2014年9月16日火曜日

続) Rackspaceはどうなるのか! -CenturyLink浮上か-

RackspaceのExit Story=Rackspaceはどうなるのか(8/1)=に関する続編をお伝えしたい。同社がMorgan Stanleyを雇ったのは5月中旬のこと。当時の株価は5月9日が最安値で$26.28、それが出口戦略の模索が伝わると、一気に42%ジャンプして$37.37となった。このような大幅な値動きは2008年11月以来のことである。6月10日には最高値の$37.88をつけた。このころRackspaceは強気で幾つかの提案を受けたが纏まらなかったという。その後は夏相場に突入して低迷。しかし8月12日の$29.50を底に反転し、この時期重要な休日Labor Dayを挟んでも続伸、9月8日来、現在は$38~39台で推移している。どうやら状況は再度好転し始めたようだ。

=好調だった2Q報告=
この反転の理由ははっきりしている。 同社の2Q業績が改善したからだ。8月11日、SECにファイリングされたForm 8-Kによれば、2Q売り上げは前期比4.8%アップして$441となった。これは前年同期比では17%アップ、同社は今年の3Qも3~4.5%アップの$454~$461が見込まれるという。売り上げの伸びに伴い、サーバ数も1Q末の106,229台から2Qでは107,657台に伸び、6月末現在の従業員数は全世界で5,798人、1Q時の5,743人から僅かながら増加している。

=新戦略OnMetalへ=
今年3月、GoogleのAmazonに対する挑戦で始まった価格破壊を覚えている人は多い。この動きはクラウド市場を困惑させたが、Rackspaceは独自路線を進むことで、その難題から逃れてきた。元来、同社はHostingの会社だ。その経験で身につけたサービスの良さには定評がある。巨大なパブリックIaaS市場を相手にした薄利多売のAmazonやGoogleには出来ない芸当だ。これこそ、Managed Cloud Companyと自負する同社の財産であり、その結果が2Qの業績につながった。そして、この流れを加速させるOnMetalサービスが7月から始まった。このサービスは、誰にも邪魔されることのないBare MetalにOpenStackを乗せ、Single Tenantとして提供される。RackspaceはHPやDellから購入してきたサーバ群を現在、Open Compute Project仕様に切り替え中であり、このBare Metalも同仕様のものだ。つまり、ハード(Open Compute)もソフト(OpenStack)も徹底したオープン路線を採っている。勿論、OnMetalにはマネージドサービスも可能だ。同社は言う。クラウドを使いこなしてきたユーザは、他VMの振舞いによるしわ寄せやインスタンスの増加に起因するオーバーヘッドなど、マルチテナントであるが故のWork-loadの不安定さを嫌う。安定したレスポンスと責任ある運用、これこそクラウドの方向だ。AazonやGoogleと一線を画したこの戦略は、クラウドを知り尽くした同社の知恵である。  

=予想外のCenturyLinkが一歩リードか=
2Qの業績と新戦略を受けて、パートナ探しの状況が変わった。8月11日以降、株価は反転し、市場筋によると、CenturyLinkとRackspaceの話し合いが熱気を帯び、買収価格決定のための価格調整に入った。CenturyLinkの株価は、事実、9月5日の$41.47から9月9日には$39.99と下げ、一方のRackspaceは30%以上底上げして同9日には$39.62とほぼ同水準となった。しかし株価は横並びとなったが、CenturyLinkのMarket Capは$23.4B、Rackspaceは$5.33である。企業規模ではCenturyLinkが数倍大きい。この状況にどう折り合いをつけるのか。前回レポートを思い出して欲しい。Rackspaceの新しいパートナーを業界別に探ると、キャリアではAT&Tが最も有望で、元気なのはCenturyLinkだと述べた。買収候補として浮上したCenturyLinkは、業界3位だったQwestを当時5位の同社が買収して大きくなった。同社はその後クラウドで2つの大きな買い物をした。データセンタのSAVVIS (2011/4)とIaaSプロバイダのTier3 (2013/11)だ。そのため、今回の買収には資金的かつ技術的な問題がつきまとう。つまり、CenturyLinkからの具体的な買収提案は、もしかしたらRackspaceにはメリットが少ないのかもしれない。これを裏付けるように、これで決着という雰囲気ではないと言う市場関係者もいる。

