2016年6月15日水曜日

AutoTech(5) 所有する車から利用する車へ!
      -ライドシェアリング(Uberの場合)-1-

ここまで自動運転車/オートノマスビークル(Autonomous Vehicle)について見てきた。今回(Uberの場合)から2回(次回はLyftなど)、最近ニュースの多い配車サービス/ライドシェアリングRide Sharingについて考えてみようと思う。

配車サービスのインパクト
最近のThe Economistの記事によると、1990年代のドットコムバブル華やかなりし頃、Ford CEOだったJacques Nasser氏は「車の組み立てなどの仕事は外注化し、インターネット時代にふさわしい新しいビジネスモデルのモビリティーカンパニーを目指す」と宣言した。氏がモビリティーカンパニーの定義やその確固たる実行プランを持っていたわけではない。新しい時代に立ち向かう覚悟を示したものである。あれからインターネット時代はクラウドへ、そしてスマートフォンの急速な普及が進み、とうとうそのうねりは本気で自動車産業も巻き込み始めた。スマホを使った配車サービスUberが登場したのは2009年。彼らは自動車屋ではない。スマホのアプリ屋だ。最初それがNasser氏の予感を実現する手段になるとは誰も気づかなかった。ただのはやりのシェアリングビジネスの一種だと。しかし若者の自動車離れは着実に進んでいる。ハイブリッドや燃料電池車の開発も大事だが、何か別なことを考えなければいけない時代に入って来た。アウトソーシングとかシェアードサービス/ビジネスというビズワードがある。最早、会社の仕事を外注するアウトソーシングは当たり前、各社の共通な仕事を共有するシェアードサービスも発達した。共に会社経営の効率化のためだ。上図はMorgan Stanleyの資料だが車の出荷は伸び悩み、一方でシェアード車が2030年には15%以上を占める。Nasser氏の考えは時代を先取りし過ぎていたが、とうとうその時代がやって来た。今や自動車メーカーの多くがライドシェアリングとの提携を急いでいる。彼らは単なるスマホのアプリ屋ではない。輸送サービスを手掛けるテクノロジー企業である。現在のタクシー料金のほとんどはドライバーの費用だ。それをライドシェアで下げる。自動車メーカーは彼らと契約したドライバーにリースで車を提供する。彼らはドライバー向けのリースや保険、さらには通信料金など割引プログラムを提供する。たったひとつのスマホアプリが膨大な資金を集め、多様な企業を巻き込んで新たな世界を作り出す。これこそNasser氏の夢見たモ ビリティーサービスかもしれない。

=Uber、Googleは投資、Fordは協業、そしてToyotaは提携!=
世界的な自動車メーカーにとって、残念ながら、この世界の主導権は今のところライドシェアの会社側にある。しかし、GoogleがUberに258M(約283億円)を投資したのは、少し前の2013年、Series-Cだった。そしてGoogle SVPDavid Drummond氏がUberのボードに就任。Google Carを開発しながらのことである。当時のForbesによると、GoogleはGoogle CarとUberを組み合わせたキラーアプリを目指していた。ただ、その後の状況は変わった。Uberはオートノマスビークルについて、後述のように独自路線を歩みだし、Googleも独自のライドシェアリングテストを開始した。Uberはまた、 6月2日、サウジアラビア政府系公共投資ファンドからの$3.5B(約3,800億円)という巨額投資を受け入れた。これ集めた資金総額は14.11B(約1.5兆億円)。その評価額は$68B(約7.5兆円)となって、設立からたった7年のUberが100年以上の歴史のあるGMやFordのマーケットキャップを抜き去った。

この巨費をどのように使うのか。それは全世界の市場開発だけではない。彼らは自動運転車/オートノマスビークルに興味津々だからだ。昨年2月、ピッツバーグのカーネギーメロン大学と組んでATC(Advanced Technologies Center)構想を発表。この組織を核に同社向けのオートノマスビークルを開発する。この話はその際、同大学から大勢のロボット関連の教授を含むスタッフを引き抜いたことで物議を醸し出しもした。しかし、自力開発はそう簡単ではない。5月19日、Uberの計画が姿を現した。結局のところ、Fordと提携してFord Fusion Hybridをつかったロードテストをピッツバーグ市内で開始すると発表した。つまり他社開発のオートノマスビークルにATCで開発した機能を組み合わせ、Uberとして使い勝手の良いものに仕上げようというわけである。これによって、主導権は渡さないというこのなのだろう。同じ5月24日、トヨタもUberとの戦略的な提携覚書MOUを交わした。これは将来の投資含みながら、当面はUberドライバーに対するリースプログラムに向けたものである。

