2017年7月17日月曜日

AutoTech(26) New Audi A8のLevel-3は本物か! 
        -Audi AI traffic jam pilot-

7月11日、独AudiからNew Audi A8が出た。
発表の目玉は世界初のLevel-3オートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)である。タイトルで「New Audi A8のLevel-3は本物か!」とやや懐疑的に表現したのは、Level-3にはかなりの幅があるからだ。実際のところ、New Audi A8は中央分離帯のある自動車専用道のレーン内を時速60Km(37mph)までで渋滞走行が自動でできる。このことだけを捉えれば、Tesla Model-Sは勿論、昨年夏にでた日産セレナだって、前方車両との車間距離を保つ追従運転はできる。 しかし、New Audi A8の凄いところは、運転の主体が人間から車に移ったことである。

=Level-3とは何か!=
自動車や航空宇宙関連の標準規格団体であるSAE Internationalの規格は6段階で、Level-0 :No Automation、Level-1 :Driver Assistance、Level-2 :Partial Automationとなって、ここまでは運転車の責任(Human Driver Monitors Driving Environment)が問われている。しかし、Level-3 :Conditional AutomationやLevel-4 :High Automation、さらに完全な自動運転のLevel-5 :Full Automationになると、ドライバーではなく、車自体が主体責任(Automated Driving System Monitors Driving Environment) を負うと定められている。この差は大きい。同じフリーウェイの自動追従運転でも、Level-2までは天候や時間条件が悪ければ、これまで通りドライバーが行う。しかし、Level-3となると、雨や雪、夜間などでも基本的には車が総合的に運転しなければならないからだ。

=New Audi A8の装備!=
この違いを装備面で見てみよう。
まず、Tesla Model-Sの自動運転AutoPilotでは、車前方にミリ波レーダー、カメラはバックミラーの裏側などに8つ、前後のバンパー周りには超音波センサーが各々6つ、合計12装備されている。そして、AIのエンジンボードはNVIDIA Drive PX2だ。日産セレナのProPilotでは、360°ビューを確保する8つのカメラ、そして小型レーザースキャナーが1つ、AIボードは独自仕様と思われるADAS ECUだ。ここで、大事なことは、両社に共通する基本技術はイスラエルのMobilEyeのものである。つまり、レーダーなどは使わずバックミラー裏の単眼カメラの画像から前方車両との距離を計測する。このための画像処理プログラムを高速化するエンジンがEyeQチップだ。しかしTeslaとMobilEyeは昨年5月のフロリダでの死亡事故を境に関係を断ち、以降、Teslaは独自開発となっている。

さて、New Audi A8の装備はどうなっているのだろうか。
まず前部だ。前部バンパー下にはLaser Scannerを搭載し、その両横には超音波センサー、さらに中央には遠方の車との車間を測る長距離ミリ波レーダー、そして車の前方両横には中距離コーナーレーダーまである。後部には、中距離レーダーと超音波センサーが左右にあり、カメラは360°ビュー用に車の前後と左右のフェンダーミラーに組み込まれている。もうひとつ、バックミラーの裏側にはフロントカメラがある。そしてAIエンジンとなるのは、Central Driver Assistance Controller(zFAS)だ。zFASには、360°ビューカメラ処理のNVIDIA Tegra K1、走行レーンや信号機・歩行者などを認識するMobilEye EyeQ3、対象物やマップの解析・パーキングパイロットなどのAltera Cyclone、トラフィックジャムパイロット用Infineon Aurixがマウントされている。(MobilEyeとAlteraはIntelに買収されている)
Laser Scannerについては、もう少し情報がある。
これは下図の形状から、独Continentalと組んだ仏Valeo製だと思われる。レーザーユニット上部の左側にレーザー発光器があり、右側にはその光を拡散させる回転ミラーがある。750rpmだ。これよって得られるスキャン幅は145°とかなり広い。ユニットの下部は、はね返って戻って来たレーザーの受信部だ。そして、下部の右横には車載LANのFlexRayのコネクターが見える。さらにこの車載LANには人間の神経系のように隅々まで自動運転のためのワイヤーが張り巡らされている。

=Audi AI traffic jam 、parking and garage pilot=
New Audi A8の自動運転システムは、機能ごとに名称が異なる。
前述のフリーウェイでの追従運転はAudi AI traffic jam pilotだ。parking pilotでは超音波センサーや360°カメラ、garage pilotではLaser Scannerも使って、スマホの専用アプリからの指示でバックからの駐車や車庫入れまでこなしてくれる。

