2009年9月17日木曜日

クラウドは本物となるか

クラウドコンピューティングとは何か、今や知らない人はいない。
しかし、クラウドは、今後、安定的な成長をたどるのだろうか。新しい技術が世の中に浸透するには時間がかかる。そして何よりも普及には波がある。その波を越さなければ、本物とはならない。そこで関連する話題を2つ。

◆ Crossing the Chasm(裂け目を越える!)

最初の話題は、ここシリコンバレーで有名なマーケティングの教科書「Crossing the Chasm」によるもの。著者であるJeffry Moore氏の理論では、ひとつの技術が市場で成功を収めるには、幾つかの裂け目を超えなければならない。氏は市 場を構成する顧客層を幾つかに分け、セグメント毎の対応が必要だと説く。裂け目とは、そのセグメント間の溝である。典型的な区分けは3つ。まず、新しい技 術に貪欲ですぐに使いたがる人たち、次が主力となる市場の人たち、最後は何事にも慎重な保守的な人たちだ。つまり、早いもの好きの初期市場、一般市場、保 守的な後期市場があり、その間の裂け目を超えるには、自然の流れに任せるのではなく、マーケティングの力がポイントとなる。下図は某調査会社のデータを氏 の理論に重ね合わせたものだが、クラウドは現在、初期市場から主力市場への裂け目を超えつつある。そして順調に行けば、この3年で一般市場を登りつめ、完 全な普及期となる。

そのためのポイントは何か。
Amazonなどのパブリッククラウドを初期と見立てると、初期市場の早いもの好 きはデベロッパーだった。彼らの評価努力とプロバイダーへのフィードバックのエコサイクルによって、クラウドは成長してきた。このような動きはテクノロ ジーを後押しするマーケティング活動としての側面がある。
さてクラウド市場の一般市場とは何か。これは間違いなく、エンタープライス市場である。 IBMのSmart Business、MicrosoftのAzure、SunのOpen Platformなどが企業ユーザーに受け入れられるかがキーとなる。これらが無事、浸透し始めればクラウドは本物となる。クラウドの第2幕は役者が変わ り、所謂、大手ITベンダーだ。彼らがAmazonやGoogleと同じエコサイクルを企業IT部門との間で作ることが出来るかがポイントである。



◆ Hype Cycle for Emerging Technologies (ハイプサイクルで先進技術を見る!)

Hype Cycleとは、テクノロジーやアプリケーションの成熟過程と市場への影響を分析するために、1995年、Gartnerが考え出した手法だ。この方法で は、技術浸透のライフサイクルを5段階-「テクノロジーの黎明期(Technology Trigger)」「過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)」「幻滅期(Trough of Disillusionment)」「啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)」「安定的な生産期(Plateau of Productivity)」-に分けて分析する。つまり、新技術は浸透するまで、その技術の良さを見つけてくれるセグメントが異なるので、黎明期から期 待過剰へ、ある物は幻滅されて消滅し、ある物は啓蒙活動を経て安定的な普及となる。別な表現をすると、新らしい技術は、デビュー後、メディアなどでその興 奮がピークに達し、しばらくして、実態が解ると幻滅の谷に突き落とされる。しかしながら、ある物は、市場の反応から学び、改良を加え、今度はより堅実な形 で再認識される。こうなれば認知度もあがり、安定的な状況となる。

さて、発表された2008年と2009年のHype Cycleだが、ここでクラウドに注目しよう。
図からわかるように昨年度(2008年)は、黎明期の最終段階だ。そして今年は、まさに過剰期待のピークにある。この後、幻滅の谷に突き落とされて消滅するのか、再度、啓蒙活動のスロープを登り始めるのか、全ては今後の動きにかかっている。




2つ分析から「クラウドが本物となるか?」は、これからの対応次第だということだ。
ここまで順調以上に進んできたクラウドは、この分析でも次の波が待っている。これまで技術の出し手はパブリッククラウドを推進してきたAmazonや Googleなどのニューカマーだった。これらはITベンダーの手に委ねられる。エンタープライズ市場でプライベートクラウドが花開くかにかかっている。