=車は所有から利用へ!=
車は所有する時代から、利用する時代に変わりつつある。
好きな車を買って、ドライブを楽しむことがステータスだった時代は過ぎた。それよりも好きな時に、早く、安く移動できればいい。ライドシェアリングのドライバーも専業ではない。自分の都合の良い時間に自分の車を使って働くアルバイト気分だ。これらの需要と供給を結びつけるのがインターネットアプリである。つまり、配車サービスはインターネット時代のタクシー会社だ。勿論、安全性や法規制など色々な課題はある。4月26日、GoogleやGM、Ford、Uber、Lyftなどがオートノマスビークルの交通基準を整えるよう米政府に働きかけるSelf-Driving Coalition for Safer Streetsを設立した。狙いの第1段は、実用化が近いオートノマスビークルをまずはセミプロの彼らのドライバーに合法的に使って貰うことだ。これはライドシェアの会社にとっても大きなプロモーションになる筈だ。そして将来は、顧客自らが提供されるオートノマスビークルを操作する時代が到来するだろう。

2016年6月9日木曜日

AutoTech(4) -米Big 3の対応!-

Google Carはあまりにも有名になった。
他方、Appleが自動運転車(オートノマスビークル/Autonomous Vehicle)を開発している噂は尽きないし、TeslaもLevel-2(Combined Function Automation)の完成を目指したAuto Pilotをこのほど正式にリリースした。ところで米Big 3はどのようにオートノマスビークルに対応しようとしているのか。今回はこれを追ってみた。

=Fordの開発は本気だ!=
Big 3の中ではFordが一番進んでいるように見える。
Fordの開発センターはデトロイトにほど近いディアボーン(Dearborn)にある。ここでの開発はFord Fusion Hybridがベースだ。他社のオートノマスビークルと比べ、Fusionには屋根に4つのLiDARが見える。2つは左右に直立に、もう2つはその外側に角のように斜めに取り付けられている。より広い範囲を確実にカバーしようというわけだ。これによって、かすれた車線やぼこぼこ道、良くない天候でも運転が可能となる。実際のところ、Fordでは夜間走行や雪道走行なども実施した。現在、10台のテスト車が公道を走っているが年末までには3倍の30台体制となる予定だ。そして、さらに高性能の新型LiDARのULTRA PuckがVelodyneから6月4日発表された。最初のユーザーはFordだ。目指すは今後5年以内にLevel-4のフル自動化オートノマスビークルの出荷である。

=GMの段階作戦!=
GMの開発センターはFordの拠点からたった20マイル離れた同じミシガン州のウォーレン(Warren)だ。GMの採った戦略は、Fordとは異なる。彼らのオートノマスビークル開発は進んでいるとは言い難い。しかしテレマティックスでは他社よりも進んでいる。飛躍より着実に、そして段階的に、それがGMの戦略のようである。目下、第1ステップとして開発しているのはCadillac向けのSuper Cruiseだ。この技術はLevel-2(Combined Function Automation)に該当するもので、高速道路の走行時にスピードの増減を制御し、走行レーンを識別してクルマを走らせる。ただしGMは「それでもドライバーは必要だ」と完全な自律型ではないと説明、出荷は2017年の予定だ。半自動だが来年出荷のGMか、5年後の完全自動化のFordか、市場はどう反応するだろう。この開発と並行して、GMは今年3月11日、オートノマスビークル用のキットを開発するスタートアップCruise Automation買収した。他の報道によれば$1B(約1,100億円)を超える買い物らしい。第2ステップに向けた対応なのだろうか。The Wall Street Journalによると、これまで、同社はカリフォルニア州内運転限定のAudi A4/S4向け半自動化キットCruise-PR1を$10,000(約110万円)で出荷してきた。ここまではGM Super Cruiseと同じ範疇である。しかし、昨年9月、$20M(約22億円)の資金調達以降、次なる成長を目指して優秀な人材を集め出した。さらに酷暑にも耐えるテストに向けてアリゾナにも事務所を開設した。当面、同社はGM内の独立部隊として活動する。その後、Cruise PR1とSuper Cruiseが統合するのか、はたまたCruise Automationの次世代技術が登場するのか、要注意である。


=GoogleはFiat Chryslerと協業へ!=
さて最後のひとつ、Fiat Cheyslerは、Googleと協業することが決まった。
Google Carは現在までに140万マイル(≒2,253,082km 約地球56周)を走破。そして、次なる段階に進むため、Googleは実際の自動車会社との交渉に入った。 もちろん、種々の利便性から相手となるのは米メーカーである。5月3日のBloombergの報道によると、GMとの交渉は各種の所有権問題で上手く行かず、落ち着いたのはFiat Chryslerだ。車種は実績のあるファミリー向けミニバンChrysler Pacificaである。これにGoogle Carの専用ハードウェアとソフトウェアを搭載し、実用化に向けた本格テストを実施する。作られるのは限定100台だ。

