。翻って、トップを走るAmazon Web Servicesは米政府機関向けを含めて12リージョンを持ち、2017年末までに5つを増強予定だ。Amazonを追う2位のMicrosoft Azureも22リージョンを稼働させ、さらに5つが作業中である。クラウドは成熟してきた。これからの勝負の重要な要素は、ファシリティーの大きさ、リージョン数だ。そのことを女史は肝に銘じているようである。
=始まるか、スタートアップ買収!=
もうひとつ、GCPビジネス強化にとって重要な情報が聞こえてきた。
クラウド関連スタートアップの買収だ。クラウドビジネスにおいて、Googleには2つの側面がある。GCPインフラそのものとGoogle Appsに代表されるアプリケーションだ。この両方からのアプローチが効果的であることは言うまでもない。伝えられる報道によれば、現在、Googleはアプリケーション分野の買収予定スタートアップを調べ上げ、一部交渉を開始した模様だ。以下はその候補と推測されるものである。 
  • Metavine - Automated software creation and delivery
  • Shopify - Canadian e-Commerce company
  • CallidusCloud - Sales talent management system
  • Xactly - Sales performance management system
  • Namely - All-in-one HR system
これらの買収がどうなるかは解らない。しかし上手く行けば、GCPと相まって大きな力になる。カンファレンスのキーノートやディスカッションでは、最近、GCPのユーザーに加わったWalt DisneyやHome DepotSpotifyも登壇した。さらに今月16日にはAppleがiCloud用にGCPとサインしたと報じられている。Grenne女史の活躍でGCPの巻き返しが進む。それはクラウド業界に新たな競争をもたらし、ユーザーにとって、嬉しい話である。

2016年3月19日土曜日

IoT/M2Mネットワークオペレータの統合が始まった!
       Kore WirelessによるWyless買収 ーIoT(7)

3月9日、独立系大手IoT/M2Mネットワーク・オペレータKore Telematicsのホールディング・カンパニーKore Wireless Groupが同じ独立系の Wylessを買収すると発表した。両社合わせた売り上げ高は、$250M(約300億円)、従業員350名、ユーザー企業は3,000社、接続サブスクライバ-は600万となる。


 =Koreの成り立ちと合併の効果!=
今回の買収母体Kore Wireless Groupの始まりはPalm Treo向けeメールサービスだった。Palmとは、HPの子会社として初期のスマートフォンをけん引した会社だ。その後、Palmがダメになると、キャリアからネットワークインフラを借りてスマホビジネスをするMVNOに転身。そして、2000年代初頭、M2Mの台頭に伴って、キャリアとアプリケーションプロバイダー間のミドルプロバイダーとなるべく再度の方向転換。2003年、Zero Gravity Wirelessを買収して橋頭保を作り、その後、米国AT&TやVerizon、カナダRogers Wirelessなどとパートナー契約を結び、2007年には北米全体をカバーするm2mSecureLinkの提供を開始した。2009年には新たなカスタマーポータルPRiSMProを導入。現在は北米だけでなく欧州やアジアにも拡大、シンガポールに事務所を持ち、日本でもMicro Technologyと独占パートナー契約をしている。今回の買収によって、多様な接続方式や接続地域(世界110ヶ国)の拡大、さらには利用形態の幅を広げるEmbedded-SIMe-SIM)やIMSIを多重化するMulti-IMSIが可能となった。Koreはまた、今回の買収より先の2014年11月同じ独立系M2MオペレータのRaco Wirelessも買収している。日本ではKore TelematicsとMicro Technologyの提携だけでなく、一方のWylessも2012年、NECとの間で製品協業発表している。
 

=キャリアか、独立系か=
今回の買収の結果、Koreは世界市場の6位のM2Mオペレータとなった。世界中のキャリアやMVNOがM2M/IoT市場を狙っている。キャリアの常連組は、米AT&TとVerizon、独Deutsche Telekom、スペインTelefonica、英Vodafoneの5社だ。その他、中国China Mobile、蘭KPN、NTT DoCoMo、仏Orange、加Rogers、伊Telecom Italiaなどが追い、独立系ではKore Wirelessの他にAerisArkessaCoSwitchedNumerexTelitTransatelVimpelComなどがある。今後、独立系の更なる事業統合が行われ、体力強化が進むだろう。迎え撃つキャリアの力は強大だ。しかし、ひとつのキャリアがカーバーする領域は決まっている。キャリアはこれまでEDIASPCloud Computingなどのテーマがでる度に飛びついてきた。しかし上手く行っているとは言い難い。一方、独立系は彼らから借り受けたネットワークに付加価値をつけて世界展開をする。この広域ネットワークと関連アプリケーションの組み合わせが進めば、ビジネスは大きく広がるかもしれない。鍵となるアプリケーションプロバイダーはキャリアと独立系の両にらみだ。果たして、この戦いの行方はどうなるのか。


2016年3月9日水曜日

2016年エンタープライズクラウド調査!

