2014年3月27日木曜日

DaaSアップデート!(Amazon & Citrix)       -DaaS3-

昨年11月のAmazonの参入を受け、DaaS市場が脚光を浴びつつある。
その状況はDaaS-1DaaS-2で報告した。今回は、その後の動きや判明したことを元に、AmazonとCitrixについてアップデートをしよう。

=Amazon WorkPlacesアップデート=
Amazon WorkPlacesの スケジュールが少し見えてきた。現在、WorkPlacesはLimitedリリースの段階である。この後、Publicベータ、そして2Q後半か夏には 正式版となるだろう。ただ課題は幾つかある。ひとつは現在の機能/性能範囲がマーケットに受け入れられるかどうかだ。技術的なポイントは既報で 説明した。特にオンプレミス連携時などのレスポンスが許容範囲内かどうかは確かめられたい。WorkPlacesはAmazonが徹底したマーケット調査 の上で投入したサービスである。従って、世界的にはそれなりの市場が見込めるのだろう。しかし、日本市場となると気になるところだ。次にコスト。これは大 いに問題である。
      • Standard - $35 / user / month.
      • Standard Plus - $50 / user / month.
      • Performance - $60 / month.
      • Performance Plus - $75 / user / month.
WokrPlacesでユーザが使えるOSはWindows 7 Experience。これはどのバンドルでも同じだが、実際にはWindows ServerをDesktop Experienceオプションによって、Windows 7に見せかけたもので、費用対効果はどうか。バンドル中2つのStandard PlusとPerformance Plusには、Microsoft Office Professionalが 含まれる。この差(Standard → Standard Plus、Performance → Performance Plus)は共に月$15(約1,500円)である。実際に稼動するEC2のインスタンスは、StandardとStandard Plusが1 vCPU+3.75GB Memory+50GB Storage、PerformanceとPerformance Plusは2 vCPU+7.5GB Memory+100GB Storageとなっている。つまり、簡単な話、WorkPlacesは特別設定のEC2インスタンスに必要なソフトウェアを乗せてパッケージにしたサー ビスだ。DaaSにとって重要なことは、複数ユーザを束ねた上での柔軟性や使い易さ、そして総コストが如何に低いかである。次回に予定する Microsoftと比べてWorkPlacesは費用的に決して廉くない。とすると、EC2という実行環境からくる柔軟性などに活路を見出せるかにかかっている。


=Citrixアップデート(Xen Desktop & App Orchestration)= 

前回、日本市場では、Citrixの提携クラウドプロバイダーの殆どがXenDesktop 7をホスティングしていると述べた。 これはユーザ別のシングルテナントだが、DaaS (通常はマルチテナント)の一形態としよう。NTT CommのBiz Desktop ProIIJ GIO、DoCoMoのMobile Secure Desktopなどがそうだ。これには理由があって、VDIに対するカスタマイズ要望が高いことから来ているという。そして出来れば運用もやりたくない。結果、VDIホスティングが、それなりの日本風DaaSビジネスになっている。頷ける話だ。Citrixによると、米国では既にマルチテナントの本格的なDaaSもCitrix App Orchestrationと して投入されており、VDIホスティングと並存している。Citrixはこの世界での歴史が長く、経験も豊富だ。彼らにとって、ユーザは様々で、管理の行 き届いた個別導入のVDIを好むユーザ、IT要員の問題からVDIホスティングを望む場合、さらに汎用のDaaSまでと幅広い。DaaSを好むユーザはコ ストメリットを重視している。従業員の職務分掌がはっきりしている米国でVDIは発達した、そうでない日本。この辺りがDaaSが普及するか、VDIホス ティングかの分かれ目なのかもしれない。



2014年3月12日水曜日

OpenStack Swiftを使いこなす、SwiftStack!-SDS8-

今回はOpenStack Swift(以下、Swift)を使ったプライベートクラウドストレージの普及を目指すSwiftStackについて追ってみよう。Swiftはオブジェクトストレージとして最も普及が進んでいるもののひとつだ。周知のように、OpenStackはシリコンバレーのNASA AmesRackSpaceが共同でスタートさせた画期的なプロジェクト。主な構成要素はComputeエンジンとなるNASA NebulaのNova、そしてストレージのエンジンSwiftの原型となったのはRackSpaceのCloud Filesだ。共にプロジェクトに寄贈されたものである。世界中で利用が進むOpenStackの中でも、Swiftは単独導入が出来る。SwiftStackはここに目を付け、その普及のための鍵となるプロダクトを開発した。

