2015年6月6日土曜日

IBM/SoftlayerがOpenStackへシフト!
‐IBM Cloud OpenStack Services for Public Cloud‐

IBMのOpenStack傾斜が鮮明になってきた。
5月19日、米IBMは「IBM Delivers Broadest Set of OpenStack Services」と題するプレスリリースを出した。企業向けPrivate Cloud(LocalやDedicated)に、同社はこれまで独自のOpenStackディストリビューションを提供してきたが、今回の発表はこれをさらにPublic Cloudまで拡大したものである。これによって、顧客のLocalやDedicatedなOpenStackアプリケーションはPublic Cloudとハイブリッド化が可能となる。

=OpenStack化するSoftLayer!=
少しIBMのOpenStackへの取り組みを整理しよう。
記憶をたどれば、最初に出た製品は2013年3月のSmartCloud Orchestratorだった。SoftLyer買収(2013年6月)以前である。異機種混合のハイブリッド管理ができるオーケストレーション機能付きのこの製品は、翌年、SoftLayer買収に伴うリブランドでIBM Cloud Orchestrator(ICO)となった。その後、エンタープライズ向けPrivate CloudにOpenStackが浸透し始めると、IBMは本格的な製品としてIBM Cloud Manager with OpenStackICMO)を出荷(昨年5月発表)。この結果、ICOはICMOの上位エディションと位置づけられた。さらに時代が進み昨年10月、IBM Cloud OpenStack Services(ICOS)をリリース。ICOSはSoftLayer上にOpenStackのPrivate Cloud(Dedicated)を構築するサービスである。つまり、IBMはこれまでICMOやICOを用いてエンタープライズ向けのPrivate Cloud(Local)構築を支援してきたが、ICOSの発表でDedicatedなサービスにも乗り出した。

=2つのアプローチ!=
ここまで来れば、次なる戦略がPublic Cloud対応であることは明らかだ。
課題はSoftLayerとOpenStackをどう調和させるかである。IBMの取り組みは2つ。ひとつは2014年2月に発表したJumpgate。これはOpenStack APIを他のクラウドに変換させるミドルウェアレイヤーとしてライブラリー整備を進めるものだ。これが出来ればSoftLayerだけでなく、理論上はAWSなどへの適用も可能である。実際のところ、OpenStack APIを他のクラウド基盤に適用する方法は、他にもCloudscaling(現EMC傘下)のOpen Cloud System(OCS)やVMwareのVMware Integrated OpenStack(VIO)がある。(各々既報があるのでそれらを参照されたい(既報OCS既報VIO)。ただ、これらの方法はOpenStack APIと連携させるクラウド基盤との機能マッピングが必須となり、かなりの作業が伴う。IBMの始めたJumpgateプロジェクトもまさに現在進行形である。そして、同社のもうひとつの取り組みが今回発表したものだ。これはSoftLayerが提供するベアメタル上にOpenStackインフラを展開したもので、SoftLayerとOpenStackインフラが併存する形だ。

=OpenStackのハイブリッド化!=
今回IBMが発表したICOS型のOpenStack Public Cloudは、現在、PaaS領域のBluemixで利用が出来るβ版だが、いずれ正式版となろう。そうなれば、これまでのオンプレのLocalなもの(ICMOやICO)や、ICOSによるSoftLayer上のDedicatedなもの、これらは共にPrivate Cloudであるので、ハイブリッド化が可能となる。IBMによると、このプロジェクトに約500名のデベロッパーを投入してきた。これが正式リリースとなれば、開発(Bluemix)から構築・本番まで、全てのOpenStackワークロードを自由に行き来させ、ハイブリッドの効果を最大化出来る。

=Magic Quadrantに見るSoftLayer!=
さて、5月18日、恒例のMagic Quadrant for Cloud IaaS 2015がGartnerから出た(下段上図)。それによると、リーダグループを形成するツートップのAWSとAzureの差が少し詰まってきた。Amazonは既報のように好調だが、Microsoftが追い上げている。続くビジョナリーグループは、昨年(下段下図)と比べると、異変が起きている。ひとつはCentulyLinkをGoogleが激しく追い上げていることだ。これはこのところのDocker対応やGoogleが始めたコンテナーオーケストレーションKubernetesなどが上手く機能し始めたことによるのだろう。もうひとつの変化はVMwareのvCloud Airが好調なことだ。その結果、IBMはやや埋没気味に見える。


=結果はどれだけ早く走るかだ!=
勿論、IBMの目指すPublic Cloudは、エンタープライズが主戦場であり、AmazonやGoogleとは異なる。しかし、同じエンタープライズ指向でもMicrosoftは善戦している。クラウドは仮想化技術の延長線上で始まり、今は更なる効率化を求めてコンテナーの扱いが花盛りだ。Microsoftは昨年夏にAzureでDockerとKubernetesをサポートし、この5月からは次期Windows Server 2016(含むNano Server)Technical Preview 2のパブリックレビューが始まった(このあたりの流れは前回号に詳述)。IBMも昨年7月にはKubernetesの支持を表明し、12月にはDockerと戦略的提携を発表、デッドヒートが繰り広げられている。翻って、Microsoftの企業ユーザに比べて、IBMの抱えるユーザはより大型だ。期待される要求も異なる。取り分け、これら大型ユーザのPrivate Cloudに対するOpenStackニーズは高い。これへの対応が一連のOpenStack傾斜である。れは正しい選択だろう。しかし、クラウドは技術が先乗りのビジネスである。GoogleはMirantisと組んでDocker/KubernetesをOpenStackに持ち込み、正式なプロジェクトMagnumとなった。幸いなことに、StackAlyticsを見ると現在、このプロジェクトへの最大の貢献は、全体の32%をIBMが占める。遅れは許されない。出来るだけ早く、Magnumを適用できれば勝機が見える。そんな矢先、IBMは6月3日、OpenStackベースのHosted Cloud Provider、Blue Box買収。今やIBMにとって、OpenStackのトラックをどれだけ早く走るかが勝負の分かれ目である。