2017年6月1日木曜日

AutoTech(23)  際立つUberの傲慢さ!

Uberがライドシェアリングの世界を牽引して、民泊サイトのAirbnb と共にシェアリングエコノミーに大きく貢献したことは間違いない。ただ、このところはUberにまつわる悪いニュースが絶えない。前々回取り上げたWaymo .vs. Uber/Ottoの訴訟もそうだし、サンフランシスコでの行政とのトラブル、アリゾナ州での事故(警察の調査では対向車のミスらしい)、ドライバーへの未払い、果てはセクハラ騒ぎなどである。

=CMUからの引き抜き!= 
約2年前の2015年3月、Wall Street Journalは、UberがCarnegie Melon Universityのコンピュータサイエンスに付帯するRobotics Instituteから、4名の教授と35名のリサーチャーを引き抜いたと報じた。これがUberのオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)開発の中心ATG(Advanced Technologies Group)の始まりだ。しかし、この引き抜きを非難する反響の大きさに、同9月、UberはProfessorshipなどの名目で大学$5.5Mの献金を行い、沈静化を図った。実際のところ、Google Carの初代のヘッドSebastian Thrun氏、その後、同プロジェクトのCTOとなったChiris Urmson氏などもここの卒業生である。そして、Waymoから訴えられた訴訟(詳細は法廷闘争の行方!Waymo .vs. Uber/Ottoで今や火中のAnthony LevandowskiがATGのヘッドを辞任したのは、この4月27日である。

=サンフランシスコでのテスト事業中止!=
Uberがサンフランシスコでオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)Volvo XC90によるテスト事業を開始したのは昨年12月14日。この地域でランダムに選んだ顧客へのサービストライアルである。投入された車は16台。しかし、この計画にあたって、Uberは州が発行する許可を求めなかった。理由は、まだ完全な自動運転車ではないからだ言う。その後、DMV(Department Motor Vehicle)からの注意や申請勧告を受けたが従わず、果ては、12月21日のUberDMV、司法当局の3者会談を経て、中止に追い込まれた。たった1週間の出来事である。
=セクハラ問題!=
セクハラが持ち上がったのは今年の2月19日。
元社員だったSusan FlowerさんがBlogでその事実を公表したからだ。彼女はペンシルバニア大学を卒業し、幾つかのスタートアップを経て、2015年11月にUberに入社、そして昨年12月にこのセクハラ問題などで退社を余儀なくされた。彼女はBlog中で、上司に性交渉を迫られたこと、被害者は複数の女性に及ぶこと、さらに異動申請に関する上位マネージメントの非協力さ、果ては解雇の脅迫、そして社内の権力闘争など、問題は会社全体に蔓延していると指摘。このセクハラ問題がメディアで大きく取り上げられた後、2月21日、Travis Kalanick CEOは全社員を対象に謝罪した。

 =ドライバーへの未払い!=
ドライバーとの支払いに関する問題もしばしば起きている。
通常、ドライバーはUberとの契約で平均25%の手数料を支払い、残りが取り分となる。そんな中、5月23日のWall Street Journalは、Uberの社内処理上のミスから過去2年半(2014年11月以降)、ニューヨーク地区ドライバーへの支払いが数十億円(tens of millions of dollars)単位で未了となっていたと伝えた。理由はこうだ。これまでドライバーの受け取る額は、売上税や車両代などの諸費用を差し引く前の総売り上げに手数料率を掛けていたが、本来は諸費用を差し引いた額に手数料率を乗じるべきだったという。つまり、手数料の前提となる金額が税引き前か後かという基本的な誤りである。まさか、意図的にやっていたということではないだろうが、如何にもずさんな出来事である。  
 

=Travis Kalanick氏とはどう云う人物か!= 
一連の強引さや傲慢さが社内に蔓延しているのなら、それは経営トップのKalanick氏に起因しているのではないだろうか。ここに少し古いビデオがある。FailCon 2011でのTravis Kalanick氏のプレゼンだ。FailConは年1回行われる人気のカンファレンスで「スタートアップの先達たちの失敗に学ぼう」というものだ。2011年度は、彼以外にSun Microsystemsを立ち上げ、現Khosla Venturesを運営するVinod Khosla氏の2人がキーノートに立った。Kalanick氏は、その中でこれまでの経験を披露。最初はUCLA在学中にP2PのマルチメディアScour Inc.を仲間5人と立ち上げるために退学したこと。そして投資家との契約書をよく読まずにサインし、その後、条項違反で告訴され、そのニュースで会社の評判は一気に急落。さらにP2Pに関連して、著作権保有団体から総額$250B(25兆円/1㌦=100円換算)の訴訟を起こされて倒産、会社は裁判所のオークションで30分で売られてしまったという。その後、仕返しのために今度はメディア企業をユーザとするRed Swooshを立ち上げる。しかし、この会社は上手く行かず、仲間に裏切られたり、税金未納や資金調達に追いまくられ、その間、Microsoftからの買収提案もあったが、交渉は10分、実質は最初の1分で決裂。最終的にはライバルのAkamaiにバイアウトが成功して、Uberを立ち上げたという。

 
昔の日本人は「若いうちの苦労は買ってでもしろ」、きっと役に立つとしつけられた。
それは基本的には万国共通の考え方だった。学校や家庭で教えられた事に実践で身に付いた経験が加われば、難事にも、上手く対応ができるからだ。しかし、身につけた経験をどう活かすかには個人差がある。課題を正確に処理するために活かすのか、上手く逃げ回ったり、世渡りをするためなのか。後者なら、それはただの悪知恵に過ぎない。Kalanick氏の味わった人の何倍もの経験が、Uberの経営にとって前者であることを祈るばかりである。   (参考:Uberの野望!