IBMは今年2月発表したDynamic Ifrastructure構想をより進めるため、6月17日、『Smart Business』ブランドに統一する戦略に踏み出した。Smart BusinessにはIBMが運営するパブリッククラウドとユーザー企業内に構築するプライベートクラウドがあり、今回の発表では、ブランド統一だけでなく、より具体的なツールの第1弾として、「クラウド開発&テスト」と「仮想デスクトップ」に関するリリースが含まれていた。
まず、クラウド開発&テスト向けには、①IBMの提供するパブリッククラウド上で開発&テストを行う「Smart Business Development & Test on the IBM Cloud(プレビュー版)」、②同様の機能をプライベートクラウドで提供する「IBM Smart Business Test Cloud」、そして、③プライベートクラウド環境の構築を容易にするアプライアンス「IBM CloudBurst」の3つ。クラウド構築で重要な要素となるWebSphereは、今回の発表によると仮想化対応のWebSphere Application Server Hypervivor Edition(WAS-HV)となり、CloudBurstは、WAS-HVやアプリケーションをクラウド上でプロビジョニングするツールとして提供される。このアプライアンスは、SUSE Linux、IBM HTTP Serverをベースに、その上にVMware ESX対応のWAS-HVを含んだソフトウェアスタックがDMTF制定のOVF(Open Virtualization Format)パッケージとして提供される。
(OVFについては「DMTFによるクラウド運用の標準化-2009年5月7日号」参照)
IBMは発表後の説明会で、これまでのOn-PremiseシステムではIT人件費の半分はシステム運用管理だったとし、これをクラウド上で、Pre-Packageのソフトウェア利用や登録アプリケーションのサービスカタログ、Portalなどを活用して大幅なサービス向上とコスト削減を目指すとしている。
仮想デスクトップ向けには、①IBMの提供するパブリッククラウド上で仮想デスクトップを実現する「IBM Smart Business Desktop on the IBM Cloud」(プレビュー版)、②企業ユーザーのインフラ上で仮想デスクトップを提供する「IBM Smart Business Desktop Cloud」の2つがある。この2つの形態は共にPCかシンクライアントをベースとし、OSやアプリケーションなどのソフトウェアは中央のサーバーで実行、前者は中小規模システム向けで「Managed Service」と言い、後者は大型システム向けで「Project-Based Service」という。つまり、Managed Serviceは標準システム利用を意味し、Project-Based Serviceは個別対応サービスとなる。
今回の発表で、ついに、IBMのエンタープライズ・クラウドが始動を始めた。
IBMのパブリッククラウドでは自前のLotus Liveなどやパートナーと組んで、登録したカタログアプリケーション利用のSaaSが始まる。そのためのサイトがIBM Smart Marketだ。このサイトでは、Journyxの経費処理のタイムシートやIntuitのQuickBooks、Clear C2のC2 CRM、digiumのVoIPなどが既に登録されている。
振り返ってみると、これまでのIBMの発表(昨年度や今年2月のDynamic Infrastructure)は、技術的なトライアル試行が強く、しかし、これで本格的な第1歩を踏み出した。ただ、今回リリースされたツー ルはプレビュー版(α)で、これからβ、そして正式版へと進む。平行して新たなツールや機能もリリースされるだろう。MicrosoftのWindows Azureは昨年秋のプレビューから年内には正式に公開リリースされる。SunのOpen Cloudもこれまでのアーリーリリースから、この夏にはβとなって一般公開となる。IBMももう待てないところまできている。