2017年7月3日月曜日

AutoTech(25) 夢をかなえたGoogle Carは次世代へ! 
             -ホタル(Firefly)はもう飛ばない-

Google Carのプロトモデルの時代が終わろうとしている。
2009年から始まったGoogle Self-Driving Car Projectでは、当初、プリウスなど市販車にLiDARを乗せて実験をしていた。しかし、もっと夢を感じさせる車が欲しい。そして誕生したのが現在のプロトモデルだ。デザインしたのはYooJung Ahn女史。女史は2012年、Google入社。それまではコンシューマ製品を手掛けるインダストリアルデザイナーだった。デザインチームが動き出したのは2013年。彼女はFortuneのインタビューで、仲間とのブレーンストーミングがら「ソファーに座っているだけで、行きたいところに行ける車、それがGoogle Carなのだ」と気づいたという。そして、それはポストイット(Post It)で作ったオリガミ(下図)となった。

Source:Waymo Blog
木枠を作り、実際に座ってみたり、車は少しずつ形を整え、オリガミは現実となった。 子供の好きなゼリーのガムドロップのようなデザイン、こんなシンプルな可愛い車に幾つものセンサーを使ったAIが搭載されて、何処へでも連れて行ってくれる。彼女の豊かな才能がついに夢を現実のものにした。チームは愛情を込めて、この車のニックネームをホタル(Firefly)と決めた。

実際にホタルを組み上げたのはデトロイト郊外のRoush Enterpriseという会社だ。部品の多くはドイツのBoschやZF Group、Continentalなどから、EV用バッテリーはLG製だと聞く。ゼロからオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)を作ることによって得られたことは多かった。例えば、ホタルの屋根に取り付けられるLiDARは、たったひとつで360°をカバーできる。周囲の視界に対して、完璧な位置を提供できるデザインだからだ。勿論、ホタルにはハンドルもアクセルやブレーキペダルもない。目指すはLevel-4。あるのは、2人乗りシートの間にあるスタートボタン(白)と緊急停止ボタン(赤)だけである。
2014年からの公道テストで、ホタルはすぐにシリコンバレーの人気者になった。
さらに、翌年にはテキサス州オースティンでも公道実験を開始。特にニュースで注目されたのは、前サンタクララ盲人センター長Steve Mahan氏を単独ドライブに招待したことだ。何回かのトライアル後、2015年12月には、誰も介添えを伴うことなく、氏はオースティンの町のドライブを満喫した。


2016年、ホタルは国際的なプロダクトデザイン賞Red Dot Awardを受賞した。 
彼女とホタルが一番輝いた日である。同じ年の12月、Googleの親会社AlphabetはGoogle Carの事業会社としてWaymoを設立した。新会社のプレス向け説明の中で、Googleは自身ではもう車を作らないことを示唆した。その代わりとなったのが、同年5月に契約したFCA(Fiat Chrysler Automobile)のPacifica Minivan Hybridである。この車のオートノマスビークル化でも彼女のデザインは際立った。大きなミニバンは3列の7人乗り(2/2/3)。とてもひとつのLiDARだけではカバーできない。Googleはこの車のためにカスタムビルドのLiDARを2種開発し、それらを搭載したミニバン、100台が完成した。今年初めからのテストは良好で、現在、アリゾナ州フェニックスで一般市民向けのEarly Rider Programが実施されている。そして、さらなる飛躍に向けて、Waymoは4月に500台をFACに追加発注し、5月には全米第2位のライドシェアリングLiftと提携、これはトライアル運用の拡大を目指したものと思われる。6月になると、今度は、レンタカー会社Avis Budget GroupとPacificaなどの車の保守管理契約を交わした。(詳細: Waymoは新境地を見出せるか!-シェアードビジネスへの進出- 

 


こうして、ホタルは役目を終えた。
シリコンバレーのコンピュータミュージアムではホタルの展示が始まった。この夏にはフェニックスのArizona Science Center、秋にはSteve Mahan氏の運転2周年を祝ってオースティンのThe Thinkery、さらに、ロンドンのDesign Museumでも展示が計画されている。これがホタルの最後の旅である。