=念のため、Swiftとは=
念のため、Swiftについて纏めておこう。
SwiftはAWS S3RackSpace Cloud Files互換のREST APIでアクセスする。その構成はまず、①ユーザからのアクセスを振り分けるProxy Serverと ②ユーザ認証のAuthentication Serverがある。Proxyはユーザ認証後、必要に応じてAccount/Container/ObjectのServerと連携する。③Account Serverはユーザ情報と関連するコンテナーのマッピングを行い、④Container Serverはオブジェクトのリストを保持し、⑤実際のオブジェクトは複数あるObject Serverに分散保存される。分散配置の仕組みを理解するポイントはRingとZoneだ。Ringはアカウント毎にP個(Defaultは32)のパーティションに分割し、オブジェクトのハッシュ値を計算して、どのObject Serverに配置するかを決める。この際、保存オブジェクトは3つ(Default)の複製が作られる。もうひとつのポイントのZoneはObject Serverをラックや電源系統、できれば地理的に分離させて複製を置くもので、これによって障害対策を確実にする。

=RackSpaceという会社=
OpenStackの言い出しっぺのRackSpaceとはどんなスタートアップだろう。
一言で云えば、とても先見性のある会社だ。1996年、ISPとして創業した当時の社名はCymitar Network Systemsだった。その後、1998年、ホスティングも手がけるようになって現社名RackSpaceに変更した。創業者のRichard Yoo氏は時代を読んでいた。これからは単なる企業アプリケーションのホスティングだけではなく、映像や音楽などのストリーミングが重要となる。そして2002年、社内のグループをスピンアウトさせたのがServerBeach (現Peer1傘下)だ。時代は彼の読みどおりに推移し、2005年、YouTube が登場した。この設立2年に満たない急成長スタートアップをGoogleが$1.65B(1,650億円)で買収した話はあまりに有名だが、ServerBeachがビデオホスティングを担当していたことは知られていない。つまり、この時代からRackSpaceはオブジェクトストレージの重要性を認識して、開発を進めていたのである。AWS(Amazon Web Services)が登場した2006年、同社も初期の実験クラウドサービスMossoをスタートさせた。ここで使われていたのがCloud Filesだ。そして時代が進み、2010年7月19日、NASA Amesと共にOpenStackをスタートさせた。この発表後、すぐに社内の精鋭エンジニアが集められSwiftの開発が始まった。このチームのPTL(Project Technical Lead)がJohn Dickinson氏である。


=SwiftStackとは何か=
SwiftStackの創業は2011年。創業者はCEOのJoe Arnold氏を中心にCOOのAnders Tjernlund氏、アーキテクトのDarrell Bishop氏の3人だ。2012年6月、RackSpaceから待望のJohn Dickinson氏がやってきた。年の若いJohnの肩書きはDirector of Technologyだが、実質はCTO、そしてSwiftを熟知した同社の表看板である。彼らの製品はSwiftを使い易くし、広めることである。Swift自体はいじらない。それはOpenStackの仕事だからだ。SwiftStackはWebインターフェースでSwiftノードのプロビジョニングや運用、管理機能を提供し、必要があればトレーニングやサポートも提供する。開発した製品の主なコンポーネントは2つ。前述のようにSwiftのストレージは複数のObject Server(以下、ノード)から構成される。それらにインストールするのがSwiftStack Runtime(下図右)、もうひとつはこれらノードのRunetimeを制御するSwiftStack Controller(下図左)だ。まず、出来れば占有できるサーバーにこのControllerをインストールし、次にObject ServerのノードにはRed Hat/CentOS/Ubuntuのどれかを用意してSwiftStackのコマンドセットをダウンロードする。これを実行すれば、そのノードには、自動的に最新版のSwiftとSwiftStack Runetimeのインストールが始まる。
インストールが済んで、使い出して解る最大の特徴は、パーフェクトなコンソール機能である。OpenStack自身にもダッシュボードはあるが、これはOpenStack全体を見るためのものだ。正確なストレージノードの運用管理には詳細な情報が欠かせない。マルチノード構成の利用状況(アクセス/負荷)、障害対策のためのアラートやトラブル対応、各種システム統計、キャパシティープランニング用レポートなど、これら全てがリアルタイムでビジュアル表示される。これらの情報はストレージノード側にインストールされたRuntimeから送られたものだ。各ノードにはMonitoring Agentが搭載され、これがノード側の詳細情報を収集してコントローラに送り出す。またノードにはLDAPと連携した認証や負荷分散のためのLoad Blancerも搭載されている。SwiftStackのコンソールは、通常オンプレミスとして利用されるが、必要があれば、Firewallの外側で彼らがホスティングすることも可能だ。ノードにはWebベースのDrag & Drop機能もある。これを使えばDropBoxGoogle Driveのように簡単にファイル管理が出来る。

