2017年5月23日火曜日

AutoTech(22)  Waymoは新境地を見出せるか!
             -シェアードビジネスへの進出-

5月14日、Uber騒動を横目にWaymoLyftの協業に関する記事がThe New York Timesに掲載された。それによると、両社の事情を知る人の話として、2社の協議は昨年夏から始まったと言う。そして、Lyftの2人の創業者(現CEO Logan Green氏&現社長John Zimmer氏)とWaymo CEOJohn_Krafcikとの間でかなりの議論が交わされ、両社のメリットが確認されて今回の提携となった模様である。

=なぜ、Waymoは独立したか!= 
WaymoがGoogle Carをビジネスとする子会社として独立しは、昨年の暮れだ。
理由は幾つかあるが、大きなものは、いくらGoogleとは言え、膨大な開発資金のかかるGoogle Carをどんぶり勘定のままにはしておけない。そして、Level-4の完全なオートノマスビークルを目指したい開発部門と、そろそろビジネスに組み上げたいマネージメントが対立することとなった。会社は、2015年9月、Krafcik氏を部門CEOにスカウトした。氏は卒業と同時にGMとToyotaの合弁だったNUMMIに入り、その後、15年間Fordで勤め、そしてHyundai Motor AmericaのCEOとなった人である。一方のエンジニアリングは、今やUber騒動の渦中にいるAnthony Levandowski氏が昨年1月に退社し、もう一人のCTOのChiris Urmson氏も同8月に退社した。この流れの中で、昨年5月、GoogleはFiat Chrysler Automobiles(FCA)と提携し、Chrysler Pacifica HybridにGoogleCarの機能が移植されることとなった。また昨年8月末には、ワールドワイドに展開する民泊サイトAirbnbのトップエクゼクティブのShaun Stewart氏をスカウトして、開発よりもビジネス指向が鮮明となった。
=Waymoがシェアードビジネスを狙う!=
周知のように、全米2位のライドシェアリングサービスを展開するLyftは、GMから$500Mの資本を受け入れており、GMの開発したオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)Chevy Bolt EVの公道テストを予定している。そして、今回の提携である。両社に共通するのは「打倒Uber」だ。Waymoにとっては、Uberの初期に、Google Venturesがいち早く$258M資本を入れ、ボードにも役員を送り込んだが経営のコントロールは上手く行かなかった。そして今回のゴタゴタである。Lyftにとっては、勿論、ライドシェアリングの首位を狙うことだ。もうひとつ、考えられる理由がある。それはGMの提供するオートノマスビークルChevy Bolt EVが果たしてどの程度の出来具合かである。Waymoと提携すれば、その不安はなくなる。UberはFordと提携し、オートノマスビークルFord Fusion Hybridの提供を受けながら、一方でOttoを買収して自社開発の2本立てへ突き進み、大きな問題を引き起こした。同じ轍は避けなければいけない。これらがWaymoと提携した理由である。

=新たなシステムを投入!=
一方のWaymoは、昨年12月、FCAと共同開発した100台のオートノマスビークルChrysler Pacifica Hybridを受け取り、今年初めからアリゾナ州で公道テストを開始した。結果は順調で、4月25日、さらに500台を追加して、アリゾナ州内での一般向けEarly Rider Programを実施すると発表。これは本格的なライドシェアリング参入の布石だろう。しかし、Waymoも、FCAもライドシェアリングについては、LyftやUberが持っている様な十分な知識と経験が無い。ここがLyftと提携した理由である。もし、オートノマスビークルのChrysler Pacifica HybridをLyftに提供し、公道でのテスト運用が始まれば、大きな成果が得られる。

そして、5月中旬、アリゾナでのEarly Rider Programに使われる車に新たなハードウェアの投入があることが解った。Google Carがアリゾナへ公道テストを拡大 したのはちょうど1年前のこと。以来、屋根の上にあるこの車の目となるLiDARは、雨上がりの後の砂や鳥の糞に悩まされた。そして登場したした小さなワイパーを備えたシステムがこのビデオにあるものだ。360°の完全な視界を確保することは、搭乗者にも歩行者にも大きな安全を与える。今年の夏には、このシステムが霧の町サンフランシスコを走り回るかもしれない。

2017年5月20日土曜日

AutoTech(21) 法廷闘争の行方!
               Waymo .vs. Uber/Otto

Alphabet傘下でGoogle Carの事業会社となったWaymoが全米最大手のライドシェアリングのUber Technologyとその子会社のOttoを訴えたのは2月23日のことだった。理由はGoogle Carに関する企業秘密を盗み出し、利用しているというものである。この日のNew York Timesは、Waymoの主張として、Googleを退社したAnthony Levandowski氏が退社前に14,000ファイルの企業情報を持ち出し、その後、昨年1月、Self-Driving Carの開発会社(後にOttoとなる)を設立、そして同8月18日、同社をUberに$680Mで売却したと報じた。これに対し、同じThe New York Timesは、4月7日付で、Uberの主張として、Waymoからドキュメントは盗み出していないし、技術も使っていないUber Denies It Is Using Stolen Waymo Technology) とする反論記事も掲載して、真っ向から対立する状況となった。

