2009年4月6日月曜日

クラウド標準化に思う!

いつものことのように標準化が動き出した。
Amazonが先行し、GoGridやSkyTapなど新興勢力が市場をリードする。
これらクラウドコンピューティングのアーリーアダプターとなったのはデベロッパーだ。
ベンダーロックインを嫌い、オープンソースなどを中心に活動する彼らが新しいコンピューティングの在り方に共鳴し、それが今日の普及の原動力となった。

これまで受身にまわっていた大手ベンダーからは、昨年11月にMicrosoft Azure、今年2月にはIBMのDynamic Infrastructure、3月にはSun Open Cloud Platformがやっと登場。しかしこれらは、Azureが.NETのホスティング、IBMはOn-Demandの焼き直し、Sunは一部が不人気だったNetwork.comの後継であり、必ずしも画期的なものではない。そしてすぐに標準化が必要だと言い出した。

◆ユーザー不在のopen cloud manifesto

市場を作り出してきたのは新興勢力と呼応したデベロッパーたちだ。
大手ベンダーはこの波に後乗りしてきたに過ぎず、まだ実績もない。そしていつもながらの囲い込みの匂いのする標準化である。IBMなどの提唱ではじまったopen cloud manifestoにはCiscoや買収交渉中のSun、Red Hat、Novell、VMwareなど、それに弱小ベンダーが参加し150社以上となったが、肝心のAmazonやSalesforce、Googleの名前もなく、Microsoftも参加していない。

Microsoftによれば十分な議論もなく、マニフェストの原案が提示されてサインを求められたという。たった6頁のマニフェストは殆ど中身がなく、①クラウドとは何か、何故、重要なのか、②採用にあたっての課題と障害、③オープンクラウドの目標についての3大項目にありきたりの幾つかの小項目が挙がっているだけだ。これでは、それがどれだけ、今、重要で、どうしたいのかも解らない。表面的には、ベンダーは一緒になって、ユーザーの声に耳を傾けようという問いかけだ。

しかしどう考えても、これまでの先発組みの努力は棚上げにし、これからもう一度ユーザー本位に検討して方針を決め、足並みを揃えて行こうではないかと聞こえる。即ち、この分野で実績のないIBMなどの後発組みが弱小のプロバイダーやベンダーを誘って、新たな標準化という脇組みを作り、ユーザーの意見を代弁しているかのように見せるいつものやり方である。

Eclipseの時もそうだった。
Sunの態度も良くなかったがNetBeans対抗として、IBMは人と資金を注ぎ込んでベンダーを勧誘し、Eclipseを組織化した。結果は大成功だった。ただ、このIDE整備の争いは、それを利用するデベロッパーのものではなく、ベンダーの縄張り争いだったことは明白である。

今度の動きの中にSunが巻き込まれているのは、現在の状況から仕方が無いのか、それとも本心なのかは解らない。

クラウドはベンダーのものではない。
それを使うデベロッパーやユーザー企業のものである。
その視点で考えれば、オープンクラウドを議論するのはベンダーやプロバイダーではなく、デベロッパーやユーザーコミュニティーであるべきだ。ベンダーをその結果に耳を傾ければよい。

◆大学が中心のOpen Cloud Consortium(OOC)

OCCは、イリノイ大学シカゴ校が発起人となり、ジョンホプキンス大学、シカゴ大学、ノースウェスタン大学、MITリンカーンラボ、カリフォルニア通信情報技術研究所(Calit2)が参加、民間からはCiscoとYahoo!が機器やソフトウェア支援のために加盟している。


OCCの目標は、クラウド間の相互運用に関する標準化とフレームワーク作りである。
まさにマニフェストでいうところのオープンクラウドだ。
このための作業部会として、①標準化と相互互換性、②情報共有とセキュリティ、③広域展開クラウドとネットワークプロトコルのインパクト、④Open Cloud Testbedの運用などのWorking Groupをスタート、中でもTestbedは昨年6月に運用を始めた。

現在のフェーズ1では当初のボルティモア(ジョンホプキンス大学)とラホヤ(Calit2)の2点間からシカゴに2ヶ所、合計4ヶ所にセンターを拡大した。個々のセンターには30ノード(各ノードは4コア)のラックサーバーがあり、Cisco寄贈のネットワーク機器によって10Gb/sで接続されている。今年6月から始まるフェーズ2ではMITやカーネギーメロン大学なども参加して合計8センターとなる予定だ。現在、このTestbedでは分散コンピューティング環境用に開発されたApache HadoopやSector-SphereEucalyptusが使用可能となっており、各種の実験が行われている。特に広域分散センター間の伝送効率は複数クラウドを使い分ける際に重要だが、Testbedの実験では、TCPのHadoopに対し、UDTを採用したSector-Sphereが2倍高速であるという結果がでた。

またEucalyptusはUCサンタバーバラを中心に活動が行われているGUIによるクラウドコンフィギュレーターで、類似なものにはRightScaleがある。現在のバージョンではAmazon EC2向けだが、今後は他のプロバイダーにもオープンソースベースで拡大を予定、SunのOpen Cloud Platfornでもパートナー候補となっていた。OCCのこのようなデータセンターを使った活動はデベロッパーコミュニティではなかなか難しい。ユーザー企業やデベロッパーに代わってのこのような活動は、ベンダー中心のopen cloud manifestoとは大きく思考が異なり、今後の活躍が楽しみである。

大学関連では今年1月から始まったUC BerkeleyのAbove the Cloudもある。
こちらはUC BerkeleyのRAD LabがExecutive Summaryとして問題を提起し、広く、色々な人たちと議論をしながらコンセンサスや解決を図ろうという試みである。

また、公的機関としては、国際電気通信連合(ITU)からも
Distributed Computing: Utilities, Grids &Cloudsと題するレポートが出ており、今後の流れに参考となだろう。

このような大学や研究機関の活動こそがユーザーには、もっともメリットがある。

Cloud Computing Interoperability Forum(CCIF)

もうひとつ団体がある。
Enomalyの創業者Reuven Cohen氏が始めたクラウドの互換性に関する組織Cloud Computing Interoperability Forumだ。このフォーラムは、Enomalyが弱小であることもあって、ベンダーにとらわれずに自由に意見交換することが目的だ。その氏は今回のマニフェストにも誘われ、起草メンバーにもなったが最終的にはOpen Cloud Manifestoへの参加を見送った。


氏は多くを語らないが、マニフェストは出だしからベンダー色が濃く、彼らの縄張り争いにCCIFは同調しないということのようである。皮肉なことにマニフェストを始めたIBMやSun、CiscoはCCIFのスポンサーでもあり、先発していたCCIFを統合させて実績ベースで組織の拡大を狙ったが上手く行かなかった。

ITバブル後、大手ITベンダーはWeb ServiceやSOAなどの標準化を成功させたが、その裏側にあったベンダー間の争いは熾烈を極めた。そして登場したクラウドコンピューティングは大手ITベンダーではなく、巨大eビジネスを動かすAmazonやSalesforce、Googleなどが手掛け、世界中のデベロッパーが呼応して成長してきた。バブル後の新秩序を謳う大手ITベンダーとユーザーの復権がせめぎあう。これはクラウドだけでなく、Linuxを始めとするオープンソースやWeb2.0でも同様だ。
この大きな構図が読めなければクラウドでは成功しない。
もうベンダーロックインに我慢するものは誰もいないのだから...