数回に分けて一般ユーザー向けのクラウドストレージについて考察してみたい。
と言うのは、このところクラウドストレージの開発競争は激しく、それらが及ぼす影響は、エンタープライズ向けよりも一般ユーザーの方が大きいと思うからだ。この分野のクラウドサービスは基本機能に忠実なものから最近のコンシューマーエレクトロニクス製品への対応型など様々だ。第1回目は、オーソドックスなサービスだが、提供機能の評判から人気のMozyとCarboniteを紹介しよう。
-暗号化とCDPで安全性を重視したMozy-
Mozyは今日のクラウド騒ぎの前からあるストレージバックアップの老舗だ。創業者のJosh Coatesは、UC Berkeleyで大型並列コンピューティングを学び、その後、幾つかの会社を経て、並列ストレージシステムのScale8を起業。そして、Berkeley Data Systemsを2005年に興してMozyサービスを開始した。 メニュは2つ。ホームユーザー向けバックアップのMozyHomeと小規模ビジネス向けのMozyProだ。共にバックアップの対象となるコンピュータにエージェント・ソフトウェアをダウンロードして利用する。MozyHomeは2GBまで無償、それに徹底した暗号化付だ。まず、ローカルでは448-bit Blowfishないしは256-bit AESという殆どミリタリーグレードの暗号化を施し、その上で128bitのSSLでバックアップデータをセンターに送り出す。扱うデータはドキュメントから画像、ビデオなんでも構わない。
Mozyのバックアップは安全性以外に、2つの工夫がある。
ひとつはクラウドにあげるインターネット帯域の利用幅を指定出来ること。これは、必ずしも十分な環境にないホームユーザーには有難い。使用しているPCの邪魔をしない工夫だ。またPCのアイドル中のバックアップやスケジュール・バックアップも可能だ。PCが完全にダメになった場合のフルバックアップにはDVDの注文も出来る。もうひとつの大事な機能は簡易CDP(Continuous Data Backup)。CDPはエンタープライズのシステム運用ではかなり普及しているバックアップ技術で、本番のファイル更新を続けながら、並行的にバックアップを採取して行く。これによって、どのような状況でダウンが起きても、限りなく最新状態に近づくことが出来る。
このような使い易く安全な機能からMozyの人気は上がり、2008年1月、クラウド市場への積極関与を狙うEMCによって買収、現在はEMCの新たな子会社Dechoの核ビジネスとなっている。昨年10月には、セキュリティー大手のMcAfeeと提携し、年額60㌦でクラウドストレージ容量が無制限というMozy運営のMcAfee Online Backupが加わった。
サポートプラットフォームはWindowsとMac OS-X。
-使いやすさを追求したCarbonite-
CarboniteもMozyと同じ2005年創業、翌年からサービスを開始した。こちらもオーソドックスなバックアップを提供しているが、これだけの人気には秘密がある。Carboniteもエージェントソフトウェアをダウンロードすることから始まる。このエージェントがPC上での仕事を邪魔せずに新たなファイルの更新や追加を見つけてバックアップを採る。心憎いのはPCがアイドルになると動き出し、使い始めるとスリープ状態になる。まるでPCと一体化したかのような謙虚な動き方だ。ADSL利用の場合1日当り5~8GBのアップロードが目安となる。セキュリティーについてはローカルとクラウドの2段階。対象となるファイルは何でも構わず、設定さえすればプログラムなどの実行ファイルやDLLもバックアップ出来る。またサイズ制限はないので、自分のPCに積んでいるHDDサイズとクラウドストレージが同じだと思えばよい。バックアップがどのような状態かもすぐに解る。グリーンの丸印ならバックアップ済、イエロー丸なら仕掛かり中、何もなければこれからだ。トラブル時のリストアは、全てを対象にすることも、特定のファイルを対象にすることも出来るし、ファイルの世代管理は10世代までOKだ。もしPC内のファイルを削除しても30日以内ならクラウドにあるので大丈夫。CarboniteはWindowsだけでなく、OS-X版もあるのでMacファンには嬉しい限りだ。
以上のようにMozyとCarboniteはよく似たサービスである。
強いて言うなら、Mozyは安全性重視、Carboniteは使い易さの追求だろうか。
コスト面ではMozyHomeが1PCあたり月額4.95㌦(年額換算59.4㌦)、無償は2GBまでだ。Carboniteも1ユーザーで月額払いはなく年額54.95㌦、無償は15日間のトライアルでファイル容量の制限はない。実際のところ、クラウドストレージでは、MicrosoftのSkyDriveなど無償で容量も大きいもののあるが、ユーザーが実用的に使うには十分ではない。基本的にはオーソドックだが、きめ細かな機能を持ち、料金を払う価値のあるサービスがMozyとCarboniteということだろう。