こうしてNew Audi A8はLevel-2からLevel-3の間に横たわっていた谷を越えた。
自動運転のための主要なコンポーネントは 、一部が故障しても継続できる冗長度のある構成だ。Level-3の車は出来た。しかし、別な問題がある。
運転の主体が車に代わったことによる法的な問題だ。交通法規や保険など、これらは導入する国によって異なる。開発国のドイツでも現在車体機能の最終審査中だ。この認可を受けて初めて、Audi AI traffic jam pilotを使うことが出来る。まだ道のりは遠いが、New Audi A8が新たな世界を切り開こうとしていることだけは確かである。

2017年7月3日月曜日

AutoTech(25) 夢をかなえたGoogle Carは次世代へ! 
             -ホタル(Firefly)はもう飛ばない-

Google Carのプロトモデルの時代が終わろうとしている。
2009年から始まったGoogle Self-Driving Car Projectでは、当初、プリウスなど市販車にLiDARを乗せて実験をしていた。しかし、もっと夢を感じさせる車が欲しい。そして誕生したのが現在のプロトモデルだ。デザインしたのはYooJung Ahn女史。女史は2012年、Google入社。それまではコンシューマ製品を手掛けるインダストリアルデザイナーだった。デザインチームが動き出したのは2013年。彼女はFortuneのインタビューで、仲間とのブレーンストーミングがら「ソファーに座っているだけで、行きたいところに行ける車、それがGoogle Carなのだ」と気づいたという。そして、それはポストイット(Post It)で作ったオリガミ(下図)となった。

Source:Waymo Blog
木枠を作り、実際に座ってみたり、車は少しずつ形を整え、オリガミは現実となった。 子供の好きなゼリーのガムドロップのようなデザイン、こんなシンプルな可愛い車に幾つものセンサーを使ったAIが搭載されて、何処へでも連れて行ってくれる。彼女の豊かな才能がついに夢を現実のものにした。チームは愛情を込めて、この車のニックネームをホタル(Firefly)と決めた。

実際にホタルを組み上げたのはデトロイト郊外のRoush Enterpriseという会社だ。部品の多くはドイツのBoschやZF Group、Continentalなどから、EV用バッテリーはLG製だと聞く。ゼロからオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)を作ることによって得られたことは多かった。例えば、ホタルの屋根に取り付けられるLiDARは、たったひとつで360°をカバーできる。周囲の視界に対して、完璧な位置を提供できるデザインだからだ。勿論、ホタルにはハンドルもアクセルやブレーキペダルもない。目指すはLevel-4。あるのは、2人乗りシートの間にあるスタートボタン(白)と緊急停止ボタン(赤)だけである。
2014年からの公道テストで、ホタルはすぐにシリコンバレーの人気者になった。
さらに、翌年にはテキサス州オースティンでも公道実験を開始。特にニュースで注目されたのは、前サンタクララ盲人センター長Steve Mahan氏を単独ドライブに招待したことだ。何回かのトライアル後、2015年12月には、誰も介添えを伴うことなく、氏はオースティンの町のドライブを満喫した。


2016年、ホタルは国際的なプロダクトデザイン賞Red Dot Awardを受賞した。 
彼女とホタルが一番輝いた日である。同じ年の12月、Googleの親会社AlphabetはGoogle Carの事業会社としてWaymoを設立した。新会社のプレス向け説明の中で、Googleは自身ではもう車を作らないことを示唆した。その代わりとなったのが、同年5月に契約したFCA(Fiat Chrysler Automobile)のPacifica Minivan Hybridである。この車のオートノマスビークル化でも彼女のデザインは際立った。大きなミニバンは3列の7人乗り(2/2/3)。とてもひとつのLiDARだけではカバーできない。Googleはこの車のためにカスタムビルドのLiDARを2種開発し、それらを搭載したミニバン、100台が完成した。今年初めからのテストは良好で、現在、アリゾナ州フェニックスで一般市民向けのEarly Rider Programが実施されている。そして、さらなる飛躍に向けて、Waymoは4月に500台をFACに追加発注し、5月には全米第2位のライドシェアリングLiftと提携、これはトライアル運用の拡大を目指したものと思われる。6月になると、今度は、レンタカー会社Avis Budget GroupとPacificaなどの車の保守管理契約を交わした。(詳細: Waymoは新境地を見出せるか!-シェアードビジネスへの進出- 

 


こうして、ホタルは役目を終えた。
シリコンバレーのコンピュータミュージアムではホタルの展示が始まった。この夏にはフェニックスのArizona Science Center、秋にはSteve Mahan氏の運転2周年を祝ってオースティンのThe Thinkery、さらに、ロンドンのDesign Museumでも展示が計画されている。これがホタルの最後の旅である。


