ついにOracle CEOを35年間続けてきたLarry Ellison氏が退任することとなった。
Oracle OpenWorld 2014開催直前のことである。思えば、AppleのSteve Jobs氏は3年前の2011年10月、闘病生活から立ち直ることなく56歳の若さで世を去った。MicrosoftのBill Gates氏は2000年1月に45歳でCEOを降り、自らがChief Software Architectとなって製品全体の方向性に目を光らせた。その後は新しい時代の流れに沿うべく、2006年6月、Ray Ozzie氏にその職を委ねて、徐々に身を引いた。そのOzzie氏が最も力を入れたのがMicrosoftのクラウドAzureである。
他方、Elison氏は今年8月で70歳。
新たなOracleのCEOには、これまで氏と共にトロイカ体制を担ってきたMark Hurd氏とSafra Catz氏が共同であたる。Catz氏は2004年から同社社長、Hurd氏は2010年にHPのCEOからOracleに移ってきた。Ellison氏はCEOを辞めたと言っても、実際にはボード議長に収まって実権を掌握し、さらにCTOを務めて、ソフト/ハードのエンジニアリングを担当するという。2人のCEOは、Catz氏が製造/ファイナンス/法務、Hurd氏は営業/サービス/業種別グローバルビジネスを受け持つ。考えてみれば、これまでEllison氏はCEOとして全てをコントロールし、共同社長のCartz氏は本部機構、Hurd氏は買収したSun Microsystemsの立て直しが主な役割りだった。今回の体制は、Ellison氏がいづれ全面的に退任し、次世代をHurd氏へ受け継ぐ前段階ではないかという声が多い。
=Oracle OpenWorld 2014=
さて今年のOracle OpenWorldはどうだったか。
一言で言えばクラウドのオンパレードである。今回のカンファレンスでは、IaaSよりPaaSやSaaSにウエイトが置かれたが、ただ、内容はこれまで発表されていたものの改良や現行製品の乗せ直しで新鮮味はなかった。つまり、Oracle Database 12cやJavaの開発環境WebLogicなどがクラウド環境で提供されるというものだ。9月28日(日)午後5時からEllison氏はCTOとしてKeynoteに登壇し、これらの話を滔々と語り、Oracleのクラウドビジネスは始まったばかりだ強調した。翌29日(月)朝8時半からのMark Hurd氏のKeynoteもクラウド関連アプライアンス製品エンジニアドシステム(Engineered Systems)の成功を語り、Ellison氏は再度、30日午後1時半からも登壇した。これらのプレゼンを通して解ったことは、Oracleにとってクラウドとは何かである。彼らが提供するIaaS/PaaS/SaaSの3つは、基本的に現行ユーザのマイグレーションパスである。これまでのERPはSaaSとなり、今回発表したデータベースや開発環境はPaaSとなる。さらにユーザが作り込んだ高度なDBアプリケーションはIaaSがなければ移行ができない。これら既存ユーザを何とか囲い込みながら、これまでのライセンスビジネスからユティリティベースのクラウドに移行させたい。これがOracleのクラウド戦略のようだ。
一方、Sun時代から多くのファンを集めたJavaOneも併設されていた。こちらの話題はもっぱら今年3月にリリースされたJava SE 8 。Java開発はSunが買収されたことによって、リリースは遅れに遅れた。それでもJava 8はラムダ式の採用により、Java 5以来の文法的変更という画期的なものとなった。
=Oracleのオープン化の足取り=
さて、ここでOracleのオープン化について触れておこう。
Ellison氏は、現在はともかく、以前はオープンソースについてもクラウドにもあまり興味を示さななかった。そのためSun買収後のOpenOffice.orgは混乱し、枝分かれとなったLibreOffice開発とコードを寄贈したApache OpenOfficeの2つを生んでしまった。程度の差こそあれ、MySQLやJavaも同様である。
◆ Oracle Linux
そのOracleがRed Hat Enterprise LinuxをベースにしたOracle Linuxを発表したのは2007年。2010年のSun買収以前のことだ。これはUnixからLinuxへの急激な流れの中で、OS移行に伴うユーザ流出の防衛策のように見えた。
◆ Oracle Exadata/Exalogic
