2014年12月23日火曜日

                              Let it Snow!

Oh the weather outside is frightful
But the fire is so delightful
And since we've no place to go
Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!

It doesn't show signs of stopping
And I've bought some corn for popping
The lights are turned way down low
Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!

When we finally kiss good night
How I'll hate going out in the storm!
But if you'll really hold me tight
All the way home I'll be warm

The fire is slowly dying
And, my dear, we're still goodbying
But as long as you love me so
Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow! 







2014年12月15日月曜日

クラウド各社の戦略再設定(4)! -Rackspace-

 ホワイトナイト探しが終わった(注1)その後のRackspaceについて述べてみようと
思う。これこそ戦略再設定そのものである。新しいパートナーは見つからず、Rackspaceは自身で道を切り開くことになった。どのように活路を見つける作戦なのだろうか。そんな中、11月10日、3Q決算が発表された。結果は売上げ$460M(460億円)と好調だった。前期比4.2%アップ、前年同期比では18.3%の増加だ。既報(注2)のように2Qも順調だった。何か上手く軌道に乗り始めた予感がする。

=第1弾:Google Appsのサポート!=
10月7日、考えも及ばない発表が飛び出した。Google AppsをRackspaceがサポートすると言う。このサービスはGoogle Appsを業務として使う企業に向けたもので、アプリはGoogleクラウド上だが、煩雑なサポートは“Fanatical Support-徹底したサポート”としてRackspaceが担当する。これによって企業はクラウド管理から解放され、業務に集中できる。初のサービスのみのビジネスだ。現在は米国内でのユーザ傾向を分析中で、適切なユーザセグメントを割り出して、その後世界展開の予定らしい。周知のようにRackspaceは元来はHostingの会社だ。その経験で身につけたサービスの良さには定評がある。これこそ他社には出来ない芸当であり、自ら ‟#1 Managed Cloud Company”と自負する由縁でもある。

=第2弾:Microsoft Business Productivity Toolのサポート!=
続く作戦はMicrosoftに向けられた。意外だと思うかもしれないがMicrosoftとの付き合いは長い。Microsoft Gold Partnerとして、Windows ServerやSQL Serverのホスティング、そしてライセンス販売も手掛けてきた。このような背景のもと、10月23日、Cloud Office Suite at Rackspaceを発表。このサービスはCloud Office Suiteブランドの下でMicrosoft Exchangeをホスティングし、加えてDorpbox連携のRackSpace Webmailをメーラーオプションとして提供、さらにMicrosoft LyncMicrosoft SharePointのコラボツールもホスティング、これらにRackspaceの子会社Jungle Diskのバックアップサービスを組み合わせる。そして全体を同社が誇るFanatical Supportで支援する仕組みだ。読者諸兄はここまで読まれると、Google AppsとMicrosoft Officeのサポートは同社の新戦略のひとつだと気付かれるだろう。まさにSaaS領域のサービスだ。これまでの主戦場はIaaSだった。しかし、この領域は価格競争が激化している。Rackspaceが採った戦略のひとつはそこを避けた上位への移動である。

=目指すはUniversal Cloudだ!= 
さらに11月10日、Microsoftとの関係を一段と進めることとなった。同社はMicrosoftのCloud OS Networkに参加し、Private CloudでAzureをサポートすると表明した。これによって殆どのエンタープライズ向けMicrosoft Productsが利用できる。勿論、AzureのPrivate CloudにはAzure Packを利用する。Rackspaceは既にVMware Hostingは手掛けてきたし、遅ればせながら、OpenStack Private Cloudも発表(9/25)した。こうして元祖OpenStack Companyの同社は、OpenStackの基本技術の上に、Private Cloudとして、VMwareも、Azureも、勿論OpenStackも提供する複合適合型のHybrid化を目指し始めた。また、今年1月には同じOpenStack技術のCisco InterCloudのサポートも表明した。まさに目指すはUniversal Cloudである。道のりはまだまだ長いがこれが戦略再設定のふたつ目だ。

 
=次世代クラウドに向けて!=
クラウド市場は急激に変化し、淘汰が進んでいる。
これまで先行していたRackspaceもこの激流から逃れるために2つの作戦を採った。ひとつは上位縦展開としてSaaS領域の開拓、もうひとつは横展開のUniversal Cloudへの道だ。前者は当面Office Productivity関連だが、今後はヘルスケア、取り分けHIPAAで規定される医療保険の携行性関連分野なども有力視されている。後者のUniversal Cloud市場はどうか。デベロッパーが主要顧客だったPublic Cloud市場は飽和しつつある。次は企業の本格的なクラウド化だ。そのためには、個々の企業環境に合った多様なPrivate Cloudの提供と、主要なPublic Cloudとの連携が必要となる。自社技術への囲い込みではなく、柔軟性の高いOpenStackを基軸にRackspaceはUniversal Cloudを目指す。既存のサービスメニューに加え、新たな作戦を支えるのは6,000名の従業員だ。うち5,000名がエンジニア、彼らの双肩に全てが託されている。

2014年12月1日月曜日

クラウド各社の戦略再設定(3)! -IBM-

クラウド戦略再設定で先手を取ったのはIBMだった。
このニュースが流れたのは昨年6月のこと。これまでの自社クラウドからSoftLayerへの乗り換えである。その後のIBMの熱の入れようは凄い。特に今年に入ってから世界的に展開されたマーケティング活動には目を見張る。しかし、この戦略再設定の成功はまだ道半ばである。
  
=CAMSが起こす変革!=
ThinkFORUM 2014
11月10日、IBM主催の「Think FORUM 2014」が開かれた。来日したCEOのGinni Rometty女史は「今をどう捉えるか-What will we make of this moment?」と題したオープニングで、「ITの世界はこれまでと異なり、クラウドやモバイル、さらにソシアルネットワーク、ビッグデータ分析などが同時に進行している。このような巨大変革に対し、これまでとどう違うのか、どのように向き合うのか、そして将来に向けて何を考えるのかが重要だ。これらはIT企業だけでなく一般企業も同じである。この流れの一番の違いは、企業間や部門間、さらに企業とユーザ、ユーザ間などのエンゲージメント(繋がり-Engagement)だ。この根源的で基本的な違いを理解しないと、変化への向き合い方も対応も間違ってしまう。エンゲージメントのツールとなったSNSやIoTからは膨大な情報が生み出される。これらを分析して経営に役立てる。Big Dataはまさに天然資源(Natural Resources)だ。我々を取り巻くCAMS(Cloud、Analytic、Mobile、Social-network)への取り組みが今こそ問われている」と強調。次に登壇したのは研究部門を統括するSVP John Kelly氏だ。氏は「Big Data解析のような新たな挑戦には、これまでのプログラム記憶型Von Neumannコンピューティングではなく、認知・推論ができるコグニティブコンピューティング‐Cognitive Computingが重要だ。IBMでは近未来その核となるSyNAPSE Chipを制作してテスト中だ」と語った。コグニティブコンピューティングのWatsonにはすでにSoftLayer上で動かす幾つかのプロジェクトがある。これらが見えてくれば大きなアドバンテージになることは間違いない。最後に登壇したSoftLayer CEOのLance Crosby氏は、「クラウドの潮流はOn-PremiseからOff-Premiseへ、さらにHybridへと進み、その先に新しいシステムがある。この流れに向けて、IBM/SoftLayerはグローバルオペレーションとして世界5大陸で40センタを整備、各種コンポーネントを自由に組み合わせ、どの地域でも最高のサービスを提供する体制になった」と締めくくった。

