2017年6月11日日曜日

AutoTech(24)  Uberからの人材流出が止まらない!
             -CEO Travis Kalanick氏求職か-

Uberからの人材流出が止まらない。
このところ、Waymoからの訴訟で守勢に立たされていたUberは5月30日、自動運転車開発のヘッドで、買収したOttoの元CEO Anthony Levandowskiの首を切った。報道によると、同社は彼が裁判に協力しなければこうなることを告げてあったという。


=マネージメントが崩壊する!=
以下はAnthony Levandowsk 氏の件を含めた最近の人材流出の状況である。

▼ Feb. 28 - エンジニアリングSVPがセクハラ問題で引責退社か!
Amit Singhal氏がGoogleから移籍したのは今年1月初め。そして、たった1ヶ月での異常退社となった。理由は明らかにされていないが、エンジニアリングのトップとして、部門内のセクハラ問題の責任を取らされた模様である。氏はGoogleに15年以上在籍して検索部門のトップのSVPを務め、且つ、Google Fellowでもある大物だ。この件では、CEOのTravis Kalanick氏が2月22日、全社員向けにこのようなことを起した社内文化について謝罪している。
▼ March 3 - VP of Product and Growth、Ed Baker氏も退社!
Uberに2013年以来4年間在籍し、VP of Product and GrowthだったEd Baker氏も3月初めに退社。氏は幾つかのスタートアップを手掛けた後、Facebookに2年、そしてUberに入った。退社について、社員向けメールの中で公共分野で自分の経験を活かしたかったと述べて、不満があったことをうかがわせている。

▼ March 8 - AIラボの新ヘッド、Gary Marcus氏が退社!
次に1月からAIラボの新ヘッドとなったGary Marcus氏が退職し、外部のアドバイザーとなった。氏は自身で興したAIスタートアップGeometric IntelligenceをUberが買収したことで昨年12月にUberに移籍したばかり、本業はニューヨーク大学の心理学と神経科学の教授である。
▼ March 19 ‐ プレジデントJeff Jones氏とうとう退社!
そして、とうとう社長のJeff Jones氏の退社が3月19日に発表された。彼はアパレル大手のGapでグローバルマーケティングを担当、その後、大手スーパーTargetのEVP兼CMO(Chief Marketing Office)を務め、昨年8月末からUberの社長に就任した。すぐにセクハラや各種の社内のゴタゴタに巻き込まれた。氏の退社は、3月7日、Travis Kalanick氏が発表したCOO探しとも関連し、意思疎通が上手く行っていなかった様子だ。

▼ April 11 ‐ コミュニケーション専門家、Rachel Whestone女史退社!
コミュニケーション(Communication and Public Policy)のヘッドRachel Whetstone女史が4月11日退社。彼女はGoogleに10年在籍したこの分野の著名人で、Uberでは2年間を過ごした。女史はメールの中で、このところの不祥事を巡るメディア対応について、Kalanick氏や投資家との軋轢を示唆。

▼ May 21 ‐ 法務最高責任者からCLOへ?、Salle Yoo女史!
法務最高責任者(General Counsel)のSalle Yoo女史は、Alphabet/Waymoとの法廷争いやセクハラ騒動などで忙しい。そこでKalanick氏は女史をAlphabetとの裁判から外すとし、新たに法務最高責任者を探すこととなった。つまり、新法務責任者が決まれば、女史はCLO(Chief Legal Officer)に降格となる模様だ。

▼ May 23 ‐ 欧州/中東/アフリカの法務責任者、Jim Callaghan氏退社!
今度は欧州/中東/アフリカ担当の法務責任者Jim Callaghan氏が退社した。氏はブリュッセルとピッツバーグの大学で法律を学び、アイルランドのライアンエアーやUAEのエティハド航空で法務を担当、1年前にUberに移籍した。その後、欧州での裁判で、Uberはデジタルプラットフォームサービスであり、既存輸送サービスの規制対象にはならないと主張してきたが敗訴。これが引責原因となった模様だ。

▼ May 30 ‐ ニューヨークGM、Josh Mohrer氏退社!
5月末、 ニューヨーク地区オペレーションの責任者でGMのJosh Mohrer氏が5年間の在職後に退社した。理由は定かではないが、5月23日に報じた過去2年半に及ぶニューヨーク地区ドライバーへの未払い問題ではないだろうか。
(詳細記事: ドライバーへの未払い