2012年設立の若い.アナリストハウスClutchから興味あるクラウド調査が発表された。2016 Enterprise Cloud Computing Surveyである。回答があったのは従業員100人以上の中規模から大企業までの300社だ。以下、同社の調査とコメントを参考に纏めてみた。

=どのクラウドが良くと使われているか!=
企業は実際のところ、どのクラウドサービスを利用しているのか。今回の調査では、Microsoft Azureがトップの23%、Amazon Web Servicesは22%、Google Cloudが21%、そしてIBM Cloudが17%と続いた。IBMがやや遅れているものの、これらトップ4社で83%を占める状況だ。残りはOracleがERPアプリを中心に6%、VDIを武器とするCitrixが5%、VMwareはvShpereプライベートとハイブリッドとなるvCloud Airで3%となった。

ここで、お馴染みのSynergy Research報告を引用しよう。
昨年7月時点のSynergy Research Report(左下)では、Big Fourプロバイダーは同じだが、順序がが違う。AWSが30%で独走し、Microsoft Azureが10%で追い、そしてIBMは7%、Google5%の順だった。それら4社」の総計は約54%だ。さらにBig Fourの勢いを経年で比べてみると、2013年は41%、2014年が46%と年を経る毎に強くなっていることが解る。しかしClutchとSynergy Research調査の違いは何に起因するのだろうか。多分、母集団の大きさや特性によるものと思われる。つまり、ClutchよりSynergy Researchの調査対象が大きいと推察される。また、Amazonは使い易さや機能面で優れているが、そのこととは別に、自社アプリがMicrosoftやIBM製品との依存度が高ければ、それらを選ぶ傾向にある。

=効率性が最大のベネフィット!= 
さてクラウドに対するユーザ各社のベネフィットとは何か。
各社のトップ3を集計すると、1位となった効率向上(Increased Efficiency)は全体の約半分となる47%だ。次いでセキュリティが45%、3位はデータストレージで41%の順となった。1位となった効率性とは、まさにクラウド特有の拡張性や柔軟性の賜物であり、3位のデータストレージは、比較的重要度の低いものを中心に利用が進んでいることをうかがわせる。しかし2位のセキュリティは意外だった。クラウドに対する精神的なセキュリティ不安が薄れ、一方で中小企業にとっては、オンプレのセキュリティで頭を悩ますより、整備が進んだクラウドの方が総合的に上なのかもしれない。

=クラウドのファイルストレージが人気!=
次は各社がどのような仕事でクラウドを使っているのかだ。
それによると、70%がファイルストレージとダントツとなった。2位はバックアップ/ディズアスターリカバリー62%、3位はアプリ開発で50%、アプリテスト/開発が46%、以下、モビリティー、コラボレーションの順だ。直接のファイル利用だけでなく、バックアップや障害対策(Disaster Recovery)などの利用が圧倒的である。次いでアプリの開発やテスト。こうしてみると、アプリ開発やテストはクラウドだが、本番業務は依然としてオンプレで実行し、ストレージとして利用できるのもはクラウドに出すという状況が見て取れる。

=社内人材によるクラウド適用か外部専門家の利用か!=
さて実際のクラウド適用に当たって、自社IT部門が独自で行うか、 外部コンサルティングなどを使うかを決めなければならない。調査では53%が外部を利用し、自社内は47%となった。まさに賛否両論である。パブリックにしろ、プライベートにしろ、外部企業を利用すれば、程度の差こそあれロックインは避けられない。一方、自社だけでは不安もある。大手コンサルティング会社は費用がかさみ、中小は色が付いているという悩みがある。


=2016年のクラウド費用は!=
費用についてはどうだろうか。今年度のクラウド費用については、90%の企業が前年並みか増加すると回答した。もっとも多かったのは、昨年度より11-30%増加するとした企業で全体の42%、次いで前年並みが27%、31-50%の伸びが予想されるとした企業が14%、50%以上の増加予定は7%となった。前年より低減すると回答した企業も7%あった。



2016年3月1日火曜日

IBMとVMwareが戦略的なパートナーへ!