=売却と提携で集中へ!=
確かにIBMは新らしい潮流に大きく舵を切っている。
それがSoftLayerであり、Watsonへの集中だ。しかしこのところのIBMの経営環境は厳しい。10月20日に出た3Q決算は、顧客のIT投資が落ち込み減収減益となった。10四半期連続の減収だと聞く。もっとも今回の減益には3年間で$1.5B(1,500億円)を支払って半導体部門をGlobal Foundriesへ売却する費用が含まれている。さらに今年の初めにはPCだけでなく、X86 Server部門もLenovoに売却した。完全に退路を断って、新たな潮流に向かう覚悟である。3Qのクラウド売上げは50%アップだった。しかしクラウド市場全体が伸びている。Synergy Reaserchのデータではパブリッククラウド市場の27%をAWSが占有し、急伸するMicrosoftが10%、IBMは7%程度だ。もっと勢いがなければ離されてしまう。このような危機感からIBMの打った手は幾つかの大型提携だ。まず7月15日、Appleとの提携が発表された。IBMが開発したモバイル向けアプリ開発支援ソフトウェアやクラウドサービスなどをAppleの法人ユーザに提供し、その代わりにiPhoneやiPadをIBMユーザへ拡販する。これによってクラウドとモバイル連携の強化を図ることが狙いだ。次いで10月15日、今度はSAPと提携した。この提携はインメモリデータベースHANAのSAP HANA Enterprise CloudをSoftLayerでも利用できるようにするものだ。ただ大企業におけるERPのクラウド利用は今後急伸が期待されているが、これはOracleとSAPの陣取り合戦でもある。この構図の中でも、中小企業向けはSalesforce.comMicrosoft Dynamicsが先行し、さらにSAPはAmazonと提携しているので、SAPから見れば、中小はAWS、大企業はIBMという棲み分け作戦のようだ。10月22日、もっとも衝撃的だったMicrosoftとの提携が発表された。両社は企業向けクラウドの競合相手である。その両社がお互いのソフトウェアを提供し会い、トップのAmazonを追撃しようという計画だ。考えられているのは、①IBMのWebSphereやMQ、DB2などをAzure上で提供し、②Windows ServerやSQL ServerをSoftLayerへ移行、さらに③Microsoft .NET runtimeをIBMのPaaS Bluemixで稼働させることなどである。 

=戦略調整が始まった!=
IBMにとって、年末にはSoftLayerを買収して約1年半が経つ。
本格的にプロモーションを始めて1年だ。ただ期待されていたほどの結果は出ていない。Amazonは低迷しながらも首位を維持し、Microsoftは急伸している。IBMは昨年のSoftLayer買収時に、噂ではRackspaceも評価したが高額のため諦めた。価格と共にポイントとなったのはOpenStackだ。もうOpenStackに興味がないのだろうか。そんなことはない。現にIBMはSoftLayerを強力に進めながらも、一方でOpenStackに多面に関わっている。市場ではエンタープライズクラウドがはっきりとハイブリッドに向かい出した。IBMはそのことを良く知っている。そして10月28日、IBMは動いた。IBM Cloud OpenStack Servicesを発表したのだ。このサービスはSoftLayerのベアメタルにOpenStackを乗せて企業のプライベートクラウドに供するものだ。勿論、IBM Cloud Manager with OpenStackを使えばSoftLayerとの連携もできる。来年、それは新たな現状分析に基づいた戦略調整への始まりかもしれない。

2014年11月20日木曜日

クラウド各社の戦略再設定(2)! -Cisco-

シリーズ第1回はEMCのクラウド戦略の再設定を取り上げた。
第2回目はCiscoだ。実はEMCとCiscoの戦略には大きな関係がある。クラウドの進展とSDNSDSの登場でネットワークやストレージ機器ベンダーは、これまでの戦略を大きく再設定しなければならなくなった。このままでは両社とも従来からのビジネスモデルが維持出来なくなってきたからだ。そしてCiscoから発表されたInterCloud、それを追ったのがEMC Enterprise Hybrid Cloudである。

=UCSの登場とオープン化=
CiscoがOpenStack傾斜なのは周知のこと。その旗振りはCloud CTOのLew Tucker氏。彼はOpenStack FoundationのVice Chairmanであり、Ciscoグループの元祖WebカンファレンスWebExをOpenStackベースに乗せ換えた立役者だ。その氏がCiscoに入ったのは2010年6月。CEOのJohn Chambers氏はこれ以前から時代の変化を感じていた。それがTucker氏の採用であり前年2009年4月に発表されたCisco UCSである。UCSはCisco製のスイッチNexusを装備したブレードサーバーだ。ネットワーク機器は末端のスイッチなどを除けばサーバーに置き換えられる可能性がある。UCSはそのための対策である。Tucker氏はOpenStackとの関係を強化し、一方、Ciscoは2009年、UCSを核にEMC、VMwareと合弁のVCEを設立。そしてNexusスイッチ搭載のUCSにEMCのストレージ、VMwareの仮想化技術をパッケージ化したVblockを開発して、ユーザ企業への販売導入支援ビジネスをスタートさせた。しかし鳴り物入りだったこのビジネスもサーバーの価格低下と仮想化技術の一般化でこのところは低迷。そして本格的なクラウド時代が到来した。

<Ciscoの第一手、それはNFV!>
Ciscoはこの大きな時代の変革期に2つの布石をした。1手目は、NFVNetwork Functions Virtualization)へのテコ入れだ。これはネットワーク機器ベンダーとキャリアが参加するNFV ISG(Network Functions Virtualization Industry Specification Group)が定めたものである。NFVでは各ネットワーク機器のハードとソフトを分離してサーバ上の仮想空間で実行する。一方これより先行していたSDNはOpenFlow Foundationが定めたOpenFlow仕様だ。OpenFlowでは、各ネットワーク機器の制御とデータ転送機能を分離する。初期において、IT関連のアカデミアが考え出した革新的なSDNに対して、NFVはそれに危機感を持つ関連業界が一体となって取り組んだことから対抗するかのように思われた。しかしながら、NFVは各ネットワーク機器のソフトとハードの分離、SDNは同制御部の抜出しと統合化という特徴から、徐々に補完関係となった。そして今年2月にはHPがNVFの解り易さを基点にSDNのコントローラ機能を取り込んだOpenNVFを発表。その後、今年9月30日、多くのITやネットワーク企業とキャリア参加したLinux FoundationOPNVFプロジェクトがスタート。OPNVFは標準化団体ではなく、OpenDaylightOpenStackOpen vSwitchなどのコンポーネントを利用して、オープンなNFVリファレンスプラットフォームを作ることが目的だ。このような流れは、いずれ専用ネットワーク機器の時代は段階的に縮小して、汎用サーバ上のソフトに移行するとんでいたCiscoの読み通りである。 