▼ May 30 ‐ 自動運転開発の中心人物、Anthony Levandowsk 氏解雇!
Alphabet/Waymoから訴訟を起こされていた問題の人物はAnthony Levandowsk氏。氏はGoogle Self-Driving Car Projectのコアエンジニアの一人で約9年間在籍し、昨年初めにOttoを起業、そのOttoを昨年8月、Uberが買収。訴状では氏が退社時にGoogleから大量の企業機密ドキュメントを持ち出し、それがOttoの技術ベースだと指摘している。
(詳細記事:法廷闘争の行方!Wamo .vs. Uber/Otto
=May 31 ‐ 財務のヘッド、Gautam Gputa氏退職=
続く31日には、Uberの財務部門を仕切るGautam Gupta氏が退社を発表した。氏は2015年以来、空席のCFOを穴埋めするヘッド(Head of Finance)として、現在のUberのポジションを築いた功労者である。 

▼ June 7 - アジアパシフィック社長、Eric Alexander氏解雇!
今度はUberを利用した人のレイプ事件に絡む問題が起きた。インドでの事件でその医療記録をアジアパシフィックの社長Eric Alexanderが入手したというのだ。しかも、情報筋によれば、それらの情報はCEOなどにも示されていたという。利用者の安全が大前提のタクシーで起きた性的事件、医療記録が何故必要だったのだろうか。
=これからどうなるのか!= 
以上、見てきたように多くの人材がUberから流出した。更に現場ではエンジニアも辞めているという。一方で、立て直しのための採用も始まている。

トロントAI新チームを統括するRaquel Urtasun女史入社!
5月8日、カナダのトロント大学准教授でAIリサーチャーのRaquel Urtasun女史が採用された。情報によると、Uberは自動運転車開発の核組織ATGを拡大して、トロントに新チームを作り、女史が統括する模様だ。このチームは、女史の口添えで、$5Bの出資が決まった非営利団体Vector Institute for AIとも連携する。Uberにとって、現在、大きなゴタゴタは2つある。ひとつは、自動運転車開発を巡る疑惑。裁判の結果が思わしくなかった時のワーストシナリオはOtto技術ベースの開発中断である。これに対して、Uberは昨年、前述(March 8)のようにAIのGeometric Intelligenceを買収して手を打ってきたが、創業者のGary Marcus氏は、嫌気がさして既に退職。今回のカナダでの組織化は米国を避けて、開発を続ける新たな展開となるかもしれない。

ハバードBS、Frances Frei女史がSVPとして入社!
次いで6月5日、ハーバードビジネススクールの教授Frances Frei女史がSVPとして急きょ入社することとなった。Frei女史は性差別問題に関してアメリカを代表する研究者であり、また、女史には、サービスの重要性を説いた共著のベストセラーUncommon Serviceある。女史の役割は、表向きリーダシップと戦略(Leadership and Strategy)の立て直しだが、実際は、ゴタゴタのふたつ目のセクハラ問題の解決のようである。
思い起こせば、Uber Technologiesは、2009年、サンフランシスコで3人(Garret Camp氏、Oscar Salazar氏、Travis Kalanick氏)で興した会社だった。ただ、今もCamp氏は同社チェアマンとして残っているが、本業はインキュベーションの別会社だし、Salazar氏はもういない。つまり、会社をここまで大きくしてきたのは、間違いなくTravis Kalanick氏である。そして、このようなゴタゴタの状況に陥ったのも彼自身の言動からくる、身から出た錆のように思えてならない。
そして、とうとう6月11日、ReutersはボードがCEO Travis Kalanick氏の休職を検討していることを報じた。


2017年6月1日木曜日

AutoTech(23)  際立つUberの傲慢さ!

Uberがライドシェアリングの世界を牽引して、民泊サイトのAirbnb と共にシェアリングエコノミーに大きく貢献したことは間違いない。ただ、このところはUberにまつわる悪いニュースが絶えない。前々回取り上げたWaymo .vs. Uber/Ottoの訴訟もそうだし、サンフランシスコでの行政とのトラブル、アリゾナ州での事故(警察の調査では対向車のミスらしい)、ドライバーへの未払い、果てはセクハラ騒ぎなどである。

=CMUからの引き抜き!= 
約2年前の2015年3月、Wall Street Journalは、UberがCarnegie Melon Universityのコンピュータサイエンスに付帯するRobotics Instituteから、4名の教授と35名のリサーチャーを引き抜いたと報じた。これがUberのオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)開発の中心ATG(Advanced Technologies Group)の始まりだ。しかし、この引き抜きを非難する反響の大きさに、同9月、UberはProfessorshipなどの名目で大学$5.5Mの献金を行い、沈静化を図った。実際のところ、Google Carの初代のヘッドSebastian Thrun氏、その後、同プロジェクトのCTOとなったChiris Urmson氏などもここの卒業生である。そして、Waymoから訴えられた訴訟(詳細は法廷闘争の行方!Waymo .vs. Uber/Ottoで今や火中のAnthony LevandowskiがATGのヘッドを辞任したのは、この4月27日である。