2017年6月11日日曜日

AutoTech(24)  Uberからの人材流出が止まらない!
             -CEO Travis Kalanick氏求職か-

Uberからの人材流出が止まらない。
このところ、Waymoからの訴訟で守勢に立たされていたUberは5月30日、自動運転車開発のヘッドで、買収したOttoの元CEO Anthony Levandowskiの首を切った。報道によると、同社は彼が裁判に協力しなければこうなることを告げてあったという。


=マネージメントが崩壊する!=
以下はAnthony Levandowsk 氏の件を含めた最近の人材流出の状況である。

▼ Feb. 28 - エンジニアリングSVPがセクハラ問題で引責退社か!
Amit Singhal氏がGoogleから移籍したのは今年1月初め。そして、たった1ヶ月での異常退社となった。理由は明らかにされていないが、エンジニアリングのトップとして、部門内のセクハラ問題の責任を取らされた模様である。氏はGoogleに15年以上在籍して検索部門のトップのSVPを務め、且つ、Google Fellowでもある大物だ。この件では、CEOのTravis Kalanick氏が2月22日、全社員向けにこのようなことを起した社内文化について謝罪している。
▼ March 3 - VP of Product and Growth、Ed Baker氏も退社!
Uberに2013年以来4年間在籍し、VP of Product and GrowthだったEd Baker氏も3月初めに退社。氏は幾つかのスタートアップを手掛けた後、Facebookに2年、そしてUberに入った。退社について、社員向けメールの中で公共分野で自分の経験を活かしたかったと述べて、不満があったことをうかがわせている。

▼ March 8 - AIラボの新ヘッド、Gary Marcus氏が退社!
次に1月からAIラボの新ヘッドとなったGary Marcus氏が退職し、外部のアドバイザーとなった。氏は自身で興したAIスタートアップGeometric IntelligenceをUberが買収したことで昨年12月にUberに移籍したばかり、本業はニューヨーク大学の心理学と神経科学の教授である。
▼ March 19 ‐ プレジデントJeff Jones氏とうとう退社!
そして、とうとう社長のJeff Jones氏の退社が3月19日に発表された。彼はアパレル大手のGapでグローバルマーケティングを担当、その後、大手スーパーTargetのEVP兼CMO(Chief Marketing Office)を務め、昨年8月末からUberの社長に就任した。すぐにセクハラや各種の社内のゴタゴタに巻き込まれた。氏の退社は、3月7日、Travis Kalanick氏が発表したCOO探しとも関連し、意思疎通が上手く行っていなかった様子だ。

▼ April 11 ‐ コミュニケーション専門家、Rachel Whestone女史退社!
コミュニケーション(Communication and Public Policy)のヘッドRachel Whetstone女史が4月11日退社。彼女はGoogleに10年在籍したこの分野の著名人で、Uberでは2年間を過ごした。女史はメールの中で、このところの不祥事を巡るメディア対応について、Kalanick氏や投資家との軋轢を示唆。

▼ May 21 ‐ 法務最高責任者からCLOへ?、Salle Yoo女史!
法務最高責任者(General Counsel)のSalle Yoo女史は、Alphabet/Waymoとの法廷争いやセクハラ騒動などで忙しい。そこでKalanick氏は女史をAlphabetとの裁判から外すとし、新たに法務最高責任者を探すこととなった。つまり、新法務責任者が決まれば、女史はCLO(Chief Legal Officer)に降格となる模様だ。

▼ May 23 ‐ 欧州/中東/アフリカの法務責任者、Jim Callaghan氏退社!
今度は欧州/中東/アフリカ担当の法務責任者Jim Callaghan氏が退社した。氏はブリュッセルとピッツバーグの大学で法律を学び、アイルランドのライアンエアーやUAEのエティハド航空で法務を担当、1年前にUberに移籍した。その後、欧州での裁判で、Uberはデジタルプラットフォームサービスであり、既存輸送サービスの規制対象にはならないと主張してきたが敗訴。これが引責原因となった模様だ。

▼ May 30 ‐ ニューヨークGM、Josh Mohrer氏退社!
5月末、 ニューヨーク地区オペレーションの責任者でGMのJosh Mohrer氏が5年間の在職後に退社した。理由は定かではないが、5月23日に報じた過去2年半に及ぶニューヨーク地区ドライバーへの未払い問題ではないだろうか。
(詳細記事: ドライバーへの未払い