<2手目はInterCloudだ!> 
2手目として打ったのがInterCloudだ。
始めの1月、ミラノで行われたCisco Liveでクラウドポートフォリオを大きく拡大することに言及した。そして3月CiscoはグローバルベースのInterCloud戦略発表。この壮大な構想は複数のデータセンタやクラウドプロバイダを相互接続し、グローバルなクラウドネットワークを構築しようというものだ。コンセプトはDC as a Service、基本となる技術はCisco InterCloud Fabricである。複数のクラウドを接続するには秩序だった制御をするためのオーケストレーションが欠かせない。勿論、クラウド間のセキュリティやリソース管理をどのように行うのか、未知の課題が山積する。例えて言うなら、国際電話のローミングのようなクラウドを目指そうというわけだ。このファブリック構築のためにCiscoがなさねばならないことは技術的にもマーケティング的にも簡単なことではない。もし実現すればInterCloud Fabricを介してクラウド上のワークロードを移動させたり、AmazonやMicrosoft、Googleなどのパブリックとプライべートクラウドとの連携も容易となる。同社によると、この構想に賛同したパートナーは9月末現在、世界50ヶ国の250データセンタだという。今後は、勧誘のためのテクニカルスコープだけでなく、具体的にパートナークラウドの構築に向けて、何を提供するのかが問われる段階だ。 

=MetaCloudとは何か!=
9月17日、CiscoはOpenStack as a Serviceを掲げるMetaCloud買収した。
もう具体的なプロダクトを提示しなければせっかく勧誘したパートナーはついてこない。買収したMetaCloudは自社の5つのデータセンタ上か、ユーザの自営センタで、OpenStackを利用したプライベートクラウドのホスティングサービスを行う。クラウド指向のユーザに代わって、OpenStackの構築から委託運用までを請け負うビジネスだ。まさにOpenStack as a Serviceである。Ciscoはこのプロダクトとサービスを整備し、パートナーに展開する計画だ。これまでCiscoはVMwareとの関係が深かかった。しかし、この買収によって、vSphereだけでなく、パートナーに提供できるOpenStackというオプションを手に入れた。MetaCloudは2011年創業の若い会社だ。同社を興したのはオンラインチケット販売TicketmasterのプラットフォームをOpenStackで開発したSean Lynch氏とYahoo!のストレージ運用エンジニアのSteve Curry氏だ。今年6月にはRackspaceからOpenStackの主唱者(Advocate)として活躍していたScott Sanchez氏とNiki Acosta女史が移籍。

=CiscoはEMCの戦略を超えられるか!
前回はEMCの課題を分析し、それがEMC Enterprise Hybrid Cloudの背景だと説明した。しかし、冒頭で述べたように、EMCの戦略は、Cisco InterCloudへの対応というもうひとつの側面がある。両社はこれまで同じような境遇から接近していた。Ciscoはどちらかと言うとハード指向、EMCはVMwareを通したソフト指向だった。このアプローチの違いが両社を補完していた。しかし急激な市場変革に対応すべく、10月、CiscoはSSDWHIPTAILを買収して、多面的なアプローチに変更。もはや両社はクラウド時代を乗り切るための仲間ではなく、共に市場に飛び込む競争相手となった。EMCのクラウド戦略を簡単に言うと、自社とVMwareの既存顧客を囲い込み、その上で出来れば拡大したということだ。対してCiscoの戦略は、自社製品を使う多様な企業やデータセンタ、キャリアなどが相手だ。問題はCiscoが扱うネットワーク機器へのユーザの依存度である。VMwareのようなソフトは一度導入すると簡単には変えられない。翻ってCiscoのターゲット層は広いけれども忠誠度はそうでもない。しかし、今回先手を打ったのはCisco、それを追ったのがEMCである。後は、新戦略に沿ったクラウドプロダクトとサービスがどれだけ優れ、その導入が顧客にどのようなメリットをもたらすかだ。解っていることは、両社とも現在の機器屋から抜け出さなければ彼らのビジネスはシュリンクする。

2014年11月13日木曜日

クラウド各社の戦略再設定(1)  -EMC-

クラウド各社の戦略再設定が進んでいる。
昨年SoftLayerを買ったIBM、Rackspaceのホワイトナイト探し(参考:123)、Eucalyptusを飲み込んだHPのHellion、さらにCiscoも、EMCまで動き出した。大きな流れは、Amazonを追うMicrosoftと価格競争を挑むGoogle、この3強の外側各 社はOpenStackを取り込んで対抗を試みる。各社の戦略再設定の事情を分析し、合わせてOpenStackの新たな勢力図を検証しよう。

=シャッフルが必要となったEMCグループ=
このところ大きな動きを見せたのはEMCだ。EMCはこれまでVMwareを育てあげてきた。しかし仮想化市場は飽和し、VMwareビジネスは行き詰まりを見せ始めている。一方、EMCの本業であるストレージビジネスもフラッシュやSDSなどからの追い上げにあって対策が急務だ。課題は2つ。関連会社のことと自社のこと。VMwareを中心とした課題は、プロプライエタリービジネスの限界だろう。オープンソースのXenと戦った初期、そしてKVMの登場などで彼らはオープンソースやコミュニティ、さらにはエコシステムの重要性を学習した。

幸い2009年に買収したSpringSourceから派生したCloud Foundaryをオープン化し、IaaSから上位のサービスビジネスを求めてPivotalを分離することが出来た。現在はVMwareが仮想化に始まる一連のインフラ整備とパブリッククラウドを運営し、PivotalがPaaS、SaaSを受け持つ。Pivotal傘下のCloud Foundaryは今やPaaSのデファクトだが、Pivotal自身のビジネスはパッとしない。この図式だけでは戦えない。さらに危険なことに、EMC自身のストレージが物理的な装置から脱皮し、クラウドと一体化しなければ受け入れられない時代になりつつある。つまりEMCを含めたグループ各社の構図見直しに伴う戦略再設定が必要となった。全体をシャッフルする刺激剤として白羽の矢が立ったのはCloudscalingだ。もっと端的に言えば、CloudscalingのFounderのRandy Bias氏である。Bias氏はOpenStackのAdvocate(またはEvangelist)として著名な人だ。彼の意見は大いに参考になる。彼が興したCloudscalingはオープンクラウド向けのOpenStackディストリビューション開発、兼インテグレータだ。10月13日に明らかになっ た$50M(約50億円)の同社の買収で、EMCはプロダクトだけでなく、OpenStack Communityへの大きな橋渡し役を手に入れた。 (参考:オープンクラウドならCloudscalingだ!
=EMC Enterprise Hybrid Cloud登場!=
そしてEMCは10月28日、EMC Enterprise Hybrid Cloud(下図)を発表。
このソリューションはVMware製品を利用してクラウドを運用する企業ユーザやプロバイダ向けのもので、さらなるクラウド連携の拡大を目指している。発表に関連して、VMworld 2014(8/24-28)前後で幾つか重要な発表があった。8月21日、同社が昨年来運営するパブリッククラウド(VMware vCloud Hybrid Service)をVMware vCloud Airに改称(上右)。このクラウドはvSphereベースで企業が自営化してきたプライベートクラウド(下段)とハイブリッド化することが大きな目的だ。同社によると、現在、世界8センターで運用され、3,800社が利用しているという。次いで8月25日にはクラウドマネージメントプラットフォームVMware vRealize Suiteを発表し、10月14日からリリース。下図から解るように、上段のクラウドマネージメントはVMware vRealize SuiteとEMC Storage AnalyticViPRなどから構成され、ここから連携する全てのパブリッククラウドとプライベートクラウドが管理できる。下段が自社内のプライベートクラウドだ。

