第2回目はCiscoだ。実はEMCとCiscoの戦略には大きな関係がある。クラウドの進展とSDNやSDSの登場でネットワークやストレージ機器ベンダーは、これまでの戦略を大きく再設定しなければならなくなった。このままでは両社とも従来からのビジネスモデルが維持出来なくなってきたからだ。そしてCiscoから発表されたInterCloud、それを追ったのがEMC Enterprise Hybrid Cloudである。
=UCSの登場とオープン化=
CiscoがOpenStack傾斜なのは周知のこと。その旗振りはCloud CTOのLew Tucker氏。彼はOpenStack FoundationのVice Chairmanであり、Ciscoグループの元祖WebカンファレンスWebExをOpenStackベースに乗せ換えた立役者だ。その氏がCiscoに入ったのは2010年6月。CEOのJohn Chambers氏はこれ以前から時代の変化を感じていた。それがTucker氏の採用であり前年2009年4月に発表されたCisco UCSである。UCSはCisco製のスイッチNexusを装備したブレードサーバーだ。ネットワーク機器は末端のスイッチなどを除けばサーバーに置き換えられる可能性がある。UCSはそのための対策である。Tucker氏はOpenStackとの関係を強化し、一方、Ciscoは2009年、UCSを核にEMC、VMwareと合弁のVCEを設立。そしてNexusスイッチ搭載のUCSにEMCのストレージ、VMwareの仮想化技術をパッケージ化したVblockを開発して、ユーザ企業への販売導入支援ビジネスをスタートさせた。しかし鳴り物入りだったこのビジネスもサーバーの価格低下と仮想化技術の一般化でこのところは低迷。そして本格的なクラウド時代が到来した。
<Ciscoの第一手、それはNFV!>
Ciscoはこの大きな時代の変革期に2つの布石をした。1手目は、NFV(Network Functions Virtualization)へのテコ入れだ。これはネットワーク機器ベンダーとキャリアが参加するNFV ISG(Network Functions Virtualization Industry Specification Group)が定めたものである。NFVでは各ネットワーク機器のハードとソフトを分離してサーバ上の仮想空間で実行する。一方これより先行していたSDNはOpenFlow Foundationが定めたOpenFlow仕様だ。OpenFlowでは、各ネットワーク機器の制御とデータ転送機能を分離する。初期において、IT関連のアカデミアが考え出した革新的なSDNに対して、NFVはそれに危機感を持つ関連業界が一体となって取り組んだことから対抗するかのように思われた。しかしながら、NFVは各ネットワーク機器のソフトとハードの分離、SDNは同制御部の抜出しと統合化という特徴から、徐々に補完関係となった。そして今年2月にはHPがNVFの解り易さを基点にSDNのコントローラ機能を取り込んだOpenNVFを発表。その後、今年9月30日、多くのITやネットワーク企業とキャリアが参加したLinux FoundationのOPNVFプロジェクトがスタート。OPNVFは標準化団体ではなく、OpenDaylight、OpenStack、Open vSwitchなどのコンポーネントを利用して、オープンなNFVリファレンスプラットフォームを作ることが目的だ。このような流れは、いずれ専用ネットワーク機器の時代は段階的に縮小して、汎用サーバ上のソフトに移行すると睨んでいたCiscoの読み通りである。
<2手目はInterCloudだ!>
2手目として打ったのがInterCloudだ。
年始めの1月、ミラノで行われたCisco Liveでクラウドポートフォリオを大きく拡大することに言及した。そして3月CiscoはグローバルベースのInterCloud戦略を発表。この壮大な構想は複数のデータセンタやクラウドプロバイダを相互接続し、グローバルなクラウドネットワークを構築しようというものだ。コンセプトはDC as a Service、基本となる技術はCisco InterCloud Fabricである。複数のクラウドを接続するには秩序だった制御をするためのオーケストレーションが欠かせない。勿論、クラウド間のセキュリティやリソース管理をどのように行うのか、未知の課題が山積する。例えて言うなら、国際電話のローミングのようなクラウドを目指そうというわけだ。このファブリック構築のためにCiscoがなさねばならないことは技術的にもマーケティング的にも簡単なことではない。もし実現すればInterCloud Fabricを介してクラウド上のワークロードを移動させたり、AmazonやMicrosoft、Googleなどのパブリックとプライべートクラウドとの連携も容易となる。同社によると、この構想に賛同したパートナーは9月末現在、世界50ヶ国の250データセンタだという。今後は、勧誘のためのテクニカルスコープだけでなく、具体的にパートナークラウドの構築に向けて、何を提供するのかが問われる段階だ。
=MetaCloudとは何か!=
9月17日、CiscoはOpenStack as a Serviceを掲げるMetaCloud買収した。
もう具体的なプロダクトを提示しなければせっかく勧誘したパートナーはついてこない。買収したMetaCloudは自社の5つのデータセンタ上か、ユーザの自営センタで、OpenStackを利用したプライベートクラウドのホスティングサービスを行う。クラウド指向のユーザに代わって、OpenStackの構築から委託運用までを請け負うビジネスだ。まさにOpenStack as a Serviceである。Ciscoはこのプロダクトとサービスを整備し、パートナーに展開する計画だ。これまでCiscoはVMwareとの関係が深かかった。しかし、この買収によって、vSphereだけでなく、パートナーに提供できるOpenStackというオプションを手に入れた。MetaCloudは2011年創業の若い会社だ。同社を興したのはオンラインチケット販売TicketmasterのプラットフォームをOpenStackで開発したSean Lynch氏とYahoo!のストレージ運用エンジニアのSteve Curry氏だ。今年6月にはRackspaceからOpenStackの主唱者(Advocate)として活躍していたScott Sanchez氏とNiki Acosta女史が移籍。
=CiscoはEMCの戦略を超えられるか!=
前回はEMCの課題を分析し、それがEMC Enterprise Hybrid Cloudの背景だと説明した。しかし、冒頭で述べたように、EMCの戦略は、Cisco InterCloudへの対応というもうひとつの側面がある。両社はこれまで同じような境遇から接近していた。Ciscoはどちらかと言うとハード指向、EMCはVMwareを通したソフト指向だった。このアプローチの違いが両社を補完していた。しかし急激な市場変革に対応すべく、昨年10月、CiscoはSSDのWHIPTAILを買収して、多面的なアプローチに変更。もはや両社はクラウド時代を乗り切るための仲間ではなく、共に市場に飛び込む競争相手となった。EMCのクラウド戦略を簡単に言うと、自社とVMwareの既存顧客を囲い込み、その上で出来れば拡大したということだ。対してCiscoの戦略は、自社製品を使う多様な企業やデータセンタ、キャリアなどが相手だ。問題はCiscoが扱うネットワーク機器へのユーザの依存度である。VMwareのようなソフトは一度導入すると簡単には変えられない。翻ってCiscoのターゲット層は広いけれども忠誠度はそうでもない。しかし、今回先手を打ったのはCisco、それを追ったのがEMCである。後は、新戦略に沿ったクラウドプロダクトとサービスがどれだけ優れ、その導入が顧客にどのようなメリットをもたらすかだ。解っていることは、両社とも現在の機器屋から抜け出さなければ彼らのビジネスはシュリンクする。