=Financial Timesの予測!=
今年4月中旬のFinancial Timesの予測記事は面白かった。
何しろ、1908年に登場した世界初の量産車Ford Model-T、これこそ米運輸省が規定する元祖Level-0(No Automation)だと認定。さらにLevel-1の初めての車は、1998年製でAdaptive Cruise Control付きのJugar XKだという。次いでLevel-2(Combined Function Automation)はActive Lane Keeping Assist付きの2013年製Mercedes-Benz S-Classだ。ここまでは過去の話、ここからが同紙の予測である。まず、Level-3(Limited Self-Driving Automation)は来年(2017)登場予定でSuper Cruise付きのGM Cadillac CT6そして、米運輸省規定の最高位Level-4(Full Self-Driving Automation)に選ばれたのは全く人間による介入のないFord Fusion Hybridで、4~5年先の出荷見通しとした。さらに米運輸省の規定にはないが、番外として、その上のLevel-5には、夢のGoogle Carが選ばれた。もしかしたらハンドルもペダルもないかもしれない。出荷は10年先だという。

2016年6月3日金曜日

Auto Tech(3)  Google AIをリードした2人の天才!

前回は自動運転車(オートノマスビークル/Autonomous Vehicle)の市場見通しとテクノロジーについて紹介した。今回はその先頭を走るGoogle Carとはどのようなものか、そしてGoogle AIをリードする人物についてまとめた。

=Google CarとAI技術!=
この分野には2人の天才がいる。
 ひとりは現在のGoogle Self-Driving Carの原型となるオートノマスビークルを開発したSebastian Thrun氏だ。Thrun氏はスタンフォード大学のロボット開発者兼コンピュータ科学者として、砂漠のコース走るDARPA Grand Challengeに挑戦、第1回の2004年は完走車はなく、翌2005年の第2回目で氏のスタンフォード大学チームのStanleyが優勝した。次いで2007年の改造市販車市街地を走るDARPA Urban Challengeでは、カーネギーメロン大学とGMチームが開発したBOSS(Chevrolet Tahoe)が優勝し、スタンフォード大学のJunior(Volkswagen Passat)は2位となった。これらの技術を引っ提げて、Thrun氏はスタンフォード大学の準教授のままGoogle CarのためのGoogle Xを立ち上げ、GoogleのVP&Fellowとなった。その後Thrun氏はスタンフォード大学に戻ったが、Google Xは、Google Carだけでなく、月にロケットを打ち上げる(Moonshot)ような革新的な技術研究機関として活躍している。

Google Carに話を戻そう。前回、オートノマスビークルにとって、車の目となる3次元リモートセンサーLiDARの重要性は触れた。実際のところGoogle Carに採用されているVelodyne HDL-64E64個のレーザーセンサーを内蔵し、水平360°、垂直26.8°の三次元イメージングに対応している。そして、秒あたり2,200万ポイントを測定し、誤差は2cm以下、測定距離は約120mまで可能という優れものだ。この高性能LiDARから測定される3次元データとマップ、さらに各種センサーからのデータを使い、AIソフトウェアで制御する。これこそオートノマスビークルの心臓だ。Google Carも一般のロボットと同様、基本的には、①まずLiDARなどで周囲の状況を把握し、さらに誤差を調整して、②次にどう行動すべきかのプランを作り、③それを再度調整しながら実行する。その流れを制御サイクルと呼び、Google Carでは0.1秒毎に高速実行する。前回、米運輸省のオートマスビークルの定義Level of Autonomous Vehicleを紹介した。現在、Google Carが目指しているのは、この中のLevel-3だ。今後LiDARだけでなく、各種のセンサーやカメラも高性能化する。そしてAIソフトウェアも進化し、Google Carがどのような形であれ、市場に登場するのは間違いない。

=アルファ碁=
もうひりの天才はチェスの天才少年だったDemis Hassabis氏である。
昨年11月、Googleは自社で使用中のDeep LearningのAIライブラリーTnesor Flowをオープンソースとして公開した。そして先日(5/18~20)開催されたGoogle I/O 2016では、このライブラリー向け専用のAIプロセッサーTPU(Tensor Processing Unit)がとうとうベールを脱いだ。この一連の流れは2014年に買収した英DeepMind Tecnologies(現Google DeepMind)から始まっている(既報)。このDeepMindの創業者がHassabis氏だ。あのElon Musk氏も初期投資家の一人である。同社が開発した畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)は素晴らしい。この3月、世界最強の囲碁棋士の一人と対戦し、4勝1敗で撃破したアルファ碁-AlphaGo-は同社製もちろんニューラルネットワーク理論と実行ライブラリーTensor Flow、そしてエンジンのTPUが使われている。アルファ碁は囲碁のルールや定石がプログラミングされているわけではない。これまでの膨大な棋譜を読み取って学習し、そこから打つ手を考え出す。実際の対戦では我々の考えられないひどい手が結果的に功を奏して勝ちに結びついたり、相手の勝負手に動揺して突然乱れだすという失態もあった。無の状態から、Big Dataの中のルールを読み解き、学習しながら進化する。これがGoogle Deep Learningだ。現時点ではGoogle Carとの直接の結びつきはない。しかし近未来、この技術が車に適用されればLevel-4の完全自動運転車が出現するのも夢ではない。

2016年6月1日水曜日

AutoTech(2)
     9.5兆円の自動運転車市場とテクノロジー!         

