2013年9月13日金曜日

時代の流れ!(4) -消えた会社、そしてクラウド-


この数年の間にクラウド市場では多くの会社が統合され、市場から消えていった。
これら多くの買収劇は市場が草創期から成長期に移る際に見られるいつもの現象だ。初期には沢山のスタートアップが登場し、次に、それらの統合が起こり、新たな段階に進む。買収する側はどうやって自社技術を本流にするのかを模索し、される側はまさに投資対効果のExit Storyとなる。ここでは便宜上、分野別に分けて、さらに主なベンダーのクラウドに関してコメントを試みる。

<ハードウェアベンダー>
ハードウェアベンダーによる関連技術の買収は、概ね妥当なように見える。
HPによる3Par買収やHDSのParascale、NetAppのBycastなどだ。

-HP-
HPの場合はDellと競り合って手に入れた3Parを競合力不足だった自社ストレージ製品に取り入れた。HPは元来、企業ユーザー向けのサーバー売りと一般向けプリンターがビジネスの源泉だったが、 2008年にEDSを手に入れ、連邦政府系や大手企業向けのSIビジネスも積極的に手がけて、ハードだけでなくサービスを含めた総合戦略に転換。そして2011年7月のOSCONでOpenStack参加を発表し、同年8月HP Cloudを立ち上げた。コンセプトはHP Converged Cloud。Converged CloudはHPのハード/ソフトを前提に、クラウドアーキテクチャーを提案し、必要があればサービスも提供する。
このクラウドは現在、北米データセンターのみのに適用されているが、日本からもアクセスが出来る。近々リリースされる版は最新のGrizzlyとなり、部分的なSDN(Software Defined Network)も含まれる予定だ。買収案件で見るとVertica(2012/2)はクラウド・ビッグデータ分析向けであり、Hiflex(2011/12)はプリンター部門向けだ。

-Dell-
Dellの場合はコモディティー化による価格低下でハードの箱売りから企業向けソリューション売りへと戦略を転換。そのために業種別マーケティングを徹底し、各種アプリやツールを整備した。クラウド市場への参入はこの戦略の一環であり、OpenStackベースのDell Cloud ServicesをOSCON(2011年7月)で発表した。Delはこのクラウドインフラのプロビジョニング用自動化ソフトCrowbarを開発し、オープンソース化。インテグレーションには買収したBoomiが機能し、総合的な運用環境にはEnstratiusを提供している。またParallelsによる単一OSでコンテナー型の効率的なクラウド環境もOKだ。しかしHPとDellに共通するのは、これだけで戦えるかという不安である。
  • NetAppが分散型ストレージGRIDのBycastを買収(2010/4) 
  • クラウドストレージParascaleはHDSに吸収(2010/8)
  • HPが仮想ストレージベンダー3Par買収(2010/9)
  • HPがビッグデータ分析のVertica買収(2011/2)
  • HPがウェブプリントの独Hiflexを買収(2011/12)
  • DellがインテグレーションクラウドのBoomiを買収(2010/11)  
  • Delllがクラウド管理ツールのEnstratius買収(2013/5) 
<ソフトウェアベンダー>
ソフトウェアベンダーの買収は評価が分かれる。
CAの買った3Teraは上手く行かず、NovellがAttachmateに売却したSuSEもはかばかしくない。それでもSuSEはOpenStackベースのクラウドを2012年8月、SUSE Cloudとして発表した。

-Citrix-
VMwareに対抗心を持つCitrixはOpenStackに参加していたが、2011年7月、CloudStackのCloud.com(旧VMOps)を買収し、クラウド構築ツールの提供を計画した。しかし同社だけで新たな流れを作り出すことは難しく、コードをApacheに寄贈(2012/4)し、Apacheを支援しながらApache CloudStackを製品化することとなった。Citrix CloudPlatformである。もともとCloud.comはOpenStackとの関連も深く、一時期統合の方向も見えたが、この買収によって、2つのオープンソースクラウドが出来てしまった(過去記事の詳細はここ)。Citrixのこのような動きはXenにも当てはまる。Cambridgeで始まったXenは商業化のXenSourceとなり、Citrixによって買収(2007/8)。その後、CitirixはXen Projectを運営、今年4月、そのコードはLinux Foundationに移管されXen Collaborative Projectとなった。しかしながら、CloudStackはOpenStackと異なり、当初、商用ビジネスとして始められた経緯などから大型の適用実績が多い。

-Red Hat-
一方、Linuxで勝ち残ったRed Hatもクラウドでは苦しんでいる。
CitrixによるXenの買収後(2007/8)、追うようにKVMのQumranetを買収(2008/9)し、Red Hat標準のHypervisorとした。そしてVMwareがvCloudの整備に取り掛かると、CitrixもXen Cloud Platform開発をスタートさせ、Red HatはCloud Foundationの検討を開始した。
しかしながらRed Hatのクラウド基盤は紆余曲折し、やっと今年4月、OpenStackベースの製品を発表した。基本となるのはRed Hat OpenStack (RDO)だ。これはCommunity版だが、別に本格的なクラウド向けで商用サポートが必要なRed Hat Enterprise Linux OpenStack Platform(RHELOP)とRed Hat Cloud Infrastructure(RHCI)がある。RHELOPはOpenStackとRed Hat Enterprise Linux (RHEL)を組み合わせたサポート付きのパッケージで、RHCIはRHELOPにマルチクラウド管理ツールのRed Hat CloudFormsと仮想化のRed Hat Enterprise Virtualization(RHEV)を組み合わせた製品である。

