2016年9月13日火曜日

AutoTech(13) 混沌の時代!
         -Apple Project Titanの憂鬱-

Appleの夢の車、Project Titanの行く方へに霧がかかっている。
プロジェクトに関して、我々はこれまで多くの記事を見てきた。ただ、現在も正確な情報提供はAppleから何もなく、全ては観測や憶測である。この流儀に従えば、今、プロジェクトで何か大きな変化が起きていることは間違いない。プロジェクトが始まったのは2014年。そして、2015年3月の Apple株主総会では株主からTesla買収の提案が投げかけられた。この時期、AppleによるTesla買収の記事が多く見られたことを諸氏は覚えているだろう。しかし、何も起こらなかった。Appleは人材をかき集め、巨額資金をつぎ込んでオートノマスビークル(自動運転車-Autonomous Vehicle)の自力開発に突き進んだ。理由は、9月7日、発表されたiPhone7の評価はともかく、iPhoneの売り上げが堅調な日本を除くと、中国とおひざ元の米国で顕著に落ち込んでいるからだ。 

=混迷する人事!=
元FordのエンジニアでApple社歴16年のSteve Zadesky氏がAppleを去ったのは今年1月のこと。彼こそドリームカー、つまりiCar(コードネーム:Titan)のリード役だった。理由は私的なことだという。しかしこれは辞める際の常套句だ。それから半年、後任人事は7月になってやっと発表された。SGIからAppleに移り、長年、ハードウェア部門のトップとして活躍してきたBob Mansfield氏だ。氏は2013年から日々の仕事からは実質リタイアし、経営陣から退いていた。その彼を呼び戻してTitanの監督をさせようという判断だ。この空白の期間、1,000名を超えると伝えられるプロジェクトは動揺した。そして7月末、カーナビなどに使われるリアルタイムOS QNXの共同開発者兼元CEOだったDan Dodge氏がApple入りし、Mansfield氏のもとで働くことになった。
Apple Cupertino HQ
=何が起きたのか!= 
Apple Kanata Office
Dan Dodge氏のApple入社には重大な意味がある。QNXは、2010年4月、Reserach in Motion(現BlackBerry)に買収され、氏はグループ子会社QNX SoftwareのCEOとなった。しかし昨年末には、リタイア。そしてBob Mansfield氏同様、再度の登板だ。これより先、今年1月、AppleはQNXのあるオンタリオ州Kanataに22,000ft²(2,043m²)のオフィスを借りた(Financial Post)。これはQNXと関連したR&Dセンターとみられる。何故なら、QNXは今年1月、ラスベガスのCES 2016会場でNew Platform; Automated Driving Systemを発表したからだ。これはQNX上ADAS(Advanced Driver Assistance Systems-運転者支援)を実現するQNX Platform for ADASがベースとなっている。これで全体の流れが読めてきた。Appleは今までのオートノマスビークル開発を多分あきらめた。そして、新たな戦略として、これを利用するためにDan Dodge氏を採用し、QNXの隣接地R&Dセンターを開設した。だからSteve Zandesky氏は辞めたのだ。これを裏付けるように、「AppleはProject Titanの戦略を大きく変えた」と報じた記事が9月9日付のNew York Timesに出た。 この記事によると、Appleはこれまでのオートノマスビークルの設計開発を止め、基本技術の構築へとシフトする。この戦略変更に伴って、部分的なプロジェクトのシャットダウンとかなりのレイオフが出た模様である。競合各社が実車のテスト走行を実施する中、Appleの夢の車はとうとう姿を見せなかった。Appleは早晩、これらの経緯を説明しなければならないだろう。