このところの自動運転車の開発競争は凄まじい。
Googleが始めたGoogle Self-Driving Car Projectを機に各社の開発が本格化した。Self-Driving CarやDriverless Carは日本人には馴染み易い英語だが、一般的には‶オートノマスビークル″Autonomous Vehicle言う。このところ押され気味の米国勢にとって、自動運転車-オートノマスビークル-の開発は打倒日独の絶好のチャンスだ。まさにAIの勝負、ITで勝る米国が巻き返すのか、状況を追ってみた。

=9.5兆円の自動運転車市場と要素技術!=
5月20日、Lux Researchが発表したレポートによれば、自動車メーカーとテクノロジーベロッパーによって開発されるオートノマスビークル(自動運転車)の市場は、2030年までに$87B(約9.5兆円)に達し、レーダーやマップなどオートノマスビークル構成する技術要件の中で最大の勝者はソフトウェアだと分析している(下図)。

しのぎを削るオートノマスビークル開発の要素技術上図)には下からみると、①レーダー、②光リモートセンシングのLiDAR、③オプティカルカメラ、④ワイヤリング、⑤コンピュータ、⑥ワイヤレス、⑦ソフトウェア、⑧マップ、⑨コネクティビティ&アプリなどがあり、個々の市場規模(売上)では、ソフトウェアが一番大きく、コンピュータとカメラが同規模、そしてレーダーと続く。このレーダーには自動ブレーキ用のミリ波レーダー、衝突防止の各種センサー、位置情報のGPS、タイヤの回転から走行距離を測るDMI(Distance Measuring Instrument)などが含まれる。カメラもこれまでのものに比べてより高性能だ。そして、これら全てを纏めあげるのが制御ソフトウェア。もうひとつ大事な技術がある。オートノマスビークルに欠かせないLiDAR(右写真)。これはリモートセンシングで3D空間を読み取るイメージング装置だ。通常、オートノマスビークルの屋根に取り付けられてクルクル回り、車の目となる。次にオートノマスビークルの分類はどうか。下図は米運輸省のオートマスビークルを定義したLevel of Autonomous Vehicleである。Level-0は自動運転機能のまったくない車(No Automation)Level-1は横滑り防止や衝突軽減ブレーキなどを装備した車(Function-Specific Automation)、Level-2はレーン走行(Lane Centering)と定速走行/車間距離制御(Adaptive Cruse Control)などの複数機能を組み合わせた車(Combined Function Automation)、Level-3は車の走行変化を常時モニターし、ハンドルやアクセル、ブレーキなどを総合的に制御する(Limited Self-Driving Automation)、Level-4は全ての走行制御だけでなく、路面状況もモニターして、両面からより完全な自動運転(Full Self-Driving Automation)を目指す車。そして、Level-3は2020年以降Level-4は2025年以降に市場に登場予定だとしている。

Source: Ministry of Transport
Lux Researchのレポートに戻ると、同レポートでは、2030年までに、Level-2は出荷された自動運転車の92%を占めて主流となり、Level-3はたったの8%、Level-4はまだ登場しないだろうと、時期に関して、米運輸省よりやや厳しい予測している。
  • さらに同レポートでは、現在までのところ、オートノマスビークルは米国と欧州市場がリードしているが、いずれ中国市場が追い越すと予測する。2030年時点で、全世界に出荷される1億2,000万台のうち中国市場が35%を占めて金額では$24B(約2.64兆円)、対する米国は$21B(約2.31兆円)、欧州は$20B(約2.2兆円)だ。
  •  そして、オートノマスビークル開発ではソフトウェアが差別化のポイントとなる。GoogleやIBMのようなパワーハウスが提供する様々などう使うかが差別化の鍵となり、この分野の売り上げは、現時点では$0.5B(約550億円)だが、2020年には$10B(約1.1兆円)、2030年には$25B(約2.75兆円)と予測する。
  • 同レポートは最後に、真に自立性のある車は現時点でまだ捉えようがなく、2030年までには表れないとし、もっとも楽観的に見ても、2030年に出荷されるLevel-4とおぼしき25万台が段階的にブレークスルーしていくのではないか、と締めくくっている。