2014年10月27日月曜日

快進撃のMicrosoft Azure、その深層に迫る!

=1Qに見るAzure快進撃(前年比128%増)=
MicrosoftのクラウドAzureが快進撃の様子だ。
これまではAmazonが独走だった。価格を下げ、それによって既存ユーザの利用を促進し、新規ユーザを呼び込む。得られた利益の大部分をインフラに投資し、この全体サイクルを回すことによってAWSは勢力を拡大してきた。しかし、昨年秋頃からこの歯車が噛み合わなくなってきた。市場ではプレイヤの統合が進み、さらにクラウドはエンタープライズ市場に向い出した。今年2月には、Googleが大幅な値下げを断行して価格競争に挑んできた。この流れの中で頭角を現してきたのがMicrosoftだ。何がMicrosoftを快進撃に導いたのか、今回はその深層に迫って見ようと思う。
Microsoftの年度決算は6月末。そして10月23日、新年度1Qの決算(7-9月)速報が出た。その発表によればSufaceProやXboxなどのコンシューマデバイスとクラウドビジネスが好調だ。クラウドビジネスは、SECファイリングの10-Qによると、Azureの直接売上げ$662M(約662億円)、前年同期比128%増。その他、関連するEnterprise ServiceやSaaSなどを合算したクラウドビジネスの総額は、推定で最大$2,407Mになった模様だ。これらは下表のCommercial Otherに含まれる。新CEOのSatya Nadella氏は決算発表のカンファレンスコールで「Microsoftの再生には、生産性向上のために "Cloud First" "Mobile First"が欠かせない」と強調。後者は立て直し途上のNokiaやSkypeだが、前者は勿論、Azureであり、IaaSやPaaSだけでなく、同社のソフトウェア資産をAzure上でサービスするOffice 365Dynamics CRMなどのSaaSが含まれている。

注)クラウド売上げはCommercial Otherに含まれる。
=低迷するAWS(前年比37%アップ)=
同日、Amazonからも決算報告がなされた。しかしこちらの方は一般紙でも記事になったように本業のインフラ投資が先行して赤字決算となり、クラウドも失速気味だ。Amazonの場合もAWS売り上げは下表のOtherに含まれるが、このOtherは殆どがクラウドだと推測できる。下表から解るように、AWSの北米売上げは前年比40%増の$1,340M(1,340億円)とまずまずのように見える。しかし、その他地域の国際(International)は前年同期$51Mから$42M(42億円)と-17%のマイナス成長となった。合算値は$1,382M(1,382億円)、成長率は前年同期比で37%だ。 
=年間見通しはどうなるか(Azure$4B~、AWS$5B~)=
年度決算はどうなるのだろう。まず、Microsoftの場合を考えてみよう。思い出すのは、CEOのSatya Nadella氏が今年7月22日のFY14 4Q発表時に、「4Qクラウド売上げは前年同期比147%と急成長した。このまま推移すれば年間$4.4B(4,400億円)に達する」と話したことだ。これは凄い数字だ。ただ、FY15 1Qが128%なので、現状では少し低い$4,0B-$4.2B(4,000-4,200億円)程度ではないだろうか。しかしAWSの昨年度(2013)売り上げが$3,934Mだったのでこれには追いついた。クラウドの雄のAmazonはこのところ芳しくない。少し遡ってみよう。AWSの2011年度売上げ$1,586M(1,586億円)、2012年度は$2,523M(2,523億円)、2013年は$3,934M(3,934億円)。ここまでは順調だった。この3年間の平均年間成長率は57.5%だ。この計算で行くと、2014年度は売上げ約$6.2B程度の筈だった。しかし1Qは$1.257B(1,257億円)、2Qはそれより約3%ダウンして$1,218Bだった。これに今回の3Qの$1,382Mを加えると$3,857Mとなり、このままで年度合計を推測すると$5.0B-$5.2B程度だ。完全に変調を来しているとしか考えられない。

=Synergy Researchのレポート=
次に2Q(4-6月期)までのデータだが、AWS変調(翻ってAzure好調)の要因をお馴染みのSynargy Research社の報告(下左図)で見てみよう。図のように、これまで4社(Salesforce、Microsoft、IBM、Google)合計はAmazonに届かなかった。しかし2Qでは前年比でMicrosoftが164%(Microsoftの速報では174%)、IBMも86%と急成長した。対するAWSは49%、Googleも同水準の47%だ。Amazonの勢いがすっかり衰え、Microsoftが急伸し、IBMも追っていることがはっきりしてきた。同社はさらに2Qの各社データから、この期の市場総売り上げは$3.7B(3,700億円)、年間売上げは$13B(1兆3千億円)、市場成長は45%以上と推定した。これにAWSの年間予想($5.0B-$5.2B)とAzureのそれ($4.0B-$4.2B)を当てはめると、Amazonは38-40%、Microsoftは30-32%程度のシェアとなる。現在の勢いはMicrosoft Azureにあり、来年度はキャッチアップする公算が大だ。
同社からはもうひとつ報告(下右図)がある。これもとても興味あるものだ。この図はクラウド関連の「ハードウェア&ソフトウェア」と「サービス」のシェアを示すものだが、前者はCisco、後者はAmazonがトップである。しかしよく見ると、MicrosoftとIBMの2社が両方の分野に強い地位を保っていることが解る。同社の推定では、2Qのクラウド基盤向けハード/ソフトの売上げは$12B(1兆2千億円)、前年比8%増。これに対してクラウドサービスはかなり小さく売上げは$4B(4千億円)、前年比50%である。これを単純に年間に引き延ばすと、ハード/ソフトの今年度総売上げは$48B(4兆8000億円)、クラウドサービスは$16B(1兆6000億円)となる。これについて、同社のFounderでChief AnalystのJohn Dinsdale氏は「稀な現象だが、この2社は企業総合力がクラウドでシナジー効果を出しているようだ」と解説。これは裏を返せばそのような環境にないAmazonが辛くなることを意味する。勿論、Microsoftはハード部門を持たないので、OSを核としたミドルソフトやパッケージソフト群とサービスが相乗効果を引き出し、IBMは一連のハードウェアと総合的なソフトウェア群がクラウドサービスの売上げに貢献しているという訳だ。つまり、両社にとって、クラウドサービスは既存製品群との協調の上に成り立っている。もっと言えば、自社製品群のシェア維持と拡大のためにクラウドは欠かせないということだ。こう見ると、HPがHelionでサービスを提供する意図が理解できる。