EMC Enterprise Hybrid Cloud
=続いた企業買収!=
今回の戦略再設定に関連して、10月22日、2009年にCiscoとVMware、EMCの3社で共同設立したVCEのほとんどの株式をCiscoから譲り受け、傘下とすることを発表。これによって扱うサーバハードウェア(Cisco UCS) とシステム要員を確保した。だからと言ってサーバーはUCSに限定することを意味しない。これまでもHPやDellとも多面的に付き合ってきたからだ。重要なのはシステム要員だ。EMCにとって、特に汎用機のシステム要員は潤沢でない。これから始まる本格的なクラウド対応に彼らは大いなる助っ人となる。次 いで10月28日、MaginaticsSpanningの2社の買収を発表した。MaginaticsはクラウドベースのNASベンダーであり、SpanningはGoogle AppsSalesforceのバックアップベンダーだ。
    • VMware vCloud Air (8/21) 
    • VMware vRealize Suite (8/25) 
    • Cloudscaling (10/13)
    • VCE (10/22)
    • EMC Enterprise Hybrid Cloud (10/28) 
    • Maginatics (10/28)
    • Spanning (10/28)                             (イタリック:企業買収)
=クラウドが本業となるか、そしてStorage as a Service!=
EMCにとって、クラウドはサイドビジネスではなくなった。本業としての武器化である。そのためには、VMwareに代わって、自身が前面に出て仕切らなければならない。ストレージビジネスの世界は変わり、もはやストレージシステムの製造販売だけでは生きられない。物理的なストレージ装置を埋め込んだクラウ ドへの展開が不可欠だ。これこそがこれからの市場である。今回発表したEMC Enterprise Hybrid Cloud(上図)では、下段のプライベートクラウドにEMCのストレージが埋め込まれ、それを上段のクラウドマネージメントのEMC Storage Analytics SuiteやViPRがVMware vRealize Suiteと共に制御する。当面、対応するクラウドはパブリックもプライベートもvShpereのみだが、来年にはAWSやMicrosoft、そして OpenStackとの連携が見えている。さらにSpanning買収でGoogle連携も可能となるかもしれない。EMCの戦略再設定、それはVMwareのアセットを核としながらも、近未来を見据えたオープンクラウド指向であり、またSTaaS(Storage as a Serviceへの本格攻勢の始まりでもある。

2014年11月5日水曜日

15分でクラウド基盤が立ち上がるPiston OpenStack!
                        -Cloud OS3-

Piston Cloud Computingの本社はサンフランシスコ市内にある。以前はスタートアップのメッカと言えばシリコンバレー(San Jose、Santa Clara、Mountain Viewなど)だった。しかし、このところはサンフランシスコで創業する会社が多い。理由は単純だ。シリコンバレーの町々は宵闇が下りればスポーツバーなど以外、ほとんど遊ぶところはないからだ。このためシリコンバレーでも比較的賑やかなスタンフォード大学の学園通り(University Ave.)のあるパロアルトで創業を始めるスタートアップは以前からあった。日本に住んでいる我々から見れば、何もあの狭い、車の止めにくい町でなくても と思うのだが、彼らにとっては大事なエンジニア集めのセールスポイントなのだろう。今回取り上げるPiston Cloudはサンフランシスコの観光名所ユニオンスクエアの裏面に接するPost St.を2ブロック下がったところにある。何とも優雅なオフィスだ。同社を興したのはJoshua McKenty氏(現CTO, Cloud Foundry)とChristopher MacGown氏、そしてGretchen Curtis女史の3人。全員共に、NASAのクラウドNebulaの関係者と言って良い。中心となったMcKenty氏はNebulaのTechnical Architectだった。MacGown氏はRackspaceに買収されたXenベースのバーチャルサーバプロバイダSliceHostのエンジニアだったが、その後OpenStackプロジェクトに参加し、NebulaのコンピュートエンジンNova開発に従事。Curtis女史はNASAのIT部門の広報担当である。現CEOのJim Morrisroe氏はZimbra出身で2012年末に就任した。

=Pistonが目指すもの=
同社が目指すものは迅速構築が可能なターンキーのOpenStackである。
つまり、多機能なOpenStackの幾つかの要素を決め打ちにして、簡単に導入が出来るパッケージに仕上げたものだ。ターゲットは企業の部門ユーザ。各部門では、これまでITに関する要求があると、都度、ITセクションに連絡した。しかし、ストレージの増強やネットワークの拡大、サーバ割り当てなど全てが担当に分かれ、さらに予算配分も絡んで遅れること甚だしい。この点、クラウドになればエンドユーザがリソースプールから直接必要な分を手に入れることが出来る。OpenStackはこれらリソースのプール管理を行い、その利用のために、ユーザにAPIやCLI、ダッシュボードなどを提供する。出来上がったターンキー製品はPiston OpenStack。これを使えば、企業データセンタでも、利用部門でも、たった15分あればOpenStack基盤が出来上がる。

=どうやってインストールするのか=
インストールの手順を紹介しよう。まずBoot Node用のサーバ1台とCluster Node用を最低5台用意し、ラックなどに積み込んで連結させる。ライセンスは試用期間の60日は無償、その後は購入してGUIから更新すれば良い。そして、同社サイトからPistonパッケージをダウンロード。それをUSBデバイスにWindows Image WriterやLinuxのddコマンドなどで書き込む。次に書き終わったUSBデバイスを開き、中の設定ファイルを編集する。設定ファイルには、ハードウェア/OpenStackサービス/仮想マシンなどのネットワーク設定やNTP/DNS/SYSLOG設定、Cluster Node=5といったサーバ数の設定、イメージキャッシュの設定、IPMI設定、ディスク構成などがあり、初期値(サンプル)からインストール環境に合わせて編集する。このUSBデバイスを差し込んだサーバがBoot Nodeとなる。するとUSBからBoot Node用のソフトウェアが自動的にインストールされ、さらに設定ファイルやCluster Node用のソフトウェアも保存される。これが済めばUSBデバイスはもう要らない。通常、OpenStackで扱うサーバはCompute NodeとControl Nodeに分かれるが、Pistonでは区分がなく、2つの機能を兼ね備えたものをCluster Nodeと言う。次にベアメタルなCluster NodeをBoot Nodeと同じネットワークに接続する。これら複数のCluster NodeにもBoot Nodeから必要なソフトウェアが自動インストールされる。Iocane Micro-OSやPistonの本体ともいうべき実行環境のMoxie RTE(Run Time Environment)などだ。このMicro-OSは最低限の機能を含んだLinux、つまりJeOSである。ここまででたった15分!これでOpenStackクラウド基盤が出来上がった。

=Pistonの構造=
インストールされたPiston OpenStackを構造面から見てみよう。
まず、VMを実行するのはCluster Nodeだが、これをVirtual Computeと言い、仮想化はMicro-OSに組み込まれたKVMが担当。Clusterは最低5台が必要だと述べた。この5台はMoxie RTEによってHA(High Availability)構成となり、1台で障害が発生すると残り4台の自動運行へ切り替えられる。ただ障害ノード上で実行されていたVMが自動修復されるわけではない。サポートするGuest OSは以下の通り。
  1.  Windows 7, 2008 R2, 2012 R2
  2. Ubuntu: 10.04, 11.04, 12.04, 12.10 13.04, 13.10, 14.04
  3. Red Hat Enterprise Linux 6.x
  4. CentOS 6.x、Fedora 20
  5. OpenSUSE 13.1, 12.3, SUSE Linux Enterprise 11SP3
次にVirtual Storage。Pistonが扱うストレージとはサーバ内臓のディスクを指す。もともとPistonはOpenStackの開発遅れと簡素化のために、Piston OpenStack 2.0まではストレージにCephのみを採用していた。しかし、後述の最新版3.5ではBlock StorageにCinder、Object Storageにはこれまでとの継続性確保からCeph(但しDriverはSwift)をサポートしている。 もうひとつのVirtual NetworkはNeutronのPluginでNova NetworkとPlumGridをサポートする。