▼ May 30 ‐ 自動運転開発の中心人物、Anthony Levandowsk 氏解雇!
Alphabet/Waymoから訴訟を起こされていた問題の人物はAnthony Levandowsk氏。氏はGoogle Self-Driving Car Projectのコアエンジニアの一人で約9年間在籍し、昨年初めにOttoを起業、そのOttoを昨年8月、Uberが買収。訴状では氏が退社時にGoogleから大量の企業機密ドキュメントを持ち出し、それがOttoの技術ベースだと指摘している。
(詳細記事:法廷闘争の行方!Wamo .vs. Uber/Otto
=May 31 ‐ 財務のヘッド、Gautam Gputa氏退職=
続く31日には、Uberの財務部門を仕切るGautam Gupta氏が退社を発表した。氏は2015年以来、空席のCFOを穴埋めするヘッド(Head of Finance)として、現在のUberのポジションを築いた功労者である。 

▼ June 7 - アジアパシフィック社長、Eric Alexander氏解雇!
今度はUberを利用した人のレイプ事件に絡む問題が起きた。インドでの事件でその医療記録をアジアパシフィックの社長Eric Alexanderが入手したというのだ。しかも、情報筋によれば、それらの情報はCEOなどにも示されていたという。利用者の安全が大前提のタクシーで起きた性的事件、医療記録が何故必要だったのだろうか。
=これからどうなるのか!= 
以上、見てきたように多くの人材がUberから流出した。更に現場ではエンジニアも辞めているという。一方で、立て直しのための採用も始まている。

トロントAI新チームを統括するRaquel Urtasun女史入社!
5月8日、カナダのトロント大学准教授でAIリサーチャーのRaquel Urtasun女史が採用された。情報によると、Uberは自動運転車開発の核組織ATGを拡大して、トロントに新チームを作り、女史が統括する模様だ。このチームは、女史の口添えで、$5Bの出資が決まった非営利団体Vector Institute for AIとも連携する。Uberにとって、現在、大きなゴタゴタは2つある。ひとつは、自動運転車開発を巡る疑惑。裁判の結果が思わしくなかった時のワーストシナリオはOtto技術ベースの開発中断である。これに対して、Uberは昨年、前述(March 8)のようにAIのGeometric Intelligenceを買収して手を打ってきたが、創業者のGary Marcus氏は、嫌気がさして既に退職。今回のカナダでの組織化は米国を避けて、開発を続ける新たな展開となるかもしれない。

ハバードBS、Frances Frei女史がSVPとして入社!
次いで6月5日、ハーバードビジネススクールの教授Frances Frei女史がSVPとして急きょ入社することとなった。Frei女史は性差別問題に関してアメリカを代表する研究者であり、また、女史には、サービスの重要性を説いた共著のベストセラーUncommon Serviceある。女史の役割は、表向きリーダシップと戦略(Leadership and Strategy)の立て直しだが、実際は、ゴタゴタのふたつ目のセクハラ問題の解決のようである。
思い起こせば、Uber Technologiesは、2009年、サンフランシスコで3人(Garret Camp氏、Oscar Salazar氏、Travis Kalanick氏)で興した会社だった。ただ、今もCamp氏は同社チェアマンとして残っているが、本業はインキュベーションの別会社だし、Salazar氏はもういない。つまり、会社をここまで大きくしてきたのは、間違いなくTravis Kalanick氏である。そして、このようなゴタゴタの状況に陥ったのも彼自身の言動からくる、身から出た錆のように思えてならない。
そして、とうとう6月11日、ReutersはボードがCEO Travis Kalanick氏の休職を検討していることを報じた。


2017年6月1日木曜日

AutoTech(23)  際立つUberの傲慢さ!

Uberがライドシェアリングの世界を牽引して、民泊サイトのAirbnb と共にシェアリングエコノミーに大きく貢献したことは間違いない。ただ、このところはUberにまつわる悪いニュースが絶えない。前々回取り上げたWaymo .vs. Uber/Ottoの訴訟もそうだし、サンフランシスコでの行政とのトラブル、アリゾナ州での事故(警察の調査では対向車のミスらしい)、ドライバーへの未払い、果てはセクハラ騒ぎなどである。

=CMUからの引き抜き!= 
約2年前の2015年3月、Wall Street Journalは、UberがCarnegie Melon Universityのコンピュータサイエンスに付帯するRobotics Instituteから、4名の教授と35名のリサーチャーを引き抜いたと報じた。これがUberのオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)開発の中心ATG(Advanced Technologies Group)の始まりだ。しかし、この引き抜きを非難する反響の大きさに、同9月、UberはProfessorshipなどの名目で大学$5.5Mの献金を行い、沈静化を図った。実際のところ、Google Carの初代のヘッドSebastian Thrun氏、その後、同プロジェクトのCTOとなったChiris Urmson氏などもここの卒業生である。そして、Waymoから訴えられた訴訟(詳細は法廷闘争の行方!Waymo .vs. Uber/Ottoで今や火中のAnthony LevandowskiがATGのヘッドを辞任したのは、この4月27日である。