以上見てきたように、SwiftStackを利用すれば、Swiftを使いこなし、プライベートなクラウドストレージの完全で容易な構築と運用が出来る。現代はWebアプリケーションが全盛の時代だ。そしてクラウドの普及と相まって、そのコンテンツを保存するオブジェクトストレージの需要は高い。狙いはエンタープライズ市場だ。

2014年3月1日土曜日

続、IBMの新クラウド戦略           -IBM3-

IBMの新クラウド戦略について、前々回 (クラウドを核に再編)、前回(SoftLayerで進撃かと2回にわたって述べた。 今回はその続編。今回で7年目を迎える年次カンファレンスPulse 2014(2/23~26)が“The Premier Cloud Conference”と銘打って始まった。期間中幾つか今後の同社のクラウド戦略を担う重要なアナウンスがあったのでフォローしよう。
<発表1> =Cloudant買収=
IBMはボストンのDBaaS(Data Base as a Service)のCloudantを買収した。
IBMはCloudantの持つ技術を利用して、急増するBig Data and AnalyticsCloud Computing、さらにはMobileの領域でユーザ企業のクラウド構築支援を目指す。CloudantはNoSQLドキュメント指向のApache CouchDBのクリエーターだ。そして、強力なサポーターとしても知られている。同社は現在、CouchDBを用いたデータベース展開のホスティングや管理ツール、解析サービスを提供しており、さらにBigData向けBigCouchなどのサポートも実施している。IBMの狙いはこれらの技術を新たに組織化した人工知能の認知革新(Cognitive Innovation)のWatsonプロジェクトやクラウド基盤SoftLayerに適用するものと見られる。

< 発表2> =Power ServerもSoftLayerに投入=
IBMはWatosnやBigDataの需要の高まりを受けて、同社が独自に開発してきた高性能Power ServerをSoftLayerインフラ基盤に組み込むことを発表。つまり、SoftLayerはこれまでのx86以外に、始めてPower ServerをIaaS基盤に採用、その上でアプリケーションを走らせる予定だ。発表によれば今年第2四半期にはWatson系の幾つかのサービスがこの上で登場、次いでにこれまで提供してきたDB2 BLU with AccelerationCognosのようなデータの最適化や解析などがSaaSとして予定されている模様である。

<発表3> =開発者向けPaaSに巨額投資($1B)=
IBMはユニークなデベロッパー向け開発環境をPaaSとして整備するため$1B(約1,000億円)を投資すると発表。IBMによると、この投資は、企業ユーザの持つデータとアプリケーションをクラウド経由で接続するHybrid Cloud化促進のためのもので、SoftLayerにCloud Foundryを載せ、この上で独自の開発環境を整備する模様だ。Evans Dataの調査報告によると、現在、全世界のデベロッパー人口は1,820万人だが2016年には2,640万人に増加する。彼らのうち現在は430万人しかクラウド上で開発作業を行っていないが、2019年には1,250万人に急増との予測だ。このような時代の到来によって、クラウドベースのソフトウェアの90%がデベロッパーによって購入の意思決定される時代となるという。

<発表4> =クラウド促進にオープンサポート=
IBMはまたクラウド促進のため、ecoサイクルの確立を狙ったオープンシステムサポートを改めて表明した。特に、今回、同社が推進する企業向けモバイルMobileFirstの普及を目指して、Java Script コミュニティーjQueryの創設メンバーとなった。また前述のデベロッパー向けPaaS開発に合わせ、Cloud Foundaryの親会社Pivotalとも関係を新たにした。これらとは別に、同社は継続してOASIS TOSCAOpenStackを支持している。TOSCAはPaaS機能をベンダー間で標準化することを目指し、昨年3月、第1版をリリースした。IBMは直後の同5月にエンタープライズクラウド環境の構築/管理自動化ソフトウェアSmartCloud Orchestratorを発表したが、これは勿論OpenStackやTOSCAに準拠したものである。同社はまた、Open Flowを推進するOpen Networking FoundationやSDNベースのプラットフォーム環境を整備するOpen Daylight、さらにKVM普及を進めるOpen Virtualization Alliance、クラウド利用者からみた利用推進のCloud Standards Consumer Councillなどもサポートしている。

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以上、見てきたようにIBMはクラウドに本気のようだ。
このような雰囲気が一般にかもし出されてきたのは、何と言っても、SoftLayerを買収したことが大きい。Pulse 2014でのアナウンスは、これら以外に、米クリエーティブデジタルエージェンシーThe Loft GroupがSoftLayerの採用を決めたことや大手ミュージックプロバイダーのMusic MastermindもSoftLayer上でのサービスを計画していること、さらには 課金制クラウドストレージサービスなどがあった。しかし、問題は、現IBMユーザや他のエンタープライズがこの一連の動きをどう受け止め、この流れに乗ってくるかである。IBMにとって、新たなクラウドの戦いは始まったばかりである。