「米国クラウド十傑(Top 10 Cloud Players)」の10回目。
今回が一応、最後ということで、これまでと少し毛色は違うがデータセンターについて取りあげてみようと思う。データセンターというとすぐにGoogleだと思う人が多い。Googleのセンターは以前からエコ対応だがひとつひとつはそれ程大きくはなく、他と比べて数が多い。これは彼らの戦略によるもののようだ。おやっと思うかもしれないが、今回取りあげるのはYahoo!のデータセンタである。
◆第1世代から第4世代へ
1990年代末からの第1世代データセンターでは、電源や空調設備を持った器となるビルに機器を持つ込んで構築した。第2世代では工場でサーバーをラックに組み上げ、それをセンターに持ち込むようになり、第3世代ではそれらは省エネ、省スペースなどからコンテナーの中に組み込まれて、センターに持ち込まれるようになった。現在始まった第4世代型のデータセンターは、これらを加速し、さらに環境対策がテーマである。
◆災害対策から始まったコンテナー型データセンター
初期の「コンテナー型データセンター」は、災害対策用から始まったと言ってもいい。2005年8月、米観測史上最大のハリケーン・カトリーナがニューオリンズを襲って大災害となったことはまだ記憶に残る。公共機関や企業のコンピュータはもちろん、一般電話やインターネットもほとんどが麻痺し、やっと役立ったのは携帯電話ぐらいだった。その携帯電話も地上局の破壊や電源停止が多発して混乱状態となった。米携帯キャリアは、この経験を活かして、その後、移動型電話基地局や移動型発電設備などに多くの投資をしてきた。また連邦緊急事態管理局では、これを機に傘下の緊急対策センター向けに、トラック積載型の「モバイル・エマージェンシーデータセンター」を開発した。これはパラボラアンテナを搭載してインターネットや電話アクセスを確保し、トラックのエンジン発電とバッテリーで何台かの積載コンピュータを動かすものだが、廉価で用途も広く好評となった。
◆鳥小屋から学んだヤフーの超省エネ型データセンター
GoogleやMicrosoftを追って、Yahoo!やFacebook、そしてeBayも動き出した。Yahoo!が新設したデータセンターの外見は巨大な養鶏場だ。4棟並ぶうちの3棟には、両側にゆるやかに広がる屋根の上に養鶏場や工場などでみかける換気塔のような大きな2階部分がある。建物の中は確認できないが、ゆったりした空間にサーバーラックがとなりと十分な距離をおいて設置されているに違いない。コンテナー型データセンターでは、サーバーはラックに積み重ねられ、人が歩けるだけの通路を確保して、中には全ての機器が詰め込まれていた。工場生産のコンテナーをトレーラーで持ち込み、電源と冷却チラーを繋げば出来上がりだ。この方法は建設時間の短縮と災害対策には役立つが、これだけでは十分ではない。第4世代に入ると省エネが大きなテーマとなった。クラウドの登場によって、世界中のIT機器が集中傾向にあるし、原油の枯渇や大気汚染による地球温暖化などが叫ばれているからである。Yahoo!は多くを語らない。新データセンターは大きな建物全体に外気を取り入れて対流させ、それを屋上の換気塔から放出するフリークーリング設計で、冷却設備を持たない。場所はナイアガラ瀑布のすぐ近く、ニューヨーク州Buffalo郊外の町、Lockportである。
東京ドーム3つ分に匹敵する30エーカー(12万㎡)の敷地に、総工費1・5億㌦(約150億円)をかけた。ここでは完全な省エネを目指して、目標となるPUE値は、1・1以下だ。エネルギー効率を表す「PUE(Power Usage Effectiveness)」とは、分子をデータセンターで使う総電力(空調や照明などを含む)、分母はIT機器の消費電力として、割ったもの。端的に言えば、サーバーなどのIT機器以外にどれだけ余分な電力を使っているかを示す指数である。この値が限りなく「1」に近いということは照明も空調もないということを意味する。Buffaloは夏の盛りの7月や8月でも、昼は25度、夜は15度程度。この気候とナイアガラの廉価な水力発電を活用し、さらにサーバーのラック方法と建物内空気の流れに工夫を施した。目標通りの稼働が実現できれば世界最高水準のデータセンターとなる。