=サンフランシスコでのテスト事業中止!=
Uberがサンフランシスコでオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)Volvo XC90によるテスト事業を開始したのは昨年12月14日。この地域でランダムに選んだ顧客へのサービストライアルである。投入された車は16台。しかし、この計画にあたって、Uberは州が発行する許可を求めなかった。理由は、まだ完全な自動運転車ではないからだ言う。その後、DMV(Department Motor Vehicle)からの注意や申請勧告を受けたが従わず、果ては、12月21日のUberDMV、司法当局の3者会談を経て、中止に追い込まれた。たった1週間の出来事である。
=セクハラ問題!=
セクハラが持ち上がったのは今年の2月19日。
元社員だったSusan FlowerさんがBlogでその事実を公表したからだ。彼女はペンシルバニア大学を卒業し、幾つかのスタートアップを経て、2015年11月にUberに入社、そして昨年12月にこのセクハラ問題などで退社を余儀なくされた。彼女はBlog中で、上司に性交渉を迫られたこと、被害者は複数の女性に及ぶこと、さらに異動申請に関する上位マネージメントの非協力さ、果ては解雇の脅迫、そして社内の権力闘争など、問題は会社全体に蔓延していると指摘。このセクハラ問題がメディアで大きく取り上げられた後、2月21日、Travis Kalanick CEOは全社員を対象に謝罪した。

 =ドライバーへの未払い!=
ドライバーとの支払いに関する問題もしばしば起きている。
通常、ドライバーはUberとの契約で平均25%の手数料を支払い、残りが取り分となる。そんな中、5月23日のWall Street Journalは、Uberの社内処理上のミスから過去2年半(2014年11月以降)、ニューヨーク地区ドライバーへの支払いが数十億円(tens of millions of dollars)単位で未了となっていたと伝えた。理由はこうだ。これまでドライバーの受け取る額は、売上税や車両代などの諸費用を差し引く前の総売り上げに手数料率を掛けていたが、本来は諸費用を差し引いた額に手数料率を乗じるべきだったという。つまり、手数料の前提となる金額が税引き前か後かという基本的な誤りである。まさか、意図的にやっていたということではないだろうが、如何にもずさんな出来事である。  
 

=Travis Kalanick氏とはどう云う人物か!= 
一連の強引さや傲慢さが社内に蔓延しているのなら、それは経営トップのKalanick氏に起因しているのではないだろうか。ここに少し古いビデオがある。FailCon 2011でのTravis Kalanick氏のプレゼンだ。FailConは年1回行われる人気のカンファレンスで「スタートアップの先達たちの失敗に学ぼう」というものだ。2011年度は、彼以外にSun Microsystemsを立ち上げ、現Khosla Venturesを運営するVinod Khosla氏の2人がキーノートに立った。Kalanick氏は、その中でこれまでの経験を披露。最初はUCLA在学中にP2PのマルチメディアScour Inc.を仲間5人と立ち上げるために退学したこと。そして投資家との契約書をよく読まずにサインし、その後、条項違反で告訴され、そのニュースで会社の評判は一気に急落。さらにP2Pに関連して、著作権保有団体から総額$250B(25兆円/1㌦=100円換算)の訴訟を起こされて倒産、会社は裁判所のオークションで30分で売られてしまったという。その後、仕返しのために今度はメディア企業をユーザとするRed Swooshを立ち上げる。しかし、この会社は上手く行かず、仲間に裏切られたり、税金未納や資金調達に追いまくられ、その間、Microsoftからの買収提案もあったが、交渉は10分、実質は最初の1分で決裂。最終的にはライバルのAkamaiにバイアウトが成功して、Uberを立ち上げたという。

 
昔の日本人は「若いうちの苦労は買ってでもしろ」、きっと役に立つとしつけられた。
それは基本的には万国共通の考え方だった。学校や家庭で教えられた事に実践で身に付いた経験が加われば、難事にも、上手く対応ができるからだ。しかし、身につけた経験をどう活かすかには個人差がある。課題を正確に処理するために活かすのか、上手く逃げ回ったり、世渡りをするためなのか。後者なら、それはただの悪知恵に過ぎない。Kalanick氏の味わった人の何倍もの経験が、Uberの経営にとって前者であることを祈るばかりである。   (参考:Uberの野望!