=3つのヘッジファンド(Third Point, Blue Harbour & Point72)=
厄介なことも起こっている。2QのSECファイリングでヘッジファンド3社の新規投資が明らかになった。機関投資家リスト4位のThird Pointと、7位となったBlue Harbour Group、11位のPoint72 Asset Mangementだ。彼らは物言う投資家(activist investor)である。Blue Harbourは比較的穏健だが、億万長者のDaniel Loeb氏が率いるThird Pointは、かなり悪名高い。6月末までに同ファンドは全体の約5%にあたる725万株を取得、まだ少ないが暴れだすと手が付けられない。Blue Harbourは期中2回投資し352万株を保持したとのことだ。Point72も同水準の324万株を手に入れた。既存の機関投資家は今回のパートナー探しにどう反応したのだろうか。総じて言えば、買い増し傾向にある。気になるのは、大手資産運用投資のCapital Worldと全米3位の銀行Wells Forgoの2社は売りに回ったことである。 
=本命たちはどうしているのか=
さて前回レポートで挙げた本命企業はどうしといるのだろうか。
まずHPだが、かなり早い時期から交渉していたと伝えられている。真偽のほどは定かではないが最終的に1株$43、大よそ$6B(約6,000億円)の提案をしたとの噂だ。しかしRackspace側が強気で受け入れられなかったらしい。そして7月初め、RackspaceのSenior VPでProduct & Engineeringの責任者だったMark Interrante氏がHPに入社することが伝わった。彼のHPでのポジションは同じSenior VP、担当はクラウドビジネス部門のエンジニアリングである。まさにクラウド開発の責任者だ。同氏はExecutive VPでCTOのMartin Fink氏に直接レポートする。さらにびっくりすることに先週末(9/12)、HPはEucalyptusを買収すると発表した。この買収でCEOのMarten Mickos氏はInterrante氏と同じクラウドビジネス部門となり、Senior VP兼GMとしてビジネス全般を担当、HP CEOのMeg Whitman女史にレポートする。なぜ、この時期、HPにとってEucalyptusが必要なのかは解らない。ただ、同氏はMySQLのCEOを務めた実力者だ。人材面では大きな補強となる。この2つの出来事で、Rackspace買収の芽は無くなったかに思えたが、そうでもなさそうだ。同社の2Q業績回復報道後、再度、水面下で交渉が始まったとの情報もある。もしかすると、Interrante氏は買収先に派遣された斥侯なのかもしれない。
さてCiscoはどうなったか。該社についての情報は多くない。5月末の同社カンファレンスCisco Live 2014でJohn Chambers氏は何人かのレポータと会話した。流れてきたのは、氏は「現在クラウド市場はAmazonとGoogle、そしてMicrosoftの3社が激しい競争を繰り広げている。Ciscoの判断はその市場で40%以上のシェアが取れる見込みがあれば動くが、現状ではとても条件が整っていない」というものだった。つまり、これを額面通りに受取れば、興味がないということだが、ポーカーフェースだという人も多い。Ciscoは現在$50B(約5兆円)のキャッシュを持っていること、最近の決算内容はIntelやMicrosoft同様思わしくないことなどが理由だ。意外に水面下で交渉が進んでいるのかもしれない。

=この買収の意味するところ=
今後、このパートナー探しはどう決着するのだろう。現在、一歩リードしていると見られるCenturyLinkがパートナーとなるのか。はたまた、HPが巻き返すのか。Ciscoの裏ワザか。これ以外にも前回述べた幾つかの企業の秘密交渉もないわけではない。いずれにしても、前半戦は終わった。今はベストな条件を引き出す後半戦の真っただ中だ。この買収の決着によってはクラウド市場の今後の動きが変わる。筆者の個人的な意見だが、CenturyLinkが最良のパートナーだとは思い難い。この組み合わせから、Racspaceがこれまで見せてきた先進性やユーザセントリックな戦略が加速されるだろうか。できれば、資金力があり、インフラやグローバル展開などの力を持った大きな傘のもとで自由に戦わせてみたい。ただ、これはヘッジファンドも絡んだマネーゲームでもある。