2015年11月22日日曜日

あのダイアングリーン女史が戻ってきた! 
               -Googleのクラウド責任者-

ダイアングリーン(Diane Greene)女史が戻ってきた。Googleクラウド部門である
女史の名前を憶えている人も多いと思う。VMwareを成功に導いた人だ。VMwareは1998年、スタンフォード大学準教授だったメンデルローゼンバーム(Mendel Rosenblum)氏と彼のチームメート3人、そして妻のグリーン女史が参加して始まった。経営面ではそれまでシリコングラフィックスで活躍していた女史がCEOとなり、チームのエドワードバグニオン(Edouard Bugnion)氏がシステムアーキテクト兼CTOとなった。女史はマサチューセッツ工科大学とUCバークレーで博士号を取った才女である。
=VMwareの成長と女史の活躍!=
VMware以前の仮想化は、1970年年代にメインフレームを有効利用するパーティションニング技術がIBMで始まっていただけである。OSの専門家であるローゼンバーム氏はこれを参考に廉価なパソコン向けの技術開発に取り組んだ。設立の翌年、1999年、最初の製品を発表。2001年にはホストOS型のGSX、ホストOSがなく専用カーネルで対応するESXの2つが登場した。2003年にはESXの成功でVMwareは利益を計上できる企業に成長した。さらなる目標の達成には大きな資金がいる。翌2004年のEMCによる大型買収は、同社から資金調達のために持ちかけた話だったと聞く。その後、開発部門を充実させて製品ラインを整備し、2007年8月、IPOを実行。まさにVMwareの全盛期であった。突然の異変が起きたのは翌2008年7月。VMwareをここまで育ててきたグリーン女史が突如解任され、代わってMicrosoftの元シニアエクゼクティブでEMCのクラウドコンピューティング部門を率いていたポールマリッツ(Paul Maritz)氏がCEOの座についた。理由はXenなど他社が足元に迫ってきたからであった。

=Googleのクラウド責任者に!=
New York Times(11/19)が報じた内容によると、ダイアングリーン女史はGoogleの親会社Alphabetのボードメンバーに就任した。そしてGoogleのクラウド全般を取り仕切る責任者になる模様だという。もっとも女史はこれまでもGoogleのBoard of Directorsに名を連ねていたが、あくまでも社外重役だ。今度は現業への復帰が期待されている。というのは、同日、女史が2012年にクラウド向けアプリ開発プラットフォームとして興したBebop TechnologiesというスタートアップをGoogleが買収したからだ。これによって女史はGoogleでフルタイムで働ける。 
 
=Googleクラウドで何が起きるのか!=
Googleクラウドが注目されている。何故なのか。嵐の目がコンテナー技術だからである。Dockerが先行して市場支配を強める中、Googleの息のかかったコンテナー向け軽量LinuxディストリビューションのCoreOSが戦いを挑み始めた。CoreOSはGoogle Chrome OSからフォークしたものであり、企業としてはGoogleからの投資も受け入れている。そして、GoogleがコンテナーオーケストレーションツールのKubernetesを出し、CoreOSからはコンテナーエンジンのrktrock-it)と関連する資料が公開された。今年6月にはLinux FoundationのもとにOpen Container Initiative-OCI-(初期名はOpen Container Projectで1ヶ月後に改称)が組織化され、rktのイメージフォーマットなどを採用する標準化が決まった。後手に見えたDockerからは直ぐにこの仕様に沿ったrunCが出て、さらにLinux Foundationに初期名だったOpen Container Project-OCP-を立ち上げ、状況は混とんとしてきた。一方、GoogleのKubernetesも同時期にLinux Foundationと協力してCloud Native Computing Foundation-CNCF-を立ち上げた。ここでOCIやOCPはコンテナーの標準化だが、CNCFはコンテナーのオーケストレーション-振る舞い-を規定するものである。興味深いことに、OCIにはAmazonやMicrosoftも参加しているが、CNCFにはその名前がない。つまり、コンテナーの標準化は大事なことで参加するが、その管理ツールまでGoogleに牛耳られてはかなわないというところだろうか。今年8月、Googleの新CEOとなったSundar Pichai氏は、グリーン女史の職責範囲を全てのクラウドビジネスだとして、大きな期待をかけている。これには、生産性向上ツールのGoogle Appsや企業向けGoogle Apps for WorkそしてクラウドサービスのGoogle Cloud Platformが含まれる。Google関連製品を総動員した新体系化、そしてコンテナー技術をテコにした新戦略、これらがどのように女史の手で花開くか、目が離せない。