2017年5月23日火曜日

AutoTech(22)  Waymoは新境地を見出せるか!
             -シェアードビジネスへの進出-

5月14日、Uber騒動を横目にWaymoLyftの協業に関する記事がThe New York Timesに掲載された。それによると、両社の事情を知る人の話として、2社の協議は昨年夏から始まったと言う。そして、Lyftの2人の創業者(現CEO Logan Green氏&現社長John Zimmer氏)とWaymo CEOJohn_Krafcikとの間でかなりの議論が交わされ、両社のメリットが確認されて今回の提携となった模様である。

=なぜ、Waymoは独立したか!= 
WaymoがGoogle Carをビジネスとする子会社として独立しは、昨年の暮れだ。
理由は幾つかあるが、大きなものは、いくらGoogleとは言え、膨大な開発資金のかかるGoogle Carをどんぶり勘定のままにはしておけない。そして、Level-4の完全なオートノマスビークルを目指したい開発部門と、そろそろビジネスに組み上げたいマネージメントが対立することとなった。会社は、2015年9月、Krafcik氏を部門CEOにスカウトした。氏は卒業と同時にGMとToyotaの合弁だったNUMMIに入り、その後、15年間Fordで勤め、そしてHyundai Motor AmericaのCEOとなった人である。一方のエンジニアリングは、今やUber騒動の渦中にいるAnthony Levandowski氏が昨年1月に退社し、もう一人のCTOのChiris Urmson氏も同8月に退社した。この流れの中で、昨年5月、GoogleはFiat Chrysler Automobiles(FCA)と提携し、Chrysler Pacifica HybridにGoogleCarの機能が移植されることとなった。また昨年8月末には、ワールドワイドに展開する民泊サイトAirbnbのトップエクゼクティブのShaun Stewart氏をスカウトして、開発よりもビジネス指向が鮮明となった。
=Waymoがシェアードビジネスを狙う!=
周知のように、全米2位のライドシェアリングサービスを展開するLyftは、GMから$500Mの資本を受け入れており、GMの開発したオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)Chevy Bolt EVの公道テストを予定している。そして、今回の提携である。両社に共通するのは「打倒Uber」だ。Waymoにとっては、Uberの初期に、Google Venturesがいち早く$258M資本を入れ、ボードにも役員を送り込んだが経営のコントロールは上手く行かなかった。そして今回のゴタゴタである。Lyftにとっては、勿論、ライドシェアリングの首位を狙うことだ。もうひとつ、考えられる理由がある。それはGMの提供するオートノマスビークルChevy Bolt EVが果たしてどの程度の出来具合かである。Waymoと提携すれば、その不安はなくなる。UberはFordと提携し、オートノマスビークルFord Fusion Hybridの提供を受けながら、一方でOttoを買収して自社開発の2本立てへ突き進み、大きな問題を引き起こした。同じ轍は避けなければいけない。これらがWaymoと提携した理由である。

=新たなシステムを投入!=
一方のWaymoは、昨年12月、FCAと共同開発した100台のオートノマスビークルChrysler Pacifica Hybridを受け取り、今年初めからアリゾナ州で公道テストを開始した。結果は順調で、4月25日、さらに500台を追加して、アリゾナ州内での一般向けEarly Rider Programを実施すると発表。これは本格的なライドシェアリング参入の布石だろう。しかし、Waymoも、FCAもライドシェアリングについては、LyftやUberが持っている様な十分な知識と経験が無い。ここがLyftと提携した理由である。もし、オートノマスビークルのChrysler Pacifica HybridをLyftに提供し、公道でのテスト運用が始まれば、大きな成果が得られる。

そして、5月中旬、アリゾナでのEarly Rider Programに使われる車に新たなハードウェアの投入があることが解った。Google Carがアリゾナへ公道テストを拡大 したのはちょうど1年前のこと。以来、屋根の上にあるこの車の目となるLiDARは、雨上がりの後の砂や鳥の糞に悩まされた。そして登場したした小さなワイパーを備えたシステムがこのビデオにあるものだ。360°の完全な視界を確保することは、搭乗者にも歩行者にも大きな安全を与える。今年の夏には、このシステムが霧の町サンフランシスコを走り回るかもしれない。

2017年5月20日土曜日

AutoTech(21) 法廷闘争の行方!
               Waymo .vs. Uber/Otto

Alphabet傘下でGoogle Carの事業会社となったWaymoが全米最大手のライドシェアリングのUber Technologyとその子会社のOttoを訴えたのは2月23日のことだった。理由はGoogle Carに関する企業秘密を盗み出し、利用しているというものである。この日のNew York Timesは、Waymoの主張として、Googleを退社したAnthony Levandowski氏が退社前に14,000ファイルの企業情報を持ち出し、その後、昨年1月、Self-Driving Carの開発会社(後にOttoとなる)を設立、そして同8月18日、同社をUberに$680Mで売却したと報じた。これに対し、同じThe New York Timesは、4月7日付で、Uberの主張として、Waymoからドキュメントは盗み出していないし、技術も使っていないUber Denies It Is Using Stolen Waymo Technology) とする反論記事も掲載して、真っ向から対立する状況となった。