 =セキュリティ強化のPiston OpenStack 3.5リリース=
9月10日、最新版のPiston OpenStack 3.5がリリースされた。
この版には2つ目玉がある。まずAPI通信時のSSL対応やIntel TXT(Trusted Execution Technology)適用によるセキュリティの強化だ。通常、サーバの電源をONにすると、①BIOS→②Boot Loader→③OSの順で立ち上がるが、TXTでは①BIOS→②Boot Loader→③Vitual Machine Monitor→④OS となって、OS立ち上げ前に仮想マシンモニタ(VMM)のチェックを行う。これによって改ざんモニタの実行を未然に防止するのだ。さらにTXTでは Gest OSからのメモリアクセスについても他チップセットと連携してセキュリティを厳格にしている。つまり、Intelの提唱するトラステッドコンピューティングの適用である。もうひとつの目玉は「Zero Downtime Update」の強化だ。Pistonではこれまでもインターネット経由でOpenStackの更新機能「Online Update」を提供してきた。今回の追加は「Near-Line Update」。これは更新情報を一旦ローカルサーバにダウンロードし、その後、OpenStackを更新する機能だ。この方式の採用で、Cluster Nodeのローリングアップデート時の遅延回避やより安全なシステムを更新することが出来る。
以上見てきたように、Piston OpenStackは難しいこと無しに、迅速にクラウド基盤の構築ができる。動かすのは簡単でも、内容は通常のOpenStackに負けることはない。日本市場への導入もTEDから始まった。

2014年10月27日月曜日

快進撃のMicrosoft Azure、その深層に迫る!

=1Qに見るAzure快進撃(前年比128%増)=
MicrosoftのクラウドAzureが快進撃の様子だ。
これまではAmazonが独走だった。価格を下げ、それによって既存ユーザの利用を促進し、新規ユーザを呼び込む。得られた利益の大部分をインフラに投資し、この全体サイクルを回すことによってAWSは勢力を拡大してきた。しかし、昨年秋頃からこの歯車が噛み合わなくなってきた。市場ではプレイヤの統合が進み、さらにクラウドはエンタープライズ市場に向い出した。今年2月には、Googleが大幅な値下げを断行して価格競争に挑んできた。この流れの中で頭角を現してきたのがMicrosoftだ。何がMicrosoftを快進撃に導いたのか、今回はその深層に迫って見ようと思う。
Microsoftの年度決算は6月末。そして10月23日、新年度1Qの決算(7-9月)速報が出た。その発表によればSufaceProやXboxなどのコンシューマデバイスとクラウドビジネスが好調だ。クラウドビジネスは、SECファイリングの10-Qによると、Azureの直接売上げ$662M(約662億円)、前年同期比128%増。その他、関連するEnterprise ServiceやSaaSなどを合算したクラウドビジネスの総額は、推定で最大$2,407Mになった模様だ。これらは下表のCommercial Otherに含まれる。新CEOのSatya Nadella氏は決算発表のカンファレンスコールで「Microsoftの再生には、生産性向上のために "Cloud First" "Mobile First"が欠かせない」と強調。後者は立て直し途上のNokiaやSkypeだが、前者は勿論、Azureであり、IaaSやPaaSだけでなく、同社のソフトウェア資産をAzure上でサービスするOffice 365Dynamics CRMなどのSaaSが含まれている。

注)クラウド売上げはCommercial Otherに含まれる。
=低迷するAWS(前年比37%アップ)=
同日、Amazonからも決算報告がなされた。しかしこちらの方は一般紙でも記事になったように本業のインフラ投資が先行して赤字決算となり、クラウドも失速気味だ。Amazonの場合もAWS売り上げは下表のOtherに含まれるが、このOtherは殆どがクラウドだと推測できる。下表から解るように、AWSの北米売上げは前年比40%増の$1,340M(1,340億円)とまずまずのように見える。しかし、その他地域の国際(International)は前年同期$51Mから$42M(42億円)と-17%のマイナス成長となった。合算値は$1,382M(1,382億円)、成長率は前年同期比で37%だ。 
=年間見通しはどうなるか(Azure$4B~、AWS$5B~)=
年度決算はどうなるのだろう。まず、Microsoftの場合を考えてみよう。思い出すのは、CEOのSatya Nadella氏が今年7月22日のFY14 4Q発表時に、「4Qクラウド売上げは前年同期比147%と急成長した。このまま推移すれば年間$4.4B(4,400億円)に達する」と話したことだ。これは凄い数字だ。ただ、FY15 1Qが128%なので、現状では少し低い$4,0B-$4.2B(4,000-4,200億円)程度ではないだろうか。しかしAWSの昨年度(2013)売り上げが$3,934Mだったのでこれには追いついた。クラウドの雄のAmazonはこのところ芳しくない。少し遡ってみよう。AWSの2011年度売上げ$1,586M(1,586億円)、2012年度は$2,523M(2,523億円)、2013年は$3,934M(3,934億円)。ここまでは順調だった。この3年間の平均年間成長率は57.5%だ。この計算で行くと、2014年度は売上げ約$6.2B程度の筈だった。しかし1Qは$1.257B(1,257億円)、2Qはそれより約3%ダウンして$1,218Bだった。これに今回の3Qの$1,382Mを加えると$3,857Mとなり、このままで年度合計を推測すると$5.0B-$5.2B程度だ。完全に変調を来しているとしか考えられない。

=Synergy Researchのレポート=
次に2Q(4-6月期)までのデータだが、AWS変調(翻ってAzure好調)の要因をお馴染みのSynargy Research社の報告(下左図)で見てみよう。図のように、これまで4社(Salesforce、Microsoft、IBM、Google)合計はAmazonに届かなかった。しかし2Qでは前年比でMicrosoftが164%(Microsoftの速報では174%)、IBMも86%と急成長した。対するAWSは49%、Googleも同水準の47%だ。Amazonの勢いがすっかり衰え、Microsoftが急伸し、IBMも追っていることがはっきりしてきた。同社はさらに2Qの各社データから、この期の市場総売り上げは$3.7B(3,700億円)、年間売上げは$13B(1兆3千億円)、市場成長は45%以上と推定した。これにAWSの年間予想($5.0B-$5.2B)とAzureのそれ($4.0B-$4.2B)を当てはめると、Amazonは38-40%、Microsoftは30-32%程度のシェアとなる。現在の勢いはMicrosoft Azureにあり、来年度はキャッチアップする公算が大だ。
同社からはもうひとつ報告(下右図)がある。これもとても興味あるものだ。この図はクラウド関連の「ハードウェア&ソフトウェア」と「サービス」のシェアを示すものだが、前者はCisco、後者はAmazonがトップである。しかしよく見ると、MicrosoftとIBMの2社が両方の分野に強い地位を保っていることが解る。同社の推定では、2Qのクラウド基盤向けハード/ソフトの売上げは$12B(1兆2千億円)、前年比8%増。これに対してクラウドサービスはかなり小さく売上げは$4B(4千億円)、前年比50%である。これを単純に年間に引き延ばすと、ハード/ソフトの今年度総売上げは$48B(4兆8000億円)、クラウドサービスは$16B(1兆6000億円)となる。これについて、同社のFounderでChief AnalystのJohn Dinsdale氏は「稀な現象だが、この2社は企業総合力がクラウドでシナジー効果を出しているようだ」と解説。これは裏を返せばそのような環境にないAmazonが辛くなることを意味する。勿論、Microsoftはハード部門を持たないので、OSを核としたミドルソフトやパッケージソフト群とサービスが相乗効果を引き出し、IBMは一連のハードウェアと総合的なソフトウェア群がクラウドサービスの売上げに貢献しているという訳だ。つまり、両社にとって、クラウドサービスは既存製品群との協調の上に成り立っている。もっと言えば、自社製品群のシェア維持と拡大のためにクラウドは欠かせないということだ。こう見ると、HPがHelionでサービスを提供する意図が理解できる。


