SunがOracleに買われることになった。
何とも複雑な気持ちである。
IBMとの交渉については、前々回(3/31)、東海岸のEstablishmentと生粋のSilicon Valleyカンパニーでは、企業文化が違い過ぎ、統合の障害になるのではないかという危惧を述べた。
そのIBMとの交渉の裏側で、個人的には期待していたCiscoとの交渉、さらにHPとOracleの共同買収という噂もあった。Ciscoの場合はこれまでのネットワーク機器にサーバーを投入してUnified Computingを宣言したばかりで現実味があった。共同買収では、Sunのハードウェア部門をHPが買い、ソフトウェア部門はOracleが買うという分割案だったが、HPは昨年5月、EDSを$13।9Bで買収したばかりで余裕がなく、結果は、Oracleが単独でSunを買収($7।4B)することとなった。
しかしながらこの買収金額は、Sunの株価が安いからとは言え、いかにも低い。
Oracleが2003年に買ったPeopleSoftは$8.4B、2005年のSiebelは$5.85B、2007年のBEA Systemsは$8.5Bであり、IBMの提示額は$6.5B~$7.0Bだった。米経済が大不況の最中であり、かつSunの経営は赤字だが、この不況の始まった昨年夏までは、そこそこの実績をあげ、オープン戦略が功を奏してきたかに見えていた。
Sunとはどんな会社だったのか。
Sunのファウンダーは4人、Sunの起業を持ちかけたVinod Khosla氏とScott McNerly氏(マネージメント担当)、そしてAndy Bechtolsheim氏(ハードウェア担当)の3人はスタンフォード大、BSDを開発したBill Joy氏(ソフトウェア担当)はUCバークレイー、全員がSilicon Valley人間である。
SunはもっともSilicon Valleyらしい企業文化を持ち、多くのスタートアップはVCから資金を得て、彼らのようになりたいと願っていた。ここSilicon Valleyでは、ネクタイ姿の経営幹部よりもGパンにTシャツのエンジニアを重要視する風潮が強い。ビジネスの源泉となる製品は、エンジニアによる革新的なアイデアから生まれ、VCはその技術に資金を出すからだ。経営者はその製品を市場に送り出す役目を果たす。極端に言えば、経営者やマーケティン グの人たちは会社にとって必要な構成要素に過ぎず、財産はエンジニアである。
過去、90年代後半からITバブルが弾けるまでのSunはその名のように輝いていた。
Sunのビジネスは昔も今も高性能なハードウェアを販売することである。そのためのSolarisであり、Javaであった。R&Dにも力を要れ、多くのJava製品を開発したが、x86がCPUの主流となり、OSもLinuxやWindows Serverが登場して、バブル後は高価なSunの機種は苦戦し始めた。長い間CEOだったScott McNealy氏は当時を振り返り、開発したx86用のSolarisをもっと積極的に進めるべきだったと述懐する。その後、2004年にCOO、2006年にCEOとなったJonathan Schwartz氏は果敢にオープン戦略に舵を切った。
さて、Oracleが今後どう動くか考えてみよう。
OracleもSilicon Valleyの企業だが、ワンマン経営のLarry Ellison氏が率いる巨大な中小企業のようである。開放的なSunの文化とは大分違う。
全ては彼の意思決定次第だ。今度の場合は、OracleにはデータベースやERP/CRMなどのミドルウェアとその上位のアプリケーションがあり、Sunからはシステムとストレージ、そしてインフラとなるJava/Solarisなどが提供されるので、大いに補完関係にある。勿論、BEAのWebLogicやOracle FusionなどとJava EE/GlassFishは競合するが、これらミドルウェアは既存ユーザー層が異なり、使い分けが出来るだろう。
ベストシナリオは、Sunのシステム機器とSolarisを使って、その上でOracleデータベースやERP/CRMを搭載し、最大効率にチューンしたシステムを提供することだ。これが上手く行けばユーザーにとっても両社にとっても好ましい状況が生まれる。特にSunのUltraSPARC(Niagara)のT1(最大8コア32スレッド)/T2(8コア64スレッド)はデータベース処理には最適なプロセッサーだ。