毎年恒例になったIBM InterConnect 2016がLas Vegasで開かれた。
もっとも注目されたのは、2月22日、IBMとVMwareの2社が発表 した戦略的パートナーシップだった。具体的には、VMwareユーザーのvSphereを使ったSoftware-Defined Data Center指向のオンプレとIBMのパブリッククラウドSoftLayerをハイブリッド化させるというものだ。これによって、VMwareユーザーは、自社ワークロードを自由にSoftLayer上に移動させることが出来る。クラウドでは両社ともに課題を抱えている。IBMはAmazon Web ServicesやMicrosoft Azureに水をあけられていて、何とかキャッチアップしたい。VMwareにとっては、Amazonなどに流れそうになる既存ユーザーをしっかり確保しなければならない。果たして、今回のパートナリングは両社の悩みに答えを見出せるだろうか。

=IBMの狙い!=
まず登壇したのはIBMのクラウド責任者でSVPのRobert LeBlanc氏(左)。そしてVMwareのプレジデント兼COOのCarl Eschenbach氏(右)が現れると固い握手を交わした。IBMとしてはぶっちぎりのAmazonに追いつきたい。それにはMicrosoft Azureに肉薄し、何としても2位につけたいところだ。しかしSynergy Research Reportから解るように、AWSの伸び率は年率63%、Azureは何と124%、IBMは57%、そして4位のGoolgeが107%と激しく追いあげている。この状況を打開するためには秘策が要る。それが今回のパートナリングだった。これによって、VMwareユーザーからのワークロードを上乗せできれば、少なくとも、3位はキープが出来る。これまでのIBMクラウド戦略の柱は、開発環境を提供するPaaSのBlueMixである。つまり、古くからのIBMユーザーの既存アプリだけでなく、開発案件もBlueMixを使って、クラウドに誘導する。しかし、これだけでは限りがある。そこにVMwareユーザーが加わってくれば2位も夢ではない。IBMはまた、今回のカンファレンスでGitHubとのパートナリングやAppleのプログラミング言語Swiftのサポート発表した。それによって、新たなデベロッパーを呼び込もうという作戦である。

=VMwareの思惑!=
さて、今回のパートナリングにおけるVMware側の思惑は何だろうか。
VMwareの大きな悩みはクラウドサービス事業だ。VMwareはこれまで企業の自営クラウドを推進し、成功してきた。しかし自営クラウドの拡大と共にユーザーからはワークロードの平準化や分散化のためのハイブリッド化要請が大きくなった。これに応えるため、提携企業のデータセンターを利用して、2013年8月から始めたクラウドサービスがVMware vCloud Hybrid Servicesである(翌2014年8月にVMware vCloud Airにリブランド)。VMwareはこうして自らソフトウェアベンダーとサービスプロバイダーの2足のワラジを履くこととなった。しかし、クラウドプロバイダー業界は、Amazonを筆頭に競合が激しく、データセンターの世界展開と多様なサービス提供は容易ではない。そこで親会社のEMCは昨年5月、マネージドサービス付きクラウドプロバイダー最大手のVirtustreamを買収し、EMCの行っていた幾つかのクラウドサービスとvCloud AirをVirtustreamのサービスと統合して新会社とすべく発表 した。このアナウンスは、DellがEMCを買収すると発表した昨年10月12日の直後の10月20日のことである。しかし、昨年末、この計画はDell側の了解を得られず撤退となった。そこで次の候補として挙がったのがIBMであろう。Fortune 100にリストされる殆どの大企業がVMwareユーザーだ。もしIBMのSoftLayerとハイブリッド化が出来れば、IBMがクラウド向けに運営する全世界の45のデータセンターが利用できる。勿論、SofyLayerのユーザーも増え、両社にとってハッピーな話である。こうしてSoftLayer上で、VMwareが推進するSoftware-DefinedのSDNのVMware NSXやSDSVirtual SANなどを動かす話がまとまった。もうひとつ、VMwareには考えられる思惑がある。それはIBMのプライベートクラウド戦略の不明瞭さだ。IBMはパブリッククラウドでは独自のSoftLayerプラットフォームを提供し、プライベートではOpenStackを提供する方向だ。これではユーザーには解り難いし、実際のハイブリッド化も煩わしい。VMwareから見れば、それならいっそ、今回のパートナリングの成果を一般化したいとの思惑がある。プライベートはVMware、パブリックはIBMとする棲み分けが出来れば共にハッピーだ。存外、IBMもそれを望んでいるのかもしれない。