2014年11月13日木曜日

クラウド各社の戦略再設定(1)  -EMC-

クラウド各社の戦略再設定が進んでいる。
昨年SoftLayerを買ったIBM、Rackspaceのホワイトナイト探し(参考:123)、Eucalyptusを飲み込んだHPのHellion、さらにCiscoも、EMCまで動き出した。大きな流れは、Amazonを追うMicrosoftと価格競争を挑むGoogle、この3強の外側各 社はOpenStackを取り込んで対抗を試みる。各社の戦略再設定の事情を分析し、合わせてOpenStackの新たな勢力図を検証しよう。

=シャッフルが必要となったEMCグループ=
このところ大きな動きを見せたのはEMCだ。EMCはこれまでVMwareを育てあげてきた。しかし仮想化市場は飽和し、VMwareビジネスは行き詰まりを見せ始めている。一方、EMCの本業であるストレージビジネスもフラッシュやSDSなどからの追い上げにあって対策が急務だ。課題は2つ。関連会社のことと自社のこと。VMwareを中心とした課題は、プロプライエタリービジネスの限界だろう。オープンソースのXenと戦った初期、そしてKVMの登場などで彼らはオープンソースやコミュニティ、さらにはエコシステムの重要性を学習した。

幸い2009年に買収したSpringSourceから派生したCloud Foundaryをオープン化し、IaaSから上位のサービスビジネスを求めてPivotalを分離することが出来た。現在はVMwareが仮想化に始まる一連のインフラ整備とパブリッククラウドを運営し、PivotalがPaaS、SaaSを受け持つ。Pivotal傘下のCloud Foundaryは今やPaaSのデファクトだが、Pivotal自身のビジネスはパッとしない。この図式だけでは戦えない。さらに危険なことに、EMC自身のストレージが物理的な装置から脱皮し、クラウドと一体化しなければ受け入れられない時代になりつつある。つまりEMCを含めたグループ各社の構図見直しに伴う戦略再設定が必要となった。全体をシャッフルする刺激剤として白羽の矢が立ったのはCloudscalingだ。もっと端的に言えば、CloudscalingのFounderのRandy Bias氏である。Bias氏はOpenStackのAdvocate(またはEvangelist)として著名な人だ。彼の意見は大いに参考になる。彼が興したCloudscalingはオープンクラウド向けのOpenStackディストリビューション開発、兼インテグレータだ。10月13日に明らかになっ た$50M(約50億円)の同社の買収で、EMCはプロダクトだけでなく、OpenStack Communityへの大きな橋渡し役を手に入れた。 (参考:オープンクラウドならCloudscalingだ!
=EMC Enterprise Hybrid Cloud登場!=
そしてEMCは10月28日、EMC Enterprise Hybrid Cloud(下図)を発表。
このソリューションはVMware製品を利用してクラウドを運用する企業ユーザやプロバイダ向けのもので、さらなるクラウド連携の拡大を目指している。発表に関連して、VMworld 2014(8/24-28)前後で幾つか重要な発表があった。8月21日、同社が昨年来運営するパブリッククラウド(VMware vCloud Hybrid Service)をVMware vCloud Airに改称(上右)。このクラウドはvSphereベースで企業が自営化してきたプライベートクラウド(下段)とハイブリッド化することが大きな目的だ。同社によると、現在、世界8センターで運用され、3,800社が利用しているという。次いで8月25日にはクラウドマネージメントプラットフォームVMware vRealize Suiteを発表し、10月14日からリリース。下図から解るように、上段のクラウドマネージメントはVMware vRealize SuiteとEMC Storage AnalyticViPRなどから構成され、ここから連携する全てのパブリッククラウドとプライベートクラウドが管理できる。下段が自社内のプライベートクラウドだ。

EMC Enterprise Hybrid Cloud
=続いた企業買収!=
今回の戦略再設定に関連して、10月22日、2009年にCiscoとVMware、EMCの3社で共同設立したVCEのほとんどの株式をCiscoから譲り受け、傘下とすることを発表。これによって扱うサーバハードウェア(Cisco UCS) とシステム要員を確保した。だからと言ってサーバーはUCSに限定することを意味しない。これまでもHPやDellとも多面的に付き合ってきたからだ。重要なのはシステム要員だ。EMCにとって、特に汎用機のシステム要員は潤沢でない。これから始まる本格的なクラウド対応に彼らは大いなる助っ人となる。次 いで10月28日、MaginaticsSpanningの2社の買収を発表した。MaginaticsはクラウドベースのNASベンダーであり、SpanningはGoogle AppsSalesforceのバックアップベンダーだ。
    • VMware vCloud Air (8/21) 
    • VMware vRealize Suite (8/25) 
    • Cloudscaling (10/13)
    • VCE (10/22)
    • EMC Enterprise Hybrid Cloud (10/28) 
    • Maginatics (10/28)
    • Spanning (10/28)                             (イタリック:企業買収)
=クラウドが本業となるか、そしてStorage as a Service!=
EMCにとって、クラウドはサイドビジネスではなくなった。本業としての武器化である。そのためには、VMwareに代わって、自身が前面に出て仕切らなければならない。ストレージビジネスの世界は変わり、もはやストレージシステムの製造販売だけでは生きられない。物理的なストレージ装置を埋め込んだクラウ ドへの展開が不可欠だ。これこそがこれからの市場である。今回発表したEMC Enterprise Hybrid Cloud(上図)では、下段のプライベートクラウドにEMCのストレージが埋め込まれ、それを上段のクラウドマネージメントのEMC Storage Analytics SuiteやViPRがVMware vRealize Suiteと共に制御する。当面、対応するクラウドはパブリックもプライベートもvShpereのみだが、来年にはAWSやMicrosoft、そして OpenStackとの連携が見えている。さらにSpanning買収でGoogle連携も可能となるかもしれない。EMCの戦略再設定、それはVMwareのアセットを核としながらも、近未来を見据えたオープンクラウド指向であり、またSTaaS(Storage as a Serviceへの本格攻勢の始まりでもある。