2015年11月1日日曜日

IBMのストレージ戦略とCleversafeの買収

IBM10月中旬、シカゴのCleversafeを買収した。
IBMにとって、ハードウェア部門を殆ど売り払い、残っているのはストレージだけである。今後どのようにこの分野を立て直すのだろうか。今回の買収を機に探ってみよう。

=老舗ストレージのCleversafe=
この会社は筆者がシリコンバレーにいたころから興味を持って見ていた1社だ。創設者のChris Gladwin氏はP2PのミュージックサイトMusicNowを興したが、一方で、大事なオリジナル曲を安全に管理するための技術を探していた。そしてたどり着いたのがディスパーストストレージ(Dispersed Storage)技術だった。ディスパーストは拡散型、今風に言えば分散ストレージの一種である。氏はその後、iTunesの台頭でMusicNowをあきらめ、2005年にCleversafeを設立した。同社は今でこそ、SDS Software Defined Storage)がウリだが、設立当初は同社のDispersed Storage技術を使い、クラウドストレージの走りのようなラボを立ち上げたり、ソフトとハードを組み合わせたアプライアンスを販売したりし、そして、現在のSDSSoftware Defined Storage)ベンダーに転身した。

Dispersed Storageとは何か=

Dispersed Storageは、イスラエルのコンピュータサイエンティストMichael Rabin氏が考えだした情報伝播アルゴリズムIDAInformation Dispersal Algorithm) をベースとしている。このIDAによって、異なる地域に分散配置されたグリッドストレージにバックアップデータをスライスして、アルゴリズムに従って重複させながら拡散保存する。これによって幾つかのグリッドがダメになっても完全な形で復元できる。IDAの理解を容易にするためにカナダのカーレトン大学が P2Pファイルシェアリング設計に用いた簡易型SIDAを引用しよう。SIDAでは変数nが拡散させるグリッド数を示し、もうひとつの変数kは復元のために必要なグリッド数を示す。例えば{n=4、k=2}とすると4つのグリッドストレージに書き込み、うち2つが故障しても残り2つが正常であれば完全に復元できる。下図の左側にあるオリジナル(File)を4つにスライス(Piece1Piece4)し、4つのグリッド(Peer1Peer4)に拡散させながら書き込む。このスライスされた4つは、SIDAの理論{k+1}に従い、答えは{}であるので、各グリッドに3つ、全体のグリッドには各スライスが3つずつ含まれるように行列演算(例示)によって書き込まれる。この場合{k=2}であるので、図の任意のグリッドから2つを選べばオリジナルの4つのスライスが必ず含まれ、元のデータ全体が再現できるという訳だ。


=IBMの戦略はどう動くか!= 
さて、IBMはどう動くのだろうか。
まずCleversafeの市場評価を見よう。左図のIDC調査レポートを見ると、リーダーグループの中でEMCやHDSなどの複合ベンダーを除いた純粋のSDSベンダーでは、CleversafeはScalityと共に、AmplidataCloudianを押さえて恰好たる地位を築いていることが解る。彼らには米国での多くのユーザーに加え、日本でもKDDIなどの実績がある。IBMによると買収後、Cleversafeのポートフォリオは同社クラウド事業部門に統合され、クラウドだけでなくオンプレミスの導入オプションとして提供されるという。つまりCleversafeは当分の間、同ブランドを維持した子会社として活動する。他方、IBMのストレージ戦略と言えば、今年2月の同社カンファレンスで大々的に発表したIBM Spectrum Storageがある。これも2007年に買収したイスラエルのXIV製品がベースだ。IBMはこれまでこれを自社ストレージ製品と組み合わせてアプライアンス化し、インテリジェントストレージIBM XIVとして販売していた。このIBM Spectrum Storageは、SDS時代に向けて、XIVのソフトウェアを分離して進化させようという計画である。整理すると、SDS時代の本命はIBM Spectrum Storageとしながらも、一方で実績のあるCleversafeもあるという2本立ての状況だ。Cleversafeはかなりの特許を持っている。このまま、2つを使い分けるのか、いずれ統合されるのか、当分の間、目が離せない。