2016年9月10日土曜日

AutoTech(12) ステルスから抜け出たDrive.ai! 
       -外部コミュニケーションの新しい道を探る-

先週、オートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)のスタートアップDrive.ai(マウンテンビュー)がステルスモードから抜け出て姿を現し始めた。通常のオートノマスビークル開発が完全な自律運転を目指しているにに対してDrive.aiは少し違う。自律運転技術にはまだ課題がある。そこで外部とのコミュニケーションを重視することて安全性を高めようという作戦だ。Drive.aiのオートノマスビークルにはカメラベースのセンサーやLiDARが使用されている。それらが接続処理される搭載コンピュータには、これとは別に外部とのコミュニケーション用のディーブラーニングが組み込まれている。実際のコミュニケーションには、屋根の上のLEDパネルやライトの点滅、車の微速前後進などが用いられ、これらによって、車が今何を考えて、何をしようとしているのかを外部の人や車に意思伝達する。より正確な意思伝達には「この場合はこうする」といったルールベースのアプローチは向かない。その場の状況は無限の組み合わせだからだ。Drive.aiはここにディーブラーニングを適用した。つまり、相手となるオブジェクトの状態を車がどうとらえているか、そして、それを相手に知らせることにより、より安全な運転ができる。エンドツーエンドのアプローチだ。通常、ドライバーは歩行者の行動を見ながら、歩行者は車に注意を払いながら行動する。同社のアプローチは、まさに通常の車と人と同じような関係となる。Drive.aiの共同創業者はRoboticsの世界で15年の経験を持つCEOのCarol Reiley女史を入れて8人。うち6人がスタンフォード大学AIラボの卒業者かPhDだ。彼ら全てがディーブラーニングの専門だ。仲間の何人かはGoogle CarやGM、Nissanからやって来た。今回の発表と同時にボードに参加したSteve  Girsky氏は、GM破産後7年間シニアエクゼクティブとしてボードで活躍した人である。自動車の実務家とAIエキスパート、これがDrive.aiの強みだ。今後は開発した機能を市販車の改造キットとして売り出す予定だという。狙いはデリバリーカーを保有する配送会社やライドシェアリング会社などが想定されている。


2016年9月3日土曜日

AutoTech(11) Uberの野望!
    -自動運転トラックのOtto買収とVolvo提携-

全米最大手の配車サービスUberが俄然動き出してメディアを賑わしている。
8月18日、米フリーウェイを走る大型トラックをオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)に仕立てるスタートアップOttoを買収したと発表。この技術で自社用のオートノマスビークルを作り、さらに将来、これらを全面展開してドライバーレスを目指すという。

=Uberの大いなる野望!=
Morgan Stanleyによると、世界的な自動車生産の総量はもはや伸びず、一方Shaered Carは2030年には全体の15%超える。まさに「車は所有するものから利用する時代」に移り始めたようだ。GoogleがUberに258M(約283億円)を投資したのはちょうど3年前の2013年8月だ。Series-Cだった。そしてGoogle SVP David Drummond氏がUberのボードに就任。当時のForbesによると、GoogleはGoogle CarとUberを組み合わせたキラーアプリを目指していた。しかし状況は変わった。Uberが独自路線を歩み出したからだ。昨年2月、ピッツバーグのカーネギーメロン大学(CMU-Carnegie Mellon University)と組んでAdvanced Technologies Center発表した。この組織を核に同社向けのオートノマスビークルを開発するという。Uber CEO Travis Kalanick氏の大いなる野望だ。CMUのRobotics研究は超一流である。初期のGoogle Self-Driving Projectを率いたSebastian Thrun氏も、この8月始めまでGoogle Self-Driving ProjectのCTOだったChris Urmson氏も在籍していた。とはいえ、Uberの自力開発はそう簡単ではない。実際のところ5月中旬、同社はFordと提携してFord Fusion Hybridによる公道テストをピッツバーグ市内で開始すると発表した。 しかしUberの野望はそれでは終わらなかった。今年6月2日、Uberサウジアラビア政府系公共投資ファンドから$3.5B(約3,800億円)という巨額投資を受け入れて我々を驚かせた。これで集めた資金総額は14.11B(約1.5兆億円)。その評価額は$68B(約7.5兆円)となった。この巨費をどのように使うのか。それは全世界の市場開発だけではない。もちろん独自のオートノマスビークル開発が含まれている筈だ。そしてUberはひそかにOttoとの本格的な買収交渉に入った。買収の合意はかなり前だと言われ、その金額はUberの市場評価額のたった1%にあたる$680M(約680億円)である。 