=Open Licensing Programで進撃開始=
Microsoftはさらに秘策を操り出し始めた。
まず、7月中旬に開催されたWPC 2014(Worldwide Partner Conference)でOpen Licensing Programを発表。このプログラムは、8月1日から北米で適用が開始された。これまでのAzureを利用する方法は2つ。ひとつはクレジットカードを登録してAzureを直接使う方法。もうひとつはEnterprise Agreementによるものだ。大手企業では総合的なEnterprise Agreementの一部として、Azureの利用枠を年間クレジットで事前購入して利用する。この中間がOpen Licenseである。仕組みはこうだ。ユーザに直接販売するパートナーは、金額ベースのクレジット利用枠をディストリビュータから割引を受けて購入し、その中からユーザが必要とする分を再販する。つまり、ディストリビュータやパートナーには販売の自由度があり、そこから得られた差分が彼らの取り分となる。ユーザにとっても、利用枠の大きさによって多少の割引が見込めるし、クレジットカードによる都度払いよりもずっと経理処理がし易い。Microsoftはこの方式の優位性をOffice 365で学んだ。Office 365の販売当初もクレジットカード扱いだけだった。それでも売上げはかなり伸びたが、その後、販売価格に自由度のあるパートナー扱いを開始すると売上げは急増した。Office 365だけでなく、Azureも柳の下の2匹目のドジョウを狙うというわけである。

=AzureとIBM Cloudの協業=
次に、10月22日に発表されたニュースも衝撃的だった。
MicrosoftとIBMは互いの企業向けソフトウェアをそれぞれのクラウドで提供するために作業中であるという。背景にはHybrid Cloudの採用が早まっていることがある。これまでAmazonはPublic Cloudでシェアを拡大してきたが、企業向けPrivate CloudではMicrosoftとIBMが待ち受けている。両社はこの市場をしっかりホールドし、早まりつつあるHybrid CloudでAWSからユーザを取り戻すために多くの選択肢を与える作戦に出た。これによって、お互いのPublic Cloudの有用性を引き上げ、Private Cloudとの連携を確実なものにする戦略だ。考えられているのは、① IBMのWebSphereやMQ、DB2などをAzure上で提供し、② Windows ServerやSQL ServerをIBM Cloudで提供、さらに、③ Microsoft .NET runtimeをIBMのPaaS Bluemixで稼働させることである。

=Azureをリードする新CTO!=
時代は急速に動いている。
Mark Russinovich
Satya Nadella氏がCEOに就任したのは2月14日。初代CEOのBill Gates氏、Steven Ballmer氏に次ぐ三代目である。彼はMicrosoftで22年のキャリアがあるがGates氏やBallmer氏のような創業者魂はなく、インド人に多い理性的で、かつエンジニア肌の人だ。CEO就任前の役職はクラウド&エンタープライズグループのEVP。つまり、彼はクラウドを熟知している。その彼がクラウドのCTOに指名したのがMark Russinovich氏だ。氏は仲間と始めた会社の買収に伴ってMicrosoftに2006年に入社。Russinvich氏はIT関連の著作などで学究肌のエンジニアと見られているが、それだけでなくDRMに関するRoot Kitの問題を発表したセキュリティの専門家であり、MicrosoftのTechnical Fellowでもある。その氏はAWSとの戦いについて、米メディアに答え、「クラウドビジネスの基本は企業のデータセンタ投資に係るCAPEXを如何に低減させるかに尽きる。CAPEXがはっきり下がることが解れば企業はクラウドに移行してくる。問題はセキュリティだ。自営のデータセンタとは異なり、クラウドはShared Technologyの上に成り立っている。我々は第3のコンピューティング<クラウド&モバイル時代を成功させるために、何としても高信頼のクラウドを提供する必要がある」と説明。現在、Microsoftは全世界17地域でAuzreを展開し、唯一、中国でもPublic Cloudを運用している。価格競争については、Microsoftが既に明らかにしているようにどのような状況にも対応するだろう。氏を見ているとAzureの初期を導いたRay Ozzie氏を思い出す。Ozzie氏がビジョナリーならRussinovich氏はエンジニアリングの実務だ。今まさにMicrosoft Azureにとって必要な人物である。Satya Nadalla氏の口癖、"Mobile First" "Cloud First"を実現する高信頼クラウド構築は、彼の双肩にかかっている。