仮想化技術競争が激化する中で、その鍵を握るCitrixが奮闘している気配だ。
そこで近況についてアップデートしよう。Citrixが XenSourceを2007年8月に買収し、たった半年後の翌2008年2月にXenServerとXenDesktopが登場した。その後の一進一退 から抜け出すために、同社は今年2月XenServerの無償化を発表、VMwareへ挑戦状を突きつけた。
7月末に発表された Citrixの2Q決算を見ると売上げは$393M(前年同期$392M)、純利益は米会計基準GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)で$43M(前年同期$35M)となって、この大不況下ではまずまずだった。内容的にはXenServerの無償化などでライセン ス売上げが下がり、逆にサービス売上げは増加、結果は均衡した格好だ。一方VMwareはどうかというと、2Q売上げは$456Mと前年同期比並みだが、 純利益はGAAPで前年同期比38%減の$38Mとなった。これらが通年に及ぶかは定かではないがCitrixの健闘が伺える。
◆無償のXenServerとVMware ESXiを比較する
さて無償となったXenServerとはどんな製品で、どのような戦略に沿ったものだろうか。この謎を解くには、これも無償のVMware ESXiとの比較が有効だ。
(MicrosoftからもHyper-V Server 2008が無償出荷されているがここでは対象としない)
下 図はCitrix提供のものだが、基本機能ではXenServerが64bit、ESXiは32bit、仮想CPU数はXenServerが8つ、 ESXiは4つ。物理マシンから仮想マシンへの移行に使うP2V (Physical to Virtual)や仮想マシン間移動のV2Vコンバータは両者同じ、SANやNASなどのストレージアクセスも同様だ。問題はそれ以降の項目だが、これら はシステム運用に係わるもので、VMwareでいうならばvCenterの機能の一部に該当する。つまり、同じ無償でもESXiは導入実験用であり、これ だけでは本番運用は出来ない。運用に関するvCenterやvSphere 4は有償というわけだ。そこでVMwareの独占市場に割って入るには、仮想化だけでなく、システム運用の一部もXenServerとして無償提供し、大 掛かりではないが本番利用に使って貰おうというのがCitrixの戦略だ。
◆XenServer 5.5が登場
そ の後、6月中旬、Citrixはこの無償提供版の運用管理をさらに強化しXenServer 5.5としてリリース。XenServer 5.5では、①Consolidated Backup、②Enhanced Conversion Tools、③Active Directory Integration、④Guest OS Expansionなどの機能が追加された。まずIntegrated Backupでは、既存バックアップ製品を用いたバックアップやスナップショットとの連動が可能となり、vCenter Site Recovery Mgrに近づいた。次にEnhanced Conversion Toolsでは、VMwareの仮想マシンで使用されるVMDK(Virtual Machine Disk Format)フォーマットをXenServerやHyper-VのVHD(Virtual Hard Disk)に変換、これによってVMwareからXenServerへの移行負荷を軽減、さらにこのConversion Toolを用いて標準化利用が進むOVF(Open Virtualization Format)などにも自由に変換が出来る。またActive Derectoryとの統合ではアクセス管理やログ管理などが統一、さらにGuest OSとしてSuSE Linux Enterprise Server 11、Debian 5、Red Hat/Cent OS/Oracle 5.3が追加された。
◆Citrix Essentialsが収益源
それでは、Citrixのビジネスモデルとは何か。
ま ずCitrixの戦略は、VMwareを検討する企業ユーザーの土俵に登ること。そのためには、単なる実験導入のツールではなく、実運用に耐える機能を備 えたXenServerを無償で提供する。市場を支配するVMwareはESXiを評価用に提供すれば良いが、Citrixはそれでは済まない。まずは、 無償でもいいからまず実運用に使ってもらうことである。このようなことが経済的に許されるのも、Citrixには全世界的なMetaFrame(現 XenApp)ユーザーがあるからだ。その上でCitrixがビジネスの収入源として期待しているのが有償のCitrix Essentials。
Essentials は、仮想化技術としてのXenServerだけでなく、MicrosoftのHyper-Vもカバー(予定)、その上でより多くのシステム運用機能を持つ XenCenter、Hyper-VではSystem Centerと連携する。これによって、高可用性システムHA(High Availability)の実現、複数のストレージシステムを一元管理するStorageLink(下図)、システムイメージを集中管理し物理マシンで も仮想マシンでも自由に展開が出来るDynamic Provisioning Services、テストから本番環境までをライフサイクルとして整備する仮想ラボ自動化マネージメントAutomated Lab Management(VMLogicからのOEM)などが可能となるが、これらはまずXenServerに適用され、次にHyper-Vに拡大する予定だ。
◆CitrixとMicrosoftの深い関係
さて、以上からも窺い知れるように、CitrixとMicrosoftの関係は深い。
遡 ると、CitirxはMetaFrame時代から Microsoftとクロスライセンスで提携、2004年にもこの契約を5年の継続更新とし、これによってCitrixはWindowsのソースコードに もアクセスできる。またMicrosoftはHyper-Vの開発にあたって旧XenSourceと提携、その一部にはXenのコードが利用されており、 構造的にもHyper-VはXenにそっくりである。少しうがった見方をすれば、今後の戦いの様子によっては「VMware対 Microsoft+Citrix」という連携構図が鮮明になることも浮かぶ。現に2007年8月にCitrixがXenSourceを買収した直後、今 度はMicrosoftがCitirxを再買収するのではないかという噂が流れていた。
◆AmazonはXenServerに乗り換えるか
最後に、Amazonについて触れてみたい。
Amazon は基本OSがRed Hat、そして仮想化はXenである。しかしながら既報のようにRed HatはXenからKVMに乗り換え、現在のRed Hat 5.4βを近々正式版にする予定だ。そして次期版6からはXenをサポートしないという。この状況の中で今年5月、AmazonとCitrixは提携し、 Amazon Web Serviceの上に実験システムとしてCitrix C3 Labを立ち上げると発表した。これが本命となってAmzonがXenをXenServerに切り替えるのかは明言されていない。しかしながら残された時間は長くない。上手く行けばCitrixが脚光を浴びることになる。