2009年12月7日月曜日

Windows Azureアップデート  -PDC2009-

ロスアンゼルス・コンベンションセンターで毎年恒例となったMicrosoft Professional Developer Conference 2009(PDC 09)が開催(11月17-19日)された。その中から、Windows Azureに関するアップデートを報告しよう。

◆ Azure正式にスタート

PDC 09で正式に発表されたWindows Azureは、2010年1月1日から商用としてスタートする(2月1日までは無料利用)。今回の正式版(β)では、昨年PDC 08発表時の計画案(下図)から大きく絞り込まれ3つのコンポーネントとなった。


①プラットフォームとなる「Windows Azure」、そして、②これまで「.NET Services」と呼ばれていた機能はアプリケーション間連携の「Azure Platform AppFabric」と改称され、③当初「SQL Services」と呼ばれていたクラウドデータベースも途中から「SQL Azure」となった。


商用版となるAzureはクラウド分類ではPaaSに該当するが、Ozzie氏はキーノート後のインタビューで現在のPaaS機能だけでなく、近々、IaaSの提供計画があることにも言及。来年度はこのリリースの強化と共に、新しい仮想マシンの登場が期待される。また、Ozzie氏はキーノートの中で「3つのスクリーンとクラウド」というビジョンを提示し、クラウド(Windows Azure)、オンプレミス・サーバー(Windows Server)、デスクトップ(Windows 7)の3つのスクリーン間でシームレスなアプリケーション開発を追求していくと説明した。そして、特に、今回、改称されたAppFabricはオンプレミスと
クラウドを連携する重要な役割を担う。

また、建設が急がれていたAzureデータセンターは、自社だけでなく、パートナー設備を利用する。新年度からの本番とそれ以降の急拡大に向けて、短時間でのクラウドセンター建設に効力を発揮したのがAzure Cloud Containerだ。これは、同社の第4世代モジュラーデータセンター(Generation 4 Modular Datacenter)構想によるものでPDC 09では実機が展示された。




当面のデータセンタ配置は、北米のシカゴとサンフランシスコ、ヨーロッパではダブリンとアムステルダム、アジア はシンガポールと香港となり、各地域に各々2ヶ所づつ設置、来年1月から世界21ヶ国Australia, Austria, Belgium, Canada, Denmark, Finland, France, Germany, Ireland, India, Italy, Japan, Netherlands, New Zealand, Norway, Portugal, Spain, Sweden, Switzerland, UK, United States)でサービスが開始される。


◆ オンプレミス/クラウド連携 AppFabric

さて、今回改称された「Azure Platform AppFabric」が重要であることは言うまでもない。AppFabricはWindows Server 2008のオンプレミスとクラウドをシームレスに結びつけたり、クラウド上のアプリケーション間を連携させるもので、「Access Control」「Service Bus」「Workflow」から構成される。AppFbricは、英語のFabricが織物を意味するように、多様なコンポーネントを有機的に結び付けるクラウド用アプリケーションサーバーと言ったところである。ここでService Busは、オンプレミスとクラウド、さらにクラウド間を繋ぐESB (Enterprise Service Bus)であり、Access Controlはそれへの認証、WorkflowはWindows Workflow Foundation (WF)をベースとしたもののようだ。

◆ アプリ交換サイトPinPointと公開データカタログDallas

キーノートではRay Ozzie氏から各種の新機能も発表された。
ひとつはWindows Azure向けサードパーティ・アプリケーションのマーケットプレイスPinpoint.comの開設。同サイトは、Salesforce.comが生き残りを賭けて2005年秋に発表し、2006年始めから開設したアプリケーション交換販売サイトAppEchangeの Azure版だ。このサイト開設に尽力したのはSunから移籍したLew Tucker氏。氏は伸び悩んでいたSalesforceのビジネスを復活させるため、プラットフォームを整理させ、APIとSDKを提供することで、 ISVやユーザー企業がCRMアプリケーションの追加や修正が出来る方法を考え出した。このアプリケーション交換の方法は、既に、SunではJava Store、IBMでもSmart Marketを開設しているし、モバイルではAppleのApp StoreやGoogleのAndroid Marketなどユーザ参加型の開発手法として花盛りである。Tucker氏は、その後、Sunに戻り、現在はSun Open CloudのCTOだ。

そしてDallas(開発コード名)。
これはPinpointの一部となって、連邦政府の行政情報公開データサイトData.govやNASAの月情報サイトMars Pathfinder、地理情報サイトのNational Geographicなどの公開データを扱うオープンカタログとなる。デベロッパーは、これらのデータを使って独自のアプリケーションサービスを開発する。このDallasも実は、Amazonが膨大なヒトゲノム(Human Genome)情報を公開して有名となった公共データセット・サービスPublic Data Set on AWSのAzure版だ。


◆ Azureストレージ

AzureのAppFablicに次ぐもうひとつの核は「SQL Azure」、つまりクラウドのAzureストレージで、ここにもアップデートがあった。このAzureストレージを利用することで、デベロッパーは大きなオブジェクトやファイル処理、さらにQueueを用いたメッセージデータの扱いも可能となる。少し整理するとAzureストレージには、①構造化データ処理用のTable(表)形式「Azure Table Storage」、②オブジェクトなどの非構造化データに向いた「Blob」、③仮想マシン連携の「Queue」がある。 そして、今回、以下の2つが追加された。

-Windows Azure Drive
新機能のAzure Driveは、Azureクラウド上で稼動するアプリケーションにNTFSへのアクセスを提供する。当該ドライブは、ひとつのNTFSボリュームVHD(Virtual Hard Disk)として扱われ、Blobデータの読み書きに使われる。Blobには、これまでのBlock Blobと新たなPage Blobがある。Block Blobはストリーミングファイルなどをブロック分割(最大4MB)して利用し、さらに複数サーバーに分散させて、スループットを向上させることができる。また、これらの分割ブロックは自動複製も可能で耐障害性が高く、バックアップ処理も基本的には要らない。 もうひとつのPage Blobは、ランダムファイルの読み書きに用い、ファイルの分割単位は固定512Bの「Page」となる。このPageの概念はAmazon S3のBucketに当たり、最大10GBのTableにPage番号としてマップピングされる。XDrive自身は、EC2のEBS(Elastic Block Store)のNTFS版だと思えば良いだろう。

-Geo-Replication-
Azureストレージに、もうひとつ追加があった。
完全なデータベース保全のための地域的な複製機能「Geo-Replication」だ。これはSQL Server 2008で強化されたGeo-Replication機能をクラウドにも適用するものだが、SQL Server 2005と比べて100倍以上高速だという。実際にはプログラムから地域間複製の要求が出され、その処理が完了すると通知が返され、ユーザープログラムは完璧なデータベース保全が完了(Commit)したことを知ることが出来る。

◆ AzureコンテンツデリバリーContent Delivery Network(CDN)

もうひとつ、CDNについても説明があった。
CDNは11月始めにアナウンスがあり、PDC 09ではその実際が紹介された。Azure CDNは全世界のデータセンターからコンテンツデータをより迅速に届けるもので、現在の評価版(α)Community Technology Preview(CTP)でも利用が可能だ。デベロッパーはAzure Developer PortalのStorege Accountからカスタム・ドメインネーム(Custom Domain Name-CNAME)を指定することで、BlobデータをPublic Container経由で自動的に送り出す。


Windows Azureは、年が明ければ、実戦体制に入る。
先行するAmazon Web Serviceを追って、.NETの世界のクラウドを切り開くAzureがどの程度頑張るか、楽しみだ。