=Open Licensing Programで進撃開始=
Microsoftはさらに秘策を操り出し始めた。
まず、7月中旬に開催されたWPC 2014(Worldwide Partner Conference)でOpen Licensing Programを発表。このプログラムは、8月1日から北米で適用が開始された。これまでのAzureを利用する方法は2つ。ひとつはクレジットカードを登録してAzureを直接使う方法。もうひとつはEnterprise Agreementによるものだ。大手企業では総合的なEnterprise Agreementの一部として、Azureの利用枠を年間クレジットで事前購入して利用する。この中間がOpen Licenseである。仕組みはこうだ。ユーザに直接販売するパートナーは、金額ベースのクレジット利用枠をディストリビュータから割引を受けて購入し、その中からユーザが必要とする分を再販する。つまり、ディストリビュータやパートナーには販売の自由度があり、そこから得られた差分が彼らの取り分となる。ユーザにとっても、利用枠の大きさによって多少の割引が見込めるし、クレジットカードによる都度払いよりもずっと経理処理がし易い。Microsoftはこの方式の優位性をOffice 365で学んだ。Office 365の販売当初もクレジットカード扱いだけだった。それでも売上げはかなり伸びたが、その後、販売価格に自由度のあるパートナー扱いを開始すると売上げは急増した。Office 365だけでなく、Azureも柳の下の2匹目のドジョウを狙うというわけである。

=AzureとIBM Cloudの協業=
次に、10月22日に発表されたニュースも衝撃的だった。
MicrosoftとIBMは互いの企業向けソフトウェアをそれぞれのクラウドで提供するために作業中であるという。背景にはHybrid Cloudの採用が早まっていることがある。これまでAmazonはPublic Cloudでシェアを拡大してきたが、企業向けPrivate CloudではMicrosoftとIBMが待ち受けている。両社はこの市場をしっかりホールドし、早まりつつあるHybrid CloudでAWSからユーザを取り戻すために多くの選択肢を与える作戦に出た。これによって、お互いのPublic Cloudの有用性を引き上げ、Private Cloudとの連携を確実なものにする戦略だ。考えられているのは、① IBMのWebSphereやMQ、DB2などをAzure上で提供し、② Windows ServerやSQL ServerをIBM Cloudで提供、さらに、③ Microsoft .NET runtimeをIBMのPaaS Bluemixで稼働させることである。

=Azureをリードする新CTO!=
時代は急速に動いている。
Mark Russinovich
Satya Nadella氏がCEOに就任したのは2月14日。初代CEOのBill Gates氏、Steven Ballmer氏に次ぐ三代目である。彼はMicrosoftで22年のキャリアがあるがGates氏やBallmer氏のような創業者魂はなく、インド人に多い理性的で、かつエンジニア肌の人だ。CEO就任前の役職はクラウド&エンタープライズグループのEVP。つまり、彼はクラウドを熟知している。その彼がクラウドのCTOに指名したのがMark Russinovich氏だ。氏は仲間と始めた会社の買収に伴ってMicrosoftに2006年に入社。Russinvich氏はIT関連の著作などで学究肌のエンジニアと見られているが、それだけでなくDRMに関するRoot Kitの問題を発表したセキュリティの専門家であり、MicrosoftのTechnical Fellowでもある。その氏はAWSとの戦いについて、米メディアに答え、「クラウドビジネスの基本は企業のデータセンタ投資に係るCAPEXを如何に低減させるかに尽きる。CAPEXがはっきり下がることが解れば企業はクラウドに移行してくる。問題はセキュリティだ。自営のデータセンタとは異なり、クラウドはShared Technologyの上に成り立っている。我々は第3のコンピューティング<クラウド&モバイル時代を成功させるために、何としても高信頼のクラウドを提供する必要がある」と説明。現在、Microsoftは全世界17地域でAuzreを展開し、唯一、中国でもPublic Cloudを運用している。価格競争については、Microsoftが既に明らかにしているようにどのような状況にも対応するだろう。氏を見ているとAzureの初期を導いたRay Ozzie氏を思い出す。Ozzie氏がビジョナリーならRussinovich氏はエンジニアリングの実務だ。今まさにMicrosoft Azureにとって必要な人物である。Satya Nadalla氏の口癖、"Mobile First" "Cloud First"を実現する高信頼クラウド構築は、彼の双肩にかかっている。

2014年10月7日火曜日

Ellison氏のCEO退任とOracle OpenStackの登場!     

ついにOracle CEOを35年間続けてきたLarry Ellison氏が退任することとなった。 
Oracle OpenWorld 2014開催直前のことである。思えば、AppleのSteve Jobs氏は3年前の2011年10月、闘病生活から立ち直ることなく56歳の若さで世を去った。MicrosoftのBill Gates氏は2000年1月に45歳でCEOを降り、自らがChief Software Architectとなって製品全体の方向性に目を光らせた。その後は新しい時代の流れに沿うべく、2006年6月、Ray Ozzie氏にその職を委ねて、徐々に身を引いた。そのOzzie氏が最も力を入れたのがMicrosoftのクラウドAzureである。
他方、Elison氏は今年8月で70歳。
新たなOracleのCEOには、これまで氏と共にトロイカ体制を担ってきたMark Hurd氏とSafra Catz氏が共同であたる。Catz氏は2004年から同社社長、Hurd氏は2010年にHPのCEOからOracleに移ってきた。Ellison氏はCEOを辞めたと言っても、実際にはボード議長に収まって実権を掌握し、さらにCTOを務めて、ソフト/ハードのエンジニアリングを担当するという。2人のCEOは、Catz氏が製造/ファイナンス/法務、Hurd氏は営業/サービス/業種別グローバルビジネスを受け持つ。考えてみれば、これまでEllison氏はCEOとして全てをコントロールし、共同社長のCartz氏は本部機構、Hurd氏は買収したSun Microsystemsの立て直しが主な役割りだった。今回の体制は、Ellison氏がいづれ全面的に退任し、次世代をHurd氏へ受け継ぐ前段階ではないかという声が多い。