Otto team and Uber's CEO Travis Kalanics

=Ottoという会社=
Ottoの創業者は4人。4人とも元Googleの社員だ。Anthony Levandowski氏はGoogle Self-Driving Car Projectのオリジナルメンバー、Lior Ron氏はオートノマスビークルには欠かせないGoogle Mapsのヘッド、Don Burnette氏はGoogle Carのオンボードソフトウェアのエンジニア、そしてClaire Delaunay女史はGoogle XのRoboticsをリードしてきた。Ottoの創業は今年1月、社員は現在約90名。それにしても、いくらスタートアップとは言え、たった8ヶ月のエキジットは最短というほかない。彼らがGoogleを離れた動機は、オートノマスビークルのインプリに関する意見の相違だと言う。Otto組はいち早く実用化しなければ負けてしまうと主張。Googleのプロジェクトは市販車への適用ではなく、本格的な開発にこだわった。独立したOttoが目を付けたのはコンボイと呼ばれる大型輸送用のトラックだ。フリーウェイを走るトラックドライバーの仕事は過酷だ。長時間をたった1人きりで走り、各種のペーパーワークもある。加えてこの業界は排ガス汚染や死亡事故などの社会問題も抱えている。段々とドライバーのなり手がいなくなる。これらが背景となって、Ottoはバンパーや運転席の屋根にLiDARや各種センサーを装備した改造キットをVolvoと提携して開発することを決めた。


 
=Uberの目指すもの!=
Uberが目指すものは何か。彼らがTeslaのように自動車産業に直接参入することはない。目指すは配車サービスに使う初の商用オートノマスビークルだ。そのために選んだのはOttoの提携先のVolvo XC90。これをオートノマスビークルに改造し、当面100台程度を用意する。各車両には即座に運転を代わることが出来るドライバーと記録係のナビゲーターの2名が乗車。このうちの一部車両は近々ピッツバーグ市内に登場する。これまで通り、顧客がUberアプリで配車を要求すると、ランダムにオートノマスビークルがアサインされる。当面は試行ということもあり無料らしい。Uber CEOのTravis Kalanick氏は、「他社との大きな違いは同社アプリによるデータ収集だ」と明言する。氏はどんなオートノマスビークルだって、人間無しでは完全なソフトウェアシステムとはならない、問題はデータだという。現在、約100万人とも言われる全世界のUberドライバーと利用客によって、1日で集められるデータは約1億マイル(1.6億Km)。このとてつもないデータがUberの武器だ。これによって正確な交通情報を得て、やがてはドライバーレスのオートノマスビークルが安全運転できる日がやってくる。

 
 

2016年9月1日木曜日

Rackspace、新たな道へ! 
       -Apollo Globalによる買収決定-

Rackspaceのボードは、8月26日、既報のように、かねてから交渉中であったPrivate EquityのApollo Global Managementに売却することを決めた。1株当たり$32の現金による取引で総額$4.3B(100円/1㌦換算、約4,300億円)となる。この日、同社の株価は4%上昇し、今回の取引完了後はこれまでの上場企業から非上場となる。同社CEOのTaylor Rhodesは「企業が業務をデータセンターか らマルチクラウド環境へ移行する現在、Apollo Globalが同社の戦略とユニークなカルチャーを評価してくれ、これから一緒に働けることを楽しみにしている」と述べた。しかし、各種のメディア情報か ら見る限り、Rackspaceの独立性の保証や今後の具体的なコミットメントは見当たらない。つまり、Rackspaceにとっては、転売か合併がこの先待ち受けている。ともあれ、2014年5月からのホワイトナイト探し、その後も買収交渉が何度となくあった。そして今度の決着、その先はまた新たな展開が続く。周知のことだが、クラウドでRackspaceの果たした功績は大きい。NASA Amesと共に始めたOpenStackプロジェクトはプライベート市場で花開き、パブリッククラウドにもくさびを打ち込んだ。クラウド市場はプロプライエタリービジネスの囲い込みではいけないと いう信念からだ。しかし資本市場の現実は厳しい。今回の買収を乗り越え、これから先もRackspaceの健闘を祈らずにはいられない。