2009年12月28日月曜日

Microsoftの新たな挑戦App-VとXenocodeの試み   
-Application Streaming(2)-

前回はアプリケーション・ストリーミングとVDIに至る仮想化技術について述べた。
2回目の今回はアプリケーションの仮想化に挑む新たな挑戦を紹介しよう。


◆ App-VでOffice 2010をクラウド化するMicrosoft

Microsoftの経営陣にとって、今大事なことはビジネスモデルの改革である。
クラウドの登場でソフトウェアライセンスを基本としたこれまでのビジネスモデルは変更を余儀なくされるだろう。クラウドへの移行でどの程度がユティリティー (利用料払い)に変わるのか、同社は全体のビジネスモデルをどのように将来に向けていくのだろう。そして、その結果はMicrosoftだけに留まらず、広く、コンピューター産業全体に影響を及ぼす。

ここにひとつの試みがある。
アプリケーションストリーミング技術App-VをOffice 2010に適用しようというものだ。同社は、この実験によって市場の反応を分析し、その中から今後の戦略を導き出そうと考えているように見える。多分、来年、市場に現れるOffice 2010は、これまで発表されているPC版とWeb版、そしてストリーミング版が追加されて3種類となるだろう。PC版はこれまでのように、ユーザーはCDかダウンロード版を購入し、ソフトウェアライセンスによる利用となる。Web版(正式名:Office 2010 Web Applications)は、Windows Live IDを持っている個人ユーザー向けに基本機能を無料提供し、ブラウザーベースのWord、PowerPoint、Excelの3つのアプリケーションとセキュリティーサービスOneNoteにアクセス出来る。


ここで少し、App-Vについて振り返っておこう。
App-Vは2007年に同社が買収したSoftricityのSoftGridが原形だ。
まず前回述べたように利用するソフトウェアをカプセル化したストリーミングに直す。
これを「SoftGrid Sequencer(現製品名:Microsoft Application Virtualization Sequencer)」と言い、ストリーミング化されたソフトウェアを配信サーバー「SoftGrid Virtualization Application Server(同Microsoft Virtualization Application Server)」上に置き、クライアントPCからの要求で配信する。クライアント側の実行エンジンは「SoftGrid Client(同Microsoft Application Virtualization Client)」という。補足すると、Sequencerではアプリケーション分割だけでなく、アプリケーションの実行に関するOSとの関連情報(DLLやCOM、Registry、Scriptなど)なども固有のものとして作り出す。クライアントPCに送られたこれらの情報は、実行エンジンがOSと連携させ、その上でアプリケーションが走る仕組みとなる。

話を戻し、問題のApp-Vを適用するサービスを仮にOficce 2010 CTRとする。
CTRとはClick to Runの略で、例えばCTR版のWordアイコンをクリック(Click)するとWordがApp-V技術でストリーミングとなってユーザーPCに送られて実行(Run)される。CTRはNetbookなどのように十分な容量がないがフル機能を望むユーザーにはうってつけだ。CTRでは、一度、ストリーミングをダウンロードしてしまえば、インストールしてあるかのように再使用することができる。この実験はTechnical Preview Programとして、限定テスターを対象に今年7月から始まっており、その結果次第で
リリース計画が決まる見通しだ。

-Microsoft Desktop Optimization Pack(MDOP)-
Microsoftにとって、デスクトップ仮想化分野の製品は複数あり、それらは総合製品「Desktop Optimization Pack(MDOP)」となって、大企業向けにボリュームライセンスで提供されている。このMDOPの核となる仮想化技術は、①アプリケーション仮想化(Application Virtualization)のApp-Vと、②デスクトップ仮想化のMED-V (Microsoft Enterprise Desktop Virtualization)だ。ここで、MED-VはVirtual PCを用いてWindows NTなどレガシーなアプリケーションをOSごと仮想化して利用するツールなので、クラウドではApp-Vが主役になることははっきりしている。

以上のような背景から、同社がクラウドの波に乗り、MDOP普及の要として、App-Vを用いたアプリケーションにOffice 2010を選ぼうとしていることは間違いないだろう。これが成功すれば、これまでVMwareやXenに後塵を拝してきた仮想化技術で一矢を報い、新たな仮想化市場をリードし、さらにライセンスモデルを変えることも出来る。Microsoftが挑戦する新たな試み「Office 2010 CTR」が企業向けプライベートクラウドで成功すれば、その先には同社のAzureから提供される可能性も秘めている。


◆ Xenocodeのアプリケーション仮想化とは・・・

Xenocodeの創業は2003年、Microsoftからのエンジニアが中心となって同じシアトルで起業した。CEOでFounderは日本人のKenji Obata氏だ。Xenocodeの仮想化はアプリケーション・ストリーミング技術の1種だが、他との決定的な違いがある。
簡単にいうと、クライアントには前もって実行エンジンのインストールの必要ない。Xenocodeの場合は、実行エンジンを「Xonocode Virtual OS Kernel」と言い、
非常に小型で、このエンジンも分割アプリケーションと同様にストリーミングとして送られてくる。



実際の利用にあたっては「Xenocode Virtual Application Studio」が提供される。これを利用することで、
Virtual OS Kernelを含めたアプリケーションのカプセル化が実行できるだけでなく、利用期限(Software Expiration)設定なども可能となる。出来上がったストリーミングは、同社のSpoon Streaming Technologyによって、Windows 7を含めたWindowsマルチプラットフォーム対応となり、さらに配信では、企業内に設置されている既存のMicrosoft System Management ServerやAvocent LANDesk、Symantec Altiris/AppStream、Novell ZENWorks、CA Unicenterなどがそのまま利用できる。また、USBデバイスに乗せて携行して実行することも可能だ。

さて、Xenocodeのターゲットユーザーだが、一般の企業だけではない。
もうひとつの狙いはISV(Independent Software Vendor)だ。中でも新しいタイプのソフトウェア・パブリッシャーである。このパブリッシャーにXenocodeを使ってもらい、彼等のソフトウェアをCDやインターネット・ダウンロード販売だけでなく、ストリーミングを使って、より簡便に提供しようという作戦だ。つまり、クラウドからソフトウェアを提供し、ユティリティー(利用料金払い)のサービスを行う。この目的のために、Virtual Application Studioの整備を鋭意進めている。

配信技術のSpoon Streaming Technologyを用いた同社専用サイトSpoon.netでは、Browser Sandboxとして、Microsoft Internet Explorer 6/7/8、Mozilla Firefox2/3/3.5、Apple Safari3/4(下図上)、Opera 9/10(下図下)、Google Chromeが用意され、簡単に誰でも試すことが出来る。


ゲーム(下図)も沢山用意され、使ってみたいゲーム中央の電源マークをクリックすればダウンロードが始まる。Music PlayerではQuick Time、Songbird、PANDORA、JetAudioなど、各種Video Player、さらにTwitterやGoogle Talk、Skypeだって利用できる。このようなXenocodeの狙いが当たれば、アプリケーション・ストリーミングを使って、時代がまた、大きく動くことになる。