IBMがクラウドを核に事業再編成に動き出した。次世代に向けた体力作りである。
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2011年6月、創業100年を迎えた
IBMに、昨年1月、初の女性CEO
Ginni (Verginia)
Rometty女史が登場した。振り返れば、80年代後半、メインフレームからPC時代への変遷の中で苦戦し、1992年度に巨額の損失を出した。それに伴いCEOを
John
Akers氏から初の外部招聘の
Louis
Gerstner氏へスイッチ。さらに2002年には、
Samuel
Palmisano氏を選任。彼の在任は10年に及び、それまでのハードウェア主体ビジネスをソフトウェアとサービスへ変革させ、年率20%成長の会社へと導いた。その彼がクラウド参入を発表したのは2009年。Smart
Business構想(関連記事)である。
=クラウドがビジネスの核に=
IBMはどうやら本気のようだ。
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IBMがオンデマンドサービスを全世界のデータセンターで展開し始めたのは2000年代初頭のこと。これは
Grid
Computingから
Utility
Computingへの流れに沿ったもので、Cloud Computingに成長した。2009年に姿を現したIBM Smart Business構想は、今から見れば、クラウドのアプローチ段階であったが、ともあれ、これがこれまでIBMが力を入れてきた
SmartCloudの基点である(尚、日本国内向けにはSmarterCloudという)。IBMはこのSmartCloudの普及に向け
IaaS(SmartCloud Enterprise)だけでなく、
PaaSに当たるSmartCloud Application Servicesや
SaaSのSmartCloud Solutions、ハード/ソフトを含めた企業向けクラウド構築パッケージ
SmartCloud
Foundation、3rdパーティーソフトの活用を目指したSmartCloud Ecosystemなどの
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整備を進めた。2013年5月にはオープンクラウドとの連携を睨んで
IBM SmartCloud
Orchestratorを発表し、同6月、米パブリッククラウド大手プロバイダーの
SoftLayerを買収した。
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このSoftLayerはSME(Small & Medium Enterprise)での実績が多く、かつ、機能的にも優れものだ。これについては次回に述べよう。さて、IBMのラウドビジネスは上手く行っているとは言い難い。この流れをSoftLayerで断ち切りたい。そんな願いを込めて、今年初め、IBMはSmartCloudを
IBM
Cloudへと名称を変更。そして1月17日、グローバルクラウドのために$1.2B(約1,200億円)を投じて世界展開するデータセンターを拡充すると
発表した。これにはSoftLayerの既存13のデータセンターとIBMの12データセンターが含まれ、新設が15センター、合計、年末までに40データセンターとなる。5大陸をカバーし、世界15ヶ国にまたがる巨大システムが動き出す。
=Watosonもクラウドへ=
Watsonも動き出した。
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IBMの開発した人工知能コンピュータWatsonはクイズ番組
Jeopardy!に挑戦するために2009年に登場した。その前身はチェスで世界チャンピオンに勝った
Deep
Blueである。1月9日、IBMはクラウド型
Big
Data解析サービスを開発するWatson Groupの組織化を
発表。このプロジェクトは2,000人のエンジニアの英知を集めて、複雑な問いから思考と学習を繰り返して、必要とする答えと洞察を導き出す。Watson Groupでは、これをBigDataのCognitive Innovation(認知革新)と言い、3つのクラウドサービスを開発予定だ。まず「Watson Discovery Advisor」は製薬・出版向けData Driven Contentの情報解析サービス、次に「Watson Analytics」は自然言語ベースの会話型解析システム、そして「Watson Explorer」は 一般企業向けのBig Data分析サービスとなる。新しいWatson Groupのオフィスは、西のSlicon Valleyと並ぶ東海岸マンハッタンのSlicon Alley地区(51 Astor, New York )。投下資金の総額は$1B(約1,000億円)、うち$10M(約100億円)は、外部企業とのエコサイクル構築へ向けたベンチャーファンドとしてStartupなどに投下される予定だ。
=x86事業売却へ=
次いで、1月23日、IBMはx86サーバー部門を
Lenovoへ売却すると発表した。
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これに先立つ、21日に発表された
2013年度決算は利益が予想を上回ったものの、売上げは前年比5%減の$99.8B(約9兆9,800億円)となった。主要因はハードウェア部門の伸び悩みだ。今回の売却が関連していることは明らかである。Lenovoへの売却総額は$2.3B(約2,300億円)、これには、
System
x、
BladeCenter、
Flex
System blade server & スイッチ、x86ベースのFlex System
Integrated
Systemsや
NextScale、
iDataPlex、さらに付帯関連ソフトウェアと保守業務が含まれる。結果的にIBMに残るハードウェア製造は、
POWER7系のメインフレーム
System
zとPOWERサーバー、そしてストレージシステムのみとなった。
=CEO ギニー女史の決意=
この決算発表でCEOのGinni
Rometty女史は、「IBMの最大の挑戦は、Watsonやアナリティック、電子商取引、モバイル、クラウドなどの分野を急速に成長させて、不採算部門を埋め合わせることだ」と述べた。ハードウェア部門は大方整理がついた。POWER系製品はしかたがない。残るはストレージ部門だけだ。周知のように、2002年末、ディスク製造部門は日立に売却、そのHitachi Global Storage Technologiesも2011年3月、Western Digitalへ転売されて
HGTSとなった。
しかし、IBMストレージ部門には
SVC(SAN Volume Controller)がある。これはStorage Hypervisorと言っても良い技術だ。これを今やクラウドで重要な要素となったSDS(Software-Defined Storage)に活かせるか、大きなチャレンジだ。
ともあれ、Gerstner氏から始まった脱ハードウェアビジネスは、Palmisano時代に「ソフトウェアとサービス」として花咲いた。言い換えれば、コンサルティングと結びついたSIビジネスである。Rometty女史は、これをさらに徹底させ、クラウドを核にした新たなSIビジネスを目指す。