=Levandowski氏の不可解な行動!=
Source:LinkedIn
ここで注目されるLevandowski氏はGoogle Self-Driving Carプロジェクト当初からのキーマンの一人だった。他には、初期のGoogle Carをリードし、Google Mapsの共同開発者でもあった
Sebastian Thrun氏と、その後、同プロジェクトのCTOになったChiris Urmson氏がいる。Thrun氏はAIの専門家でStanford大の自動運転車
StanleyDARPA Grand Challenge 2005で優勝に導いた人である。Levandowski氏もこの時期、UC Berkeleyで自動運転バイクを手掛けてGrand Challengeに挑戦していた。そして2007年、Google Maps開発を行っていたThrun氏のチームに参加することとなった。問題の氏が設立したOttoは、全米のフリーウェイを走る大型トラックをLiDAR技術を核にオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)に仕立てるスタートアップである。Uberは、この技術で自社用オートノマスビークルを作り、将来、これらを全面展開してドライバーレスのタクシーを目指そうと計画した。UberはこのためVolvoと提携、これにOttoの技術を移植したVolvo XC90の試験車がお目見えしたのは、昨年9月のことだ。しかし、どうにも話が出来過ぎるている。

=Waymoからの訴状!=
正確にWaymoの主張を見てみよう。
同社から出された訴状では、WaymoはUberが、①連邦営業秘密法Uniform Trade Secret Act)及び②カリフォルニア州の営業秘密法、さらに③カリフォルニア州の不正競争法BUSINESS AND PROFESSIONS CODE SECTION 17200に違反していること、Levandowski氏はLiDARとその他のコンポーネントの設計資料を盗み出して開発会社のOttoを作り、それをUberに売り渡したとしている。ただ、売却後、Uberの開発責任者(VP Engineering)となったAnthony Levandowski氏やUberはそのような事実はないと全面的に否定している。


訴状の主張する主要なイベントは以下のような流れだ。
1) 2015 夏     … L氏はUnberと面談、会社作り等を話したと同僚D氏に漏す。
2) 2015/11/17 … L氏は280 Systems社(後にOttoとなる)を登記。
3) 2015/12/3   ... L氏はWaymoのデザインサーバーへのアクセスを調査。
4) 2015/12/11 ... L氏は9.7GBの情報をダウンロード。 
5) 2015/12/18 ... L氏自身のPCをWindowsからGoobuntuへリフォーマット。
6) 2016/1/4    ... L氏はGoogle Driveクラウドから技術文書をダウンロード。
7) 2016/1/5     ...  D氏はL氏がWaymoを自分の会社で複製すると語ったと証言。
8) 2016/1/11   ... L氏はGoogle Driveから開発スケジュール等をダウンロード。
9) 2016/1/14   ... L氏のUber訪問をD氏が質すと認め、投資家探しだと説明。
10) 2016/1/15 ... L氏はUber訪問の翌日、正式に280 Systemsを組織化。
11) 2016/1/27 ... L氏は予告なしにWaymoを退社。 

12) 2016/2/1   ... L氏はOtto Truckを組織化。
13) 2016 春   ... Uber CEO
Travis Kalanick氏がOtto買収に興味を示す。 

14) 2016/5/17 ... Ottoがステルスから抜け出たと宣言。
15) 2016 8月   ... L氏はGoogleから最後の数百万ドルに及ぶボーナスを受領。
16) 2016/8/19 ... ボーナス受領後、直ちにUberがOttoを$680Mで買収。 
17) 2016/12/13.. Waymo社員に誤配「Otto Files」メールからこの事件が発覚。
18) 2016/12 - 2017/2 ... WaymoはOttoが同社のLiDAR設計転用の有無を調査。
19) 2017/2/9   ... Otto運転免許を出したネバタ州情報公開から使用がほぼ判明。
20) 2017/2/23 ... Alphabet/WaymoがUberを相手に控訴ファイリング。 