=Levandowski氏の不可解な行動!=
Source:LinkedIn
ここで注目されるLevandowski氏はGoogle Self-Driving Carプロジェクト当初からのキーマンの一人だった。他には、初期のGoogle Carをリードし、Google Mapsの共同開発者でもあった
Sebastian Thrun氏と、その後、同プロジェクトのCTOになったChiris Urmson氏がいる。Thrun氏はAIの専門家でStanford大の自動運転車
StanleyDARPA Grand Challenge 2005で優勝に導いた人である。Levandowski氏もこの時期、UC Berkeleyで自動運転バイクを手掛けてGrand Challengeに挑戦していた。そして2007年、Google Maps開発を行っていたThrun氏のチームに参加することとなった。問題の氏が設立したOttoは、全米のフリーウェイを走る大型トラックをLiDAR技術を核にオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)に仕立てるスタートアップである。Uberは、この技術で自社用オートノマスビークルを作り、将来、これらを全面展開してドライバーレスのタクシーを目指そうと計画した。UberはこのためVolvoと提携、これにOttoの技術を移植したVolvo XC90の試験車がお目見えしたのは、昨年9月のことだ。しかし、どうにも話が出来過ぎるている。

=Waymoからの訴状!=
正確にWaymoの主張を見てみよう。
同社から出された訴状では、WaymoはUberが、①連邦営業秘密法Uniform Trade Secret Act)及び②カリフォルニア州の営業秘密法、さらに③カリフォルニア州の不正競争法BUSINESS AND PROFESSIONS CODE SECTION 17200に違反していること、Levandowski氏はLiDARとその他のコンポーネントの設計資料を盗み出して開発会社のOttoを作り、それをUberに売り渡したとしている。ただ、売却後、Uberの開発責任者(VP Engineering)となったAnthony Levandowski氏やUberはそのような事実はないと全面的に否定している。


訴状の主張する主要なイベントは以下のような流れだ。
1) 2015 夏     … L氏はUnberと面談、会社作り等を話したと同僚D氏に漏す。
2) 2015/11/17 … L氏は280 Systems社(後にOttoとなる)を登記。
3) 2015/12/3   ... L氏はWaymoのデザインサーバーへのアクセスを調査。
4) 2015/12/11 ... L氏は9.7GBの情報をダウンロード。 
5) 2015/12/18 ... L氏自身のPCをWindowsからGoobuntuへリフォーマット。
6) 2016/1/4    ... L氏はGoogle Driveクラウドから技術文書をダウンロード。
7) 2016/1/5     ...  D氏はL氏がWaymoを自分の会社で複製すると語ったと証言。
8) 2016/1/11   ... L氏はGoogle Driveから開発スケジュール等をダウンロード。
9) 2016/1/14   ... L氏のUber訪問をD氏が質すと認め、投資家探しだと説明。
10) 2016/1/15 ... L氏はUber訪問の翌日、正式に280 Systemsを組織化。
11) 2016/1/27 ... L氏は予告なしにWaymoを退社。 

12) 2016/2/1   ... L氏はOtto Truckを組織化。
13) 2016 春   ... Uber CEO
Travis Kalanick氏がOtto買収に興味を示す。 

14) 2016/5/17 ... Ottoがステルスから抜け出たと宣言。
15) 2016 8月   ... L氏はGoogleから最後の数百万ドルに及ぶボーナスを受領。
16) 2016/8/19 ... ボーナス受領後、直ちにUberがOttoを$680Mで買収。 
17) 2016/12/13.. Waymo社員に誤配「Otto Files」メールからこの事件が発覚。
18) 2016/12 - 2017/2 ... WaymoはOttoが同社のLiDAR設計転用の有無を調査。
19) 2017/2/9   ... Otto運転免許を出したネバタ州情報公開から使用がほぼ判明。
20) 2017/2/23 ... Alphabet/WaymoがUberを相手に控訴ファイリング。 

=Waymoが有利か!=
以上見てきたように、Anthony Levandowski氏の容疑はかなり濃厚なようだ。
Uber幹部と接触しながら綿密に計画し、Googleの仲間を誘い出してOttoを作った。Ottoの売却資金で誘った社員にも良い思いをさせ、自分はちゃっかりとUberの自動運転車開発の責任者に就任。このまま終われば、まさに映画のようなストーリーだった。
ボロが出たのは外部企業メールに間違って入ったccのWaymo社員のアドレスだった。完全な事故である。WaymoのGoogle CarはこれまでVelodyne製のLiDARを用いていたが、高価格で使いにくいことから、自社設計して外部委託生産へと切り替えた。このカスタムLiDARとメールに添付されていた図面は酷似している。OttoがUber向けに改造した初期のVolvo XC90には、旧型Google Carと同じVelodyneのLiDARが屋根に乗っていた。しかし、今は上にある写真のように新型Google Carと同様に小型化されている。また、ネバタ州へOttoが出した自動運転車試験免許の申請書には、64chのLiDARとあり、これもWaymo自製のLiDARと同じである。こう見ると、状況証拠は十二分だ。しかし、これだけで立証できるだろうか。Waymoは3月10日、控訴内容をさらにUberの現自動運転車開発プロジェクトの停止を求める訂正(Amend)を裁判所に出した。その後、4月27日付のBusiness Insiderは火中のLevandowski氏がUberの自動運転車開発の責任者から降り、LiDAR開発にも関与しないと報じ、5月11日には裁判所判事が司法省に対し、企業秘密盗用の可能性を捜査するよう指示した。Uberにとって、状況はどんどん悪くなるようである。