この次世代クラウドシリーズでは ①ハード機能連携型仮想マシン、②プロセス拡張型仮想マシン、③クラウド型ユニバーサルDB について、ここまで述べてきた。これは表現を変えると、仮想マシンの<ハードウエア強化>、<ソフトウェア強化>、そして<データベース強化>についての考察である。今回はこれらの推論のまとめをしようと思う。
◆ 仮想 マシンだからこそ出来るハード能力の強化
GPUやHPCをクラウド強化機能として提供するプロバイダーが出てきたことは述べた。
これらを利用すれば高性能WSなどを持たずにエンジニアリングの仕事ができる。
さらにハード機能強化の上にソフトウェアを搭載するベンダーも現れた。AutoDeskだ。 同社ではクラウド上でGPUを搭載したHPC利用のProject CumulusとProject Centaurの試行を昨春からスタートさせている。
Cumulusは同社のプラスティック部品射出成形シミュレーションのMoldflowをクラウド上で実行させる。もうひとつのCentaurは、製作の前工程としての製造工程設計に伴うビジュアライゼーションやシミュレーションを行うもので、同社製品のInventorがクラウド上で稼働すると思えばよい。AutoDeskのビジネスモデルは変わり始めつつある。
これまでユーザーはWSを購入し、高価なCAEソフトウエアをライセンスしてきた。
しかし、クラウドサービスが軌道にのれば、もうその必要はなく、通常のPCで構わない。AutoDesk製品はクラウド上で動き、使用量ベースのユティリティー課金となる。
◆ ソフトの再利用からプロセス連携へ
ソフトウエア開発の分野も変わる。
ク ラウド上でアジャイル開発を進めるJenkinsやCloudBeesは活況だ。
アジャイルはプロジェクト運営論だが、どのように開発するかという方法論と両輪となる。
開発方法論の核のひとつは、一度作ったソフトウェアをどのように再利用するかだ。これは永遠のテーマでもある。そのための技術がSOA(Service Oriented Architecture)だった。そのSOAの考え方に近似し、クラウドとなって登場したのがAmazonのブロック方式である。このブロック結合は、後にAmazon EvangelistのJeff Barr氏によって、COA(Cloud Oriented Architecture)と名付けられた。
SOAとCOAの違いは、SOAがあくまでも物理的なソフトウェアモジュールをベースとしているのに対し、COAはプロセスをベースとした連携である。つまり、処理(実行)となるプロセスをつなぎ合わせることで、システム開発の短縮と実行の簡素化を図る。
クラウドならではの仕組みだ。このような動きは COAだけでなく、複数のBIベンダーなどで活発なことは述べた。目的は、開発の効率化とアプリケションの柔軟性の追求である。
(参照:アジャイル開発クラウドのCloudBees)
◆ ソシアルネットワーク型データベースへ
データベース分野でも新たな変化が始まっている。
政府や自治体などの情報開示が進み、これらのクラウド公開が米国ではかなり進んだ。
そして何よりも肝心なことは、このデータを加工して表示するツールが提供されていることである。これによって、一般ユーザーでもインタラクティブで好みの加工ができる。さらにAPIやデータベースのダウンロード機能などの提供で、デベロッパーは自分のシステムの中に組み込むことも可能となった。それらのアプリはスマートフォン同様、マーケットプレイスに登録されて、一般ユーザーにも開放されている。データ ベースの世界でこのようなことはこれまで無かったことだ。ソシアルネットワーク型データベースの登場である。
◆ これまでの仮想マシンとは何だったのか
振り返ってみると、これまでの仮想マシンとは何だったのだろうか。
物理マシンが無くなり、それはクラウドに移った。インターネット接続で仕事をする通常のクライアントから見れば、相手のサーバーがどこにあっても構わない。しかし、サーバーがクラウドに移ったことで、IT部門の役割には大きな変化が起きた。開発はオンサイトで行い、それをクラウドの仮想マシンに移して実行する。仮想マシンのセットアップもインターネット越しに行わなければならず、遅くて煩わしい。代替案としてソフトウェアのアプライ アンス化が進んだ。それでも面倒くさい。
システムの運用管理も複雑になった。プライベートクラウドでは、物理マシンと仮想マシンの両方の管理が必要だ。これまでの運用管理システムに加え、仮想化技術ベンダーから提供されるツールを天才的なテクニックで使いこなさなければいけない。この煩雑さと初期投資のリ スク回避から、多くの企業はパブリッククラウドをトライアルに選んだ。しかし、仮想マシン自身の管理は利用部門の仕事となった。
これらと引き 換えに得たものは何か。
ROI(Return of Investment)だ。つまり、費用対効果がこれまでより優れている。
噛み砕く と、クラウド利用ではハード/ソフト購入などのIT初期投資が殆どない。導入に要する時間も大きく短縮された。引き換えに、そのしわ寄せの殆どはIT部門に来た。この現象をコンピュータ産業全体で見れば、近視眼的には、仮想化技術とパブリッククラウドなどの集約性向上で、産業全体はやや圧縮されたと言って良いだろう。
中長期的な視野に立てば、コンピュータ利用が廉価でより簡便化されて大きく進む。
ここまでが現状である。
◆ 拡張型仮想マシンの時代へ
しかし、大事なことはもっと先を見ることである。
これまでの多くの努力で、仮想マシンの<ハードウエア強化>、<ソフトウェア強化>、そして<データベース強化>は進んだ。これらを統合すれば、新しい世界が拓ける。
これまで高価で手が出なかったWSも仮想マシンなら簡単に増強が可能だ。HPCだってクラウドで借りればよい。今後はもっと色々なハードウェア機能を提供するサービスプロバイダーが現れるに違いない。ビジネスプロセンスも同様だ。APIを介して、好きなプロ セスを統合できる時代が来る。そして、データベースも一部ではあるが、ソシアル化が加速する。
そろそろ、第一段階は卒業の時期である。
時代はクラウドだからこそ出来る「拡張型仮想マシンの時代へ」に差し掛かっている。その先の自立型仮想マシンの議論も散見されはじめた。第一段階のクラウドは煎じ詰めればROIが全てだったかもしれない。しかし、コミュニティーのデベロッパーや企業で働く多くのエンジニアはその先にある何かを感じ取っていた。だからこそ、多大な努力が積み上げられてきた。これからがクラウドの本領発揮である。