2009年に発表したデータベースアプライアンスOracle Exadataは、HPと共同開発したもので、OLTP(Transactional)とOLAP(Analytical)に対応し、OSにはOracle Linuxを採用した。この成功がSun買収の伏線となったのだろう。買収の翌2011年、Sunのストレージをベースとした高性能のExadata 2が登場。これにはオープンソースとなったZFSが搭載され、OSはSorarisかOracle Linux。平行してSunのハードウェアにWebLogicを乗せたOracle Exalogic も現れた。
◆ Oracle Engineered System
これらはその後、Oracle Big Data Appliance、Oracle SupperCluster、Oracle Virtual Compute Applianceを加えて、一般にアプライアンスと呼ばれるものよりも、ソフトウェアとハードウェアをより効果的に統合したEngineered System(エンジニアドシステム)として成長した。
◆ OpenStack
Oracleが次に手を打ったのがOpenStackである。その前触れが昨年3月に買収したNimbulaだった。同社はAWS開発の初期メンバーが創設した会社である。こうしてクラウド関連技術とエンジニアを吸収し、昨年12月にはOpenStack Foundationの企業スポンサーとなって、Oracle Solaris、Oracle Linux、Oracle VM、Oracle Virtual Compute Appliance、Oracle ZFSなどへのOpenStack適用を表明した。そして今年5月、Atlantaで開かれたOpenStack Summitで2つOpenStack製品を発表。ひとつはSolarisにOpenStackを統合したOracle Solaris 11.2、もうひとつはx86向けのOpenStack Distributionである。
こうしてみると、Ellison氏の考え方は時間と共に変化しているのかもしれない。
しかしStackAlyticsで見るとOracleのJuno開発貢献度は86位だ。貢献度トップHPのレビュー数は24,857件、Red Hat(同2位)、Mirantis(3)、Rackspace(4)、ここまでは10万件以上、5位のIBMが9,989、Ciscoは4,614(6)、NECが3,392(7)、SUSEは2,589(10)、これらの企業は全てOpenStackのディストリビューションを製品化している。これに対してOracleはたったの19件だ(10/7現在)。これはOracleの体制がまだ始まったばかりだからなのかも知れない。ただ、今言えることは、貢献を通してビジネスを組み立てる多くのメンバー企業とは異なるということである。
=後継者は誰か=
Oracleは新トロイカ体制となったが、Ellison氏はこれまで通りなのだろうか。
それとも、総務畑のCatz氏はともかく、Hurd氏をいずれ後釜にするのだろうか。
残された時間はそう長くはない。周知のようにHurd氏はNCRの営業から身を興し、同社の1部門だったTeradataを成功させてCEOに登り詰めた人である。その手腕を買われてCarly Fiorina女史後のHP CEOとなり、そしてOracleにスカウトされた。その彼の最初の仕事がTradataの成功体験を生かしたExadataだった。その意味で、氏がSunの再生、とりわけ、Engineered Systemをビジネス軌道に乗せたことは大いに評価される。しかしOracleは基本的にはソフトウェアの会社である。勿論、Linuxもクラウドもソフトウェアだ。彼はどちらかというとマーケティングやハードビジネスが得意である。本当に彼が後継者となるのだろうか。不安もある。過去、後継者と思われる人物が現れる度にEllison氏との仲が問題となった。1992年に入社し、1996年にCOOとなったRaymond
Lane氏は、当時の競合SybaseやInformixに打ち勝って大きく業績を伸ばして後継者と言われたが、2000年、突然退社した。その後、2003年、社長にスカウトされたCharles Phillips氏も、PeopleSoftやBEA、Hyperion,、Siebelなどの買収に貢献し、大きく売り上げを伸ばした。その彼も2010年、Oracleを去った。今度こそHurd氏が後継者として選ばれるのか。
新トロイカ体制はその試金石である。