=Oracle OpenWorld 2014=
さて今年のOracle OpenWorldはどうだったか。
一言で言えばクラウドのオンパレードである。今回のカンファレンスでは、IaaSよりPaaSやSaaSにウエイトが置かれたが、ただ、内容はこれまで発表されていたものの改良や現行製品の乗せ直しで新鮮味はなかった。つまり、Oracle Database 12cやJavaの開発環境WebLogicなどがクラウド環境で提供されるというものだ。9月28日(日)午後5時からEllison氏はCTOとしてKeynoteに登壇し、これらの話を滔々と語り、Oracleのクラウドビジネスは始まったばかりだ強調した。翌29日(月)朝8時半からのMark Hurd氏のKeynoteもクラウド関連アプライアンス製品エンジニアドシステム(Engineered Systems)の成功を語り、Ellison氏は再度、30日午後1時半からも登壇した。これらのプレゼンを通して解ったことは、Oracleにとってクラウドとは何かである。彼らが提供するIaaS/PaaS/SaaSの3つは、基本的に現行ユーザのマイグレーションパスである。これまでのERPはSaaSとなり、今回発表したデータベースや開発環境はPaaSとなる。さらにユーザが作り込んだ高度なDBアプリケーションはIaaSがなければ移行ができない。これら既存ユーザを何とか囲い込みながら、これまでのライセンスビジネスからユティリティベースのクラウドに移行させたい。これがOracleのクラウド戦略のようだ。
一方、Sun時代から多くのファンを集めたJavaOneも併設されていた。こちらの話題はもっぱら今年3月にリリースされたJava SE 8 。Java開発はSunが買収されたことによって、リリースは遅れに遅れた。それでもJava 8はラムダ式の採用により、Java 5以来の文法的変更という画期的なものとなった。

=Oracleのオープン化の足取り=
さて、ここでOracleのオープン化について触れておこう。
Ellison氏は、現在はともかく、以前はオープンソースについてもクラウドにもあまり興味を示さななかった。そのためSun買収後のOpenOffice.orgは混乱し、枝分かれとなったLibreOffice開発とコードを寄贈したApache OpenOfficeの2つを生んでしまった。程度の差こそあれ、MySQLやJavaも同様である。

◆ Oracle Linux 
そのOracleがRed Hat Enterprise LinuxをベースにしたOracle Linuxを発表したのは2007年。2010年のSun買収以前のことだ。これはUnixからLinuxへの急激な流れの中で、OS移行に伴うユーザ流出の防衛策のように見えた。

◆ Oracle Exadata/Exalogic
2009年に発表したデータベースアプライアンスOracle Exadataは、HPと共同開発したもので、OLTP(Transactional)とOLAP(Analytical)に対応し、OSにはOracle Linuxを採用した。この成功がSun買収の伏線となったのだろう。買収の翌2011年、Sunのストレージをベースとした高性能のExadata 2が登場。これにはオープンソースとなったZFSが搭載され、OSはSorarisかOracle Linux。平行してSunのハードウェアにWebLogicを乗せたOracle Exalogic も現れた。

◆ Oracle Engineered System
これらはその後、Oracle Big Data ApplianceOracle SupperClusterOracle Virtual Compute Applianceを加えて、一般にアプライアンスと呼ばれるものよりも、ソフトウェアとハードウェアをより効果的に統合したEngineered System(エンジニアドシステム)として成長した。

◆ OpenStack
Oracleが次に手を打ったのがOpenStackである。その前触れが昨年3月に買収したNimbulaだった。同社はAWS開発の初期メンバーが創設した会社である。こうしてクラウド関連技術とエンジニアを吸収し、昨年12月にはOpenStack Foundationの企業スポンサーとなって、Oracle SolarisOracle LinuxOracle VMOracle Virtual Compute ApplianceOracle ZFSなどへのOpenStack適用を表明した。そして今年5月、Atlantaで開かれたOpenStack Summitで2つOpenStack製品を発表。ひとつはSolarisにOpenStackを統合したOracle Solaris 11.2、もうひとつはx86向けのOpenStack Distributionである。

こうしてみると、Ellison氏の考え方は時間と共に変化しているのかもしれない。
しかしStackAlyticsで見るとOracleのJuno開発貢献度は86位だ。貢献度トップHPのレビュー数は24,857件、Red Hat(同2位)、Mirantis(3)、Rackspace(4)、ここまでは10万件以上、5位のIBMが9,989、Ciscoは4,614(6)、NECが3,392(7)、SUSEは2,589(10)、これらの企業は全てOpenStackのディストリビューションを製品化している。これに対してOracleはたったの19件だ(10/7現在)。これはOracleの体制がまだ始まったばかりだからなのかも知れない。ただ、今言えることは、貢献を通してビジネスを組み立てる多くのメンバー企業とは異なるということである。

=後継者は誰か=
Oracleは新トロイカ体制となったが、Ellison氏はこれまで通りなのだろうか。
それとも、総務畑のCatz氏はともかく、Hurd氏をいずれ後釜にするのだろうか。
残された時間はそう長くはない。周知のようにHurd氏はNCRの営業から身を興し、同社の1部門だったTeradata成功させてCEOに登り詰めた人である。その手腕を買われてCarly Fiorina女史後のHP CEOとなり、そしてOracleにスカウトされた。その彼の最初の仕事がTradataの成功体験を生かしたExadataだった。その意味で、氏がSunの再生、とりわけ、Engineered Systemをビジネス軌道に乗せたことは大いに評価される。しかしOracleは基本的にはソフトウェアの会社である。勿論、Linuxもクラウドもソフトウェアだ。彼はどちらかというとマーケティングやハードビジネスが得意である。本当に彼が後継者となるのだろうか。不安もある。過去、後継者と思われる人物が現れる度にEllison氏との仲が問題となった。1992年に入社し、1996年にCOOとなったRaymond Lane氏は、当時の競合SybaseInformixに打ち勝って大きく業績を伸ばして後継者と言われたが、2000年、突然退社した。その後、2003年、社長にスカウトされたCharles Phillips氏も、PeopleSoftBEAHyperion,、Siebelなどの買収に貢献し、大きく売り上げを伸ばした。その彼も2010年、Oracleを去った。今度こそHurd氏が後継者として選ばれるのか。
新トロイカ体制はその試金石である。

2014年10月1日水曜日

HPとEucalyptusは上手く行くか!
         -OpenStack Silicon Valley 2014ー

OpenStack Silicon Valley 2014Computer History Museumで開かれた。
Mountain Viewにあるこの建物は、以前、Silicon Graphicsの本社だったものだ。
このイベントはOpenStack Community EventとしてSIerのMirantisがオルガナイズした。当日(9月16日)の参加者は590名。この数は少ないと思うかもしれないが、会場の制限によるものだ。チケットは完売。勿論、参加者の殆どがクラウド関係者やデベロッパーだ。集まったメディアはGartnerやIDC、そしてクラウドではお馴染みの451 Research、SiliconANGLE、The New Stack、TechTarget、eWeek、GigaOm、Web Host Industry Reviewなど。以下は主に、このイベントで最大の話題となったHP戦略について纏めたものである。