 

2015年11月1日日曜日

IBMのストレージ戦略とCleversafeの買収

IBM10月中旬、シカゴのCleversafeを買収した。
IBMにとって、ハードウェア部門を殆ど売り払い、残っているのはストレージだけである。今後どのようにこの分野を立て直すのだろうか。今回の買収を機に探ってみよう。

=老舗ストレージのCleversafe=
この会社は筆者がシリコンバレーにいたころから興味を持って見ていた1社だ。創設者のChris Gladwin氏はP2PのミュージックサイトMusicNowを興したが、一方で、大事なオリジナル曲を安全に管理するための技術を探していた。そしてたどり着いたのがディスパーストストレージ(Dispersed Storage)技術だった。ディスパーストは拡散型、今風に言えば分散ストレージの一種である。氏はその後、iTunesの台頭でMusicNowをあきらめ、2005年にCleversafeを設立した。同社は今でこそ、SDS Software Defined Storage)がウリだが、設立当初は同社のDispersed Storage技術を使い、クラウドストレージの走りのようなラボを立ち上げたり、ソフトとハードを組み合わせたアプライアンスを販売したりし、そして、現在のSDSSoftware Defined Storage)ベンダーに転身した。

Dispersed Storageとは何か=

Dispersed Storageは、イスラエルのコンピュータサイエンティストMichael Rabin氏が考えだした情報伝播アルゴリズムIDAInformation Dispersal Algorithm) をベースとしている。このIDAによって、異なる地域に分散配置されたグリッドストレージにバックアップデータをスライスして、アルゴリズムに従って重複させながら拡散保存する。これによって幾つかのグリッドがダメになっても完全な形で復元できる。IDAの理解を容易にするためにカナダのカーレトン大学が P2Pファイルシェアリング設計に用いた簡易型SIDAを引用しよう。SIDAでは変数nが拡散させるグリッド数を示し、もうひとつの変数kは復元のために必要なグリッド数を示す。例えば{n=4、k=2}とすると4つのグリッドストレージに書き込み、うち2つが故障しても残り2つが正常であれば完全に復元できる。下図の左側にあるオリジナル(File)を4つにスライス(Piece1Piece4)し、4つのグリッド(Peer1Peer4)に拡散させながら書き込む。このスライスされた4つは、SIDAの理論{k+1}に従い、答えは{}であるので、各グリッドに3つ、全体のグリッドには各スライスが3つずつ含まれるように行列演算(例示)によって書き込まれる。この場合{k=2}であるので、図の任意のグリッドから2つを選べばオリジナルの4つのスライスが必ず含まれ、元のデータ全体が再現できるという訳だ。


=IBMの戦略はどう動くか!= 
さて、IBMはどう動くのだろうか。
まずCleversafeの市場評価を見よう。左図のIDC調査レポートを見ると、リーダーグループの中でEMCやHDSなどの複合ベンダーを除いた純粋のSDSベンダーでは、CleversafeはScalityと共に、AmplidataCloudianを押さえて恰好たる地位を築いていることが解る。彼らには米国での多くのユーザーに加え、日本でもKDDIなどの実績がある。IBMによると買収後、Cleversafeのポートフォリオは同社クラウド事業部門に統合され、クラウドだけでなくオンプレミスの導入オプションとして提供されるという。つまりCleversafeは当分の間、同ブランドを維持した子会社として活動する。他方、IBMのストレージ戦略と言えば、今年2月の同社カンファレンスで大々的に発表したIBM Spectrum Storageがある。これも2007年に買収したイスラエルのXIV製品がベースだ。IBMはこれまでこれを自社ストレージ製品と組み合わせてアプライアンス化し、インテリジェントストレージIBM XIVとして販売していた。このIBM Spectrum Storageは、SDS時代に向けて、XIVのソフトウェアを分離して進化させようという計画である。整理すると、SDS時代の本命はIBM Spectrum Storageとしながらも、一方で実績のあるCleversafeもあるという2本立ての状況だ。Cleversafeはかなりの特許を持っている。このまま、2つを使い分けるのか、いずれ統合されるのか、当分の間、目が離せない。