=Waymoが有利か!=
以上見てきたように、Anthony Levandowski氏の容疑はかなり濃厚なようだ。
Uber幹部と接触しながら綿密に計画し、Googleの仲間を誘い出してOttoを作った。Ottoの売却資金で誘った社員にも良い思いをさせ、自分はちゃっかりとUberの自動運転車開発の責任者に就任。このまま終われば、まさに映画のようなストーリーだった。
ボロが出たのは外部企業メールに間違って入ったccのWaymo社員のアドレスだった。完全な事故である。WaymoのGoogle CarはこれまでVelodyne製のLiDARを用いていたが、高価格で使いにくいことから、自社設計して外部委託生産へと切り替えた。このカスタムLiDARとメールに添付されていた図面は酷似している。OttoがUber向けに改造した初期のVolvo XC90には、旧型Google Carと同じVelodyneのLiDARが屋根に乗っていた。しかし、今は上にある写真のように新型Google Carと同様に小型化されている。また、ネバタ州へOttoが出した自動運転車試験免許の申請書には、64chのLiDARとあり、これもWaymo自製のLiDARと同じである。こう見ると、状況証拠は十二分だ。しかし、これだけで立証できるだろうか。Waymoは3月10日、控訴内容をさらにUberの現自動運転車開発プロジェクトの停止を求める訂正(Amend)を裁判所に出した。その後、4月27日付のBusiness Insiderは火中のLevandowski氏がUberの自動運転車開発の責任者から降り、LiDAR開発にも関与しないと報じ、5月11日には裁判所判事が司法省に対し、企業秘密盗用の可能性を捜査するよう指示した。Uberにとって、状況はどんどん悪くなるようである。

2017年4月27日木曜日

AutoTech(20) Waymoが500台追加、タクシー化を試行!
               -Early Rider Program-

Waymoの動きが活発になって来た。
Googleの持ち株会社Alphabet Inc.傘下で先端技術開発を担当するX-CompanyからGoogle Self-Driving Carを昨年12月13日に事業会社として引き継いだのがWaymoだ。新社名は「a new WAY forward in MObility-移動のための新しい道)から採ったという。これに先立って、Googleは、昨年5月、Chrysler(FCA)と提携、人気のミニバンChrysler Pacifica HybridにGoogle Self-Driving Carの専用ハードウェアとソフトウェアを搭載し、実用化に向けた本格テストを実施するとしていた。そして、12月には公道テスト用の100台が出来上がった。両社の開発チームは緊密に連携し、Googleのテクノロジーにより良く適合させるため、電装系だけでなくパワートレインなどにも変更が加えられたという。実際のところ、昨年10月までにプロト車を仕上げ、Chrysler側はミシガン州チェルシー(Chelsea)とアリゾナ州ユッカ(Yucca)、Waymo側はカリファルニア州マウンテンビュー(Mountain View)のテスト施設でテクノロジーテストが行われた。こうして最終形が出来上がった。完成までにかかった時間はわずか半年。

気になるのはGoogle Carの目となるLiDAR(Light Detection And Ranging)の価格だ。Waymo CEOのJohn Krafcik氏によると、2009年、初代のGoogle Carに搭載された外製品は何と$75,000(750万円 ... $1≒¥100)だそうだ。そして、今回のLiDARは内製品で、価格はたったの$7,500(75万円)だという。勿論、内製品とは言っても、Waymoは設計のみで、実際の制作は外部企業である。さらに氏はWaymo製のLiDARには、近距離と遠距離用の2つがあるという。確かにChrysler Pacifica Hybridには2種類搭載されており、屋根の上が遠距離用、前後左右のものが近距離用らしい。

=500台追加、そしてタクシー化を試行!=
4月25日、Waymo CEO John Crafcik氏はblogで、WaymoはFCAと共同開発した自動運転車を500台追加して、アリゾナ州フェニックスで一般人を対象としたEarly Rider Programを実施すると発表した。まさに、自動運転タクシーの試行である。一般のアメリカ人の移動は忙しい。夫婦は別々に職場へ、子供たちは学校へ、ショッピングへ、教会へ、サッカーの練習など、全ては車によらなければならない。Waymoは実際にどのような移動のニーズがあるのかを探るために、このプログラムを実施する。申し込みはフェニックス・メトロポリタンエリア(Chandler, Tempe, Mesa, Gilbert.)に在住する18歳以上の個人で、その家族は一緒に同乗できる。申し込み後、Waymoからのメールによるインタビューに答えて選ばれればOKだ。後は、前記の市内で自由にGoogle Car(Chrysler Pacifica HybridかLexus RH450h)を捕まえられる。利用後はその感想をフィードバックすることが義務だ。Waymoはこれら計600台以上の車を使って、真の輸送ニーズを洗い出す。想像だが、狙いは2つ。まず、新たな輸送ビジネスの開発。もうひとつは、Level-4の完全自動運転車の開発である。