Oracleは昨年秋のOracle OpenWorldでHPと組んで
Oracle Exsadata Storage Serverを発表した。このマシンはIntel搭載機にLinuxが乗り、その上にOracle 11gとパラレル処理機能が組み合わされている。目的は構築に時間と手間のかかるデータウェアハウス用だ。今度のSun買収で、このような試みはもっと拡大するだろう。例えば2005年にSunが買収したStorageTeKは、現在オープンストレージとしてユニークな製品となっている。通常のストレージシステムでは専用OSかBSDなどのOSと専用のストレージソフトウェアが対になり、これに専用のハードウェアコントローラーとディスクドライブが要る。ユーザー企業はこれら全てを特定ベンダーから指定されたものを購入する以外に方法がない。これに対し、Sunのオープンストレージ製品はCPUがx86、ソフトウェアは全てオープンソースのOpenSolarisと128ビットアドレッシングのZFSなどから構成されている。ストレージシステムも今やコモディティ製品の組み合わせだ。極論すると、Sunのオープンストレージは、通常のx86サーバー機とJBOD (Jast a Bunch of Disks)仕様のディスクトレイ、それにSunからのオープンソースで構成されている。
OracleがHPと始めた試みもSunのオープンストレージなら、より容易に、廉価な製品として提供できる。ただ、このような シナリオ遂行のためにはシステムサービスが欠かせない。HPの場合はEDSを買ったが、OracleとSunの場合は、それをどうやって作り出すかがポイントである。
この買収には、幾つか心配もある。
特にSunが進めていたオープン戦略について、Ellison氏は消極的だ。Sunが積極的にコミュニティと係わってきたOpenSolarisやGlassFish、OpenESBなど一連のJava製品、MySQL、そしてOpenOfficeなどがどのように扱われるのか、事態によっては大変なことになる。Ellison氏がこれまでのようにオープンソースに否定的で、これらの努力を縮小させてしまうのか、それともSunの戦略を継承して行くのかは予断を許さない。例を挙げれば、Ellison氏は2005年、MySQLの買収を仕掛けて失敗している。この時の大方の見方はMySQLつぶしだったと分析されている。
クラウドコンピューティングに関しても、Xenを持ち出すまでも無く、オープンソースとの関係は深い。その理解の上でデベロッパーやコミュニティーとの関係構築が成功のポイントとなる。これはAmazonやGoogleを見れば一目瞭然のことだ。クラウドについて、Sunは3月18日、Sunのデベロッパー向けカンファレンスCommunityOneでOpen Cloud Platformの概要を発表、次は6月始めのJavaOneで詳細が説明される手筈だ。対して、Oracleは昨年秋、Amazon EC2に幾つかの製品を対応させた。つまり、Sunがクラウドに全面的に参入、OracleはAmazonで様子見の対応である。
Sunのオープン戦略がこれまで通りとは思わない。
どの程度、維持されるのか、世界中のデベロッパーが見守っている。
噂では、Sunの全従業員33,000人の1/3がレイオフされるらしい。通常、買収が決まり、数ヶ月かけて経営移行が完了すると買収された側の役員は辞めるのが慣例だ。ただ、今度の場合は、Oracleにハードウェアビジネスを解る人材がいない。Ellison氏が外部から連れてくるか、はたまた、Scott McNealy氏かJonathon Schwartz氏のどちらかを残すケースもありうる。Schwartz氏は、もともとSunに買われた小さな会社のCEOで、買収後もそのままSunに残り、頭角を現して、最後にはCEOとなった。McNealy氏はEllison氏とは比較的仲がよい。どちらかが残れば、Sunのオープン戦略は生き延びる可能性があるのだが...