2010年1月4日月曜日

クラウドコンピューティングに思う(1)
-クラウドは第2のインターネットに向かう-

年の初めに、幾つかクラウドについて私見(その1)を述べたい。
まず、クラウドコンピューティングは、初期ステージを抜け出て、"第2のインターネット”に向かい始めている。この認識に立って、その意味するところを探ってみよう。

◆ 第1世代のインターネット

現代のコンピュータは誕生してから約60年が経った。
初の商用コンピュータUnivac-Ⅰは1951年に登場、IBM 360は1964年、初のPCとなったIBM PCが1981年、SunのWorkstationは1982年、ここまででコンピュータの基本構造は出揃った。そして90年代に入ると Mainframeは成熟し、PCやUnixがもて囃され始めたが、それらの本格的な普及は90年代半ば以降のインターネット時代の到来によってである。インターネットの登場で我々が学んだことは①公共性とは何か、②そのための標準化、そして③いつでも必要な時に利用できる形態(On Demand)だった。つまり、インターネットがこれだけ普及した原点(目的)は公共性であり、その具現的な手段(方法)としての標準化整備、結果、ユーザーには新しい使い勝手(利用)が手に入った。インターネットを閲覧するブラウザを見れば、この"目的”と"方法"が上手く噛み合い、新しい時代にふさわしい"利用"形態がが生み出されたことが解る。


◆ クラウドは第2のインターネット

これらの学習こそ、今日のクラウドを考える上で大事なポイントである。
クラウドの“目的”は何か、“方法”は何か、そして、ユーザーにとっての新しい“利用”とは何か。これらが上手く連携することが出来れば、クラウドは第2 のインターネットとなって、再度、コンピュータ産業は成長曲線に乗ることが出来る。インターネット(第1世代)は全てのユーザーに新しい世界を開放した。これを一般向けとするならば、クラウド(第2世代のインターネット)は企業向けである。企業の"利用”、言い換えればメリットははっきりしている。どの調査を見ても、直接のハードウェアや運用管理費などの削減だ。ITシステムに伴うハードやソフトは購入することなく、使用分だけを支払えば良い。使い方は第 1世代で定着したオンデマンド。このためクラウドでは、インターネットは単なる通信手段となり、その上にこれまでのIT資産を稼動させることが要求される。つまり、クラウド上のデータセンター(Cloud Data Center)化が“目標”だ。そして仮想化技術などを使ってどのように具現化するか、それが“方法”である。


◆ クラウドは集合知の世界

クラウドが大きな流れであることは誰でもわかる。
AmazonやGoolge、Salesforce.comなどのサービスプロバイダー、仮想化技術ではVMwareやCitrix/Xen、 Microsoft/Hyper-V、Linux/KVMなど、プロビジョニング関連ではRightScaleやCloud Foundaryなど、ミドルウェアではHadoopやGigaSpaces、CohensiveFTなど、また視点を変えれば、オープンソースでは Javaプロダクトシリーズ、MySQL、Eucalyptus、QEMUなど、さらにGrid Computingの関連ではGridGainや3TeraやAppistryなど、数え上げたらキリがないほど多様な企業が参画している。つまり、クラウドは単一企業のテクノロジーやアーキテクチャーではなく、全ての企業が係わるコンピュータ利用サービスのあり様だ。裏返すと、多くの人たちが共通と考える技術、つまりProprietaryなものではなく、オープンな技術環境が基本となる。この環境を触媒に、多くの企業が参加し、それらは集合知となって、より多くのユーザーの利便性が向上する。


Web 2.0が議論たけなわの頃、我々は集合知の重要さを学んだ。
この経験がクラウドには活かされている。現代は、多様な言語やフレームワーク、開発環境、さらにデーターベースやApplication/Webサーバーなどオープン環境に馴染むものが沢山ある。参加するプロバイダーやベンダーはこれらを利用し、それに得意分野の技術を加味して提供する。もはや複数のベンダーが協業したり、オープンソースを利用することは当たり前だ。

◆ コミュニティーが成功の秘訣(Amazonの秘密)

集合知の重要性は、ベンダー間だけではない。
クラウドプロバイダーや関連するベンダーにとって、彼らのサービスやプロダクトを評価し、さらには戦略の妥当性に反応してくれるのはコミュニティーである。それ故、コミュニティーの形成は必須であり、最重要案件だ。Amazonがクラウド(AWS)を始めるにあたって、最大の難関はここにあった。旧来の Amazonコミュニティーはパワーセラー (Power Seller)が中心。彼らは個人か小企業の集まりで、Amazonの集客力と提供されるプラットフォームに依存してビジネスを展開していた。クラウドサービスの開始にあたって、この集団をファーストユーザーと仮定、その後、デベロッパーコミュニティーに移行させたい。それがAmazonの作戦だった。もし、これが成功すれば、AWSに興味を持つデベロッパーとパワーセラーが融合され、強力なコミュニティーとなる。このため、Amazonは S3(2006年3月)、EC2(同8月)の発表後、同9月には物流受託サービスFBA(Fulfillment By Amazon)、翌2007年には支払い決済サービスFPS (Flexible Payment Service)をリリースして、クラウド移行の便宜を図った。両者はクラウド移行の仕事の出し手(Power Seller)と受け手(Developer)となり、結果は大成功。こうして、AWSのリリースは技術的な興味だけでなく、実ビジネスも引き寄せて、順調にスタートを切った。

クラウドは単なる新ビジネスのサービスメニューではない。
低迷するコンピューター産業にあって、クラウドは企業向けの第2のインターネットを目指している。そのため、参入するには公共性とは何か、どのように貢献できるのかを考えなくてはならない。その上で、自社の強みを加味する。
そうでなければ、クラウドビジネスは成功しない。