=HPはなぜOpenStackへ舵を切ったのか=
この日のトップを切ったのはHPのプレゼン。 前半はEVPでCTOのMartin Fink氏、後半はEucalyptusのCEOMarten Mickos氏だ。まず登壇したFink氏はこれまでのHPクラウドの活動を総括。氏によると1年弱前(昨年の暮れあたり)、クラウド開発の方向を完全にOpenStackに修正したとのこと。つまり、このままではただ体力を消耗するだけ、一方でOpenStackの開発が進んだことから、全てのリソースをこれに賭けようと決断した。我々がHelionの発表を耳にしたのは今年5月なので約半年前のことである。それより以前、HPはPublic Cloudを2011年に発表し、2012年5月からβ版でサービスイン。これに先駆け、同年4月、HPクラウドはハイブリッド化を目指したConverged Cloudとなった。このクラウドではObject Storageなど部分的にOpenStackを採用していたがHelionからは全面採用へと舵を切った。その意味でHelionはConverged Cloudのリブランドと言って良い。
=Eucalyptus CEOの心変わり=
Fink氏と握手を交わし、後半、壇上に立ったのは、今や時の人、Marten Mickos氏だ。氏の経歴は言うまでもないが、LAMPスタックで一世を風靡したオープンソースデータベースの雄、旧MySQLのCEO(2001~2008)だ。そのMySQLを旧Sun Microsystemsに売却し、Sunに1年とどまって、2010年にEucalyptus SystemsのCEOに就任した。その氏が再度、EucalyptusをHPに売却し、自分もHPのEVPでクラウドビジネスのGMとして指揮を執ることになった。2度目の変身である。周知のようにEucalyptusはUC Santa Barbaraで始まったクラウドプラットフォームのオープンソースプロジェクトで、その後の改良の結果、インストールの簡便性とAWS互換を売り物にしている。この日、氏はまず、まだHPとの最終契約が終わっていないことに言及し、だから正式な肩書はまだEucalyptusのCEOだと説明した。氏は過去10年間、オープンソースビジネスに従事して完全に成功してきたことを強調、そして2日前の日曜日(9月14日)にOpenStack Foundationの個人メンバーになり、これからはまじめに貢献すると語った。その際、参加者から起こったパラパラという複雑な拍手が印象的だった。というのは、これまでEucalyptusのCEOとしてOpenStackに挑戦的な発言を続けてきたからだ。その後、氏はオープンソースがクラウドでどれだけ重要かを説明し、とりわけハイブリッドOpenStackにとってEucalyptasのAWSデザインパターンが有用であることを強調した。さらに「Eucalyptusのチーム自体、OpenStackプロジェクトに比べようもないくらいに小さく、使い易さ(Easy of Use)やインストールの容易性(Easy of Installation)を狙ったもので、(暗に競合するのではなく)共存できる」とした。特に「AWSとのハブリッドを考えるとき、Public CloudのAWS APIはプライベートだが、Private Cloudで使うAWS APIはパブリックなものだ。何故ならオープンソースとして利用可能だから」。つまり、EucalyptusのAWSを上手く使えという示唆である。氏はさらに、自らの代弁としてクラウドオピニオンのひとつが、何故HPがEucalyptusを買収したかに触れ、それは、①AWSとのインターオペラビリティ、②シンプルスタート、③プロダクトフォーカスの3つだと説明した。そしてOpenStackは既に優秀なCephRiak CSMidoNet(ミドクラ)などのアドオン/付帯プロジェクトを持っており、Eucalyptusもそうありたいと述べた。

=新たなクラウド模様!=
このイベントの当日は、既報のようにRackspaceのホワイトナイト探しが終了した日でもある。今回の騒動が要因となってクラウド模様も変わった。Rackspaceは独自路線を歩む。最有力の買収候補と見られていたHPは、RackspaceからEucalyptusに乗り換えた。AWS互換機能は確かに魅力だが、本当にこれで良かったのだろうか。Mickos氏の要求は、その売り込みだけでなく、自分も売り込み、さらにEucalyptusをHPのポートフォリオに残すことのようだ。会場での参加者の話題はもっぱらこのことだった。同様に買収候補とされていたCiscoはMetaCloudを手に入れ、インタークラウド市場を目指しながら、UCS販売を強化する。もうひとつ、この騒動の陰で、9月11日、Red HatのCTO Brian Stevens氏がGoogleにスカウトされた。ポジションはGoogle PlatformのVP。Googleクラウドの責任者だ。これより先、RackspaceのSVPで製品開発の責任者だったMark Interrante氏も7月初めHPに入社している。SVPとなった彼も同様、HPクラウド開発の責任者となった。今回、傍観していたMicrosoftはAzure、IBMはSoftLayerを推進する。そして、体制を整えた後発組のHPとCisco。挑戦を受けるのはAmazon。こうして、ジグソーパズルの当面のクラウド模様は決まった。戦闘再開である。

2014年9月18日木曜日

続々) Rackspaceはどうなるのか! -M&A交渉終了-

9月17日、Rackspaceは当面のパートナー探しは終了したと発表した。
最終候補に挙がっていたとされるCenturyLinkの買収交渉は上手くいかず、この発表によって株価は一気に$32台へと下がった。今後はTaylor Rhodes氏の指揮のもとで “Managed Cloud” 戦略を推し進めることになる。今回の戦略的パートナー探し(M&A)は5月15日のSECファイリングで明らかになった。内容は戦略パートナーから買収までだ。そのために同社はMorgan StanleyとWilson Sonsini Goodrich & Rosatiの2社と契約し、株主や顧客、従業員の最大利益を求める複雑なレビューを実施した。発表によれば、その結果、ボードはM&A交渉を終了することを決定した。

=どうしてこうなったのか=
ほんの数日前に中間報告を書いた筆者も正直のところ、この急展開には驚いた。
ただ、冷静になればこれで良かったのではないかと思う。好業績だった2Q報告後、同社株式は8月12日の$29.50を底に反転し、9月1日のLabor Dayを挟んでも続伸、$38~39台で推移していた。理由は好業績を背景にCenturyLinkとの交渉が進んでいたからである。しかし中間報告で書いたように、個人的にはCenturyLinkが最良のパートナーだとは思い難い。この組み合わせから、Racspaceがこれまで見せてきた先進性やユーザセントリックな戦略が加速されるとは思いにくいからだ。

初回報告を思い出して欲しい。Rackspaceの生い立ち、社風、クラウドへの取り組みなどを詳しく述べた。その上で、彼らはExitにあたり、何を望んでいたのかを推測した。事実は知る由もないが、次のようなものだ。
  • この会社のDNAが引き継げるか。つまり彼らに経営の自由度が残るか。
  • OpenStackへの理解は高いか。
  • プライスタグ(買収額)はどの程度か。(Market Valueは$4-5B)
  • この取引のビジネスミックスは将来の事業拡大に貢献するか。
ここで大事なことは、米国企業には珍しく、プライスタグだけが条件ではないのではないか、ということである。彼らは、出来れば、資金力があり、インフラやグローバル展開などの力を持った大きな傘のもとで戦いたかったに違いない。あくまでも憶測だが、買収提案をした大手企業側は自社戦略にRackspaceを組み込むことしか考えなかった。これは通常のM&Aでは当たり前のことだが、彼らの要求とは折り合わなかったのだろう。こう考えると、殆どの候補企業の整理がつく。わけてもHPとの交渉も想像できる。HPからの提案は金額的には良好なものだったのだろう。しかし同社は、それだけでなく、自主性も確保したかった。この流れが伏線となって、HPによるEuclyptus買収交渉が決定されたと見るのは穿ち過ぎだろうか。

=ボードによる2つの判断と新たな船出!=
RackspaceのボードはM&A検討終了の決定と共に2つの判断も下した。
ひとつは今年2月からCEOだったGraham Weston氏に代え、同社ベテラン幹部のTaylor Rhodes氏を新CEOとし、ボードメンバーに加えたこと。これに伴いWeston氏は, 非常勤のボード議長(Non-Executive Chairman of the Board)となった。もうひとつは、株式買戻しプログラムを考慮するというものだ。これは今回の一件に乗じて投資したヘッジファンド対策ではないかとみられる。同社の苦境から始まった今回のパートナー探し。交渉は折り合わなかった。これは同社にとってマイナスイメージとなる。しかもヘッジの持ち株比率を上げてしまった。しかし、幸いなことに2Q決算が予想以上に良かった。通年の見通しも明るい。クラウドに造詣の深い人たち(Cloud Advocates)はほっとしたに違いない。Rackspaceは新CEOのもと、新たな船出となった。彼らの決断と今後の活躍にエールを送りたい。