-VMware-
VMwareのクラウド対応はInfrastructure3の後継vSphere4から始まった。vSphereはHypervisorのESXをベースとしたクラウドプラットフォームとなり、ユーザーセルフ管理機能を持つvCloud Directorが追加。ユーザーはクラウドインフラとなるvSphereと管理ポータルのvCloud Director、マルチテナント用vShield Edge、課金のvCenter Chargebackなどを組み合わせて利用する。これがvCloud Suiteだ。2012年7月に買収したDynamicOpsはクラウド自動化としてvCloud Directorを支援し、ネットワーク仮想化Nicira(2012/7)とストレージ仮想化Virsto(2013/2)は現在同社が進めているSoftware-Defined Data Centerに向けたものである。特にNiciraはSDNとしてVMware NSX名で今年第4四半期に出荷予定だ。

-Microsoft-
MicrosoftのWindows Azureは2008年に発表、2010年には世界20ヶ国以上に拡大運用してきた。Azureは他のクラウドの多くがIaaSであるのに対し、Windowsに特化したPaaSである。専用クラウドOSのWindows AzureはWindows ServerにHyper-Vをインプリした特別版で、アプリ群とミドルウェアサービス群のAppFablic、そしてSQL Azureからなる。しかし2010年10月、それまでAzureを引っ張ってきたRay Ozzie氏(Chief Software Architect)が退社し、同社の本気度が不安視された。その後Office365のリリース、今年4月にはUbuntu、CentOS、SUSE LinuxをサポートするAzure IaaSを発表。StorSimple(クラウドストレージ)やMetricsHub(パフォーマンス管理)の買収はAzureの機能強化向けである。
  • CAによるグリッドOS 3Tera買収(2010/2)
  • NovellSuSEAttachmateに売却(2011/4)
  • CitrixがCloudStackのCloud.comを買収(2011/7)
  • VMwareがネットワーク仮想化のNicira買収(2012/7)
  • VMwareがクラウド自動化ソリューションのDynamicOpsを買収(2012/7)
  • VMwareはストレージ仮想化のVirstoを買収(2013/2) 
  • Citrixがモバイルデバイス管理Zenpriseを買収(2012/12)
  •  MicrosoftがクラウドストレーレジベンダーStorSimpleを買収(2012/10) 
  •  Microsoftがクラウドパフォーマンス管理MetricsHub買収(2013/3)
<サービスプロバイダー/SIer>
ここではクラウドだけでなく、SIerもサービスプロバイダーとして扱う。
金額的にも、規模的にも我々に衝撃を与えた米キャリアによる計算センターの買収は前回述べた。次に、クラウド関連ではCarboniteによるZamanda、RightScaleのPlanForCloudなど、事情を知った同業の買収は良好だった。またGoogleQuickoffice、傘下のMotorola MobilityによるZumoDriveの買収は、Googleのモバイル重視を反映したものである。

-Salesforce-
SalesforceはCRM事業の浸透と共に、次なる事業領域を求め、2007年9月、force.comをスタートさせた。このPaaSプラットフォームは、登録されたアプリ群の利用だけでなく、個別開発も可能である。このための買収がRubyベースのHerokuやJavaのSpringSourceだ。Salesforceの子会社となったSpringSourceはさらにライフサイクル管理のHypericを買収強化。しかし、CRMのSaaSからPaaSへの道のりは半ばである。
-IBM-
今やHW/SWも提供する巨大SIerとなったIBMのクラウドは初期の模索から脱しIBM SmarterCloud Enterprise(SCE)としてエンタープライズに特化。このためTivoli(システム管理)やWebsphere(アプリサーバー)、Rational(ソフト開発)など、同社の主要ソフトウェアアセットをSCEに搭載し、ユーザーの便宜を図っている。SCEはOpenStackベースの商用ディストリビューションだが、これとは別に今年6月に買収した米SoftLayerも提供を開始した。このクラウドはベアメタルで稼動する効率性を重視したSMB(Small & Medium Business-中小企業)向けだ。今後、この2つをどのように使い分けるのか、はたまた統合するのか、その動向が注目される。 
  •  SalesforceがRubyクラウドのHerokuを買収(2010/12) 
  • Dimension DataがクラウドプロバイダーOpSource買収(2011/6)
  • GoogleがクラウドオフィスツールQuickoffice買収(2011/6)
  • ストレージクラウドZumoDriveをMotorola Mobilityが買収(2010/12)
  •  GoogleがWebアップサーバーのTalaria買収(2013/3) 
  • RightScaleがクラウドコスト分析のPlanForCloudを買収(2012/7)
  •  バックアップCarboniteがオープンソース同Zamanda買収(2012/12) 
  •  EAIツールCast IronをIBMがインテグツールとして買収(2010/5) 
  •  IBMがクラウドプロバイダーSoftLayer買収(2013/6)
  •  全米5位の通信事業者CenturyLinkが3位のQwestを買収(2010/4) 
  •  VerizonがクラウドプロバイダーTerramarkを買収(2011/1) 
  • CenturyLinkSAVVIS買収(2011/4)