=サンフランシスコでのテスト事業中止!=
Uberがサンフランシスコでオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)Volvo XC90によるテスト事業を開始したのは昨年12月14日。この地域でランダムに選んだ顧客へのサービストライアルである。投入された車は16台。しかし、この計画にあたって、Uberは州が発行する許可を求めなかった。理由は、まだ完全な自動運転車ではないからだ言う。その後、DMV(Department Motor Vehicle)からの注意や申請勧告を受けたが従わず、果ては、12月21日のUberDMV、司法当局の3者会談を経て、中止に追い込まれた。たった1週間の出来事である。
=セクハラ問題!=
セクハラが持ち上がったのは今年の2月19日。
元社員だったSusan FlowerさんがBlogでその事実を公表したからだ。彼女はペンシルバニア大学を卒業し、幾つかのスタートアップを経て、2015年11月にUberに入社、そして昨年12月にこのセクハラ問題などで退社を余儀なくされた。彼女はBlog中で、上司に性交渉を迫られたこと、被害者は複数の女性に及ぶこと、さらに異動申請に関する上位マネージメントの非協力さ、果ては解雇の脅迫、そして社内の権力闘争など、問題は会社全体に蔓延していると指摘。このセクハラ問題がメディアで大きく取り上げられた後、2月21日、Travis Kalanick CEOは全社員を対象に謝罪した。

 =ドライバーへの未払い!=
ドライバーとの支払いに関する問題もしばしば起きている。
通常、ドライバーはUberとの契約で平均25%の手数料を支払い、残りが取り分となる。そんな中、5月23日のWall Street Journalは、Uberの社内処理上のミスから過去2年半(2014年11月以降)、ニューヨーク地区ドライバーへの支払いが数十億円(tens of millions of dollars)単位で未了となっていたと伝えた。理由はこうだ。これまでドライバーの受け取る額は、売上税や車両代などの諸費用を差し引く前の総売り上げに手数料率を掛けていたが、本来は諸費用を差し引いた額に手数料率を乗じるべきだったという。つまり、手数料の前提となる金額が税引き前か後かという基本的な誤りである。まさか、意図的にやっていたということではないだろうが、如何にもずさんな出来事である。  
 

=Travis Kalanick氏とはどう云う人物か!= 
一連の強引さや傲慢さが社内に蔓延しているのなら、それは経営トップのKalanick氏に起因しているのではないだろうか。ここに少し古いビデオがある。FailCon 2011でのTravis Kalanick氏のプレゼンだ。FailConは年1回行われる人気のカンファレンスで「スタートアップの先達たちの失敗に学ぼう」というものだ。2011年度は、彼以外にSun Microsystemsを立ち上げ、現Khosla Venturesを運営するVinod Khosla氏の2人がキーノートに立った。Kalanick氏は、その中でこれまでの経験を披露。最初はUCLA在学中にP2PのマルチメディアScour Inc.を仲間5人と立ち上げるために退学したこと。そして投資家との契約書をよく読まずにサインし、その後、条項違反で告訴され、そのニュースで会社の評判は一気に急落。さらにP2Pに関連して、著作権保有団体から総額$250B(25兆円/1㌦=100円換算)の訴訟を起こされて倒産、会社は裁判所のオークションで30分で売られてしまったという。その後、仕返しのために今度はメディア企業をユーザとするRed Swooshを立ち上げる。しかし、この会社は上手く行かず、仲間に裏切られたり、税金未納や資金調達に追いまくられ、その間、Microsoftからの買収提案もあったが、交渉は10分、実質は最初の1分で決裂。最終的にはライバルのAkamaiにバイアウトが成功して、Uberを立ち上げたという。

 
昔の日本人は「若いうちの苦労は買ってでもしろ」、きっと役に立つとしつけられた。
それは基本的には万国共通の考え方だった。学校や家庭で教えられた事に実践で身に付いた経験が加われば、難事にも、上手く対応ができるからだ。しかし、身につけた経験をどう活かすかには個人差がある。課題を正確に処理するために活かすのか、上手く逃げ回ったり、世渡りをするためなのか。後者なら、それはただの悪知恵に過ぎない。Kalanick氏の味わった人の何倍もの経験が、Uberの経営にとって前者であることを祈るばかりである。   (参考:Uberの野望!